Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幻想郷桜もち前線

2008/02/29 06:50:48
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「本当にここで合ってるんですか? ここは冥界……白玉楼の敷地内ですよ?」
「ええ、確かにこのあたりにトラップを仕掛けたはずなんですけどねぇ」
「というかあなたは他人の家の庭先で何しやがっているんですか」

 庭師の妖夢の苦言も意に介さず、目的のブツの捜索を続けるのは、レミリアの従者にして紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だ。

 彼女が幽々子・妖夢の秘密の花園がある冥界にまでやってきて、人様の家の庭先で草をかき分け調査隊やっているのにはろくでもない事情があって、


「そのろくでもない事情を私に説明させる気ですか」
「あら妖夢。この程度の状況説明ができないようでは紅魔館の従者はもちろんのこと、冥界のお嬢様の付き人さえ務まらないのではなくて?」
「論点がまるで違います。私が言いたいのは、春告精を捕獲するために各所に罠を散りばめ、あげくには冥界にまで結界を越えて侵入してきて罠を設置していたことがばかばかしすぎて自分の口から出したくないということです」
「幻想郷中の春をかき集めようと奔走したあなたに糾弾されるようなことはしていませんわ」

 反論の余地を無くそうとする咲夜の言なのだろうが、メイド服姿で膝つき、茂みをまさぐってるその奇行と後ろ姿に説得力などあるはずもない。


 おい誰だ、やつを瀟洒と呼んだのは。

「あ」
「……見つかったんですか?」
「はい、罠を回収するために目印として地面に刺しておいたナイフが見つかりました」
「そんなもん他人の敷地内に放置しないでください! 幽霊が恐がったらどうするんですか!」
「これとこれとは話が別ですよ」
「何がどう別なんですか。ってか「これ」と「これ」って明らかに同一指してますよね? こそあど言葉がここあど言葉になっちゃいますよ? 何かどっかの図書館の秘書妹みたいな響きですね、いや別に詳しく知っているわけではないですけど。 ……「何言ってるんだコイツ」って顔してないで早く罠回収に戻れ」

 はいはい、と反抗期の息子の扱いに手慣れてる肝っ玉母さんのような台詞を吐いて、咲夜は作業に戻った。


 ――彼女、こんなに扱いにくい相手だっただろうか。

 まぁ、今更幻想郷に変態や変人の一人や二人増えても変わらないか、と妖夢。








 一時間弱の捜索が終わり、咲夜がスカートの裾を瀟洒にはたきながら戻ってきた。目的は達成したはずだろうに、その顔はどこか釈然としていなかった。

「……おかしいですね」
「咲夜さんの頭がですか?」
「罠はこれで全部集め終わったんですが」

 咲夜の足元には、そこらに設置していたという”ねずみ取り”が四つあった。


「ねずみ取りで捕らえる気だったんですか……」
「獲物がかかっていなかったのは残念ですが諦めることとして、少し気になることがあって」
「何ですか?」
「仕掛けておいたエサだけ無くなっているんですよ」
「エサ、ってあなた。リリーホワイトをなんだと思ってるんですか」

 普段はメイド長らしい瀟洒ぶりと慇懃さの影に鳴りを潜めているが、この人、常識というものが足りない。彼女の主であるレミリアの独断専行は彼女のわがままな性格に起因しているが、咲夜の行動に関しては天然色が強すぎる。所謂、アホの子。その端整な顔立ちとのギャップから失笑を多く買う損なタイプ。
 常識外れの強さを持つ巫女や普通の魔法使いが跋扈しているこの幻想郷では、ある意味正しい人間なのかもしれない。それでよく持つなこんな世界。


