その日、幻想郷が揺れた。
頻繁に事件の起こる幻想郷では、事件が起こることは珍しくはない
それが事件を解決する巫女の住処で起こったとなると、レア度が上がる。
騒ぎの起こりは霊夢がいつものようにお茶を飲んだあと、賽銭箱を開けたときだ。
魔理沙も一緒にいたが、毎度のこと空っぽか木の葉が入っているだけだろうと笑っていた。
いつもならばそれに何か言い返す霊夢。しかし今回は賽銭箱の中を見つめたまま動かない。
「どうしたんだ? パピコでも入ってたか?」
霊夢はいまだ反応せず、動かない。
少し不審に思う魔理沙は、湧いた興味もあって霊夢に近づく。
そして見たのだ! 鈍い銀の光を放つ小銭を! 賽銭箱を埋めつくす一円玉を!
「「…………」」
霊夢と一緒に固まる魔理沙。
やがて固まり続ける霊夢の横で魔理沙が動く。
縁側においていた箒のそばまでゆっくり歩いていくと、それにまたがり神社の上に浮かんだ。
そしてどこから取り出したのかわからないメガホンを口にあて、
「エマージェンシー! エマージェンシー!
サーセン箱に大量のお金が! 各自特級災害対策に入れ!」
その叫びは博麗神社周辺を軽く通り越し、幻想郷中に響き渡ったのだった。
サーセン箱に大量のお金。この衝撃の事実は幻想郷を混沌へと叩き落した。
各家庭の茶碗にひびが入り、さぼっていた門番と死神が起きたのは序の口。
貧弱魔女が今までで一番の発作を起こし倒れ、冬眠中のスキマ妖怪は飛び起き、食いしん坊亡霊は食べる手をとめ、
永遠亭の薬師は配合を間違え、オンバシラにひびが入る。
酷いところでは、月の姫のパソコンが火をふいて壊れ、歴史の獣は満月でもない昼間にもかかわらず角をはやし、
氷の妖精が九九を間違えず、ちび閻魔が判決を間違えた。
犬は庭駆け回り、橙がこたつで丸くなり、烏天狗が落っこちた。
ある意味幻想郷最大の事件は、各々に甚大な被害をもたらしたのだった。
そんな騒動をよそに、怖いぐらいじっと賽銭箱をみつめる霊夢。
そのそばに魔理沙とスキマを通ってやってきた紫が近づく。
「魔理沙、間違いないのね?」
「ああ、間違いない。この目でしっかり見たんだからな」
「そうなると……まあ先に霊夢を起こすとしましょうか。霊夢霊夢」
少し思案げだった紫はひとまず考えを止めて、霊夢の肩を掴んで軽くゆする。それでも反応しないので紫は霊夢を自分のほうへと向かせる。
賽銭箱から目が離れたおかげか、霊夢はやっと反応した。
「あ、紫じゃない。どうしたのよ」
「博麗神社の賽銭箱にお金が入っているっていうじゃないの。それが本当か確かめにきたの」
「そうよ! ほら見て! こんなにたくさんのお金! これで貧相な食事から脱出よ!」
霊夢を賽銭箱を嬉しそうに指差す。
賽銭箱にはさっきまでとかわらず一円玉がぎっしりと。ただ、大量とはいえ一円玉。その一円玉を見て喜ぶ霊夢に涙が流れそうだ。
すくなくともこの場の二人に、今度差し入れを持ってきてあげようと思わせるほどには、痛々しい光景だった。
「霊夢」
「なによ? これは私のものよ、わけてなんかあげないわ」
「よく聞いて。
外の世界にはね、自首っていう素晴らしい制度があるの」
このスキマ妖怪、霊夢を泥棒と決めつけているらしい。
「自首ってなんだ?」
「自らの罪を認めることよ」
「なにもしてないわよ!?」
「だってありえないでしょう? 博麗神社の賽銭箱にお金が入るなんて」
心底当たり前のように紫は言った。隣で魔理沙も深々と頷いている。
「そんなことないわよ! 一週間前だって五円玉が入ってたわ!」
「あっそれ私だぜ。腕の袖に挟まってた奴が落ちたんだ。別に賽銭として入れたわけじゃない」
「うっそれなら、三週間前にどこかの国の硬貨が入っていたわ」
「ちょっと見せてくれる?」
見せるように求めた紫に、霊夢は袖に入れていた硬貨を渡す。
それは一セント硬貨。
「あら、やっぱり」
「やっぱりってどうことよ」
「これ私がスキマに落としたのよ。どこに行ったのかって思ってたら、こんなところに落ちてたのね」
