Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

霊夢のチョコレート

2008/02/16 07:46:16
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 二月十四日深夜。まもなく日も変わろうとしている時間にもかかわらず、博麗神社にはまだ明かりがついていた。その明りの出所である台所では霊夢が後片付けをしていた。
「よし、これで終わりっと……はあー結局こんな時間になっちゃったか。まあ一日遅れてもかまわないわよね、喜んでくれるといいんだけ……ふぁ~っ。さっさと寝よっと」
 大きな欠伸をすると、傍らにあった巨大な袋を担ぎ明かりを消すと台所を去っていった。





「そろそろかしらね」
 霊夢が朝食を終えて一服しながら呟く。
「よう、霊夢。おはようだぜ」
 すると障子が勢いよく開き魔理沙が入ってきた。
「ちょうどよかったわ魔理沙、留守番お願いね」
 魔理沙がコタツに入ってくるのと入れ替わるように霊夢が立ちあがり、巨大な袋を手にした。
「おいおい、そりゃないぜ……って霊夢、なんだその袋は?」
「ああ、これはね……はい、魔理沙」
 袋の中からラッピングされ赤いリボンのついた箱を取り出し、魔理沙に差し出した。
「ああ、ありがとう。これは?」
 受け取った箱をしげしげと見ながら尋ねる。
「チョコレートよ。一日遅れちゃったけどね」
「そうかチョコか……なあ、もしかしてその袋の中、全部コレと同じのが?」
「ええそうよ。作ってラッピングしてたら昨日の夜遅くまでかかっちゃったのよ」
「義理チョコにそこまで手間をかけるとはな」
「あら、義理とは失礼ね」
「えっ?」
 魔理沙はドキリとしながら霊夢を見た。
「これは私の手作り人情チョコよ」
「なんだよ、その人情チョコって」
「本命と義理の間のチョコよ。それじゃあ、いってくるから。お茶は好きに入れていいから。そのかわり、アレには触れちゃだめよ」
 戸棚の上に置いてあるラッピングされ紫のリボンがついた箱を指差す。
「それは?」
「一番良くできたチョコを詰めた自分用よ。手を出したら、夢想封印シリーズと夢想天生をコンボでくらわせるからね」
「わ、わかった……」
 本気の目をした霊夢に見詰められ、魔理沙は何度も頷きながら返事をした。
「それじゃあ、行ってくるわね」
 霊夢は袋を担ぐと部屋を後にした。
「どれどれ……ほう、けっこううまそうだぜ」
 霊夢を見送った魔理沙はさっそく赤いリボンを解き箱を開けた。中には丸型のチョコが六つ並んで入っていた。
「まずはお茶を入れるか」
 開けた蓋を閉じ、台所へと歩いていった。



「まずはここね」
 紅魔館の前へと降り立つ。
「あれ、どうしました霊夢さん」
「ああ美鈴、おはよう。これバレンタインチョコ、あなたにね」
 チョコを手渡す。
「え!? 私にですか。ありがとうございます」
「あがらせてもらうわよ。レミリアたちにも配りに行くから」
「どうぞどうぞ。チョコありがとうございます」
 頭を下げる門番に手を振り、霊夢は屋敷の中へと入っていった。
「いらっしゃい、なんのようかしら?」
 咲夜が腕を組み霊夢の前に仁王立ちしていた。
「レミリアのところへ案内して、たぶんまだ起きてるはずよ」
「…………こっちよ。お嬢様は図書館にいらっしゃるわ」
 
「いらっしゃい、待ってたわよ霊夢」
 図書館に入ると、レミリアが微笑みながら霊夢へと顔を向けた。
「やっぱり起きてたわね、レミリア」
「だって、あなたが来る運命が見えたのだもの。起きてないと損だわ」
「それで、私の所で時間潰ししてたのね、レミィ」
「それはそうと、霊夢が図書館に来るなんて珍しいわね」
「あら、アリスもいたのね。ちょうどよかったわ、はいみんなバレンタインチョコよ」
 霊夢は袋からチョコを取り出し、レミリア、パチュリー、咲夜、アリスと順々に渡していく。
「フランドールは?」
「あの子は寝ちゃったわ」
「そう……それじゃあレミリア、申し訳ないけど渡しておいてくれるかしら」
「ええ、いいわよ」
「それじゃあ、私は他の人の所へ行くから」
「あら、もう行くの? ゆっくりしていけばいいのに」
「そうもいかないわ。まだこんなにあるし」
 担いだ袋を揺らす。
「そう、仕方ないわね……」
「ねえ……」
 立ち去ろうとした霊夢にパチュリーが声をかけた。
「なにかしら」
「小悪魔の分はないのかしら?」
 受け取ったチョコをかかげながら尋ねる。
「ごめんなさいね、そこまで数が出来なかったの。なんなら、パチュリーが分けてあげればいいじゃない。じゃあね」
 霊夢はそう言い残し足早に去っていった。
「何を急いでいるのやら」
 レミリアは呆れたように言うと立ち上がった。
「寝るわ。咲夜、これをちゃんと保管しておきなさい」
「かしこまりました」
 レミリアは咲夜にチョコを預けると寝室へと向かった。




