Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

しょか

2008/03/01 11:42:04
最終更新
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1
霖之助とパチュリーのお話です。
なにやらカップリングというか、そういう微妙な空気が嫌いな人はそっと『戻る』を押してください。















幻想郷、妖怪の山の麓にある霧の湖。その湖畔にある昼なお暗き紅魔館の地下。
巨大な蔵書の空間に、主であるパチュリー・ノーレッジと一人の男が膝を付き合わせて
知識欲を満たす作業に耽っていた。

時折聞こえてくる本のページを捲る音が、より一層の静寂を際立たせる。
何か用は無いかと気を利かせて、司書かつ管理権限第二位である小悪魔が様子を見に来るが
そのときも二人は揃って首を横に振るだけであった。

やがて手元の本を読み終えた霖之助の方が首を回し、そっと本を置いて伸びをした。
骨が小気味のよい音を立てるのすら聞こえてしまうかもしれないと最初こそ思ったが、
今では慣れたもので、すっかりそのあたりの遠慮は無くなっていた。



こうなったのは、そもそも霖之助が一時期もてあました本の処分に困ったことから始まる。
魔理沙相手に商売が成立するとは思えないし、アリス相手に売るにも限界がある。
かといって放置すれば、約1名の犯行により消失の憂き目に合うのは確実だった。
なぜか不思議なことにそれは、霧雨魔理沙の犯行率に近似するだろう。

何か良い案は無いか――
頭を抱える霖之助に、ひらめきをもたらしたのは、数少ない固定客の一人だった。
十六夜咲夜。紅魔館のメイド長であり、人外の館に住む数少ない人間である。
その紅魔館には、魔理沙の話題に上ったこともある図書館が存在しているのだ。

木を隠すなら森の中。では、本を隠すならどこにすべきか。その答えがようやく見つかったのだ。
実に合理。いや、隠さずとも売れる可能性もある。霖之助は自分の知恵に賞賛を送った。
そして実行するまでに、そう時間はかからなかった。

「……そう。断る理由も無いけど、買う理由も無いわ」
「せめて置いてくれるだけでも」

持ち込んだ霖之助の個人的な趣味の本に、パチュリーが好みそうな魔術書を混ぜられている。
魔法使いが身近に2人もいる霖之助は、概ね彼女らのような存在がが好む傾向は察しているのだ。

「………そうね、それくらいなら」
「感謝します。また本をもって伺っても?」
「…………門番を倒さず、ドアを破らず、埃をたてなければ、たまには」
「それで十分です。ありがとう、パチュリー・ノーリッジさん」
「気にしないで……ええと?」
「森近霖之助。魔理沙は『こーりん』と呼んで来ますが、そのあたりはご自由に」
「どういたしまして……森近、霖之助さん」
「はい。それでは失礼します」
「さようなら」

霖之助の読みは当たり、予想以上の収穫を得ていた。
何かが売れるという点については期待していなかったが、目的を達成することは出来たのだ。
嘘をつくのは得意ではないが、それでもやれることはある。

その日から、霖之助の戦略的な紅魔館通いが始まった。
最初は商いのついでに。そこから、徐々に回数を増やして。
パチュリーはあまり嬉しくなさそうだったが、それでも利害は一致していた。
何度か彼女の元から持ち去られた蔵書の行方について報告することで、
そんな反応も次第に変わっていった。
(なお、司書の小悪魔は『手土産』あるいは『茶菓子』という名の贈賄であっさりと態度を変えた)



「ねえ、森近霖之助」
「何だいパチュリー・ノーレッジ」

何度目かの訪問の折、とある本の解釈において持論を展開しもう一方が反論する。
そんな些細なことから、気づけば互いに敬称が消えていた。
慌てて霖之助が略称を戻してはみたが、あまり長くない方が喘息には楽だとパチェリーは軽く流した。
以来、霖之助は漢方を差し入れてみたりもしているが、生憎と改善してるとは言いがたい。
これは善意と、本が無い時に訪れるための口実が見事に合致したからでもある。
見抜かれてるだろうな、と霖之助は思ったが、それでも別に構わない、とも思っている。

「貴方、また新しい本を手に入れたみたいね」
「今読んでいた本がそれにあたるね」
「それは置いていくの?」
「どっちがいい?」
「どちらでも」
「じゃあ置いていくよ。いつか読むことがあれば、感想を聞かせてもらいたい所だね」
「消極的に検討しておくわ」

霖之助は立ち上がると、本に挟んでいた栞を抜いて、埃の立たぬよう手荷物を抱える。

「それでは、僕はこのあたりで失礼」
「ええ――………また」
「ん?」
「……何でもないわ」
「そうかい?」

気がつけば、日がじんわりと傾いている時間になっていた。
霖之助はそのまま扉を閉めて、静かに紅魔館を後にする。

「とりとめなく。だけど、次が気になる。貴方は、そう――」

霖之助が置いていった本を書架に差し込もうとしながら、パチュリーはそう呟く。
本棚の1列では足りない。足りなくなってきて、仕方が無いから彼女の本たちが並ぶ2列目に――

「――ことごとく」

滑り込む。

「本に、似ている」


薄暗い部屋のなか、彼女の表情を窺い知る者はいない。


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……もっと可愛い何かを書いてたはずなのに(頭を抱えた
巷にある、素敵で瀟洒な文章に1歩でも近づくべく、今後もがんばりたい所存。

ところでパチュリーかわいいですよね
ぽんこつたぬき
http://ponkotsutanuki.blog4.fc2.com/
コメント



1.脇役削除
…珍しいカップリングだが悪くはない
パチュリー可愛いよ…可愛いよ!
2.名無し妖怪削除
珍しいものが見れて良かったです。
パチェは可愛いです。
3.名無し妖怪削除
パチェも可愛いが、恋心を自覚する霖の字もなかなか。
>約1名の反抗により
犯行では?
4.名無し妖怪削除
お互いに気づいているのかいないのか、そんな微妙な空気が良かったです。
ただ、お互いに積極的なアプローチが苦手そうなので、パチュリーの心の本棚が彼のことで一杯になった時潰れてしまったりしないか心配ですねw
5.ぽんこつたぬき削除
コメントありがとうございます。
誤字は直しました。確認はしてるんですけど、いつも引っかかりますね。
朴念仁なのもいいのですが、こういうのもいいかなと……

>潰れてしまったり…
看病…という妄想が湧いてきました。(笑
6.名無し妖怪削除
この発想はなかった!
近いうちにお互いを「霖之助」「パチュリー」と下の名前で呼び合うようになるのを幻視しました。
パチュリーは可愛いです。