前書き。
どうも。いつもこんな薄っぺらい書き物をお読みいただきありがとうございます。
またも、雛のお話ですが、今回はちょっと方向性を変えて書いてみたいと思います。
なお、私が書く雛の話は「プチ創想話作品集23」にある「昔の夢」という話がベースになっています。
そちらを先に読まれた方が、多少は話が繋がるかと思います。
※ ※ ※
薄暗い森に入って、ちょっと行ったところにある小さな池。
最近、里の人間がこの池に女神様がいるという話を信じて、朝方にここにお祈りにくる姿が
ほぼ毎日見られる。
が、やはり「妖怪の森」
午後になると、その雰囲気によって、人はほとんど来ない。
夕方ともなれば、尚更である。
しかし、そんな夕方に一人の少女が池のほとりにたたずんでいた。
その姿はここに来るにしては、着飾りすぎていて、顔色はあまりいいとは言えない。
その少女は手に持っていた縄を近くの木の枝にかける。
そして、足元に・・・
草履を綺麗に揃え、その草履の上に丁寧に折られた手紙を置く。
少女は少し高くなった場所に立ち、さっき枝に掛けた縄を手繰り寄せる。
その縄の先は・・・輪状になっていて、その輪の部分を少女は自分の首に掛ける。
少女は、何度も躊躇した。
覚悟をして来たはずなのに・・・
足が震える。手も震える。
けど、今自分がそれをする事で、今までの嫌な事からすべて逃げ出せる。
かなり時間が経った。
最初にここに来た時は、まだ薄暗かったのだが、今はすでに夜の闇に覆われていた。
時折、森の奥から何かの獣の遠吠えの様な物も聞こえてくる。
首に縄を掛けて、あと一歩踏み出せばすべてが終わる・・という所で少女は踏みとどまっていた。
少女の心の中で、葛藤が生まれていた。
「生きる」のか?それとも「逝く」のか?
目をつぶり、考える・・・・
そして、ほんの少しの差で、少女の心はどちらの選択をするのかが決まった。
「よし!」
少女は、手を縄から外す。
そして、思いつめた様な口調でつぶやいた。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい!」
そうして、少女は足を一歩踏み出した。
少女は「逝く」を選択した。
首に掛けた縄が首にめり込む。
「ああ、これで逝ける」
そう思った瞬間だった。
「困るのよね、家の近くでこんな事されると」
その声が聞こえた瞬間、首にめり込んでいた縄が一気にほどけた。
「キャァ!」少女は声をあげて、地面へと転がる。
地面へ転がった少女は、首の圧迫と地面に落ちた衝撃で、しばらく動けなかった。
が、なんとか動ける様になった時に辺りを見回すと、池のそばに一人の女性がいるのが分かった。
その女性は、冷ややかな目でこちらを見ていた。
「だから困るのよ。 私の家のそばでそんな事されたら、目覚めが悪くなるじゃないの!
やるなら、もっと違う所でやってくれないかしら?」
その女性は、そう言うと少女のそばにやってきた。
「貴女・・・今不幸かしら?」
女性の目は、決して笑ってはいなかった。
少女の心の中に、「バカにしているの?」という感情が生まれた。
「見ていたのなら、分かるでしょう! ええ、不幸ですよ! だから今こうやって死のうとしていたんじゃないの!!」
その言葉を聞いた女性は、表情をまったく崩さずに話を続けた。
「いいわね、『死ねる』って」
少女は気持ち悪くなった。
「何? 死ねるのが良い事なの? アンタは一体なんなのよ!!」
何か嫌な物を見る目で女性をにらむ。
せっかくここまで来て、覚悟を決めて一歩を踏み出したのに、この有様。
生きていても仕方ない・・・そう思っていたのに・・・
こんな変な人のおかげで、台無しじゃないの!!
