ここは冥界、白玉楼。
幽とした春霞たなびく昼下がりのことだ。
花の香りの軟風が、霞に散った朧な陽光をユラユラと揺らしている。
暖かすぎず寒すぎず、暁忘れの眠気を誘う風だった。
まさに魂休むるに相応しい常世の好日。
だが、ここに霞に千鳥の膨れ面がひとり。
名を魂魄妖夢という、小柄な少女だ。
彼女はここ白玉楼の庭師にして、楼が女主人の剣術指南役と自らを称する。
肩でそろえた銀髪に凛とすました眼差し、けれどどこかしら幼さを残した面立ちが愛らしい。
さてその妖夢、言葉通りのお役目に勤しんでいるかと言えば、さにあらず。
今日も今日とて下らぬ用事で呼び出され、唐国風情ただよう和楼のだだっ広い廊下をだすんだすんと足音荒げて歩く歩く。
「……ったく、何で幽々子様がトイレから出てこないと私が呼ばれるんですかっ!?」
いわんや周囲が妖夢をそのように見ているからである。
さもありなん、ぶつくさ不満をこぼせども向かう先は件の厠(かわや)だ。
話によれば主人の幽々子は、もう半時もそこに籠もっているという。
とはいえ健啖を通り越して悪食に至りつつある幽々子のことである。
また悪い物でも食べて腹をこわしたに違いない。
だから妖夢は呆れたため息で厠の戸を叩いた。
「あー、もしもし幽々子様、入ってますか?」
「……たっぷり……」
…………。
……何がよ……?
返ってきたのは幽々子の声に相違なかった。
いつも通りの艶やかな甘声だ。
妖夢は、くるりと踵を返す。
この調子ならば妖夢が茶色い不安と戦うことはない。
「そ……、そうですか。じゃあお大事に。私はこれで失礼しま……」
「あら行ってしまうの妖夢? 扉を開けてくれないの?」
…………。
……開けたくねー……。
開けたが最後ウンのツキという可能性もある。
なにせ、たっぷりだ。
「……あ、開けてほしいんですか?」
「ええ、もう大変なの」
ごくり。
妖夢の喉が鳴った。
大変な程度のたっぷりらしい。
さりとて主の命とあっては引くことは許されぬ。
しからば、いざ排泄介助。
歯を食いしばって息を止め、妖夢は厠の扉を引き開けた。
引き開けて目を疑う。
『うふふ、いらっしゃい妖夢!』
「う……っ、うぼああああぁぁっ!?」
あの世の物とも思えない妖夢の悲鳴が、白玉楼の上から下までビリビリ響く。
気がつくと妖夢は床に尻餅をつき、開けた扉を力任せに叩き閉めていた。
確かに、たっぷりだったのだ。
たっぷりだったのだ、幽々子が。
狭い厠に九人はいただろうか?
見慣れた赤毛に、錆色の瞳があっちにも、こっちにも、折り重なるように。
薄い部屋着の下のたわわな乳や尻をギュウギュウに歪ませ、厠いっぱいに西行寺幽々子がぎっしりだ。
投げかけられた言葉も合唱である。
『どうしたの、可愛い、よ・う・む?』
「……だっ、誰か、誰か来……っ!」
叫ぼうとしたが声が出ない。
総身は冷水をかぶったように汗まみれ。
立ち上がろうにも足は床を掻くばかり。
なのに、それから二呼吸の間をあけて厠の扉は内側から開くではないか。
「ひっ、ぃひいいいぃぃ、ゆっ、幽々子様が溢れっ、あふっ、あふあふ……っ!?」
床を這って後ずさる妖夢。
けれども顔を出したのは、ケロリとした笑顔の幽々子ただひとり。
細く開いた扇を口元に、ころころと笑っている。
どういうわけが厠の中は空になっていた。
そうして、ひとりになった幽々子はペロリと舌を出し言うのだ。
「うふふふ、う・そ・で・し・たっ☆」
…………。
…………?
ひとたび真っ白になった妖夢の頭は、幽々子の言葉を飲み込めない。
否、後になり熟考しても幽々子の言葉は理解できなかった。
つまり意味不明だ。
「ほらぁ、今日はエイプリルフールよ。うふふ、妖夢だーまさーれたぁーっ!」
扇を広げ、くるりくるりと楽しげに回転しながら廊下を走り去ってゆく幽々子。
床にはいつくばったまま、ひたすら呆気にとられる妖夢。
三月二九日の出来事であった。
幽とした春霞たなびく昼下がりのことだ。
花の香りの軟風が、霞に散った朧な陽光をユラユラと揺らしている。
暖かすぎず寒すぎず、暁忘れの眠気を誘う風だった。
まさに魂休むるに相応しい常世の好日。
だが、ここに霞に千鳥の膨れ面がひとり。
名を魂魄妖夢という、小柄な少女だ。
彼女はここ白玉楼の庭師にして、楼が女主人の剣術指南役と自らを称する。
肩でそろえた銀髪に凛とすました眼差し、けれどどこかしら幼さを残した面立ちが愛らしい。
さてその妖夢、言葉通りのお役目に勤しんでいるかと言えば、さにあらず。
今日も今日とて下らぬ用事で呼び出され、唐国風情ただよう和楼のだだっ広い廊下をだすんだすんと足音荒げて歩く歩く。
「……ったく、何で幽々子様がトイレから出てこないと私が呼ばれるんですかっ!?」
いわんや周囲が妖夢をそのように見ているからである。
さもありなん、ぶつくさ不満をこぼせども向かう先は件の厠(かわや)だ。
話によれば主人の幽々子は、もう半時もそこに籠もっているという。
とはいえ健啖を通り越して悪食に至りつつある幽々子のことである。
また悪い物でも食べて腹をこわしたに違いない。
だから妖夢は呆れたため息で厠の戸を叩いた。
「あー、もしもし幽々子様、入ってますか?」
「……たっぷり……」
…………。
……何がよ……?
