Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

氷精と天狗のための童話

2008/03/02 09:13:26
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むかしむかしあるところに氷精がいました。
彼女は頭が貧乏でしたが、背の高いキレイな友達とお母さんのように優しい友達と知り合いの天狗に囲まれ日々を安穏と過ごしておりました。
あるとき、たまたまこの氷精の住処である湖に通りかかった赤い館の夜の王さまと氷精が話をしたのですが、夜の王さまに自分にはとても優秀な従者がいると自慢された氷精は、つい負けん気が強くなりもったいをつけるようにして夜の王さまにこう言いました。
「あたいはものを凍らせて金にすることができるよっ」
まさか氷精にそんなことができるとは思わなかった夜の王さまは、氷精に意地悪そうにこう言いました。
「それは、たいしたわざだ。気に入った。今よりわたしの館へ来い。いいものをやろう」
その口元は三日月のように歪んでいました。



こうして氷精が夜の王さまのところへつれてこられると、夜の王さまはガラクタのいっぱいつまっている部屋へ入れさせて言いました。
「さあ、お前の腕前を見せてみろ。夜通し働いて、明朝までにこの部屋を金で埋め尽くしてみせろ。そうすれば望むままに褒美をやろう。ただし、できなければこの部屋をお前の血で染め上げよう」
夜の王さまはそう言うと、部屋の錠をおろし、氷精をそこにひとり残していきました。
かわいそうに氷精はそこに立ったまま、すっかり途方にくれました。氷漬けにできても金になどとてもできず、だんだん心配になって、とうとう泣きだしてしまいました。
すると急に戸が開き、ひとりの小悪魔が入ってきて言いました。
「こんばんは、氷の妖精さん。なんで泣いているのですか」
「困っているの」と氷精は返事をしました。
「あたい、この部屋にあるものをぜんぶ金にしなければならないんだけどそんなことできっこない!」
すると小悪魔が言いました。
「わたしも困っています。目の前の妖精さんを助けてあげたいのですが、悪魔は対価なしに働いてはいけませんので」
「じゃあ、あたいの髪飾りをあげる! だからたすけてっ!」
氷精は背の高いキレイな友達から貰った髪飾りを仕方なく小悪魔に差し出しました。髪飾りを受け取った小悪魔は、なにか聞き取りにくい言葉を言い続けました。すると不思議なことに部屋いっぱいのガラクタは目も眩むような金の山となりました。そうして、日がのぼると夜の王さまがやってきました。夜の王さまは金を見てこれ以上ないくらいに驚き、そしてとても悔しがりました。氷精はそんな夜の王さまに言いました。
「ホウビってやつ、ちょーだいっ! あたい、野菜を上手く切るナイフがほしい!」
氷精は先日、背の高いキレイな友達と料理を作っている最中に痛い思いをしたことを思い出したようです。
夜の王さまはそんな氷精にガラクタを金に変えるようなまねはできないに決まっている、あの金も誰かが手助けしたに違いないと考え、氷精に言いました。
「褒美を用意するには時間がかかる。その間、もう一度お前の腕前を見てみたいのだがどうだ」
氷精はまたなんとかなるだろうと考え了承しました。
氷精は学ぶことを知りません。



その日の晩、氷精の思惑通り小悪魔がガラクタいっぱいの部屋にやってきて言いました。
「こんばんは、氷の妖精さん。今日は泣いていないのですね」
「でも困っているのよっ」
氷精は昨日の出来事を続けました。小悪魔もまた昨日の通り対価をほしがります。
「あたいの羽を少しだけあげる。だから助けてよっ」
氷精はお母さんのように優しい友達から撫でてもらっていた羽を仕方なく小悪魔に差し出しました。羽を受け取った小悪魔はやはり、なにか聞き取りにくい言葉を言い続け部屋を金でいっぱいにしました。
朝になり金の山を見た夜の王さまはまた悔しがりました。
そんな夜の王さまを知ってか知らずか。いえ、まちがいなく知らないであろう氷精は言いました。
「ホウビってやつ、ちょーだいっ! あたい、スープを上手く煮込む鍋がほしい!」
氷精は先日、お母さんのように優しい友達と料理を作っている最中に苦い思いをしたことを思い出したようです。夜の王さまはそんな氷精にガラクタを金に変えるようなまねはやはりできないに決まっている、わたしがそう決めたと断じて氷精に言いました。
「褒美を用意するには時間がかかる。その間、今一度だけお前の腕前を見てみたいのだがどうだ」
氷精はもう一つほしいものがあったので一つ返事で了承しました。
氷精は目先も足元もお留守です。



ガラクタいっぱいの部屋に小悪魔がやってきました。しかし、氷精はもうなにも対価になり得そうなものを持っていません。氷精は小悪魔に言いました。
「もうあげられるものはなにもないよ」
「では約束してください。あなたがこの館から帰られたとき、わたしの言うことを一つ聞いてもらいます」
さきのことはどうなるかわからない、それに自分には他にこの急場をしのぐ手立てもない、と氷精は考え、小悪魔の言うとおり約束しました。そうして日がのぼり、夜の王さまは三度目の正直を見せられがっかりしました。
親友との賭けで三連敗してしまったのですから。
そんな夜の王さまを気にもとめず、氷精は言いました。
「ホウビってやつ、ちょーだいっ! あたい、魚を上手く焼く網がほしい!」
氷精は先日、知り合いの天狗のために料理を作っている最中に嫌な思いをしたことを思い出したようです。夜の王さまは仕方なく、従者に用意させた銀のナイフと銀の鍋と銀のグリルを氷精に渡しました。
氷精はなにか忘れているような気がしましたが、貰った褒美に満足して帰っていきました。



