Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

人次第

2008/02/16 12:27:30
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1
注意書き:今回のお話は少し黒いお話。多分






























そう、運が悪かったとしか言い様がない。




幻想郷の妖怪には、言葉のやり取りが出来ないような妖怪も多々存在する。
そういった妖怪は大抵が非常に獰猛で、好戦的で、執念深いものだ。故に、そういった妖怪が主に人間達との争いを起こしている。
ほとんどの場合が人間に退治されてしまうのだが、稀に例外が起きる。

それらが徒党を組んだときだ。

その徒党は5匹程度のものから、200匹を超えるものまで様々ある。
そしてその徒党は、同一の目標を殺戮しつくすか、徒党が全滅するまで常に害を成す。
言うならば妖怪災害とでも言うべきだろうか。その被害は徒党の規模はどうであれ、小さくはない。




私はその徒党に、喧嘩を売ってしまった。



事の始まりは屋台を開いていた時の事。
偶然、その日はただの人間がお客さんだった。
偶然、そういった徒党が屋台を見つけてしまった。
偶然、そのお客が私の歌を良いと言ってくれる常連さんだった。
そんな偶然が重なり、私は妖怪の徒党から常連さんの人間を助けてしまった。




故に私は、襲われた。




その人を逃がす為に私は弾幕を張る。いつもの弾幕ゴッコでは宣言して使うスペルカードだ。
でも、こいつらにそんなルールは通用しない。遊びなんかではない、本気の殺意を持って攻撃してくる。
だから私も本気で戦う。生きる為に殺す。ただそれだけ。
初めの数分は私が優位に戦っていた。地を這う妖怪がほとんどだった事も幸いし、全く体に触れさせなかった。

それから更に時間が経った。そこで私は異常に気付いた。



(どんどん増えていっている……!)



既に30は殺したと思ったが、減っているどころか逆に数が増えていっている。
どうやらこの徒党は、相当大規模な徒党らしい。
空を飛ぶ妖怪も現れ始め、一人空中で戦えるという優位性もすでに無くなっていた。

それから更に時間が経った。

「ッ!!?」

突如、背中に大きな衝撃が加わり、地面へと突っ込んでいく。
その衝撃は相当のもので、何もできずに顔が地面とぶつかり合った。
そして即座に来る激痛。思いっきりぶつけてしまった顔と、何かがぶつかった背中から耐えられないほどの痛みを感じる。
どうやら羽を狙われたらしい、背中に生えた羽の感覚が全く感じられなかった。
たんに負傷しただけか、それとも根こそぎもぎ取られてしまったか。今の私にそれを確認する余裕は無い。
あまりの痛さに涙が出る。全身が震える。

イタイ

それを待っていたように、地を這う妖怪たちが私に殺到してくる。
無理矢理起き上がり、必死に爪を振るい、それらを近づけないようにするが、あまり意味は無く。

ブチブチッ

何かが千切れるような音がする。いや、自分で何が千切れているか分かっている。でもそれを認めてはいけない、別の何かだと認識しなければならない。
そうしなければこの殺意の波に押し流され、自分と言う存在が失われてしまうから。
既に自分がどんな行動をしているかも分からない。ただ、既に忘れて久しかった感情が甦って来た。



コロス

ナニヲ?

キマッテイルジャナイ

メノマエノイノチヲ

ホラ、スコシヒッカクダケデクビガトレルヨ?

ミヲマカセナヨ

ダッテアナタモ

ムカシハアイツラト

オ ナ ジ ダ ッ タ ジ ャ ナ イ



ドス黒い意思が頭を駆け巡り、思考を明確にしていく。
人と妖怪とが命を削りあって戦った昔の感覚が体に宿る。
腕に血管を浮き立たせ、歓喜するように妖怪の群れへと歩を進める。









そこに繰り広げられるは妖怪達の宴



血が舞い



肉が飛び散り



歓喜とも断末魔とも言える叫びが辺りに響く



妖怪達の殺戮の宴



宴の終わりに残る物は



死臭漂う化け物達と



肉塊となった歌姫と



亡骸抱えて泣く友ぞ





































「……ア……起きてよ、ミスティア。」
「う、うぅん……あ、あれ、リグル?あ、私、何で屋台に居るの?」
「もう、ミスティアの屋台なんだからミスティアが居てあたりまえでしょ?」
「あ、うん、そっか、夢かー……。」
「気持ち良さそうに寝てたけど、何か夢でも見てたの?」
「うん……まぁ、ちょっとね。」
「 ?? まぁいいけど。ホラ、行こう。皆待ってるよ。」
「あ、ちょ、ちょっと待ってー。」



















見ていた夢が真実か

今の現実が幻か

それは誰にも知りうる事のできない事である
歌姫の亡骸は笑顔だった。死の際において、良い幻でも見たのだろうか。
亡き本人すら知りうる事かは分からないが、あえて言うなら……







最近のSSは甘い!考えうること全てが甘い!
でも結局は平和的なオチを付けてしまう辺り、甘いのは私か……
慣れない事をしたんで、次回からまた元の路線で攻めますかね
アティラリ
コメント



1.名無し妖怪削除
これは良い……久々に良い殺伐を読みました。殺意に溺れて血沸き肉踊る感覚を描写してくれるSS、GJです。
2.欠片の屑削除
こういう作り方はホントに憧れます。
最後まで題名の意味が分かる、二度お得な素晴らしいお話、ありがとうございました。
3.名無し妖怪削除
あ~こういうの久しぶりな気がします
甘いのも悪くないけど、そればかりだとちょっと
こういうのも読みたくなります
4.名無し妖怪削除
甘々な展開はずっと変化ないから、こういったのはどうなるかと最後まで読んでしまう。

幻想郷は妖怪が人間食らう所、弾幕などのルールも絶対ではないなら、人里以外はかなり殺伐としてそう。白鳥の水面下みたく、綺麗に見えるゲームの裏とか見てみたくなったな。
5.名無し妖怪削除
知能の低い妖怪はいずれは人間の手で駆逐されていくのだろうか
それとも自らの手で勝手に消えていくのだろうか
知能の低い妖怪たちが消えていったら、知能ある妖怪たちはどうなっていくのだろうか

いずれ幻想郷も外の世界と同じように妖怪たちが消え、人間の世界になってしまうのかもしれないなぁ
6.名乗ることが出来ない程度の能力削除
〆方を甘いと仰ったが、そう〆ることを選ばせるものをあなたが持っていたというだけのことだと思う。それを甘いと一蹴するのは容易いですが。
自分としては歌姫の死で終わっていたならば興味深い(おもしろい)と思いはすれど、好きにはなれなかったかもしれません。
殺伐も必要です。でも甘いのも必要なんだと思います。

私の想像した歌姫の亡骸の笑顔は、歪んでいました。