人妖入り乱れる博麗神社の夜宴会。最近は神様も加わって酒臭さ2割増。
寒空の下でも騒ぎ続ける妖怪達や人間を見て、早苗は静かに嘆息した。
「お酒臭い・・・。」
早苗は純情現代ッ子である。勿論日本の法律に従って酒など舐める程度しか嗜んだことが無い。
そんな彼女がいきなり大酒呑みの妖怪と一緒に宴会で騒ぐなど、到底無理な話であった。
「ほらっお前も呑もうぜ!」
白黒魔女に捕獲された。彼女も相当の宴会好きである。
「い、いいですよぅ。お酒苦手なんです。」
隅っこの方でちびちびやっている早苗を気遣ってのことだったが、当人が乗り気でないなら仕様が無い。
「そうかー、まあこういうのは勢いに乗って騒ぐのが一番の楽しみ方だぜ!」
そう言うと一升瓶を片手にふらふらと魔女仲間(愛人)達の待つ一角へと帰還していった。
「お酒・・・ねえ・・・。」
早苗は保健体育の授業で習った知識をなんとなく思い出した。
アルコールは成長期の身体のホルモンに異常を起こし、性機能不全、依存症、臓器障害を引き起こす。
どう考えてみても呑むメリットなんて思い当たらない。
それならば、何故彼女達は酒をかっくらって騒ぐのだろう。何がそんなに愉快なのだろう。
「神奈子様、そんなに呑んだら身体に毒ですよ。」
それとなく、神にストップをかけてみた。
神奈子の傍には空になった酒瓶がいくつも転がっている。もうべろんべろんに酔っ払っていた。
「いいのよう、お酒は万薬の長っていうじゃな~い~?」
息がもう気化したアルコールである。早苗はどうもこの匂いが苦手で、少ししかめっ面をしてしまった。
「もう、お酒は呑み過ぎると寿命が縮まるんですよっ。」
神様相手に寿命も何もあったもんじゃないが、とりあえず身体に悪いことだけは伝えておこうとする。
「早苗~おいで~。」
人の話を聞いていたのだろうか。
「きゃっ」
捕獲されてひざの上に乗せられた。
「何なんですかもう・・・。」
嬉しくはあるが、周囲の目というものもある。こういう場所でイチャつかれるのは、素面の早苗には羞恥プレイに等しかった。
酔ってもいないのに顔を赤くする早苗に、神奈子は諭すように言った。
「いいかい早苗、確かに酒は呑んだら死ぬよ、だけど・・・」
「私達は呑まないと死ぬ。」
妙な説得力があった。
それは、宴会好きで大酒呑みの神奈子ならではの台詞であった。
早苗は思い出した。いつのことだったか、神事に使う為に取って置いたお神酒を神奈子が一晩で飲み干したことを。
その後、泣く泣く酒を買いなおした早苗に再び一人で呑みながらつまみを要求したことを。
あの時は流石に激怒し、思わず海を割ってしまったが、あれは神奈子が生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだろう。
そうでなければ、深淵な考えを持つ神がそんな暴挙に出るとは考えられない。
そうか、と早苗は納得した。
酒は彼女達の燃料なのだ、と。
そう考えると、酒も悪くないような気がしてきた。
未成年の飲酒は禁止と、さんざん言われてきた早苗にとって少し背徳的な気持ちはあったが、
「・・・少しだけなら、呑んでみようかな。」
ちょっとだけ、冒険してみようかという気持ちになった。
「そーかそーか!早苗も呑みたいか!」
何故か神様は上機嫌で酒瓶を傾ける。
「あ、そんなにいいですよう。」
早苗の持っていた器になみなみとと清酒が注がれた。
「ほらほら、遠慮しないの~。」
ぐいぐいと勧められて退くに退けなくなった早苗は、仕方なく、ちょっとだけ器に口をつけた。
熱い液体が喉を通った。アルコールが鼻に抜ける。
「うえ・・・。」
不味い。何でこんなものをあんなに嬉しそうに呑めるのだろう。
早苗は舌を出して、ギブアップ、と神奈子に表情で伝えた。
「あはは~まだ早苗には分かんないか~」
仕方ない仕方ない、と頭を撫でられる。
気持ちはいいが、なんだか馬鹿にされたような気分になった。
私だって、となんとなくムキになって器に注がれた酒を一気に煽った。
「あ、ちょ、いきなりそんなに呑んだら・・・・」
神奈子の静止も聞かずに全て飲み干した。
そこで早苗の記憶は途切れてしまった。
気がつけば日が昇り、日光が先の宴会で散らかった神社の境内を照らす。
「う~ん・・・」
