「姫! おむつを取り換えましょう!」
輝夜、ウドンゲ、てゐが三人で話していたところに永琳が現れて言い放つ。
周囲から話し声は消え、静寂が支配した。
ウドンゲとてゐはなんともいえない視線を輝夜に送り、輝夜は引きつった笑みで永琳を見る。
「ど、どいうことかしら?」
「おむつ取り換えましょう!」
「近づいてこないでよ!」
おむつと言いながら近づいてくる永琳から輝夜は慌てて離れる。
おむつはしないのだが、捕まると本当に換えられると思ったのだろう。
なおも追ってくる永琳に輝夜は、
「おむつなんて15才で卒業したわよ!」
「15?」
「才?」
「おむつ?」
15才卒業宣言に三人はうわぁといった顔で輝夜を見る。
「自爆した!?」
凹む輝夜におむつと言いながら永琳は肩を叩いて慰める。
慰めると言っても相変わらずおむつと言っているが。そのせいで慰めは効果を表さず、さらに傷をえぐることになっている。
おむつを取り換えましょうと言っているわりには、行動に移すことのない永琳を変に思ったウドンゲ。
詳しいことを聞こうと思っても永琳は同じ言葉を繰り返すだけ。
まだ凹んでいる輝夜を永琳に任せて、ウドンゲはてゐと話し合う。
「師匠、なんかおかしいよね?」
「見てのとおりね」
「いやそうなんだけど、そうじゃなくて」
「わたしは予想ついてるけど」
「そうなの?」
「薬の作製に失敗したんじゃないの?」
「そうなんですか師匠?」
こくこくと頷く永琳。
どうやら薬の作製に失敗して言葉が固定されたらしい。
それなら文字で意思の伝達をすればいいと思ったら、書いた文字も『おむつを取り換えましょう』だった。
失敗しても効果の高さはさすがといったところか。
この薬は効果が一日で、解毒剤を作るには材料が足りないとわかった。
言葉も文字も駄目な状態でなぜそれがわかったかというと、ジェスチャーでなんとかしたからだ。
上の短い情報を得るために、1時間以上を費やした。
永琳の回りに散らかった様々な小道具からその苦労を察してほしい。
「ほおっておけば自然と治るならほおっておこうよ」
「そうね」
「私の精神衛生的によろしくないけど、仕方ないわね」
「おむつ」
情報を得た結果、ほおっておくということに決まる。
永琳自身もそれでいいのか頷いている。
輝夜がやや嫌がっているが、諦めているようだ。
今日は何事もないように祈っている輝夜だが、そんなことをしていると逆にトラブルを招くもので、
「輝夜ぁぁっ!」
永遠亭入り口から妹紅の声が聞こえてきた。
恒例の殺し合いにきたのだろう。
「ちょうどいいわ、ストレスのはけ口になってもらいましょう」
いつもよりも活き活きとした表情で殺し合いへとむかう。
輝夜を見送るため玄関まで三人はついてく。
「それじゃ行ってくるわね」
「「いってらっしゃいませ」」
「姫、おむつを取り替えましょう」
永琳もいってらっしゃいませと言ったのだろうが、出た言葉はこれだ。
そしてそれは入り口にいた妹紅にまで届いた。
「お前今でもおむつしているのか」
妹紅は大笑いしながら輝夜に聞いている。
「違うわよ! 薬の作製に失敗して永琳がおかしなことになっているだけよ!」
「本当かぁ? お前の忠実な従者が言っていることだぞ? 信頼性高い情報じゃないか」
「違うって言ってるでしょ!」
からかう妹紅とからかわれる輝夜。
いつもは妹紅が突っかかっていくのに逆の光景で、それがどこか新鮮に見える。
両者はヒートアップしていく。そのさいに、さらっと妹紅も15才までおむつしていたと自爆していた。
そして今いる場所も忘れて弾幕勝負が始まろうとした。
それを止めたのは永琳。
「姫! おむつを取り換えましょう!」
大声で二人を止めた……つもりなのだろう。このままだと永遠亭が壊れたのかもしれないのだから。
だが問題とするところはそこじゃない。大声ということは広範囲に声が届くということ。
間の悪いことに、今はたけのこが取れる時期で里の人間が竹林に来ていることがあるのだ。
つまり、永遠亭の姫様はまだおむつをしている!? という噂が広まるかもしれない。
そして悪い予感は当たるもので、里に輝夜のおむつ説が広まったのだった。
このことがあり輝夜の引きこもりはさらに磨きがかかって、永遠亭は再びその扉を閉じかけた。
もう助けてえーりんなんて言えないなw