Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

早苗とバレンタイン

2008/02/22 15:53:19
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最初に…

無駄に長いですorz
とだけ















―― 2月12日 魔法の森

魔法の森にある小さな洋館、その扉をある少女が控えめにノックする。
しかし反応は無い。
少女は少し困った顔をして、強めにノックしてみた。

「はいはい」

すると、今度は少女が期待していた声が聞こえた。

「どちらさまー…って、あなたぐらいしかいないわよね、早苗」
「へ?」

洋館から出てきたのは呆れた顔をしたアリス。
そして、扉の前でキョトンとした顔をしているのは早苗。

「え?どうして私だってわかったんですか?」

早苗は幻想郷に来る以前から自分の霊力が周囲に与える影響を考え、
少なくとも、気配では誰であるか判断できない程度には霊力を抑えているはずなのだ。
なのに、アリスは扉を開ける前に訪問者が早苗であることを言い当てた。
早苗からしてみれば、それはあってはならないことなのだ。
しかし、アリスは少し慌てている早苗を可笑しそうに見返すと、部屋の中に招き入れた。

「あの…アリスさん、どうして…?」

アリスに招かれるまま部屋に入った早苗であったが、やはり言い当てられたことが気になる。
場合によってはアリスに対する考えを改めなければいけないのだ。
そんな真剣な様子の早苗とは対照的にアリスはクスクスと笑いを噛み殺していた。

「アリスさん!私は真剣に!」
「ふふっ ごめんなさい。
 なんであなただとわかったか?よね」
「はい、そうです。私は普段から気配で判別されないように気をつけているです。
 それなのに、アリスさんは」
「あははははっ」

早苗の言葉を遮り、アリスは笑いだした。
その様子に早苗は目を白黒させるしかなかった。
そして、アリスはひとしきり笑うと早苗の疑問に答えた。

「ふぅ…、私はあなたの気配なんてまるでわからなかったわ」
「ぇ?」

言われてみれば、確かに気配で察知されたのなら、
最初に扉を控えめにノックした時に気付くはずだ。
でも、気配でないのなら、一体どうやって?

「答えは簡単よ。
 ドアをノックして私が出てくるのを待つのはあなたぐらいしかいないの」
「私ぐらいしかいない?」
「そう、お行儀良くうちに来る人はあなたぐらいしかいないのよ」
「ぇ?でも、魔理沙とかは?」
「ぁー、魔理沙ね。あいつは気付いたら部屋に入っててお茶を要求するぐらいだし、
 他には烏天狗が堂々と取材に来ましたーって侵入してくるぐらいね」
「…あまり尋ねてくる人がいないみたいですね」
「場所が場所だから滅多に人が来ることはないわ。
 たまに森で迷った人間がくることはあるけど」

アリスがそこまで話すと、ちょうど人形がお茶を持ってやってきた。
アリスはそれを受け取ると二つのティーカップにお茶を注いだ。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「で、今日はどういった用件で来たのかしら?」
「ぁ!忘れるトコでした。実は…
 出来ればカカオを分けてもらいたくて…」
「カカオ?」
「はい、カカオです。
 里の方でも探したんですが、時期が時期らしく今日まで見つからなくて」
「時期?まぁ、別にカカオぐらいなら…
 ぁ、そういえば今ちょうど切らしてるわね…」
「ぁぅ…そうですか」
「う~ん、すぐに必要なの?」
「出来れば…」
「紅魔館になら置いてあ…」

アリスが紅魔館と口に出した途端、早苗はビクッと立ち上がった。
その顔を少し青褪めていた。

「ど、どうしたの?」
「ぁ、ぃぇ…ちょっとトラウマが…」

そういえば前回(クリスマス時)紅魔館の吸血鬼姉妹(と二人の神様)のお陰で早苗が随分と苦労していた。
まだ幻想郷に慣れきっていない早苗にとってはトラウマになるには十分すぎる事件だったのかもしれない。