「ところで、エサって何仕掛けてたんですか?」


「桜もち」


 ……。


 あぁ。
 残念、それはうちの管轄だ。



「咲夜さん、それはカービィの仕業です」
「カァ……何?」
「水色で愛らしい、白玉楼のマスコットです」

 彼女の半径200m以内に不要に食べ物を持ち込まないでください。
 驚きの吸引力。
 サイクロン掃除機。


「分かりました。次回から白玉楼で罠を張るときは参考にしますね」
「二度と来ないでください」









 こうして、世にも迷惑で非常識なメイドは、自分の主が住む館へと帰っていったのでした。
 妖夢の、忙しくとも心休まる使用人としての日々が戻っ……



「何でまだいるんですか」
「あら、お邪魔ですか?」

 妖夢が寒風に耐えて庭の掃除をしているかたわらで、縁側で持参の水筒のお茶を嗜んでいるのは、言うまでもなく、

「罠の回収が終わっていないんですよ。あと、目印に使ったナイフも」
「さっき、もうこれで全部とか言ってませんでしたか?」
「それは白玉楼内だけでの話ですわ。他にも、春告精が通りそうなところを選んで罠を張り巡らせているのよ。言うならば、桜もち前線。綿密に配置したトラップ群に、妖精も春を告げずにはいられないでしょう」
「ははは」

 幻想郷では乾いた笑いは必須スキルだ。相手方のしとやかな笑みと発言のとんちんかん加減に、妖夢は突っ込みを放棄しかけた。

「で、それならここでのんびりしてないでさっさと捜しに行けよこのナチュラルど変態、と思うんですけど、どうしてまだここに?」
「いや、ね。妖夢についてきてもらおうと思って」

「……はい?」

 驚きのあまり少し声が裏返った。

「だめかしら?」
「だめ……というか、だめです。意味が分かりません。私があなたの奇行を手伝う義務が一体いつどこで何段落目の何行目に発生したというんですか」
「困っている乙女に手を差しのべるのに理由が必要ですか?」
「あなたはどうも年下として見られないんですよね……」

 そして両手いっぱいに構えられるナイフ。妖夢は外来人が降参を示す時に使うポーズで何とかナイフの全段発射を免れた。

 キクラゲだけは犠牲になった。



 ――年齢の話題はさすがにタブーですかね。

 幻想を保つには、実年齢表示は必ずしも必要でないそうだ。スキマの人曰く。

「年上でも年下でも、私は手を貸しませんよ。絶対手伝いませんから。さぁ帰った帰った」
「そんな、二時間ドラマの中盤で主人公である刑事の聞き込みに対して手がかりらしいことは知ってはいるものの、極度の警察嫌いか犯人をかばっているかで主人公を努めて追い払おうとする自営業の主人みたいな突っぱね方をしなくても」
「……あなた本当に何歳なん」

 全方位から飛んでくるウン万本のナイフは、二つの刀では防ぎきれなかった。









 冥界から顕界へ下り、刺すような寒さに追いたてられるように咲夜は人の里へと向かっていた。

「もう少し厚着をしてくればよかったかしら……」

 つぶやきが白となって昇る。凍死が冗談とならない寒さなので、レミリアと肌をすりあわせて暖をとる自分を妄想して体温を保つ。無論、保つどころか平熱超過。

 しかし、息が凍るほどの寒波に覆われているというのに、春告精など見つけられるのだろうか。


「正直、リリーホワイトを探すには時期がめちゃくちゃに早いと思いますよ」

 同意の声は咲夜の一人芝居ではない。

「あなたもそう思うのね。でも、お嬢様の言いつけですし……」

 ”言いつけ”という単語に妖夢は反応する。同じ従者同士通じ合う苦労があるのだろう。咲夜のやや後方を付いていく妖夢は、しきりに頷いていた。昨年のクリスマスの時期に、「リグルを大量捕獲してクリスマスツリーを作るわよ~」と主が言い出したときの衝撃と絶望感が甦ってくる。某部活団長並みの常識と突拍子の無さだ。


「そういえば、言に反して私についてきていますのね」
「……あのままあなたを放っておく方が幻想郷的に危機な気がしたので」

 この後咲夜が体よくリリーを捕まえられたとして、彼女始め紅魔館の連中は、「バラして春を取り出そう♪」とか言い出しかねない。音符マークつけても残虐度はちっとも軽減されてないし、ギュッとしてボンをリアルに描写されたらたまったもんじゃない。

