「巫女の貴方の方から山に入るとは……今すぐうちの神様を勧請したいのかしら」
そう口にした者――東風谷早苗――の表情は余裕に満ちていた。それはまるで自分の言葉が絶対であるかのような口調であるが、それはどこか虚構のものでもある。
「ここは神社みたいだけど……うち以外にも神社はあったのね」
意に介さず、といった風の霊夢の口調は、場数の多さから来る余裕を滲ませていた。
――ただ、実際には暢気な性格なだけなのだが……。
「此処は守矢の神社……忘れ去られた過去の神社。外の世界から神社と湖ごと幻想郷に移動してきたのよ」
「神社と湖ごと移動って派手な事したわね」
事も無げに言う早苗に、霊夢は少し呆れを含んだ表情で呟いた。
それを目にして多少いい気になった早苗は、言った。
「ここの山は私と私の神様が頂くわ。そして貴方の神社を頂けば――幻想郷の信仰心は、全て私達の物……」
大それ過ぎている、と霊夢はそう思った。
「そんな事したら、幻想郷におわす八百万の神が黙ってはいないわよ」
多少睨みを効かせた。緊張が両者の間を走る。
一瞬静寂に包まれたが、早苗がふうとため息をついて言った。
「これは幻想郷の為でもあるのですよ。今の信仰心が失われた状態が続けば、幻想郷は力を失います。奇跡を起こす力を失うのです……」
奇跡、という言葉に何か思うことがあるようで、早苗の表情に影ができた。
霊夢は勝手に話を進められている事に憤りを感じているため、それに気付くことは無いまま言った。
「冗談じゃない――信仰心くらい、私の力で何とか戻すわよ!」
それは心の底から出てきた言葉。霊夢とて巫女のプライドと、歴史がある。
勿論そんな事は実質初対面な早苗には気付くことではないし、気にすることでもない。
早苗はフン、とその言葉を一蹴し、最早言葉は不要とばかりに、敵意剥き出しに言った。
「私は風祝の早苗――」
突如、謎の四つの影が霊夢の上を通り過ぎる!
「私は土着神の頂点、諏訪子!」
すわっ! っと、荒ぶる鷹のポーズで言い放つ。
「寂しさと終焉の象徴、静葉!」
言葉の勢いとは裏腹に、目は死んでいた。冬だもんね。
「山坂と湖の権化、神奈子!」
爆発音のようなけたたましい音を響かせながら、登場。
「お値段以上、にとり!」
説明不要。
「「「「「我ら妖怪の山を守りし者――ゴッドファイブ!」」」」」
――天地が震える。神が五人も一挙に介するなど……本来では有ってはならないことなのだ。
四人は背中で手を組んだまま休めの体勢で、早苗が一歩踏み出して言った。
「くくく……霊夢! 幾ら貴方でも私達五人には敵うまい!」
霊夢はずっとガタガタと体を震わせて下を向いており、やっとの思いで言葉を捻り出した。
「そ、そんな……早苗一人にすらここまで追い込まれて傷一つ与えていないのに……五人ですって!?」
霊夢はガクッと地に膝をつく。
拳王として幻想郷に君臨して以来、初めてのことだった。
「霊夢……貴方には最大の敬意を払ってこの技で決めてあげる。はああああぁぁぁぁ!!」
早苗の周りに暗黒の闘気が満ちてゆく。
それは山全体を震わせ、麓にすら伝わって行った。
「もう……駄目だわ……あの技を防ぐ方法はもう……」
もう、絶体絶命だと思われたその時――
(諦めるな! 霊夢!)
「魔理沙!?」
――死んだはずの、魔理沙の声が聞こえた。
(そうよ、霊夢。諦めちゃ駄目よ! 私達、暁の四戦士の意思を……)
「紫!」
そして、早苗に力を奪われた筈の紫が――
(霊夢……私の……私達の、無念を晴らして!)
「レミリア……」
最後まで魔理沙たちに心を開かず、だが最後までプライドを守って、皆の盾となって散ったレミリアが――
(霊夢……聞こえる? 私よ……)
「アリスまで……」
最後まで戦いに呼ばれず家でお人形遊びをして孤独の苦しみに耐えられず死したアリスが――
(霊夢!)