「…ま、まぁ、今のは聞き流していいから」
「すみません…」

早苗の様子からしてさすがに紅魔館に行くのはやめた方が良さそうであった。

「あそこがダメとなると…ぁ、そういえば早苗」
「は、はい」
「あなた香霖堂には行った?」
「香霖堂ですか?えーっと…霊夢や魔理沙から話は聞いたことがあると思うんですが」
「聞いたことがある、ということは、まだ行ったことは無いのね?」
「はい、行ったことは無いです」
「じゃあ、香霖堂に行きましょう。あそこは外から流れ着いたものを主に扱ってるけど、
 カカオぐらいなら手に入るでしょ」



―― 同日 魔法の森入り口 香霖堂前


「うわぁ…まるでゴミ屋敷ですね…」
「ゴミ屋敷?」
「ぁ、気にしないでください。外の世界の話です」

香霖堂に着いたとき早苗の目にまず飛び込んできたのは店先に並ぶ物の山だった。
それは外の世界なら間違いなく、ゴミ屋敷とマスコミに取り上げられていただろう。
しかし、ここは幻想郷。
外の世界ではゴミであっても、こちらでは使い道がわからなくとも珍品であることに変わりない。
香霖堂はまさにそういった珍品を扱う店なのだから、散らかっていても仕方の無いことなのかもしれない。
まぁ、それにしても散らかりすぎだとは思うが

「?…まぁ、さっさと用事を済ま」

アリスは早苗の方を少し気にしつつも、香霖堂の扉を開けかけた…
のだが、一瞬止まったかと思うと、勢い良く扉を閉じた。

「あれ?アリスさんどうかしました?」
「いえ、ちょっと疲れてるのかしら…幻覚が見えたような気がして」

アリスはそういうと再び、扉に手をかけ、ゆっくりと開く。
直後、また勢い良く扉を閉じた。

「アリスさん?」

アリスは扉を閉じた手を額にあて、スッと扉から離れた。
早苗はアリスの様子を不審に思いつつも、アリスに代わり香霖堂の扉を開いた。

直後、アリスと同じように扉を閉める。
そして、もう一度同じ動作を繰り返す。

「ぁ、ああ…アリスさん!?○□×※!#@¥△( ゚∀゚)o彡゜」(←声にならない声)
「わかってる!わかってるから、落ち着きなさい!!」

混乱する早苗をアリスが必死になだめていると、香霖堂の扉が中から開いた。

「一体、なにごt
―――魔符「アーティフルサクリファイス」―――
 ごふぅぅ」



―― 30分後 香霖堂店内


「いや、すまなかったね。ちょうど昨日仕入れた新しい商品の使い方を調べていたんだよ」
「使い方を調べるのに、どうして裸になる必要があるのかしら?」
「あははは…いや、ちゃんと下着は着ていただろう」

香霖堂店主 森近 霖之助 は、倉庫からカカオを取り出しつつ答えた。
もちろん「今は」ちゃんと服を着ている。

「全く…お陰で早苗が怯えちゃってるじゃない」
「(ガクガク)」
「いや、申し訳ない」

アリスは毅然とした態度で霖之助と向かい合っているが、
早苗はそのアリスの陰に隠れてしまい、霖之助をまともに見れるような状態ではなかった。

そしてアリスがカカオを受け取り、早苗はアリスの陰に隠れるようにして店の外へと出て行った。
外に出るとようやく落ち着いたのか、早苗が口を開いた。

「本当にありがとうございます。また、前回みたいに何から何まで…」
「気にしなくていいよ。私も色々と欲しいものがあったし、
 それに店主があんな状態だとは思いもしなかったから…」
「ぅぅ…あの店主は普段はまともなんですよね?
 今回がイレギュラーなんですよね?」
「私が知ってる彼なら、普段はやる気の無いグウタラ店主だけど常識人のはずよ」

