Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

たいこうぼーん

2008/02/06 10:59:56
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 ある寒い日のこと。

 昼近くになってようやく目を覚ました藤原妹紅は、突然魚が食べたくなった。
 お腹は普通に空いていて、とりあえず何でも美味しく頂ける状態ではあるのだが
この日この瞬間に限っては、どうしても魚が食べたかった。
 串にさして塩で味付けたシンプルな焼き魚がいい。
 日持ちする保存食は、ここ竹林の寝床にも常備してあるが、魚となれば釣りに
行かねば手に入らない。妹紅は壁に立てかけてあった自作の、簡素な釣り道具一式を
持って、のそりのそりと竹林の中を歩いて行った。

 妖怪の山から流れ出て、霧の湖に繋がる川のほとりに辿り着く。
 鬱蒼と茂る草木も、この周辺だけは身を引いて、太陽の光が燦々降り注いでいる。
 白い息を吐きながらちょいちょいと疑似餌を取り付け、慣れた手つきで川の中腹へ
放り込む。その瞬間に竿がビクンと大きくしなった。手間要らずで大変宜しいことです。
 かなりの大物らしく、竹でこさえた竿が今にも折れそうである……川なのに。
 だがこの藤原妹紅、見た目は可憐な少女だが、数百年生き続ける『蓬莱人』である。
 冷静に力加減を見極め、ゆっくり確実に糸を手繰り寄せていく。
 大きな影が、やがて糸の先に現れ、必死に逃げようとしているのが良く見えた。
 それが『ここぞっ!』というタイミングで、妹紅は勢い良く竿を引いた。
 水の激しい飛沫、音と共に、糸の先の獲物が冬空の下に晒される。
 獲物の背負った大きなリュックに針が引っ掛かって、それはぶらりと垂れ下がりながら
頬を赤くしてモジモジ。妹紅をちらちら見つめていた。
 妹紅は思う。
 これまた不思議な魚を釣ってしまったなぁ、と。
 食べられるのだろうか。
 ツインテールなところを見ると、もしかしたらエビの味とかするのかもしれない。
 珍味ゲットだぜ。


 そんな訳で、竹林の寝床まで持ち帰ってみた。
 魚は行儀良く、妹紅お手製のいろりのそばにちょこんと正座している。落ち着き無く
辺りをきょろきょろ見回しつつ、ちらちらと妹紅にも視線を向ける。目が合うと赤くなって
ぷいとまたそっぽ向く。人見知りが激しいようだが、こちらには興味津々らしい。
 さてはて、この珍妙な魚はなんというものだろうか。
「あ、河童の、河城にとりです」
 魚から名乗ってくれた。これはなんと親切設計だ。釣った魚の自己申告となれば
これは信じざるを得ない。河童目にとり科? たぶんそんな感じ。
「人間の盟友だよ」
 との事だが、ところで河童というのは食べられるのだろうか。
 かっぱ巻きという食べ物もあるくらいだから、食べられるんじゃないかしら。
 というか食べられないとしたら、また釣りに行かねばならなくなる。もういい加減
お腹に何か入れないと目が回りそうだったので、もう食べてしまう事にした。
 どうせ蓬莱人ならあたっても死なないし。問題は美味しいかどうかだけだ。

 ――と、その前に。
 釣りの収穫としては、とても珍しいのは確かであるから、魚拓をとって記念を残そうと
思い付いた。その旨を河童に伝えると「あ、はい」了承してくれた。
 筆でぺたぺたと、にとりの片側面に満遍なく墨を塗りたくる。くすぐったそうに
身をよじる様がなんかちょっと……こう……頬も赤いし……うふふ。
 そうしてから、和紙の上でごろんと横になってもらった。協力的な獲物でとても助かる。
 ツインテールまでばっちり記録された魚拓……河童拓? の横に、「かわしろにとり」と
達筆で書き上げる。
「わぁー、字が上手なんだ」
 褒められたので、ちょっと照れくさくなって、妹紅はポリポリと頬を掻いた。