その時、女性がボソリとつぶやいた。
「けど、今貴女が思った事って、本心じゃないわよね?」
「なっ・・・!」
アンタに何が分かる! そう思って反論しようとした時だった。
女性がとても強い口調で少女に言い放った。
「地面に落ちた時に、一瞬でも『助かった』って思わなかったかしらっ!」
その言葉を聞いて、少女はハッとした。
「ほらね・・・」
そういうと、その女性は少し怒った表情で「フンッ」という顔になる。
「どうせ私なんて!!」心を悟られた事と、もうどうしていいのか分からなくなった少女は泣き崩れた
泣き崩れている少女の前に、女性が苛立ちを隠せずに立ちはだかる。
「チッ」というと、少女の襟元を掴み上げ、少女を宙に浮かし、大きな声で少女に怒鳴った。
「私はね! 貴女の様に、そうやって死ぬ事で簡単に逃げれると思っている人間が大嫌いなのよっ!」
少女は、その女性の鬼気迫る迫力に涙が止まる。
そして、その表情は恐怖に変る。
襟元を持つ手に力が入ってくる・・・ギリギリと首が絞め付けられる・・・
く・・苦しい・・・
「いや・・・殺さないで・・・」
思わず、少女の口から言葉が漏れる。
手足を思いっきり暴れさせるが、襟首を持った女性の手はまったく微動だにしない。
「ん?さっきまで死にたがっていたんじゃなかったの?」
挑発的に女性がまくし立てる。
「いや・・・いや・・ごめんな・・・さい・・・死に・・・たくな・・・い・・・」
少女の目から、また大量に涙が溢れてきた。
「フンッ」
といい、女性は襟元を持つ手を緩め、ゆっくりと少女を地面に下ろす。
※ ※ ※
地面に下ろされた少女は、首を絞められた事で咳き込んでいた。
その少女を見下ろす女性・・・厄神こと、鍵山 雛。
雛の怒りの表情はまだ収まっていなかった。
体から、抑えきれない厄の塊が漂い始めていた。
「で? なんで死のうとしていたのよ?」雛は少女に聞いた。
「誰が・・教えるもんですか・・・」少女は雛をにらむ。
「まあ、いいけどね」
雛は少女に目線を合わせずにただ言い放つ。
「とにかく、ここではやめてくれないかしら? ここは里の人も参拝に訪れる場所なのよ。
バカをやられて参拝客が減ったら、こっちもいい被害者だわ」
「なんて勝手な・・・」
少女は雛の言葉を聞いて、思わず口に出てしまう。
「いいのよ、ここじゃなければ。 ここ以外だったらお好きにどうぞ。その時は絶対に止めないから」
少女の怒りが頂点に達した。
「もういいわよ! やめればいいんでしょ! 」 と、怒鳴り声をあげて、足元においてあった手紙を
掴み取り、ビリビリに破いて捨てた。
「アンタを恨んでやる・・・呪ってやる・・・」
雛をにらむ少女の目に狂気の光が灯った。
「あらあら、呪いや恨みの専門家に勝てるとでも思って?」
そういうと、雛は今まで体の中に溜め込んでいた厄をすべて解放した。
すさまじい量の厄が雛の体の周りに展開する。
夜中でも分かるほどの、おぞましく、禍々しい気の渦。
そして、その禍々しい気の中心でこちらを向いて、不気味な笑みを浮かべる雛。
「ヒッ・・・」少女の一瞬で顔色が変る。
少女に一気に恐怖が襲い掛かる。
この人は人間じゃない・・・
・・・殺される・・・
直感でそう感じ取った少女は、叫びながら一目散に森の外へ逃げていった。
その姿を見た雛は、少し泣いていた。
「いいのよ・・・これで・・・・」
誰よりも、人の死の無念の心を知る神。
まだ自分が人形の頃に、無念の死を遂げた魂を数え切れないほど浄化していた記憶があるために、
今の少女の様に、自分で死を選ぶという選択をする人間が許せなかった。
「人間は、いつか必ず死ぬのよ・・・」
展開していた厄を体に仕舞い込む。
「一番の不幸・・・・それは、親よりも先に逝ってしまう事」
少女が覚悟を決めて一歩を踏み出した時の言葉を思いだす。
「私があの少女から恨みを買えば、その不幸はなくなる・・・これでいいのよ」
悲しげな表情のまま、雛は家へと戻っていった。
※ ※ ※
その後、里で少女の葬式があがったという話を聞かなかった。
里に新聞を届けに行っている射命丸に聞いても、里の寺子屋の講師である慧音に聞いても、
それらしき式はなかったそうだ。
「いいのよ、これで・・・生きている事が、一番の幸せなんだから・・・・」
雛は自分にいい聞かせる様にポツリとつぶやいた。
どうも。いつもこんな薄っぺらい書き物をお読みいただきありがとうございます。
またも、雛のお話ですが、今回はちょっと方向性を変えて書いてみたいと思います。
なお、私が書く雛の話は「プチ創想話作品集23」にある「昔の夢」という話がベースになっています。
そちらを先に読まれた方が、多少は話が繋がるかと思います。
※ ※ ※
薄暗い森に入って、ちょっと行ったところにある小さな池。
最近、里の人間がこの池に女神様がいるという話を信じて、朝方にここにお祈りにくる姿が
ほぼ毎日見られる。
が、やはり「妖怪の森」
午後になると、その雰囲気によって、人はほとんど来ない。
夕方ともなれば、尚更である。
しかし、そんな夕方に一人の少女が池のほとりにたたずんでいた。
その姿はここに来るにしては、着飾りすぎていて、顔色はあまりいいとは言えない。
その少女は手に持っていた縄を近くの木の枝にかける。
そして、足元に・・・
草履を綺麗に揃え、その草履の上に丁寧に折られた手紙を置く。
少女は少し高くなった場所に立ち、さっき枝に掛けた縄を手繰り寄せる。
その縄の先は・・・輪状になっていて、その輪の部分を少女は自分の首に掛ける。
少女は、何度も躊躇した。
覚悟をして来たはずなのに・・・
足が震える。手も震える。
けど、今自分がそれをする事で、今までの嫌な事からすべて逃げ出せる。
かなり時間が経った。
最初にここに来た時は、まだ薄暗かったのだが、今はすでに夜の闇に覆われていた。
時折、森の奥から何かの獣の遠吠えの様な物も聞こえてくる。
首に縄を掛けて、あと一歩踏み出せばすべてが終わる・・という所で少女は踏みとどまっていた。
少女の心の中で、葛藤が生まれていた。
「生きる」のか?それとも「逝く」のか?
