☆当館では、ネイティブフェイスの開幕にあわせてムーンウォークを踊ることを禁止します。
ちくしょう――と言うのが、紅魔館に貼り出された張り紙を目にした私こと東風谷早苗のファースト・インプレッションだ。
宗教は何時の時代もこうだ。始めのうちは迎合しておいて杭が出てくると容赦なく叩く。醜いこと極まりない。
大体紅魔館がこんな張り紙を出すとはどういうことだ。分社取り付けのため大人数の前で、緊張してしまいムーンウォークに失敗した洩矢様が発した「あーうー」にいち早く注目したのはお前らじゃないか。
流行りだしたから冷めたとか言う思春期にありがちな精神病だろうか? 困ったものだ。主がそんなことではまともに館の経営など出来ないだろう。
いや、それともあれか? 人里の逆さ鳥頭が書いた「流行る前から独り占めっ☆世界の宗教百選(はぁと)」の影響か? おめでたいやつらだ。うちはロリの魅力を最大限に利用した、ペドフィリア御用達で一見さんお断りの超硬派な教えだと言うのに。
人気及び年齢がめでたくタイだったという非情な現実により営業から外された八坂様の意も汲めぬ悪党どもめ。
やれやれだ。どうやら洩矢教トップスリーであり広報兼会計兼風祝兼掃除係兼傘係兼地上げ係の私が直々に当主に活を入れてやらねばならないようだ。
赤黒く染まった紅魔館当主の写真に三十二杯目となる新鮮な鼻血を与え、私は紅魔館へと説得へ赴いた――
☆当館では、洩矢教信者の出入りを全面的に禁止します。
なぜだ――と言うのが、紅魔館に貼り出された張り紙を目にした私こと東風谷早苗のセカンド・インプレッションだ。
昨日紅魔館の当主に説得に行き、成果振るわずに帰ってから次の日に来るとこのザマだ。
流石に侵入する時にきりもみ回転しながら鼻血を撒き散らしたのははっちゃけすぎたか。
……いや、この程度で出入り禁止が下るとは考えづらい。大浴場を鼻血で満たすという伝説があるほどの館だ。友好の一歩を兆す一手になれども、宗好断絶を決定する狼藉の一手にはなる筈もない。
ならば侵入の際に門番とメイド長らしき人物にババァババァと連呼したのが不味かったのだろうか。あの実力者二人が殺気を漲らせて襲い掛かってきた時は流石に肝を冷やす思いだった。
しかし、八雲紫、八雲藍、八意永琳、果ては八坂様までが一堂に会したときに、名前及び、加齢臭とも腋臭とも形容し難い素敵臭に皮肉を込めて「やかましい、8×4(エイトフォー)」と言った時に比べれば、なるほど取るに足らぬ出来事だったと言える。
結果として無事当主のところまで辿り着くと、あの二人は犬の癖に借りてきた猫のようにおとなしくなった。
なのでこれ幸いとばかりに復讐として「曲っがり角っ!」「曲っがり角っ!」といってやったときのあの愉快な顔は忘れられそうにない。きっとメイド長の方は今頃、背中に羽が生えているだろう。
閑話休題。
冷静に考えてみれば、幼々跋扈、幼女夜行とまで謳われた紅魔館でババァ二人がそこまでの権力を持つとは思えない。
ならばあの様子を見るに、当主の不興を買ったと考えるのが妥当だ。
だがこればかりは全く心当たりがなかったので、直接聞いてみることにした。道中、僅かでも私よりも年上に見える相手にはちゃんとババァババァと連呼してきた。顔を真っ赤にして怒る連中ばかりであった。どこであろうと私が正義(幼女)だ。その心意気を忘れてはならない。
紅魔館の主を前に、滾る紅き欲望の奔流を必死に抑えながら、睨みつけて言ってやった。
「どうして もりやきょうのしんじゃは、でいりきんしなのですか」
「あなたが、わたしのいもうとをゆうかいしたからです」
なんだ、そんなことか。せせこましい当主だ。どうやら彼女の国には平等権というものが無いらしい。各家庭における幼女の所得格差が叫ばれる今日の日本社会で、このような考えのものは鉄火一閃の下に根絶やさねばならない。ならないが――可愛いから許す。
「ま、そういうことよ。生意気でいけ好かないガキでも私の唯一の妹。今すぐ返してくれれば、全てを水に流して後に尾を引くことはないわ。不満があるのならうちにいるメイドの飛び切り幼いの、十人くらいを貴方の神社に永久転属させてあげても良いわ」
聞こえは良いが、結局は人身売買だった。そんなことを全くおくびにも出さない辺り、流石紅魔館の主。一国一城の主となる器を持つ者である。