 その後も霊夢は各地を転々と訪れチョコを渡していった。


「はい、チルノ、レティ、バレンタインチョコよ」
「ふん、ありがたくちょうだいするわ」
「ありがとう」
 霧の湖でチルノとレティに。

「はい、あなたたちに」
「ちんちん♪ ありがと~♪」
「ありがと」
「わーい」
 準備中の夜雀の屋台でミスティア、リグル、ルーミアに。

「はい、これ」
「わざわざ、すまないな」
 里の学校で慧音に。

「はい、チョコレートよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 里の商店街で偶然買い物に来ていた藍と橙に。

「はい、どうぞ」
「まあ、ありがとう」
「ありがとうごさいます」
 白玉楼で幽々子と妖夢に。

「はい、受け取って」
「おー、ありがたいねー」
「ありがたく頂戴します」
 三途の川で小町と映姫に。

「はい、二人ともチョコよ」
「あらあら、ありがと」
「私人形だからいらないんだけど……せっかくだから貰っておくわ、ありがとう」
 太陽の畑で幽香、メディスンに。

「はい、三人とも」
「ああ、どうも……」
「ありがとーー」
「やったー」
 飛んでいる途中で出会ったプリズムリバー三姉妹に。

「はい、これみんなにね」
「どうもです」
「珍しいこともあるねー」
「ありがとうね」
「わざわざありがとう」
「ありがとな」
 永遠亭で鈴仙、てゐ、永琳、輝夜、そしてなぜか一緒に居た妹紅に。

「はい、あなたにも」
「まあ、ありがとう」
 山へと向かう途中で雛に。
「そうだ、秋姉妹知らないかしら?」
「彼女たちは秋が終わったから家にこもってるわ。私が渡しておいてあげる」
「あら、ありがとう」
 ついでに、秋姉妹の分も雛に任せ。

「あなたたちにも、これ」
「あややや、どうも」
「うれしいねぇ」
「おー霊夢、ありがとー」
「私にまで!? ありがとうございます」
 山の滝近くで文、にとり、萃香、椛に。

「はい、お供え物がわりに」
「ありがとうございます」
「おっ、ありがとう」
「ありがとねー」
 守矢神社で早苗、神奈子、諏訪子に。



 一通りチョコを配り終えた霊夢が神社に戻ってきたときには、日が沈みかけていた。



「はあー疲れた、とりあえずご飯ね。お昼抜いたからお腹ぺこぺこよ。魔理沙ー夕飯どうする?」
 霊夢が居間へと入ると、そこには、

   『用事が出来たから帰るぜ。あと、チョコうまかった。  魔理沙』

 という書き置きが残されていた。
「なんだ、帰っちゃったのか。ま、それならそれでいいわ、ご飯ご飯と」
 台所へと向かい、夕食の準備をはじめた。


 食事も終わり、後片付けも済んだ霊夢はコタツに入り蜜柑を食べていた。積み重なった蜜柑の皮の傍らには紫のリボンのついた箱が置いてある。
「…………………………ふうっ」
 箱をじっと見つめていたが、溜息をつくと俯いた。
「まったく……ゆ……」
「ちょっと霊夢! ひどいじゃないのー!」
 霊夢の呟きを遮るようにスキマから紫が飛び出し、霊夢へと詰め寄った。
「ゆ、紫!? いきなり出てこないでよ、びっくりするじゃないの」
「そんなことはどうでもいいの。それよりどういうことよ!」
「なにがよ」
 詰め寄る紫を押し戻しながら尋ねた。
「藍から聞いたわよ。霊夢がみんなにチョコを配ってるって。なのに、なのに、なんで私にはチョコがないのよ。なんで、私のところにはこないのよー」
「マヨイガに行くのが面倒臭かったのよ。それに、放っておいたら必ずこっちに来ると思ったから……」
「え?」
 ぶっきらぼうに言う霊夢の言葉に、紫はキョトンとした。
「なに? もしかして、わざと持ってこなかったの?」
「そうよ。はい紫、一日遅れたけどバレンタインチョコよ」
 霊夢は置いてあった、紫のリボンのついた箱を紫に渡した。
「あ、ありがとう、霊夢」
 受け取った紫は箱をじっと見つめた。
(あら、リボンの色が藍たちのと違うわ)
「どうしたのよ、紫。ぼーっとしちゃって」
「あ、その、嬉しかったからつい。開けていい?」
「もちろんよ」
 紫はリボンを解き、丁寧に包装紙を剥がし、蓋を開けた。
「まあ…………」
 中を見た瞬間、紫は言葉を失った。中には、ハート型のチョコが八つ並んでいた。
(中身も藍たちと違うわ。これって、まさか……)
「ちゃんと味わって食べてね。私の手作りなんだから」
 霊夢はほんのりと頬を赤くしながら顔をそむけた。
「ねえ霊夢……今夜は泊っていってもいいかしら」
「布団、一つしかないわよ」
「かまわないわよ」
 紫は霊夢の隣に座ると、腕をからめる。そして、ハートのチョコを一つ口に入れた。
 チョコレートはとても甘くて美味しかった。