アリスはそう呟き、額に手を当てた。
そのとき、香霖堂の扉が内側から勢い良く開いた。

「そういえば君は早苗といったね」
「「!?」」

そこから現れたのは

「魔理沙たちから聞いたのだが」

もちろん香霖堂店主の霖之助

「君はつい最近まで外の世界に
―――開海「海が割れる日」―――
 ぎゃふっ」

「きゃぁぁぁぁぁああああああああああ」

但し、その体を覆っているものは褌だけ

「…露出癖でもあるの?」
「…」

アリスは眉間に手を当て早苗が逃げ去っていった空を見上げた。
こうしてまた一つ、トラウマが増えた早苗であった。





―― 2月13日 守矢神社

「♪~♪」

守矢神社の台所から早苗の楽しそうな鼻歌と甘い香りが漂っていた。

「よ~し、完成っと」
「何が完成したの?」
「あ、諏訪子様。チョコレートですよ」

甘い香りに釣られたのか、諏訪子が早苗の背後にちょこんと立っていた。

「そういえば、明日はバレンタインだったね」
「えぇ、そのバレンタイン用のチョコです」

バレンタイン用のチョコといわれたので、諏訪子は思わずチョコに手を伸ばすが、
早苗はその手からサッとチョコを引き離した。
笑顔の早苗と笑顔だけどちょっと不満な諏訪子。
そのまま、二人はチョコの取り合いを演じるが、あと一歩の所で早苗が全てかわしていった。

「もぅ、一日ぐらい早くても良いじゃない」

さすがに取り合いに飽きたのか、諏訪子が不満を漏らすが、
早苗はそんな諏訪子にお構いなしに笑顔で答えた。

「諏訪子様用のチョコでしたら今すぐ食べてしまっても構いませんよ」
「ぇー、そのチョコは私じゃなくて神奈子用なの?」

見た目にも、早苗が今持っているチョコレートの気合の入り様が凄いことがわかるだけに
諏訪子は抗議の声を上げるが、早苗は首を横に振った。

「これは諏訪子様用でも、神奈子様用でもないんですよ」
「じゃぁ、それは誰にあげるのよ?」
「それはですね~」
「あら、こっちに来てまだそんなに経ってないのにもう気になる相手が出来たの?」

早苗が嬉しそうに渡す相手を告げようとしていると、二人の騒ぎに気付いた神奈子が口を挟んだ。
神奈子の予想外の乱入により、早苗は慌てて否定をした。

「いえいえ!別に好きな人ができた訳じゃないんです!」
「でも、その気合の入れ方はどう見ても本命よね?そう思わない諏訪子」
「本命だね。だから、私も飛びついた訳だし」
「いえ、あの!だから!!」
「早苗に好きな人が出来るなんてねぇ…挙式はいつかしらね?」
「子供もいつ産まれるんだろうね?私は女の子が良いと思うけど神奈子はどう?」
「そうねぇ、早苗のあとを継いでもらわないといけないから女の子が良いわね。
 でも、男の子でもそれはそれで面白そうだけど」

「あの!渡す相手はアリスさんですから!!変な想像はやめてください!!」

二人の神様の会話を遮るべく早苗は大声で宣言した。
その必死さに二人はキョトンとして向かいあった。

「えーっと…私は別に女性同士の恋愛も良いと思うよ」
「そ、そうだね。別に女の子同士だって、好きなら良いんじゃないかな」
「へ?」
「まぁ、障害も多いだろうけど頑張りなよ」
「そうそう、ここは幻想郷だし、きっと大丈夫だよ。
 博麗の巫女が幻想郷は全てを受け入れるとか言ってたし」
「はい?」

なんだか話がまた変な方向に向かってきているようだが、
神奈子と諏訪子の二人はこれ以上邪魔はしないからと早苗が弁解する暇もなく去っていった。

「とんでもない勘違いをされたような気が…」

もちろん早苗はクリスマスの時のお礼もかねて「友達」として渡すつもりだった。





―― 2月14日 魔法の森 アリス宅


コンコンと控えめに扉をノックする音が響く。
もちろんノックしているのは早苗だ。

「はいはいー、早苗でしょ?あがって来てー」

今回はノックし直すことなくアリスの返事が返ってきた。
早苗はアリスに言われるまま、お邪魔します、と家の中に入って行った。
早苗がリビングまで入っていくと、キッチンの方からアリスがエプロン姿で現れた。

