永遠亭 某日
医師 八意永琳
患者 博麗霊夢
「ごめん下さい~」
がらがらっ
「あらいらっしゃい、お一人?」
「うん、そう」
「出た…」
「はい?」
「絶対言うと思った…」
「えっ?何?」
「いつもそう、誰だってそう…他に誰かが居ても一人って答えるのよ……」
「…えっ?」
「あいつもそうだった!私もそれを知っていた!!それでも…それでも私はあいつを愛した……!」
「あの~?」
「ただ傍に……傍に居られるだけで幸せだった……」
椅子に座ったまま崩れる永琳。
「永琳さん?永琳さん??」
「…あ、ごめんなさいね!ちょっと色々あって…」
「はぁ…」
「人を治すのには慣れてるんだけど…自分を直すのはどうも苦手でね……」
「…いや、上手いこと言わなくてもいいから」
「とりあえず、そこに座って」
「はいはい…よいしょっと」
「その掛け声……似てるわね…」
「はい?」
「あぁ、何でもないのよ!と、ところで今日はどうしたの?いつも元気なあなたが来るって珍しいわね」
「あれ?私ってそういうイメージ?」
「…何よ…自分だけは他の人と違うって思ってさ……」
「えっ?」
「……うぅん、違うの、それで?」
診察スマイルの隙間に時々垣間見える暗い表情が、色々な意味でイタい。
「いやね、最近目とか鼻が痒くて仕方なくてね」
「はい、それで?」
「ちょっと結界張ってみたら痒いのも治まったんだけど、ちゃんと診て貰った方がいいかなって思って」
「…ふんっ……どうせ嘘でしょ…?」
「何が?」
「患者は…医者を騙すことしか考えてない……」
「いや、その理屈はおかしいでしょ!?」
「だったら眼を見て言ってよ!」
「何でよ!?」
「あなたの言った症状が本当なら!嘘じゃないって言うんなら!!私の眼を見て言えるはずでしょう!?」
………
……
…
「……目とか鼻が痒いんです」
「………」
「………」
無言で見詰め合う二人。
「……ばかっ…」
「何よ、『ばか』って…」
「ホントごめんなさいね!じゃあまず口開けて…」
「あーん」
「……腫れとかは無いわね」
「そうなの?」
「あの時も私がこうやっていたら、あんなことにならなかったのかもね…」
「喉の奥を見たら回避できる悲劇ってどんな体験よ?」
「……もう一度、眼を診せてくれる?」
「はい…何か怖いなぁ……」
……
「はい、OKよ、あなた……ちょっと泣いた…?」
「ああ、目が痒くてちょっと涙も出たかな」
「こんな私のために……」
「人の話聞いてた?」
「うぅん…何も言わなくていい……から…」
「何で『から』だけタメが入るのよ?」
おもむろに胸元からロケットを取り出す永琳。
「姫様…この人なら、信じてもいいですね……今度こそ…今度こそ……!」
「いや、姫様死なないでしょ!?私、さっき玄関で掃除してた輝夜に挨拶して入ってきたわよ!?」
「じゃあ、次は…」
「ちょ!ロケット触った手を洗ってよ!!」
「…はい、診察終わり、ちょっと早い花粉症のようね」
「あ、やっぱりか、熱も無かったしね」
「………そういえば、あの人もいつもそうだったな…」
「……だから誰?」
「あ、ああ、ご、ごめんなさい!!昔、そう遠い遠い昔の話よ……」
「あぁそう…」
「駄目よね…昔のコトなんか、早く吹っ切りたいのに…」
早く帰りたい、霊夢は前半からそう思っていた。
「頑張って忘れるから!!それに…」
「それに?」
「…あなたが……今はあなたが傍に居てくれるから……」
「気持ち悪いよ!」
「ちょっと薬とって来るから…待ってて!」
「はいはい…」
「待っててね!絶対…絶対よ……」
「…何処に行くってのよ?」
ゆっくりと立ち上がった永琳は、奥のほうへと向かう。
そしてちょっと振り返り、こう言った。
「……可愛い♪」
「どういうこと!?」
たったったっ…
「全く…何なのよ一体…」
ぶつぶつと呟く霊夢。
「しかし冷えるわね、この部屋……ちょっと手を洗ってこよう…」
手洗いに向かう為、診察室から出る霊夢。
それから間もなく、永琳が帰ってきた。
「姫様…今度こそ私、幸せに……」
がちゃっ、ぱりーん…
「信じてたのに!!!」
永琳は、叫んだ。
「どうして…!どうしてなの……!!」
霊夢の座っていた椅子に駆け寄る永琳。
「あんまりじゃない!!こんな別れ、酷過ぎるじゃない!」
永琳は泣き出し、膝から崩れ落ちる。
「霊夢は違うって思ってた!信じようとしていた!!自分にそう言い聞かせた!!そして愛した…!!」
椅子にしがみ付く永琳。
「なのに……!それなのに………!こんな温もりだけを遺していくなんて……」
そのまま椅子に頬擦りをする永琳。泣いている。
「ふぅ~……って!何やってんの!?」
永琳の奇行を止めに走る霊夢。
「ちょちょ、ちょっと!落ち着いてよ!!」