 
 好きな人にチョコを渡したい。でも恥しい。葛藤の末に、みんなにチョコを配って本命には他と違う特別なチョコを渡す。
 そんな恥ずかしがり屋で純情な霊夢を書いてみました。

 ちなみに、人情チョコというのは私の思いつきです。実際にはそんなのないはずです。(よくわかりませんが)

 あと寝るとき二人がどうしたかは皆様のご想像にお任せします。



  (2/16 10:40 誤字など一部修正)
天人 昴
コメント



1.名無し妖怪削除
これは良いゆかれいむ?ですねー
2.名無し妖怪削除
良い良いですよ~。
でもすっきりしすぎでした。事の動悸や心情描写も見たかったものです。
3.nama-hane削除
ゆかりん出現からニヤりました。w
4.名無し妖怪削除
まったく、この時期はどこもかしこも甘味だらけでバケツがいくらあっても足りないじゃないか。ははは。
うっ、いかんまた砂がッ
5.名無し妖怪削除
ゆかれいむinバレンタインだー!
お陰様で今年も満たされたましたぜ、旦那。
6.名無し妖怪削除
ゆかれいむキター!しかも甘い。甘みを隠そうとして別の味を大量に入れても隠しきれない甘み!この二人に幸あれ。
>夢想転生
夢想天生です。
>はいみんなパレンタインチョコよ」
パ(PA)レンタインになっちゃってます。
あと冒頭で魔理沙が一人になった後チョコ(恐らく自分が貰った物)を食べていますが、紫のリボンのチョコを勝手に食べたものだと勘違いしてしまいました。一応どちらを食べたのか明記した方が親切だと思います。
7.創製の魔法使い削除
あぁ。これは良いゆかれいむですねーw
霊夢が可愛いです~
8.名無し妖怪削除
ちょっと待て!猫にチョコはあかん
小悪魔、パチュリーにチョコを分けてもらえたかな
ところで妹紅はお泊りですか?
9.名無し妖怪削除
これはいいゆかれいむ!
甘すぎるぜ!
10.天人 昴削除
一晩でこんなにレスがつくとは思わなかったです。

>2008-02-16 01:43:50の名無し妖怪様
 はい、紫と霊夢です。ある意味王道のカップル?

>2008-02-16 02:07:02の名無し妖怪様
 すっきりしすぎでしたか、すみません。思いついて即興で仕上げたものなので。次回以降はもっと勉強しますね。

>nama-hane様
 ニヤりしましたか、ありがとうございます。
 ちなみに紫のリボンということ自体が実は伏線でした。紫色=紫ですから。

>2008-02-16 03:03:04の名無し妖怪様
 砂を吐いてくれればこちらも甘くしたかいがあったというものです。

>2008-02-16 03:20:08の名無し妖怪様
 満たされましたか、ありがとうございます。

>2008-02-16 04:13:22の名無し妖怪様
 甘々です。
 ご指摘を受けた箇所はさっそく修正しました。

>創製の魔法使い様
 可能な限り霊夢を可愛く見せれるよう頑張りました。

>2008-02-16 08:58:33の名無し妖怪様
 ああ、やはり猫にチョコはまずかったですか。とすると、椛もまずかったかな。
 まあ霊夢もそこまで頭が回らなかったわけで……メディにも渡してますから。
 小悪魔へのおすそ分け、妹紅がいた訳はご想像にお任せします。

>2008-02-16 10:09:39の名無し妖怪様
 こういうときは甘すぎるくらいがちょうどいいかと。


 皆様ありがとうございました。
11.名無し妖怪削除
いっいかん口から砂糖が!!
12.名無し妖怪削除
行事的には一番正道な筈なのに見事にハブられた霖之助カワイソス(・ω・`)
13.時空や空間を翔る程度の能力削除
ちょ、
チョコよりどえらい甘すっぱいお話、
しかも本命いるじゃないですか。霊夢さん。
14.名無し妖怪削除
大妖精はきっとチルノとレティに分けてもらったと思って良いですっか?
15.名無し妖怪削除
やっぱり、ゆかれいむは良いものですね。甘~い。
16.ネタ寿司削除
何と!あのゆかりんを騙まし討ち!?アレ!?違うか?(笑)
とにかく、ニヤニヤしました
17.名無し妖怪削除
ゆかりんを持ち上げて最後に落とすのかと思ったら、甘々のままでおわってくれてなんか幸せな気分になれました。
ゆかれいむ最高!