Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

A ⇔ B

2008/03/14 09:20:20
最終更新
サイズ
4.61KB
ページ数
1




「……」

準備は万端、気合も十分。
知識もそらで言える程度には蓄えたし愛情もそれなりには用意した。



――その結果、出来たのがコレだった。
鍋に焦げ付いたキャンディになるはずだったモノ。

「……おかしいな」

ため息を一つ吐いてから傍にあった椅子に腰を掛ける。
苛立たしげに頭を掻き、ふっと空を仰ぐと軽く頭痛がした。

「っていうかなんで私、こんな事してんのよ」

馬鹿らしい、この私が菓子を作ろうなどと。
何故に夜の王が菓子なんて作らねばならないのか。
菓子を作るのはメイドの役目、それを食うのが王の役目だ。
イライラしているのは決して菓子作りに失敗からではないと言っておく。

この苛立ちは何かにぶつけでもしない限り収まりそうに無い。
そう感じ、私は手近にあったボウルを蹴り飛ばそうと足を持ち上げた。
――が、一ヶ月前には自分の妹が菓子を作っていた事を思い出し、
それは妹を、ひいては自分をも侮辱する事だと思い、足を下ろした。

視線を横に向ければ完成予定だったキャンディを包むはずだった
可愛らしい袋とリボン、それとお手製のカードが目に入った。
『White Day』
あぁ、そう言えばそうだった。
だから私は菓子など作っていたのだ。


『ホワイトデー
  バレンタインデーにチョコレートをもらった男性が、
  そのお返しに女性へ菓子などの贈り物をする日』

パチェの持ってた本にそう書いてあったのだ。
ホワイトデーにそんな意味があったなんてここ数百年知りもしなかった。
バレンタインデーは知ってる。
女性が男性にチョコレート等の贈り物を渡す日だ。
親愛がこもっているならば女性同士で渡したって構わない。
但し男性が贈るのは不可だ、何故か非常に不快である。

まぁそれはともかくとして。
ここ数百年の間、私は妹からチョコレートを渡されなかった年は無かった。
チョコレートとはとても呼べない泥団子からチョコレートとは無関係の石ころまで。
けれど妹は私にバレンタインデーの付近には何かしらの贈り物をしてきていた。
それはチョコレートでは無いかもしれないが、間違いなくチョコレートだった。

私はそれを甘んじて受けていた。
貢物をされる王の気分だったのだろう。
妹から愛される事は当然だと思った。
チョコレートを贈られ、それで満足していた。



違ったのだ。
チョコレートは贈ってハイ終わり、という代物ではなかったらしい。
贈られた人物が、一ヶ月後に愛を贈り返す事が当然なのだ(ってパチェの本に書いてあった)
私は知らなかったし、パチェも美鈴も知らなかった。
唯一、咲夜だけは「え、それはギャグですよね?」みたいな顔でキョトンとしていたが。
察するに外の世界では常識のようだ。

問題は。
この数百年、私は妹に何も返していなかったという事だ。
あの子はホワイトデーの事を知っているのだろうか?
もしかしたら
『知っていて、愛を贈り返される日をずっと待ち続けていたのでは無いか』
――――それも数百年の間。
あの暗く狭い地下室の中で。
時間の感覚など軽く失せてしまうあの部屋で。
一ヶ月後に私が、あの重く冷たい扉を開いて愛を返す日を待ちわびて。

 今日はあの日から一ヶ月たった頃だろうか? 姉は来てくれるだろうか?
 今日は来なかった、まだ一ヶ月たっていなかったんだ。
 明日はきっと一ヶ月たった日だ、きっと姉が来てくれる。
 満面の笑みで、私の為のお菓子を持って遊びに来てくれる。
 楽しみだ、楽しみだ、明日が楽しみだ―――!





あぁ、そうだ。
だから私はこんな必死になって菓子を作っているんだった。
今年こそは愛を返す為に。

今年なら返せる。
返す事が出来る。
私は貴方を愛していた、と言う事が出来る。
今年、愛を返さない訳にはいかない。
去年までとは違うのだ。
あの子をずっと閉じ込めていた去年までとは違うのだ。

椅子を蹴り、立ち上がれば机の上には材料がそろっていた。
咲夜の仕業だとすぐにわかる。
けれど咲夜はそれ以上の事はしない。
手を貸そうなどとは口が裂けても言わない。
この愛は私だけの愛だ。
フランドールへと贈る、レミリアだけの愛がこもった贈り物だ。
咲夜の愛など一片たりとも入れる訳にはいかない。


私は姉だ。
私にできない事など何もない。
どんな事でも呼吸をするが如く出来て当然なのだ。
一ヶ月前に、半ベソをかいてチョコレートを作っていた妹とは違う。
一ヶ月前に、初めてまともなチョコレートを贈ってきた妹とは違う。
一ヶ月前に、顔をあからめてチョコレートを渡してきた妹とは違う。
私は簡単にキャンディを作れるし、そのキャンディはとても甘くておいしい。
愛を返すのは当たり前だし、当然のようにキャンディを手渡すだろう。
そう出来て然るべきで、それがあの子の姉であるべきなのだ。

そうだ、今日のお茶会にはあの子も呼ぼう。
そして咲夜に茶菓子を要求するあの子に、咲夜は茶菓子は無いと言うのだ。
膨れたあの子の顔の横に、そっと甘いキャンディを差し出してやったら?
あの子はどんな顔をするだろう?
びっくりするだろうか、笑うだろうか、それとも怒るだろうか?
どうだっていい、あの子の顔が見たくなった。

甘くとろける様なキャンディを作ってやろう。
フランが嬉しくなれる様に。
フランから贈られ続けた愛に匹敵するくらいの愛をこめて。
フランがとびきりの笑顔が出来るような。
フランに返せなかった愛を、これでもかと注ぎ込んで。
甘くとろける様なキャンディを作ってやろう。

喜ぶフランの顔を思い浮かべ、私は再びボウルを手に取った。
うん、砂糖は多めがいいわね。




まぁ、別に海外じゃあ贈るのはチョコレートじゃなくてもいいし
男性が女性に贈ってもいいんですよ。
でもなんか気に喰わないんです9分9厘初めまして転石です。

ちなみに日本国外にはホワイトデーなんて存在しませんよ。
と、ほぼ常識を言ってスピード○ゴンはクールに去りますね、おずおず。
転石
[email protected]
http://www.misut3gicho.sakura.ne.jp/
コメント



1.名無し妖怪削除
おもわずふわりと笑みが浮かぶ話でした
レミリアいい子や
2.名無し妖怪削除
それ以上砂糖多めにしたら見てるこっちが暑くなるぞ
フランの反応が見てみたい…蛇足になるか?
3.名無し妖怪削除
これはいい話だー。
フランはWDを知ってたのか気になる。
4.名無し妖怪削除
れみりゃ、良い子なんだけどさ…
お菓子って分量変えると失敗するよw
5.名無し妖怪削除
これは続編を書かなければだめでしょう
さぁ書きなさい