神社のお勤めを終え、さて一日の汗を流そうか知らんと、霊夢はいそいそと脱衣所に参りまして、一糸纏わぬ姿になって後にしずしずと浴場の
「これは霊夢様。今日もお勤めご苦労様です」
「え、あ、うん」
「やや、これは失敬」
紳士はやおら手を差し出しまして、霊夢に一片の紙切れを手渡しました。
「こういう者です」
「あ、ご丁寧にどうも」
ぺこりと頭を下げつつ受け取りますと、それは名刺で、『妖怪 風呂入道』と書いてあるのでありました。
さてもさても、見越し入道なら「見越し入道、見越した!」のひと言で後腐れなく失敬できるものだけれども、これはどうやって退治すれば好いのか知らん、と霊夢が考え考えしておりますと、紳士はその考えを見透かしたようでして、ほだされるような、実に快い笑みを浮かべまして、
「いえ、ご心配には及びません。妖怪と申しましても皆様のような人間を喰らうほどの力もない、しがない
「垢舐めみたいなもの?」
「垢舐め様とは好いお付き合いをさせて頂いて居ります」
「へえ」
どうやら害なす気配も無いようでありますし、なにより一時でも早く湯浴みをしたいのも本当のことでしたので、霊夢は紳士の言葉に素直に従うことにしました。裸のまま長く立ち続けるにはまだ肌寒い時期のことでした。
頭の天辺から爪先までくまなく洗い終えまして、いよいよ湯船につかろうとすると、やはり紳士は
「ちょっと、狭いんだからもっと端っこ寄ってよ」
「やや、これは失敬」
その日のお湯は、なんだかいつもよりほっこり温かいのでありました。
次の日も、その次の日も、またその次の日も、博麗神社の風呂には例の紳士が居りまして、ほこほこと湯気をたてているのでありました。
「湯加減はどうですか霊夢様」
「好いわね。……ん、湯加減調節できるの?」
「風呂を操る程度の能力であります故」
「便利ねえ」
「ああ、髪をそのように扱ってはいけません。女性の髪は命でございます」
「でもめんどくさいのよね」
「年頃のお嬢様なのですから、身だしなみにはお気をつけ下さい」
「はいはい」
「あ、風呂入道、石鹸とって」
「こちらでございますか」
「違う、
「これは失敬」
「ありがと」
「ー♪ ー♪」
「好い歌ですな」
「お風呂って、ついつい歌っちゃうわよね」
「わかります」
「あんたは歌わないの?」
「私の音痴な歌でお耳を汚しては申し訳が立ちません故」
「謙遜しなくても好いのに」
「霊夢様、今日はお肌が荒れ気味ではありませんか」
「むー、ちょっといろいろあったから」
「無理はされぬよう」
「うん」
いつしか、紳士のことは霊夢にとって当たり前のものになっていたのでした。そして、だからこそ悲劇は起きたのでした。
その日は、夕方近くから
「いやあ参った、参ったぜ」
「参ったんなら家で大人しくしてなさいよ」
「こっちに来る途中で降り出すんだからなあ」
縁側のすぐ側に立って、魔理沙はスカートの端をつかみますと、雑巾みたいに絞りました。このまま濡れ鼠にしておくわけにもゆきませんので、霊夢は魔理沙を家に招きいれたのでした。
「ほら、風邪引くわよ」
「そんなにヤワじゃないけど」
「もう。服乾かしといてあげるから、湯でも浴びてきなさい」
「お、もう湯が沸いてるのか。ありがたく頂くぜ」
下着だけになった魔理沙が廊下の向こうに消えるのを見送りまして、霊夢は鴨居に物干し竿をかけてそこで魔理沙のドレスを干しました。くたびれた三角帽子を、物干し竿にかけるわけにもゆきませんし、さてもどうしたものか、と思案したときでした。
ものすごい光が目を覆いまして、続いてごごうという音が
すわ、何事か、と霊夢は気色ばみまして、音のしたほうに向かいますと、果たしてそこは脱衣所であり、一糸纏わぬ魔理沙がへたりこんでいたのでした。その目の向ける先、もともと風呂だったところにはきれいな風穴が開いて居りまして、と言いますか、風呂がまるっきり消え失せて居りました。
「ちょっと、何、どうしたの」
「へ、へんたい」
魔理沙の表情は恐れと怒りがない交ぜになったような具合でした。
「風呂に、変態がいた」
見ると、魔理沙の手の中にはミニ八卦炉が握られて居りまして、残り火をチリチリと発しているのでありました。霊夢ははっとしまして、未だ檜の焦げるにおいのする元風呂場へと身を躍らせました。
果たして、彼はそこに居りました。
「風呂入道――!」
紳士は地面に力なく横たわって、雨に打たれているのでありました。霊夢が抱き起こしましても、いつものようなほこほことした湯気の香りはどこにもありませんでした。
「大丈夫!? しっかりなさい!」
「霊夢、様」
紳士はうっすらと目を開きましたが、その声はいかにも弱々しいのでした。
「これで、好いのです……魔理沙様を、責められませぬよう」
「何を言っているの!」
「博麗の巫女なら、おわかりでしょう……人間にとって妖怪は」
「っ!」
霊夢は下唇を噛みまして、ひどくやりにくそうに、絞るように口にしました。
「……退治するもの」
「ええ」
そうして、紳士は温和に微笑みました。
「どうぞ、これからも好い風呂を」
「風呂入道――!」
霊夢が叫んだ頃には、紳士の身体は湯気のように散ってしまい、石鹸の残り香が幽かに残るだけでした。
雨のしとしとと降る日でございました。
ある日、霊夢はちょっとお花でも摘もうか知らん、と、
「やや、これはお初にお目にかかります。便所入道と申します」
でもさすがに便所入道は霊夢もアウトだろw
ていうか風呂入道になりてぇぇぇぇぇ(マスタースパーク
便所入道は変態だねうん
>便所入道
本当にトイレにでる妖怪として「かんばり入道」ってのがいますよ。歴史も深い正統派の妖怪(?)です。
風呂入道はぼくの心の中に生き続けているよ
それにしてもこれはまた某スレを知らないと分からないネタをw
風呂・紳士と来て作者メッセージですっげぇ納得して、思いっきり吹いたwwww
はいはいジークジークと思ったが違ったwww
その後あとがきでコーヒー吹いたwwww
まじ吹いたwww
>不図(はからず)
rubyタグの振り忘れでは?
傍から見るとどう考えても、変態紳士です。本当にありがとうございました。
ってんぬ訳ゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!w