 さてそれでは、いよいよ食す時となりました。
 体の半分が真っ黒の偽キカ○ダーみたいなにとりに、両手を合わせて頭を垂れる。
 今からあなたを食べるけどごめんねと告げた。
「え、そんな……そういうのって、その、お互いをもっと良く知り合ってからじゃないと」
 河童は赤い顔をそっぽ向け、もじもじと胸元の鍵をいじる。
 今まで釣った魚は、詳細知らずに焼いて食べていた妹紅、その食べ方が間違っていたことに吃驚した。
 そうか、魚だって良く知らない相手に食べられるのは嫌か。今度から気を付けよう。
 しかし今この時は、さすがにお腹が減って参りそうだった。
 ごめん我慢できないんだと伝えると、
「じゃ、じゃあ、仕方ないよね……あ、あの……やさしく、してね?」
 深呼吸して意を決し、ゆっくりと服を脱ぎ始める。
 華奢な少女の肌が惜しげもなく晒されていく。
 興奮のためかほんのり上気して桜色の肌――は半分で、片方は墨で真っ黒だった。
 大粒の涙を浮かべ、酷く潤んだ瞳であるが、それは期待を含んで妹紅を見つめる。
「あ、あの……どうぞ……」
 消え入りそうな声でそう言われた瞬間、妹紅のフジヤマが食欲を上回ってヴォルケイノを起こした。
 花火のようにどっぱんどっぱん炸裂する弾幕の如く、にとりに襲い掛かる。


 ちょうどその頃、竹林の奥深くで人知れず咲いていた竹の花が、百年に一度という貴重なその身を
はらりはらりと散らしていた――


 フジヤマヴォルケイノがスペルブレイクしたのは、それから数時間後のことである。
 外はうすら暗くなりつつあった。結局妹紅は一日中何も食べなかったことになる。
 別の意味ではがっつり食べたが。
 大ハッスルした妹紅の下で、にとりはすっかり灰になっていた。
 バーニングしすぎたようだ。
 なんてことだと、妹紅もさすがに頭を抱える。
 焼き魚が食べたいといっても、これは力加減を豪快に間違えすぎだ。食べ物を粗末にしては
いけない……遠い思い出の先、お母様が厳しくも優しい眼差しで言っていたではないか。
 魚だってこれは怒るだろう。
 河童も怒るだろう。
 空腹は既に限界間近であったが、ここまで来たらどうしてもこいつを食べてやりたい。
 さてしかし、流石に灰を食べるのは無理。どうしようどうしようと悩む。

 ――その時、妹紅に電流走る……!
 いつかどこかで、名も知らぬ人が言っていた事を思い出したのだ。

 ――仲間が死んだら寺院に行って蘇生してもらいましょう――

 ささやきとか祈りとか、詠唱がどうのこうのでねん汁だったか。良くは憶えていなかったが
とにかく寺院に行けば蘇生できるらし……寺院? そんなもの幻想郷にあったっけ。
 博麗……は神社だったなぁ。似たようなものだし何とかなるだろうか。しかしあそこの巫女は
とてもぐーたらで、こういう有事には頼りなく思える。強い事は強いんだけど……
 と、そこでまた妹紅は一つ思い出す。人は絶対近付かぬ妖怪の山の上に、新しい神社が建って
そこの巫女は奇跡を起こす事が出来るらしいとか。なんとも博麗より頼もしそうな話じゃないか。
 思い立ったが吉日と、妹紅は慌ててにとりの灰をかき集め、全てざるの中に収めた。
 そうして月が昇りかけるこの――あやかしが跳梁跋扈する時間、まさにその巣窟たる妖怪の山を
目指して、死なない人間は空を駆けた。