(霊夢……!)
(霊夢ッ!)
(霊夢…………)
――霊夢に全てを、伝える。
「終わりよぉっ!!」
早苗の闘気が、霊夢の体を貫く――
「……なっ!」
――事は無かった。
霊夢の体は金色に発光し、表情は何もかも、一切合財を内包しており、先程までの取り乱していた霊夢は何処にもいなかった。
「な、何故! あれを食らって起きられるものなど……!」
早苗が叫ぶ。
その、天をも穿つ様な叫びに霊夢はしかし動じない。
「私には、背負うものがあるの……」
「せ、背負うものッ!?」
「そう……」
霊夢は一歩ずつ、ゆっくりと、土の感触を確かめる様に早苗に近づいてゆく。
早苗は逃げようと思えども身動き一つ取れぬまま、その場に固まっていた。
「あんたには解らないでしょうね……」
霊夢は地に目を落としたまま、左腕をゆっくりと引いていく。
「自ら望んで……鉄砲玉となった魔理沙の勇気が!!」
発光するオーラが、次第に左腕に集まる。
「ふざけているふりをしながら……その実誰よりも幻想郷と私達を愛した紫の愛が!!」
霊夢は顔を上げる。早苗は、全身から力が抜けていったが、倒れこむことすら、ままなら無かった。
「皆から裏切り者の疑惑を掛けられながら……憎まれ役を演じて皆の盾となったレミリアの誇りが!!」
「あ、ああ……」
「そして何よりッ!!」
霊夢は叫んだ。
天を穿つなど生ぬるいとばかりに、天は神を畏怖するかのように真っ二つに裂けた。
「私達に忘れ去られて家でずっとお人形ごっこをしていた……アリスの孤独がああああああぁぁぁぁぁッ!!!」
「ぐ、おおおおおぉぉぉぉ……!!」
霊夢は拳を早苗にぶつけた。
オーラはそのままアリスを包み込んだかと思うと、激しい嵐を巻き起こしながら今にも吹き飛ばそうとする龍となった。
拮抗が続いた。
「まだ……諦めないの。早苗」
「私だって諦め切れないわよおおおぉぉぉ!!」
「……あんたの苦しみはよく解る」
「っ!? ふざけないで!! 貴方に、私の気持ちがぁッ!」
「外では誰にも信仰されないまま幻想郷に入って……悔しいんでしょ? 悲しいんでしょ……?」
「そんな……こと……!」
「でも早苗、私はあんたのしたことを許さない。私にとってあの四人は仲間であるとともに、師であり、そして親友でもあった」
「わたし……はッ!」
「でも……あいつらはもう居ない。それに……過ぎたことは戻ってこないし、あんたも根っからの悪だとは思わない。だから早苗、生まれ変わったら貴方も……」
――私達と共に、歩みましょう?
「ッ!!」
「はああぁぁぁぁぁ!!」
気合一閃。
霊夢の龍が、妖怪の山もろとも吹き飛ばし……天へ帰っていった。
「……終わったわ、魔理沙、紫、レミリア、そして……アリス」
空を仰いで、霊夢は言う。
「でも、暁の四戦士は居なくなっちゃったわね」
ふふ、といいながら鼻を擦る。
「なら……私が作りましょうか……名前は、光の四戦士……って、言って……ね……」
霊夢の目からは、止め処なく涙が溢れ、言葉を発することすら出来なくなっていた。
あの四人に厳しく、されど暖かくこの世を救うための切り札として育てられた霊夢の、初めての涙だった。
――霊夢の戦いは、まだまだ続く……。
そして静葉さんと神奈子さまとにとりのグッチョイスメンバーに狂喜乱舞。
あと疑問なのが霊夢が四人のことを「弟子」と言ってるのにラスト「切り札として育てられた」とは?
ネタでしたらごめんなさい。
冬に頑張って出てくる秋のお姉ちゃん。ソロデビューおめでとう!
>アリスの孤独がああああああぁぁぁぁぁッ!!!
いや、それゃ解らんだろww
>神が五人も
神の数え方は人(にん)じゃなくて柱(はしら)ですよん。