 猟奇的なメイド。
 うん、映画化決定。全幻想郷が泣いた(恐怖のあまり)。


「ついてきても構いませんが、特に収穫無く終わるかと思いますよ」

 計画の横暴さが消え、謙遜の混じった台詞に聞こえるが、咲夜の性格からしてただ単にもう飽きただけだろう、と妖夢。

「いえ、私は余計なことしないように見張っているだけですし」

 それで結構、といった風に咲夜は頷くが、本当のところの意が伝わっているか怪しかった。








 程なくして人間の里に到着。
 昼下がりのアンニュイな時間帯で、聞こえてくるのは子供らのはしゃぎ回る声だ。
 人里は、幽々子のお使われが多い妖夢にとっては割となじみ深い場所だ。特に八百屋や菓子屋の主人とは顔見知りでよい付き合いをしているが、それは商売上のお得意様、食材の大量一括購入が好まれる主な要因だろう。
 そういうわけで、人里で他に目立つ行動をしたことがない以上、良い感情も悪い感情も持たれる覚えは妖夢にはないのだが、


「……視線を感じますね」
「メイドと庭師。特別珍しい取り合わせではないと思いますが」

 咲夜の方も頭に疑問符を浮かべているようだ。

「とりあえずどこかでお茶にしましょうか」

 断る理由が思いつかなかったので、妖夢は軽く頷いた。



 「ついに他所の子にまで手を……」「あんな小さな子にまで……」といったひそひそ話を後ろに聞きながら、二人は町の中心に向かった。









 その後。



 ティータイムを終えて、寺子屋に向かう。
 慧音先生の授業の邪魔をする。怒られる。
 「春告精捕まえたいんですけどどーしたらいーんですかー」と某卵風に聞く。怒られる。
 幻想郷の四季を乱すような真似をするな、と割と真剣に怒られる。うなだれる。


 阿求の家に押しかける。
 求聞史紀の紹介文の差し替えを要求してみる。
 ついでにイラストの差し替えも提言してみる(切実)。
 咲夜が自前のイラスト持ってくる。却下。
 マジカル咲夜ちゃんスターの項目追加したらどうか、とか言ってみる。刺される。
 邪魔です、と普通に追い出される。


 古物屋で値切りに挑戦してみる。
 「そこのかわいいお嬢さん!」の一言で簡単に落ちる咲夜。
 壊れかけのラヂオを直す要領でひっぱたいて我に返させる。
 怪しい物センサに反応した咲夜がまた何か物欲しそうにとある店先に止まっている。
 ケ○ちゃん帽子がたたき売りされていた。
 クリーチャー化されたらたまらないので咲夜の手を引いて早々に逃げ出した。



 家路につく。







 ええと。



「リリー探すパートどこにもなかったですよね、明らかに」
「そうかしら。私たちの心と身体の芯は十分に暖まったと思いますが」
「うまいこと言えば全てが許される幻想郷でも、その発言はない」

 それに、何だろうその充実感を全面ににじみ出している満足顔は。人生の勝利者、とでも誇りたいのかも知れないけど、実際何もしてないし。


「暢気なのはいいですけど、この調子で何の収穫もなしにあの吸血鬼のところ戻ったらまずいんじゃないですか?」

 ぽん。

 ひらめきの典型のような手の平打つ咲夜の反応。

「そうよ、こんなところでのんびりしている暇はないわ」
「まさか、素で忘れていたとか」
「あぁ、早くしないとお嬢様に怒られちゃう。足元にひざまつかされて足の指を舐めさせてもらえなくなるわ」
「あなたのお嬢様は随分な趣味をお持ちのようで……」


 ――ん?

 ”もらえなくなる”?