「今日はどういった用件かしら?」
「アリスさんの作ったお菓子を食べに♪」
「あら、なんで今日作るってわかったの?」
「そうですね…じゃあ、うちの神様のお告げで」
「それは私にとっては迷惑な神様ね」
「私にとってはとっても便利ですね」

アリスは表面上は面倒臭そうな雰囲気をしているものの、その目は笑っていた。
早苗もそれがわかっているので笑顔で冗談が言えるのだ。

「それで、ホントに今日は何の用?」
「えっとですね…今日は2月14日、バレンタインデーですよね」
「そういえば今日はバレンタインね」
「なので…これ、どうぞ!」

早苗は大事に隠し持っていたチョコレートの入った袋をアリスに差し出した。
するとアリスは面食らったように目をパチクリさせた。

「あの…あれ?受け取ってもらえませんか?」
「ぁ、いえ、ありがとう」

早苗の懇願するような勢いに負けアリスはその袋を受け取ると、中身をそっと確認した。
もちろん中身は何の変哲も無い早苗の手作りチョコだ。
しかし、アリスにはそれが不思議で仕方ないようだった。

「チョコ…レートよね、これ」
「そうですよ」
「どうして急にチョコなんて?」
「えっと、クリスマスの時とか色々とお世話になったので、そのお返しに」
「なるほど…といっても、何でチョコなの?それにこんな時期に?」
「え?だって、今日バレンタインですよ?」
「そうね、バレンタインだけど…」
「ぇ?え?バレンタインって女の子が好きな人とか、お世話になった人に

―――少女説明中―――

 って…今の日本のバレンタインはお菓子業界の陰謀でした…」

日本のバレンタインの風習は某有名百貨店がきっかけで出来た比較的新しい文化だ。
そのことを思い出しガックリとうな垂れる早苗。
それとは逆に話の内容を理解したアリスは非常にすっきりとした表情だ。

「なるほどね。私が知ってるバレンタインは『主に男性が女性に対して花やケーキなどを贈る』っていうものね。」
「ぁぅー…ここは幻想郷でした…」
「ぁ、でも、里の方だとこの時期になるとチョコがどうしたって騒がしくなるわね。
 外から来て住み着いた人間が広めたのかしら…まぁ、私はあんまり興味ないけど」
「ぁぁ…私の独りよがりだったんですね…」
「こらこら、そんなにいつまでも落ち込んでない」

真っ白になって落ち込む早苗をアリスは苦笑しながら立ち上がらせた。

「このチョコはありがたく頂くわ」
「ぇ?」
「だって、あなたが感謝の気持ちを込めて作ってくれたんでしょ?
 そんな気持ちのこもったものを粗末に扱えないわ」
「あ、アリスさん…」

早苗はニッコリと笑いかけるアリスに思わず抱きついていた。
アリスは最初は驚いていたが、やがてそのぬくもりを確かめるように、そっと早苗の頭を撫でていた。

「そうそう、ちょうどクッキーを焼いてるから一緒に食べない?」
「ぇ?良いんですか?」
「もちろんよ。ちゃんとこれのお礼はしないとね」
「お礼なんて…そんな…」
「そうだ。このチョコも一緒に食べましょうか。どんな出来栄えか辛口に判断してあげる」
「ぇぇ!?それはちょっと…」
「ふふっ、上海~、このチョコをお皿に盛り付けておいてね」
「ぁぁ~、なんだか凄く恥ずかしくなってきました」

