Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

はあビバノンノ幻想郷

2008/03/04 22:56:13
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 神社のお勤めを終え、さて一日の汗を流そうか知らんと、霊夢はいそいそと脱衣所に参りまして、一糸纏わぬ姿になって後にしずしずと浴場の檜戸ひのきどを開きますと、一体の紳士ゼントルマンが湯船に居りまして、気持ちよさそうにほこほこと湯気を立てているのでありました。
「これは霊夢様。今日もお勤めご苦労様です」
「え、あ、うん」
「やや、これは失敬」
 紳士はやおら手を差し出しまして、霊夢に一片の紙切れを手渡しました。
「こういう者です」
「あ、ご丁寧にどうも」
 ぺこりと頭を下げつつ受け取りますと、それは名刺で、『妖怪 風呂入道』と書いてあるのでありました。
 さてもさても、見越し入道なら「見越し入道、見越した!」のひと言で後腐れなく失敬できるものだけれども、これはどうやって退治すれば好いのか知らん、と霊夢が考え考えしておりますと、紳士はその考えを見透かしたようでして、ほだされるような、実に快い笑みを浮かべまして、
「いえ、ご心配には及びません。妖怪と申しましても皆様のような人間を喰らうほどの力もない、しがないでございます。お気に召されず、湯浴みをお続け下さい」
「垢舐めみたいなもの?」
「垢舐め様とは好いお付き合いをさせて頂いて居ります」
「へえ」
 どうやら害なす気配も無いようでありますし、なにより一時でも早く湯浴みをしたいのも本当のことでしたので、霊夢は紳士の言葉に素直に従うことにしました。裸のまま長く立ち続けるにはまだ肌寒い時期のことでした。
 頭の天辺から爪先までくまなく洗い終えまして、いよいよ湯船につかろうとすると、やはり紳士は温和ゼントリイに微笑んで居りました。
「ちょっと、狭いんだからもっと端っこ寄ってよ」
「やや、これは失敬」
 その日のお湯は、なんだかいつもよりほっこり温かいのでありました。



 次の日も、その次の日も、またその次の日も、博麗神社の風呂には例の紳士が居りまして、ほこほこと湯気をたてているのでありました。

「湯加減はどうですか霊夢様」
「好いわね。……ん、湯加減調節できるの?」
「風呂を操る程度の能力であります故」
「便利ねえ」

「ああ、髪をそのように扱ってはいけません。女性の髪は命でございます」
「でもめんどくさいのよね」
「年頃のお嬢様なのですから、身だしなみにはお気をつけ下さい」
「はいはい」

「あ、風呂入道、石鹸とって」
「こちらでございますか」
「違う、菖蒲しょうぶの香りの方」
「これは失敬」
「ありがと」

「ー♪ ー♪」
「好い歌ですな」
「お風呂って、ついつい歌っちゃうわよね」
「わかります」
「あんたは歌わないの?」
「私の音痴な歌でお耳を汚しては申し訳が立ちません故」
「謙遜しなくても好いのに」

「霊夢様、今日はお肌が荒れ気味ではありませんか」
「むー、ちょっといろいろあったから」
「無理はされぬよう」
「うん」



 いつしか、紳士のことは霊夢にとって当たり前のものになっていたのでした。そして、だからこそ悲劇は起きたのでした。



 その日は、夕方近くから俄雨にわかあめが降ったのでありました。さてこれは晴耕雨読とでも洒落ようか知らん、と、霊夢は縁側でしとしとと落ちる露を眺めながら書を開こうとしていたのですが、不図はからず、向こうの空から見覚えのある黒い点がこちらに近づくのに気が付いたのでした。それは見る見る大きくなって、神社の境内に降り立ちますと、快活な笑みを浮かべて見せたのでした。
「いやあ参った、参ったぜ」
「参ったんなら家で大人しくしてなさいよ」
「こっちに来る途中で降り出すんだからなあ」
 縁側のすぐ側に立って、魔理沙はスカートの端をつかみますと、雑巾みたいに絞りました。このまま濡れ鼠にしておくわけにもゆきませんので、霊夢は魔理沙を家に招きいれたのでした。
「ほら、風邪引くわよ」
「そんなにヤワじゃないけど」
「もう。服乾かしといてあげるから、湯でも浴びてきなさい」
「お、もう湯が沸いてるのか。ありがたく頂くぜ」
 下着だけになった魔理沙が廊下の向こうに消えるのを見送りまして、霊夢は鴨居に物干し竿をかけてそこで魔理沙のドレスを干しました。くたびれた三角帽子を、物干し竿にかけるわけにもゆきませんし、さてもどうしたものか、と思案したときでした。
 ものすごい光が目を覆いまして、続いてごごうという音がとどろいて畳を揺るがしたのです。
 すわ、何事か、と霊夢は気色ばみまして、音のしたほうに向かいますと、果たしてそこは脱衣所であり、一糸纏わぬ魔理沙がへたりこんでいたのでした。その目の向ける先、もともと風呂だったところにはきれいな風穴が開いて居りまして、と言いますか、風呂がまるっきり消え失せて居りました。
「ちょっと、何、どうしたの」
「へ、へんたい」
 魔理沙の表情は恐れと怒りがない交ぜになったような具合でした。
「風呂に、変態がいた」
 見ると、魔理沙の手の中にはミニ八卦炉が握られて居りまして、残り火をチリチリと発しているのでありました。霊夢ははっとしまして、未だ檜の焦げるにおいのする元風呂場へと身を躍らせました。
 果たして、彼はそこに居りました。
「風呂入道――!」
 紳士は地面に力なく横たわって、雨に打たれているのでありました。霊夢が抱き起こしましても、いつものようなほこほことした湯気の香りはどこにもありませんでした。
「大丈夫!? しっかりなさい!」
「霊夢、様」
 紳士はうっすらと目を開きましたが、その声はいかにも弱々しいのでした。
「これで、好いのです……魔理沙様を、責められませぬよう」
「何を言っているの!」
「博麗の巫女なら、おわかりでしょう……人間にとって妖怪は」
「っ!」
 霊夢は下唇を噛みまして、ひどくやりにくそうに、絞るように口にしました。
「……退治するもの」
「ええ」
 そうして、紳士は温和に微笑みました。