返ってきたのは幽々子の声に相違なかった。
いつも通りの艶やかな甘声だ。
妖夢は、くるりと踵を返す。
この調子ならば妖夢が茶色い不安と戦うことはない。
「そ……、そうですか。じゃあお大事に。私はこれで失礼しま……」
「あら行ってしまうの妖夢? 扉を開けてくれないの?」
…………。
……開けたくねー……。
開けたが最後ウンのツキという可能性もある。
なにせ、たっぷりだ。
「……あ、開けてほしいんですか?」
「ええ、もう大変なの」
ごくり。
妖夢の喉が鳴った。
大変な程度のたっぷりらしい。
さりとて主の命とあっては引くことは許されぬ。
しからば、いざ排泄介助。
歯を食いしばって息を止め、妖夢は厠の扉を引き開けた。
引き開けて目を疑う。
『うふふ、いらっしゃい妖夢!』
「う……っ、うぼああああぁぁっ!?」
あの世の物とも思えない妖夢の悲鳴が、白玉楼の上から下までビリビリ響く。
気がつくと妖夢は床に尻餅をつき、開けた扉を力任せに叩き閉めていた。
確かに、たっぷりだったのだ。
たっぷりだったのだ、幽々子が。
狭い厠に九人はいただろうか?
見慣れた赤毛に、錆色の瞳があっちにも、こっちにも、折り重なるように。
薄い部屋着の下のたわわな乳や尻をギュウギュウに歪ませ、厠いっぱいに西行寺幽々子がぎっしりだ。
投げかけられた言葉も合唱である。
『どうしたの、可愛い、よ・う・む?』
「……だっ、誰か、誰か来……っ!」
叫ぼうとしたが声が出ない。
総身は冷水をかぶったように汗まみれ。
立ち上がろうにも足は床を掻くばかり。
なのに、それから二呼吸の間をあけて厠の扉は内側から開くではないか。
「ひっ、ぃひいいいぃぃ、ゆっ、幽々子様が溢れっ、あふっ、あふあふ……っ!?」
床を這って後ずさる妖夢。
けれども顔を出したのは、ケロリとした笑顔の幽々子ただひとり。
細く開いた扇を口元に、ころころと笑っている。
どういうわけが厠の中は空になっていた。
そうして、ひとりになった幽々子はペロリと舌を出し言うのだ。
「うふふふ、う・そ・で・し・たっ☆」
…………。
…………?
ひとたび真っ白になった妖夢の頭は、幽々子の言葉を飲み込めない。
否、後になり熟考しても幽々子の言葉は理解できなかった。
つまり意味不明だ。
「ほらぁ、今日はエイプリルフールよ。うふふ、妖夢だーまさーれたぁーっ!」
扇を広げ、くるりくるりと楽しげに回転しながら廊下を走り去ってゆく幽々子。
床にはいつくばったまま、ひたすら呆気にとられる妖夢。
三月二九日の出来事であった。
そもそも、なにも騙してないし
扉を開ける前から大勢いると思わせて、開いたら一人ならともかく
方法は分りませんが、開けた時には大勢(たっぷり)いたわけですから
なんの嘘にもなってませんな
意味のわからんタイトル(02.)、嘘になってない嘘
厠の扉が内側から開き始めたところで未完にした方がまだよかった
タイトルの問題は残るけど
文章のリズムが心地よく、描写が細かいのに読みづらくない。「さもありなん
」なんか普通には使えないですよ。
そんなニクイ書き方は正直、羨ましい。
下ネタ(スカ系)はちょっと抵抗がありましたが、この程度ならば私はOK!
これって暇な幽々子嬢に、読んでる側が騙されているんですね。内容が分からないのも正解と言う事でしょうか?
うぎぎぎぎぎぎぎぎぎg
嘘とかエイプリルフールとかいう問題じゃないしwwしかも日付違ってるしwwww
↑
これ私の率直な感想ですが、多分作者さんの狙いもこんな感じだったんじゃないかと予想します。