 まぁ、聞き間違いだろう。


「そうと決まれば。急ぐわよ、妖夢。兎角全ての罠を今日中に回収して回るのよ」
「いや、私は幽々子様の夕飯の準備があるので帰りますよ」
「何尻込んでるの。桜もちが腐ったらどうするの」
「今確信した。あんた相当バ」

 ナイフ。






 時間を止めておいてあげるからという咲夜の譲歩案もあり、またさっきの失言の報復で半霊が体積半分になるほど怯え縮こまってしまっていたこともあり、結局咲夜の罠品回収ツアーに強制参加させられることになった。
 これから夕方にかけて冷え込みが激しくなってくる時期だ。春告精が見つかるとは思えないのだが、今更咲夜が止まりそうもないし、引き返そうにもないし、気が済むまで付き合うしかないのだろうと諦める。

 従者に一番必要なスキルは諦観かもしれない。

 しかし、どこぞやの従者はどうにもフリーダムだが、あれでやっていける理由が妖夢には分からなかった。









 妖夢にとって幸いだったのは、咲夜が諦めついたのが想像より早かったことだ。桜もちの罠にかかっていたのが、食いしん坊キャラの座を狙う豊穣の神だったり、某ホタルの子とはあまり関係ないリアルGだったり。
 それに加え、迷いの竹林あたりで、トラップ設置ごっこと聞いて飛んできました、な因幡の本場のトラップに連続して引っかかったあたりから二人の間に諦めムードは漂ってきていたのだ。



「結局見つかりませんでしたわね」

 そう言う咲夜にもさすがに疲れの色が見え隠れしていた。今日の陽はようやく地平へと沈んでいこうとするところだったが、咲夜が時間を遅らせながらの活動だったので、実際どれだけの時間飛び回ったのかは想像に難い。

「……まず、罠がねずみ取りという時点で……ていうかもう全てにおいて作戦ミスだった気がします」
「仕方ないわね。帰ってお嬢様に慰めてもらわなきゃ……」
「頼みますから投稿規約と年齢制限に引っかかる描写は謹んで下さいね」

 







 幽々子の夕飯の時間が一時間ほど過ぎてしまった。心配して急いで白玉楼に戻ると、どうやら幽々子はそこらへんの幽霊をかじって飢えを凌いでいたようで、妖夢は安心した。

「よーむ、おなかすいたっ!」

 空腹に近づくほどに幼児化する幽々子を適度にたしなめながら、妖夢は準備にかかろうとする。


「あ、そういえば妖夢」
「はい、どうしました?」
「こっち、こっち」


 死へ誘うような手振りで幽々子が呼んだのは、台所の方とは違う、客室が集められた一角だった。
 幽々子の意図を捉え損ね、一方で何やら嫌な予感を得ながら幽々子の後をついていく妖夢。


「じゃーん!」

 声と同時に豪快に開けられたふすまの向こうにあったのは、




 半霊一つ収まりそうな鳥かごと、それに捕らえられたリリーホワイトだった。

「見て見て妖夢、ついに春告精を捕ることに成功したわ! これで西行妖も満開に……」

 春を囲いの中で必死に訴える妖精。
 望みの物が手に入り、浮かれ調子の笑顔の幽々子。




 ええと。

 何というか、



「幽々子様」
「あら妖夢、何かしら」
「今晩はさくら鍋にしましょうか」

トム「あれは『春』ですか?」
メアリー「いいえ、あれは咲夜です」



実は初めましてではないけどこのPNでは初めまして。
二次創作では瀟洒に書かれがちな咲夜さんを原作準拠の(?)変わり者寄せな性格付けをしてみょんと絡ませてみました。
結果、とてもごめんなさいなSSが話が出来上がりました。とてもごめんなさい。
dam
コメント



1.名無し妖怪削除
年齢といえば、妖夢も何歳なんだか
まあ、それはともかく、リリーホワイト逃がしてあげてっ!!
2.Docter DD削除
春=咲夜www
最後に上手く落とされました!
3.名無し妖怪削除
うん、とりあえず咲夜さんがど天然だってのと、幽々子様が意外と凄いってのはよく分かった。あと妖夢、さくら鍋ってのは、馬肉の鍋だろうなww
>空腹に近づくほどに幼児化する幽々子
危険だろうけど、見てみたいww