「な、なんですって……いやでも、もしかしたら別の誰かが入れてくれたのかもしれないし」
自分でも信じていないのだろう、自信がなさげだ。しかし僅かに期待も篭っている。
「ここに傷があるでしょう? 私が持っていたのも同じ箇所に傷があったわよ?」
僅かな期待を砕かれた霊夢はその場に両手両膝を着いて落ち込んだ。
「それが入る前は、賽銭はいつ入ったんだ?」
「……………………覚えてない」
小さく呟いて答えた。
つまり忘れるほどに期間があるといるということ。
それがこの賽銭箱にお金が入ることの珍しさを証明している。
「諦めなさい。
あなたがお金を持つことは、その腋を隠すことと同じくらいやってはいけないことなのよ。
現にあなたがお金を持っているだけで結界にひびが入っているわ」
「大事じゃない!?」
「ええ、だからそのお金を渡しなさい。そうすれば結界が壊れることはなくなるわ」
「そうしとけ霊夢。結界を守る巫女が、結界を壊すなんて本末転倒だぜ?」
「なにもそれを私のものにしようってわけじゃないの。ちゃんとそれと交換で食料は渡すわ。
早くしないと本当に結界が危ないわ。スキマに落として無理矢理奪われたくないのなら決断しなさい」
結界製作者として結界が壊れることは見逃せないことだ。紫は厳しい目で霊夢を見る。
霊夢は悩む。無理矢理奪われるのは絶対嫌だと。それでもせっかく賽銭箱に入ったお金を渡したくもない。
これを使って自分で買い物をしたいのだ。つけではなく、自分でお金を取り出し払ってみたいのだ。
実際それを実行すると、店には迷惑がかかるだろう。一円玉で払われても嫌がらせに近い。
「いつまで悩む気? スキマに落とすわよ?」
「駄目ー!」
霊夢は一円玉を守るように賽銭箱に覆いかぶさる。
その衝撃で一円玉同士がぶつかりあい音をならす……はずが音がならない。
それともう一つおかしなことが。
霊夢が一円玉の山に何の抵抗なく胴体を突っ込んでいる。なんというか立体映像に触れているみたいだ。
「あ」
「どうしたんだ」
「結界がすごい勢いで修復されてる」
「どういうことだ?」
「あのおかしな現象に原因があると思うわ」
賽銭箱に突っ込んだ霊夢を指差し紫が言った。
調べてみると賽銭箱に入ったお金は幻だとわかった。
それを身をもって証明した霊夢はショックで寝込んだ。
霊夢を介抱しながら魔理沙と紫が話している。
「なんで幻なんか。あんなことやってなんになるっていうんだ?
誰かの悪戯か?」
「そういうわけではなさそうよ。あの賽銭箱、少しだけ力を持っていたわ。
その力で幻を見せていたんでしょう」
「私の箒と同じ?」
「そうみたい」
「でもなんで」
「霊夢が賽銭が入るように願っていたからじゃないの?
それか賽銭箱も役割を果たしたがっていたか」
「本物は無理だからせめて幻というわけか。
でもそれならもっと高額のお金でも入っていればいいのに」
「人間には、事前に最悪を予想して心理的ダメージを抑えるという機能があるらしいわ。
それが霊夢にも起こったのよ。
一円玉の山であんなに喜んでいたんだもの、百円玉の山なんかみたらショック死していたかも」
「なるほど死なないために一円玉か」
それが事実なら泣けてくる。
二人の目も潤んで見えるのは気のせいなのか。
霊夢を慰めるためにも何か栄養のつく美味しいものでも作ってあげよう、そう心に誓った二人だった。
なるほどショック死を防ぐために「一円の山」だったのか~。
しかしサーセン箱には吹いたwww
てか、霊夢んとこの賽銭箱ならサーセン箱でも違和感ないなwww
サーセン箱の優しさに全幻想郷が泣いた。
>>時空や空間を翔る程度の能力
これでショック死したら、末代までの笑いものでした
幻想郷に長く語り継がれたことでしょう
>>名無し妖怪
可愛いって感想がくるとは思ってなかったです
>>Docter DD
優しさというよりは、賽銭箱が自己満足したかったらしい
>>名無し妖怪
今後も幻に悩まされるので、ほんとに強くいきてほしいです