「どうぞ、これからも好い風呂を」

「風呂入道――!」

 霊夢が叫んだ頃には、紳士の身体は湯気のように散ってしまい、石鹸の残り香が幽かに残るだけでした。
 雨のしとしとと降る日でございました。








 ある日、霊夢はちょっとお花でも摘もうか知らん、と、雪隠せっちんに向かったのでした。乙女の恥じらいを忘れることなくしずしずと廊下を歩きまして、さてもその扉に手をかけて開きますと、一体の紳士が便座に腰かけて居りまして、霊夢を見上げて温和に微笑みました。

「やや、これはお初にお目にかかります。便所入道と申します」

                   , -, - 、
             ,、 ,、 ,イ!〃 , ='‐ \__ト,__i、_
             l T! Tl'lT_-r-、ィ_‐_7´ l l! l!  | お待ちください
            l、` ` lヽ_lー〈!_,. - ´j  _ -, !
            \`丶!、l  ̄ l /,ィ ´  /_
            ,.イ\ i、!  ̄ l´ ,ィ ヽ/ )`ゝ
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初出:3月4日午後2時ごろ
編集:3月5日午後4時ごろ ルビ、その他細かいところ修正


参考文献

・第5回東方SSこんぺ こんぺチャットログ
ttp://coolier.sytes.net:8080/th_up2/src/th2_9203.zip

・東方シリーズ板スレ「どの東方キャラの残り湯でみそ汁作りたい?」
ttp://jbbs.livedoor.jp/computer/6306/storage/1132914015.html
つくし
http://www.tcn.zaq.ne.jp/tsukushi/
コメント



1.名無し妖怪削除
風呂一緒に入るのはOKなのか、すごいな霊夢
でもさすがに便所入道は霊夢もアウトだろw
2.名無し妖怪削除
さすが平等に見る巫女様だ。男でも女でも平等に見るから風呂も問題ないんだろう。
ていうか風呂入道になりてぇぇぇぇぇ(マスタースパーク

便所入道は変態だねうん
3.名無し妖怪削除
ジーク!ジークじゃないか!
4.名無し妖怪削除
取り合えず、魔理沙の反応は普通だと擁護しておくww
>便所入道
本当にトイレにでる妖怪として「かんばり入道」ってのがいますよ。歴史も深い正統派の妖怪(?)です。
5.犯魂削除
 な ぜ 殺 た し


 風呂入道はぼくの心の中に生き続けているよ
6.更待酉削除
凄い紳士な妖怪だなと思ってましたが……メッセージを見て納得、これは紳士で当然ですね。
それにしてもこれはまた某スレを知らないと分からないネタをw
7.名無し妖怪削除
きっと風呂入道は・・・妖精の類だと思うんだ・・・
8.名無し妖怪削除
嗚呼成る程なw
風呂・紳士と来て作者メッセージですっげぇ納得して、思いっきり吹いたwwww
9.名無し妖怪削除
紳士が出てきたときは
はいはいジークジークと思ったが違ったwww

その後あとがきでコーヒー吹いたwwww
10.卯月由羽削除
ちょっと待てww
11.名無し妖怪削除
下から出て来なくてよかったな
12.☆月柳☆削除
だめだ、こういうの凄くスキなんだよ。
まじ吹いたwww
13.名無し妖怪削除
ネタも面白いし仕上げ具合も素晴らしいのですが、この文語…ではないけれど古風な文章がとても心地好いです。もっと浸りたい、と思わせるものでした。
>不図(はからず)
rubyタグの振り忘れでは?
14.時空や空間を翔る程度の能力削除
お風呂は良いけど便所はまずっいてwwwwwww
15.名無し妖怪削除
流石霊夢。一緒に風呂に入るのもなんともないぜ。

傍から見るとどう考えても、変態紳士です。本当にありがとうございました。
16.三文字削除
変態じゃないよ!仮に変態だとしても変態と言う名の紳士だよ!
17.削除
古風な文体とシュールな場面がどうも絶妙に組み合わさってる……素晴らしい。ああ、あんたは真の紳士だったぜ……忘れないよ、風呂入道。便所入道は明らかに個室じゃ狭くて邪魔w
18.あべこべ削除
なるほど、こうやってお風呂に入れば怪しまれずに済むのか…。
ってんぬ訳ゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!w