「……」
霊夢の姿を見て眼を見開く永琳。
「…神様…一瞬でもこの人を疑った私をお許し下さい…」
「いや、幻想郷の神に許し求めても絶対いい事無いよ?巫女の私が言うのもナンだけど…」
ボケ揃いである。
「頭、大丈夫」
「ごめんなさいね!疑ったりして…」
「疑うって何?」
「気にしないで♪」
「…どうでもいいけど早く薬持ってきてくれないかしら?」
「分かってる、分かってるから♪」
「何でそんなテンション高いのよ…」
「さっきビンが割れちゃったからまた持ってくるわ!待ってて!!」
奥のほうへ駆け足で向かう永琳。
そしてまた振り向いて、こう言った。
「…可愛いっ♪」
「だからどういう意味よ!!」
たったったっ…
「……帰ればよかった…」
「ごめんぐだざーいぃ」
がらがらっ
「あれ?魔理沙」
「おっ霊夢がぁ…」ずずーっ
「随分酷い声ね、鼻も大変みたいだし」
「どうもがぜびいだみだいでな」ずーっ
「…自分で薬作れるんだから、それ飲んで寝ときなさいよ」
「いや、ぞれば管轄外だかだ…」ずーっ…
「…とりあえず、帰った方がいいかもよ?」
「どういういびだ?」ずずっ
「まぁ今に分かる、とりあえず私の番が終わるまで待ちなさい」
「……ぞうざぜてもらうぜ」ずっ
がらがらっ…
「よっぽどみたいね…」
ぱりーんっ…
「へっ?」
音のした方向を見た、永琳が手元から薬ビンを落としていた。
「……だ、大丈夫!私、今のなんとも思ってないから…」
「どう言うこと!?」
「………」
「いや、何か思いなさいよ!薬ビンぱりーんって!」
「分かってるわよ!!惚れた方の負けって事くらい!!」
「何も分かってないじゃない!!」
永琳に駆け寄る霊夢。
「分かってるのよ!あなたがそういう人だってことは!!」
「意味分かんないし!!って、素手で拾ったら危ないって!」
「止めてよ!!」
霊夢は永琳の手を止めようとした、しかし永琳はその手を払いのける。
「私を…私を抱きしめる勇気も無いクセに!!」
「無いわよ!そんなもん!!」
立ち上がり、叫ぶ永琳。
「私を受け止める度胸も無いクセに!!!」
「だからありませんって!!」
「だったら連れ去ってよ!!」
「イヤ!何でよ!!」
「…私を…連れ去る勇気も無いじゃない!!この…意気地無し!!」
ばちんっ!!
「痛っ!!」
「ぶった手の方が痛いのよ!!」
「痛たた…どこぞの熱血教師か!アンタは!!」
頬を押える霊夢。
「大体アンタさっきから何言ってるのよ!?」
「どうして分かってくれないの!?」
「分かる訳無いでしょう!?アンタの恋愛遍歴なんかどうでもいいのよ!!
私は薬貰いに来ただけなんだから、さっさと薬出しなさいよ!!」
「………」
「人の話聞いてるの!?」
「…初めて…こんな私を本気で叱ってくれた…」
「はぁ?」
「霊夢!!」
「抱きつくな!!」
抱きついてくる永琳を払いのける霊夢。
「…霊夢!!」
「だから、角度つけて抱きついてこないで!!」
再び払いのける霊夢。
「……霊夢!!!」
「やばそうな注射を握りながら抱きついてくるなーー!!」
本気で払いのける霊夢。
「れいっ…!!」
「い・い・か・げ・ん・に…」
霊符「夢想封印」
「しろぉーーーー!!!!!」
どっっっかああぁぁぁん!!!!
「はぁ…はぁ……もう二度と来るか!!」
霊夢は半泣きである。
後半の永琳はものすごく怖かったらしい。
「ま、待ってよ…!」
瓦礫になった永遠亭。
その上で倒れながら、霊夢を止めようと声をかける永琳。
しかし霊夢はそんな永琳の声に振り返りもせず、神社へと帰っていった。
「こ、こうして…みんな私の前から去って行くのね…ガクリッ」
「し、ししょー…お芝居で人をおちょくるのをそろそろヤメにしませんか…?」
「何言ってるのよ…霊夢の必死の表情なんか……中々見られないわよ?……ちゃんとカメラに収めたわね?」
「はい……一応………」
「これも趣味と実益を兼ねた、永遠亭の収入源なんだから……さぁ、歴史を喰ってもらってまた再開よ…」
「もうヤメましょうって……死にますよ……」
「大丈夫…私は死なない……」
「とほほ……」
そして、おいてけぼりの人が、一人。
「なんだと…言うんだ……?」がくっ
(了)
っていうか趣味なのか
>歴史を喰ってもらって
どうやって買収したのか、小一時間問い詰めたいww
助けてえーりん
が必要です。
テンポも良くって大いに笑った。
∩
( ゚∀゚)彡 え~りん最高ーーーー!!!
⊂彡
そして、たとえ演技でも、えーりんのキャラがかわいかった。ww
次の作品が楽しみです。
覚えがあるんだけど思い出せない
えーりんの壊れっぷりというかなんというかがもうw
姫様なのに玄関の掃除w そんな輝夜を応援してます。