二人は和気藹々とキッチンに向かい、アリスの焼いているクッキーとお茶の準備を始めた。
そして、早苗の作ったチョコは一足先にリビングのテーブルの上へ…




―― 数分後


「クッキーはもうちょっとかかりそうだから、早苗はお茶を持って先にリビングに戻っててくれる?」
「わかりました」

ホクホクの笑顔、楽しくて仕方が無いといった表情で早苗はキッチンからリビングへと戻ってきた。
すると、そこには先ほどまでいなかったはずの『彼女』がいた。

「あれ?早苗もきてたのか?」
「へ?魔理沙?何でここに?」

そう、どこにでも現れるどろb…もとい、人間の魔法使い霧雨 魔理沙がリビングに堂々と座っていたのだ。

「何でって、ここはアリスの家だぜ。私がいることに何の不思議があるんだ?
 それより早苗がいるほうがよっぽど不思議だぜ」
「…はぁ?」

魔理沙の理屈は魔理沙にしかわからない。
そんな理屈に早苗が向かっていっても理解できるはずがない。
う~んと、早苗が頭を捻ったとき、『それ』が目に飛び込んできた。
それと同時にアリスがキッチンから顔を出した。

「魔理沙、あんたまた来たの?」
「あぁ、お茶を飲み来たんだ。ありがたく思え」

『それ』は確か数分前まで小さな山を作るほどあったはず。

「お茶を出すのはこっちなんだから、あんたが感謝しなさいよ」
「一人寂しくお茶を啜ってるだろうと思って、見に来てるんだ。
 それで感謝の分は差し引きゼロだ」

でも、今、目に映っている『それ』は真っ白。
いや、最後に残っていた一欠けらが彼女の口の中に消える。

「また妙な理屈を…ちょっとは早苗を見習いなさいよ」
「何も知らないまま霊夢にケンカ売るとことか?」
「そうじゃないわよ。というか、あんたは毎日のようにやってるでしょ」
「アレはケンカじゃないぜ。弾幕ごっこだ」
「似たようなものでしょ。早苗あなたも…早苗?」

「魔理沙ぁ!!」

「ぉ!?」
「あなたにスペルカードルールによる決闘と申し込みます!!」
「えぇ!?」
「ぁ…あぁ、受けてたつ…ぜ」

決闘を申し込んだ早苗の目は血走っていた。
魔理沙はその目にほんのちょっとびっくりしていた。



―― アリス宅前 上空


「それじゃぁ、スペルカードルールによる一本勝負でいいんだな?」
「もちろんです!アリスさん、合図をお願いします」
「はぁ、ホントにやるのね…じゃあ、いくわよ。レディ……ゴー!」