提案自体は中々魅力的だ――が、十人程度では要求を呑めない。彼女を手放すと洩矢教に大きな痛手となる。
その理由は……順を追って説明すると、昨日、私の手を握る紅魔館の主の妹を見た参拝客の一人が、一つの曲を作ったのだ。
タイトルはシアワセうぎぎ。
「すーなーおに~」というフレーズから始まり、そのフレーズに恥じぬほど素直に、幼女に対する思いを切々と歌った、涙無しには語れぬ純愛歌だ。どこぞの家庭的なパスタがタイプな男など目ではない。
何よりすごいのが、昨日のうちに作詞、作曲、CDプレス、等諸々を行って出荷したのだ。そして今日の朝、目を覚ますとミリオン突破の知らせが風と共に運ばれてきたブン屋の新聞に書かれていた。
勿論それほどの売り上げを見せたからには、肝心のCDの出来は会心のもので、その完成度たるや、幻想郷のトップクラスの力を持つ妖怪の賢者をして「外界ならば社会復帰は不可能なレベルね」と言わしめたほどである。この世界では知能と力が強い者ほど幼女嗜好になるというのは今更言うまでもないと思うが、それほどの人物にも認められた力作なのである。
それと洩矢教に何の関係があるのかと思うかもしれないが、大有りである。
CDの評判が光速の如く広まったのと同時に、CDの元ネタの幼女が洩矢神社にいるという事も同等の早さで広まった。その影響で参拝客が老若男女問わず、わんさかやってきたのだ。俗に言う聖地巡礼である。
このまま彼女がいてくれて洩矢教のマスコットになってもらえると、考えるまでも無く信者がうなぎのぼりで増えるのだ。故に彼女を返すわけにはいかない。
その上、紅魔館は情報によると、近々「紅魔教」なるものを設立しようというのだ。もし彼女を返してしまうと、時代と歴史を積み重ねて信者を増やし続けてきた洩矢教が、一日でトップ陥没という事態になりかねない。それだけは避けるべきだ。
「いや、するわけ無いでしょ。何を教えとするのよ」
「え、そうなんですか? 唯一炉レミィを至高とする正統派幼女愛好宗教団体と聞いたんですが」
「唯一の時点でおかしいことに気付け」
それはそうだ。彼女のみが幼女だったら幼女愛好団体とは名ばかりのただの宗教だ。
あの鴉め、よりによって私にガセネタを掴ませたか。後で実年齢を大々的に公表してやる。そして文ちゃんは現役中学生などとのたまっている連中に現実を見せてろう。
「んな絶滅危惧種にピンポイントバリアパンチを食らわせても意味ないでしょうよ。どんだけ狂信者に恨みがあるのよ」
解っていない。宗教とは幹部ほどその教えを信仰し、下へ行くほど信仰の純度が下がっていくのだ。
というかさっきから考えを読まれているような感じがする。これが噂の気を使う能力か? しかし門番の姿は見当たらない。……なるほど、考えを読んで尚且つそれを念波で伝えているのか。なかなか感心した。
「……味な真似を」
「さっきからあんた地の文全部喋ってたわよ」
これは失念していた。
お互い言葉に詰まっているとメイド長が一歩前に踏み出して言った。
「東風谷早苗。そちらに妹様を返す気が無いのはよく解ったわ。……私としては少し、残念ね。敵同士とはいえ、同好の士。貴方の幼女に対する、バヤリースのように純度の高い愛には多少の敬意を示していたのに」
「ババァ……」
刺された。何故だ、感嘆の意を込めて発言したのに。
「でも貴方がそういう態度を取るのなら、こっちにも考えがある。こういったトラブルを快刀乱麻、一刀両断の名の元に解決する、専門家である閻魔を呼んであるわ。どうぞ」
閻魔と聞いて、無精髭を、それも飛び切りに下品な印象のあるそれをはやした巨体の男を想像する。きっと最近流行っている天下りや年金や不正使用やで私腹を肥やす、欲にまみれた男だろう。
しかもこういったトラブルの専門家ってどういうことだ。幼女専門の閻魔か。最悪だ。先程の無精髭に、その上丸々太っていて眼鏡をかけて無駄に偉そうに死者を裁く閻魔を脳内に描き出す。
――お前、かっこいいな。地獄行き。お前、美人だな。……なに? 二十歳? 惜しい、地獄行き……おっと、お嬢ちゃん、どうしたんだい? ……そうか、家族と一緒に交通事故で死んだのか。よし、お嬢ちゃんは俺の嫁行きだ! なんつってな、グヘヘヘヘヘ――
「……」