早苗は起き上がって思いっきり伸びをした。冬の朝の刺すような寒さに身を震わせる。
ふと、周囲を見渡した。
「何これ・・・・。」
散らかし放題の境内、神を祀る場所がこんなことで良いのかと思うほど散らかっていた。
だが、今気にすべきことはそれだけではない。
「早苗しゃまぁ・・・・」
「もっ無理れすぅ・・・許してぇ・・・」
博麗の巫女と白黒魔女が半裸で自分の足元に転がっていた。
「早苗・・・激しすぎよぉ・・・」
昨夜あれほど騒いでいた神が、鬼が、天狗が、妖怪達が皆服をはだけさせて自分に寄り添うように寝ているではないか。
気がつけば、自分も大分衣服が乱れている。
「え?えええ!?」
少女混乱中・・・
「あらあら、最近の子は大胆ねえ、いきなり多人数だなんて・・・!」
びくっと突然後ろからの声に驚いて振り返れば、そこにはかの有名な妖怪賢者様。
「ゆっ紫さん!」
扇子で顔を下半分だけ隠し、八雲 紫がそこに立っていた。衣服の乱れなどは勿論無い。
「一体何があったんですか!?」
早苗は明らかに狼狽した様子で紫に問う。
「貴方、覚えていないの・・・?」
驚いたような口調になる・・・が口元を隠しているので本当のところは分からない。
「もう何がなんだか、宴会の途中から何も覚えていなくて・・・。」
「そ、そうだったの。」
パチンと扇子を閉じて急に紫は真剣な表情になる。
「いいこと、今日の宴会のことは全て忘れなさい。何があったのか人に聞いたりしちゃダメよ。」
「え、でも・・・」
「これは貴方の為でもあるの。おとなしく言うことを聞きなさい。」
紫は他所の子でもきちんと叱れるタイプの性格だった。
そして、早苗は幻想郷の一角を担っている妖怪の言うことに反発するほど愚かではない。
「はい、承知しました・・・。」
早苗は、とりあえず紫の言うことを聞き入れ、昨夜のことについては言及しないことを心に決めた。
その後、紫の式達によって宴会の後片付けは成された。
そこら辺に転がっている者たちは紫のスキマ(自宅直行便)で帰宅し、一旦宴会はお開きとなった。
これからは普段どおりの幻想郷の騒がしい日常が再び訪れるだろう。
一部を除いては。
あの宴会の後、早苗は周囲の変化を確かに感じていた。
神奈子はあの後一切酒を勧めてこなくなったし、それどころか宴会も控えるようになった。
時折尋ねてくる天狗は、何やら熱っぽい視線でこちらを見つめてくるし、密着取材と称して神社に泊りがけで来る有様だ。
博麗の巫女は普段通り、かと思いきや、コミュニケーションにボディタッチが増えた気がする。
その他にも色々な妖怪や人間に色のついた目で見つめられたり口説かれたりしたが、早苗は神奈子一筋なので誰にもなびかなかった。
幻想郷の歴史をまとめているという阿求という子にも会ったが、あの宴会のことについてしか言及してこない。
噂では、例の宴会を異変の一つとして幻想郷の歴史に刻むらしい。
ここまで大事<おおごと>になっているのに、自分だけ何も知らないというのは流石の早苗にも我慢ならなかった。
ある日、どうしても堪えきれなくなって神奈子にその旨を伝えたところ、
「いや、いいのよ早苗。貴方はまだ純情キャラでいてもいいの。」
と意味の分からない返答をされて、何かもうどうでもよくなってきた。
あの妖怪賢者が気にするなと言っていたのだ。きっと私ごときでは考えも及ばぬような事件だったのだろう。
と、無理やり自分を納得させて、早苗は全て忘れることにした。
それにしても・・・あの強力な妖怪や人間達を屈服させるなんて、一体どんな怪物なのだろう。
早苗は、未だに全貌の知れぬ幻想郷の未知なる恐怖に、一人、身を震わせた。
しかし、魔理沙をもオトしたということは幻想郷最大のハーレムの誕生ですね・・・
これからは早苗が幻想郷の影の支配者か・・・
それと慧音先生お疲れ様です
この性格、幻想入りしちゃったんじゃなくてたまたまゆかりんがそうだっただけだといいなぁ…と思います。
にしても、早苗何やったんだw
関係ないけど毎回作者さんのお名前を見て吹いてしまいますw
きっと誰も予想だにしていないでしょうww
諏訪子忘れてたorz
でもこういう下ネタに諏訪子は出しちゃいけない気がするんだ・・・
ちょっと待て
>他所の子でもきちんと叱れる
ゆかりんは包容力という面で結構ママン属性があるんじゃないかと思うんだ…