―――準備「サモンタケミナカタ」―――
開始と同時に早苗がスペルを発動すべく準備に入る。
一方、魔理沙はそれを牽制するように一旦距離を置いた。

今日の魔理沙のオプションは左右から照射されるレーザー、
いわゆるレザマリだ。

ただし、今日は左右一対、つまり2個のオプションしか展開していない。
驚異的な威力を誇るPOW3にはなっていないようだ。

早苗はそこに勝機を見出した。
準備が終わるや否や、準備により発生した弾幕が消える前に一気に魔理沙との距離を縮める。
そして、魔理沙の真正面に立った。

「今日という今日は負けません!いきます!!」
―――大奇跡「八坂の神風」―――

POW2であること、至近距離であること、そしてタイミング的にも魔理沙にとっては致命的なはずだった。
しかし、魔理沙は慌てるどころか不敵な笑みさえ浮かべている。

「早苗、その判断は確かに正しい。タイミング的にも私がこの弾幕を避けきるのも、
 パワーで押し切るのも不可能に近い」

魔理沙は自分が致命的な状況であることを認めた。
認めたが、不敵な笑みが崩れることは無い。

「落ちろぉ!!」

早苗はここぞとばかりに弾幕を展開する。
そして、魔理沙の目の前に弾幕が迫る。

そのとき、左右に展開されていた魔理沙のオプションが正面で重なり一本のレーザーとなった。

「判断は正しいが、それは私が『風神録のレザマリ』だった場合だ!」
喰らいボム発動
―――恋符「マスタースパーク」―――


眩く輝く破壊の魔砲が早苗に迫る
「ぇ?」
早苗マスタースパーク人生初体験
「きゃぁぁぁぁああああああ」


「残念だったな。今日の私は『妖々夢のレザマリ』だぜ」 

破壊の閃光に飲み込まれた早苗は光が消えると同時に落下していった。
それをアリスが受け止め宣言する。

「はい、魔理沙の勝ちー」
「ぅぅ…また、負け…た」
「私に勝とうなんて38万4,400km長いぜ」
「なんで距離なのよ」
「いや、なんとなくだ」

アリスと魔理沙、二人の漫才が続く中、早苗の意識は途絶えた。




―― 2時間後


「ぅ…?ここは?」
「やっと目が覚めた?」

早苗が目覚めた場所はアリスの家のベットの上、
その横には椅子に腰掛けたアリスの姿があった。

「アリスさん…?…ぁ!そうか…私はまた負けて…」
「随分と派手にやられちゃったわね」
「…(くすん)」

布団に包まり落ち込む早苗。
それを見て、はぁ、とため息をつくアリス。

「…ん~、早苗、あなたが怒った理由ってこれよね?」

アリスは状況を打開すべく、思い切って早苗に話しかけた。
その手には、早苗の作ったチョコがのっていた筈のお皿が握られていた。
それを見ると、早苗は控えめに頷いた。
つまり、早苗が作ったチョコはお皿に盛り付けられ、一足先にリビングに置かれていた。
そこにいつの間にか魔理沙が現れ、置いてあったチョコを当然のように全て平らげてしまった。
早苗はそのことに怒ったのだ。
でも、怒ったところで、勝負を挑んで負けてしまっては元も子もない。
アリスは再び、はぁ、とため息をついた。

「全く、あなたも馬鹿ね」
「!!」

アリスの言葉に反論しようと早苗は布団から飛び起きた。
そして、その飛び起きた早苗の目の前に一つの袋が突きつけられた。

「ぇ…?あれ?」

それは、早苗の作ったチョコが入っていた袋、
いや、今もまだ中にはチョコが入っている。

「いくらなんでも一回で全部食べきろうなんて思わないわよ。
 作り手に対して失礼だし…それに折角貰ったものを一度に食べたら気分的に勿体無いじゃない」
「…」
「まぁ、それにしても魔理沙のあの態度や行動は色々と問題があったから、
 ちゃ~んと、全部説明して叱っておいたから」
「…ははっ」
「早苗?」
「あははははっ…本当に私って馬鹿ですね、迷惑ばかりかけて…」

怒って勝負を挑んで、負けて迷惑をかけて、早苗の行動はまさに空回り。
自分の行動が情けなく思えた早苗は、その場でたまらずに泣き出した。
そんな早苗をアリスがぎゅっと抱きしめた。

「本当に馬鹿ね…でも、早苗が馬鹿みたいに魔理沙のこと怒ったときはちょっと嬉しかったよ。
 あの馬鹿ときたらいつも勝手にあがりこんで好き勝手にやって…
 そんなあいつのことを真剣に怒ってくれてちょっと嬉しかった」
「…」
「だって、あれは私のために怒ってくれたようなものでしょ?」
「ぁ…」
「それにあれだけ真剣に怒るほどこのチョコには気持ちが込められてるんでしょ。
 それだけで十分よ」
「…はい」