やはり、最悪だ。そんな汚れに汚れた致死性兵器(リーサルウェポン)を、幻想の如く純真な心を持つ幼女が目にするとたちまち発作を起こして全身の毛穴という毛穴から幼女臭を撒き散らし、白玉桜で亡我教の信者となってしまうだろう。性欲を孕むロリコンなど、粛清するほか無い。
そうなると、汚物は消毒だ。出来れば今この場で息を止めたいが、その為の装備が足りない。護身用の、障害物透過致死性宇宙銃(ファーサイト)を持って来なかったのが悔やまれる。
「失礼します」
ドアの向こうから声がする。とうとう、問題のヤツが来てしまった。こんなことになるなら、スペルカード、開錠「ドアが割れる日」を持ってきておけばよかった。最もスペルカードとは名ばかりで、ドアにセンサー爆弾を取り付けるだけという荒業だ。未だに取得できたものはいない。
そんな兵器的な意味で現代っ子らしい懊悩に悶えていると、先程から一言も発していない紅魔館の主がいきなり割れた。
「話は全て聞かせてもらいました。人生黒色、お喋り七色。目つき鋭く判決鋭いと謳われたこの私、四季映姫ヤマザナドゥが白黒ハッキリとつけてあげましょう」
「え、そっち!? 本物は? というかドアのほうから声したじゃないですか」
「残像です」
「お嬢様なら、今頃洩矢神社に辿り着いて各勢力の首領と東方萃夢想の順位について首脳会議をしているわ」
嫌な洞爺湖サミットだ。フェイクに引っかかったのは癪だが、閻魔様が可愛いからどうでも良くなった。
「しかし、白黒ハッキリと下すにはまだ材料が足りません。十六夜咲夜は私がいるのを知っていたのに対し、貴方は知らなかったという、不利な条件です。そこで貴方がたの意見を聞いてから白黒ハッキリさせたいと思います」
……さっきから聞いていれば、白黒ハッキリという言葉がやけに耳に障った。
ノーボーダー、自由をつかめ、フリーダムという、幼女に対する在り方を示した外界の素晴らしいキャッチコピーを知らないのか?
上記のキャッチコピーは全てインスタント食品のコマーシャルで流れる言葉だが、これはコピーライターが同志へ送った隠れたメッセージに違いない。私にはよく解る。
「ではまず東風谷早苗から」
「まずは幼女の配分から考えましょう。多いところから取り、少ないところに分ける。これによってノーボーダーが実現します。次に、幼女は純粋なので洗脳、もとい催眠にかけていずれは『お姉ちゃんと結婚したい~』と言ってくれることによって自由を掴み、なんだかとってもフリーダム」
「……日本語の乱れについてはあえて何も言いません。しかし貴方の発言からは幼女の人権など無いかのように聞こえるのですが……」
「幼女は人間ではありません。もっと純粋な何か……そう、イデアですね」
閻魔からえらく冷めた目で見られた。何故だ。幻想郷に来てからはこの理論に賛同する人が増えたのに。
「……次、十六夜咲夜」
「概ね東風谷早苗の意見に賛同します。しかし、ノーボーダーに関しては賛同できません。幼女がいないのなら、私たちがそうしたように砂糖入り蜂蜜のような甘言で誘えば良い。それが無理ならスリーパーでも連れて来なさい」
「……紅魔館に幼い子がやけに多いと思ったら、誘拐していたのですか……」
「でも、彼女達はみんな満足していますわ」
閻魔様が分子も固まる程に冷めた眼でメイド長をみやる。解ってない。そんな目で見ても、彼女は快感を覚えることはあっても反省を覚えることは無い。
「……では、判決を下します」
卒塔婆でクイッと帽子を上げた。可愛いなぁ、とか連れ去りたいなぁ、とか言った思春期の純情に思いを馳せていると、底冷えのする声が響いた。
「ロリコン全員粛清」
幻想郷は滅びた。
そして東風谷さんはきっとマイアン族と交流がある。
>宗好断絶
修好断絶?でしょうか?
>コピーライターが同士へ
同志へ、では?
ここが特に好きですw
自分の家の神様にエイトフォーはないだろw
いろいろとすごい話でした
とりあえずバヤリースの果汁は20%だと言っておきます
あと「しあわせうぎぎ」はどこで聞けますか
>「曲っがり角っ!」「曲っがり角っ!」
これは言われる方は辛いだろうなぁwww
早苗さんがひどすぎてもうねwww
早苗さんがひどすぎてもうねwww
結構楽しかったカップラーメンのCMの扱いが酷すぎるw あれからロリコンを読み取るとは。
カオスすぎwwwww