赤い館からの帰り道、氷精は小悪魔に出会いました。
「約束のものを貰いに来ました。泣いてください。妖精の涙は貴重な材料なので」
小悪魔に言われようやく約束のことを思い出した氷精でしたが泣けといわれて泣けるものではありません。
「そんな突然なんて無理よ」と返事をすると、小悪魔は「では、今から泣かせてあげます」と掌に魔力を溜めながら言いました。しかし氷精があまりに抵抗するので小悪魔は仕方なく、「では三日だけ待ってあげます。その間にわたしの名前を当てられたら、約束はなかったことにしてあげます」と言いました。自分の名前はとてもふくざつなので当てられるわけがないと思っての提案です。もちろん、そんなことを知らない氷精は名前を言い当てるだけでゆるしてもらえるのならと安心して家へ帰りました。
一日目、氷精は貰った銀のナイフで上手に野菜を切ることができて、背の高いキレイな友達にほめられました。氷精は背の高いキレイな友達に小悪魔の名前を知らないかと聞きましたがわかりませんでした。やってきた小悪魔にてきとうに名前を言いましたが、「私はそんな名前ではありません」と言われました。
二日目、氷精は貰った銀の鍋で上手にスープを煮込むことができて、お母さんのように優しい友達にほめられました。氷精はお母さんのように優しい友達に小悪魔の名前を知らないかと聞きましたがわかりませんでした。やってきた小悪魔にてきとうに名前を言いましたが、「私はそんな名前ではありません」と言われました。
三日目、氷精は貰った銀のグリルで上手に魚を焼くことができて、知り合いの天狗にほめられました。氷精は知り合いの天狗に小悪魔の名前を知らないかと聞きました。すると天狗は言いました。
「知っていますよ。ですがタダでは教えられません」
「じゃあ銀のナイフをあげる! 銀の鍋もあげる! 銀の網もあげる!」
氷精は必死に自分にあげられそうなものを言いましたがそのどれも天狗のほしいものではありませんでした。天狗は「約束してください。その小悪魔から逃れられたら私の欲しいものを言いますのでそれを下さい」と言いました。氷精は今日が最後の日だったのでなんとしても名前を言い当てなければなりません。当然、氷精は天狗との約束を承諾しました。
一度、そういう約束で後悔しているのにね。



晩に小悪魔がやってきました。
「さて、氷の妖精さん。私のお名前は?」
氷精は正解を知っていたので、はっきりと小悪魔の名前を言い当てることができました。
小悪魔はまさか言い当てられるとは思わず腹立ちまぎれに自分の主のあることないことを叫びながらどこかへ行ってしまいました。あの小悪魔の主はずいぶんと偏った趣味をしているそうです。
小悪魔が帰ったあと、天狗がなにか言いたいようでした。
今度は氷精も忘れません。
「約束だものね。なにがほしいの。あたいがあげられるものならなんでもあげるっ」
天狗は言いました。
「お嫁さんが欲しいんです」
どうやら今度の約束は、後悔せずにすみそうです。

【氷精と天狗の後日談】


翌日、氷精と天狗の婚約記事の号外が各地へ配られました。
あるところでは銀のグリルが結んだ恋と騒がれました。
またあるところではお母さんのように優しい妖怪がかわいらしい友達を天狗に取られた為か食べ物も喉を通らなくなりスリムになったと騒がれました。
その話を聞いて歴史を綴る半獣は、まるで童話のようなこの馴れ初めをグリル童話と名づけようか、スリム童話と名づけようかと悩んだ末、二つを合わせ、グリム童話と名づけました。
後の、外の世界のグリム童話である。





―あとがき―
天狗の出番がほとんどないのが反省点。童話は起承転結がはっきりしていて好きです。
題材はグリム童話「ルンペルシュティルツヘン」より。
智弘
コメント



1.名無し妖怪削除
こぁが万能過ぎるw
つーか後書きで色々とやられた気がするw
2.名無し妖怪削除
その発想はなかったwwww
3.智弘削除
ご感想、ありがとうございます。

>こぁが万能過ぎる
童話の中で、悪魔や魔女は噂のように暗躍する変幻自在のキャラクターです。つまり、お話の筋を通すために大変便利なのです。

>その発想
正直、この結を書きたいが為に話を作りました。
4.名無し妖怪削除
スリム童話wwww
5.欠片の屑削除
バカ可愛いww
とことん突き抜ければいい結果ってことね!

それと、あとがきが民明書房っぽいw
6.卯月由羽削除
どう見ても民明書房ですwww
7.樽合歓削除
結局スリム消えてるw
にしてもこの夫婦はいいなぁ・・・
8.名無し妖怪削除
上手いこと置き換えて、落ちを付けてあると感心しきりでした。