アリスに抱きしめられた早苗の目からは大粒の、さっきまでとは違う、涙が溢れ出した。

「よし、ちょっと遅くなったけど、お茶会にしましょう」
「…はい」

アリスと知り合えて、友達になれて良かった、と心からそう思える瞬間であった。










―― 数日後 守矢神社


「お~い、早苗~」

早苗が境内の掃除をしていると神奈子が母屋の方から現れた。

「神奈子様なんでしょうか?」
「今さっき魔理沙のやつがきたんだが…これを早苗にって」

神奈子は魔理沙から預かったという紙袋を早苗に手渡した。
早苗はそれを受け取ると、ちょっと警戒しながら慎重に袋を開く。
その中身は…

「チョコレート?…あと、手紙?」

紙袋の中に入っていたのは一目で手作りだとわかる歪な形をしたチョコレート、
そして、大きく『悪かった』と書かれた一枚の紙。

「んん?一体何のことだい?」

神奈子には何のことかさっぱりわからない手紙だが、
早苗にはこの一言だけで全てが理解できた。

「加奈子様、やっぱり幻想郷にきて良かったですね」
「ん?あぁ、そうだね」

幻想郷の住人は一癖も二癖もある。
でも、本当に悪い者はいないのだろう。

ここには人と妖怪の繋がりだけでなく、
外の世界では薄れてしまった人と人の繋がりもあるのかもしれない。







バレンタインデーから一週間以上経ってしまいました…orz


前のクリスマスの時からアリサナ?がどうもマイブームのようです
というか、
アリス:冗談の通じる面倒見の良い姉
早苗:ちょっとドジだけど真面目で一生懸命な妹
に見えて仕方が無い

ちょっと頭冷やしてきた方が良いかもしれない


主にお酒で
緋色
http://hiiro1127.jugem.jp/
コメント



1.名無し妖怪削除
ついにキターーーーーーー!!
もう大好きっすよアリサナも緋色さんの文章も!なんですかねぇ~いいですよねぇっこの二人っ!
あああ和んだ~・・・。どうも騒がしいコメントでスイマセンでした。
次回作も楽しみにしてます!
2.nama-hane削除
早苗の純情さとアリスの優しさにノックアウトされました。
バレンタインは恋愛感情で好きな人に渡すだけでなく、友好の印として送るのも良いですね。
かわいいお話でした。GJ!
3.名無し妖怪削除
この話でわざわざ香霖を褌にする意味がわからない
4.Docter DD削除
早苗さんの一生懸命さがとてもよかったです!
そして魔理沙偽装問題w
初見のマスパは奇跡でも回避不可能だったか~。
5.名無し妖怪削除
どこかのスレでも意外と繁盛してるカプっぽいですね?
それはいいとして、魔理沙は直接早苗に謝ればいいのになー、とか思いました。恥ずかしかったのかな。ともあれGJです
6.緋色削除
<02-22 07:57の名無しさま

私の作品なんかで和んでもらえるなんて、とても光栄です
次回作はー…まだわかりませんが、やるときは期待に添えるよう頑張ります

<nama-haneさま

永夜でのアリスと魔理沙の会話はツンデレなんかじゃなく純粋にアリスの優しさなんだよ!
と、個人的には信じてます
あと、今年のバレンタインは自分用や友達用に買う人が比較的に多いみたいなニュースを見た気がしたのでこんなネタになりました

<02-22 09:54の名無しさま

最初書き始めたときは早苗さんと香霖の会話で早苗さんの外の知識の多さにアリスが関心する、みたいな予定だったのですが
お酒に酔って調子こきました…
あと、ちょっと早苗さんをいじめてみたk(r
全体から見ると蛇足っぽくもありますね

<Docter DDさま

早苗さんは真面目さと一生懸命さが一番です
そして魔理沙のー、というか、早苗さんはセンスはあるけど
まだ戦闘経験が圧倒的に少ないのではないかと思う今日この頃な訳です

<02-22 12:22の名無しさま

このカプは繁盛してるんですか…
私の知ってるうちでは、ある絵師さんぐらいしか心当たり無かったもので
あと魔理沙は性格上、正面から謝るのは苦手だと思うんですよね
自分に非があっても押し切っちゃうような子なので
7.名無し妖怪削除
あああ、緋色氏のせいでアリサナに目覚めてしまった・・・
8.緋色削除
今更見てる人か疑問ではあr(ry
<08-03-17の名無し様
アリサナ良いですよね!
アリスも早苗さんも素敵過ぎます!!

でも最近はアリサナの話を書く時間が…orz
もっと広まって欲しいものです