 魚を食べる為に。


 戦いの覚悟を決めて足を踏み入れた魔窟は、宴会の真っ最中だった。
 山の妖怪、秋だの厄だのの神様、なんでもござれのどんちゃん騒ぎである。
 侵入者を見張る天狗――犬走椛はそんな中でも真面目に仕事を行い、颯爽と上司である射命丸文に
報告しようとして、彼女が飲み仲間である鬼から借り受けた酒を一気させられ、夢冒険に旅立った。
 天狗にも酒に弱い者がいるらしい――と言うか、椛も天狗である手前、そこそこ強くはあるのだが、
アルコールを主な養分として生きている鬼を、年中酔わせるような酒が相手では、分も悪過ぎよう。
 そんな訳ですんなり山に入った妹紅は、文が顔見知りという事もあってあれよあれよの内に
宴会に飲み込まれてしまった。あたり一面に敷き詰められたごちそうの香りが空腹を刺激するが
参加者の殆どが妖怪とあっては迂闊に手も出せない。生殺しである。早いところにとりを蘇生させて
焼いて食べたいと思った。
「そうだね、じゃあ何か芸をしてちょうだい」
 宴会の上座に座る、背中に巨大なしめ縄を背負った豪気な神様が言う。
「それで私たちが楽しめたら、この先へ通してやろうじゃないか」
 その提案に、周囲の妖怪たちもいいぞいいぞと囃し立てる。
 仕方なしと諦めて、妹紅は妖怪たちが見守る中心に歩き行く。そこで体中から激しい炎を噴出してみるが、
どうにも受けが悪かった。戦闘力は抜きにして、この程度の芸では、日ごろ弾幕ごっこを見慣れている
幻想郷住人の興味は惹けないようだ。しかしそうなると、妹紅に出来る事と言えば、長い竹林生活で
培った竹細工と脱ぐくらいしかなくなる。竹細工は見世物としては地味過ぎるし、脱ぐのは……えっち!
 はてさて困り果て、四方八方の視線から逃れるように下を向く。
 その時である。

(盟友よ、盟友よ)

 どこからともなく声が聞こえてきた。あの河童の声のように聞こえる。
 あたりを見回すが、見知らぬ妖怪たちしか確認できない。

(お困りのようね盟友よ。ならば私が助けてあげようじゃないか)

 それはやはり河城にとりの声であった。
 妹紅は持っていたざるの中の、彼女の灰を見つめる。

(そうだよ盟友、その灰をほら、あそこの枯れ木にぶあーっと撒くがいい!)

 何とも不思議な話であるが、妹紅はもうこれに頼るしかない。意を決し、にとりが指し示した
枯れ木へと進む。それを無言で見守る妖怪やら神様やら。
 ひょいと飛んで枯れ木の幹に立ち、灰を右手で無造作に掴み、そぅれーっと豪快に振り撒いた。
 すると、どうだろう!
 すっかり禿げ上がった枝の先から、にょきにょきと、もりもりと、

 河城にとりが生えてきた。

 めーゆー、めーゆーと方々の枝の先で騒ぎながら、にとり達はすくすくと育っていく。
 これには妖怪たちも大喜び。あれはなんだ、きゅうりの類かと騒ぎ出す。
 しめ縄を背負った神も満足してくれたようだ。惜しみない拍手を、木の上の妹紅に送り続ける。
「これは驚いた、いやあ面白い。あんた、これからも宴会に来てこの芸を見せておくれよ」
 神様はその代わり、山の恵みを分け与えると提案する。妹紅はこれに同意し、約束した。




 こうして妹紅は川魚のみならず、山菜やきのこなどを目いっぱい受け取って山を降りた。
 それらは上白沢慧音によって美味しい料理になり、二人は心ゆくまで堪能した。
 にとりもたくさん蘇生したし、めでたしめでたし。





 ~終~




河城にとりののっけ盛り つゆだく仕立て



春はまだ遠いというのにあたいったらもう。
あたま悪い内容でごめんなさい。
読んでくださってありがとうございました!
豆蔵
[email protected]
http://www.geocities.jp/oityang/index.htm
コメント



1.名無し妖怪削除
これはいいカオス
2.名無し妖怪削除
竹の花が上手い!
3.名無し妖怪削除
園児ニアが大量に発生してるところを想像すると涎が止まりませんw
4.名無し妖怪削除
なぜだ・・・なぜ墨を洗い流すという素敵イベントの破棄を!?
5.名無し妖怪削除
河童って木からできるのかそーなのかー
6.名無し妖怪削除
これはいいにとり。
そして微妙なずれっぷりの妹紅も最高です。
いいぞ、もっとやれ。春は近い。
7.名無し妖怪削除
すごいことになってる!?
8.名無し妖怪削除
もこたん、ツインテール違いだよw
9.袴田削除
豆蔵さんの頭の中を覗いてみたい…素直にそう思いました。
10.名無し妖怪削除
ちっくしょうわけがわからねぇ!!!11!
11.名無し妖怪削除
まさかのハッピーエンドw
12.名無し妖怪削除
釣り→魚拓→書道→色事→ドラクエ→宴会→花咲か爺さん→細胞分裂
なんという誰も予測できないオチ!!
13.三文字削除
なんだこれww
オチが読めねぇww
14.名無し妖怪削除
河童甘く見てました・・・