目をつぶり、考える・・・・
そして、ほんの少しの差で、少女の心はどちらの選択をするのかが決まった。
「よし!」
少女は、手を縄から外す。
そして、思いつめた様な口調でつぶやいた。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい!」
そうして、少女は足を一歩踏み出した。
少女は「逝く」を選択した。
首に掛けた縄が首にめり込む。
「ああ、これで逝ける」
そう思った瞬間だった。
「困るのよね、家の近くでこんな事されると」
その声が聞こえた瞬間、首にめり込んでいた縄が一気にほどけた。
「キャァ!」少女は声をあげて、地面へと転がる。
地面へ転がった少女は、首の圧迫と地面に落ちた衝撃で、しばらく動けなかった。
が、なんとか動ける様になった時に辺りを見回すと、池のそばに一人の女性がいるのが分かった。
その女性は、冷ややかな目でこちらを見ていた。
「だから困るのよ。 私の家のそばでそんな事されたら、目覚めが悪くなるじゃないの!
やるなら、もっと違う所でやってくれないかしら?」
その女性は、そう言うと少女のそばにやってきた。
「貴女・・・今不幸かしら?」
女性の目は、決して笑ってはいなかった。
少女の心の中に、「バカにしているの?」という感情が生まれた。
「見ていたのなら、分かるでしょう! ええ、不幸ですよ! だから今こうやって死のうとしていたんじゃないの!!」
その言葉を聞いた女性は、表情をまったく崩さずに話を続けた。
「いいわね、『死ねる』って」
少女は気持ち悪くなった。
「何? 死ねるのが良い事なの? アンタは一体なんなのよ!!」
何か嫌な物を見る目で女性をにらむ。
せっかくここまで来て、覚悟を決めて一歩を踏み出したのに、この有様。
生きていても仕方ない・・・そう思っていたのに・・・
こんな変な人のおかげで、台無しじゃないの!!
その時、女性がボソリとつぶやいた。
「けど、今貴女が思った事って、本心じゃないわよね?」
「なっ・・・!」
アンタに何が分かる! そう思って反論しようとした時だった。
女性がとても強い口調で少女に言い放った。
「地面に落ちた時に、一瞬でも『助かった』って思わなかったかしらっ!」
その言葉を聞いて、少女はハッとした。
「ほらね・・・」
そういうと、その女性は少し怒った表情で「フンッ」という顔になる。
「どうせ私なんて!!」心を悟られた事と、もうどうしていいのか分からなくなった少女は泣き崩れた
泣き崩れている少女の前に、女性が苛立ちを隠せずに立ちはだかる。
「チッ」というと、少女の襟元を掴み上げ、少女を宙に浮かし、大きな声で少女に怒鳴った。
「私はね! 貴女の様に、そうやって死ぬ事で簡単に逃げれると思っている人間が大嫌いなのよっ!」
少女は、その女性の鬼気迫る迫力に涙が止まる。
そして、その表情は恐怖に変る。
襟元を持つ手に力が入ってくる・・・ギリギリと首が絞め付けられる・・・
く・・苦しい・・・
「いや・・・殺さないで・・・」
思わず、少女の口から言葉が漏れる。
手足を思いっきり暴れさせるが、襟首を持った女性の手はまったく微動だにしない。
「ん?さっきまで死にたがっていたんじゃなかったの?」
挑発的に女性がまくし立てる。
「いや・・・いや・・ごめんな・・・さい・・・死に・・・たくな・・・い・・・」
少女の目から、また大量に涙が溢れてきた。
「フンッ」
といい、女性は襟元を持つ手を緩め、ゆっくりと少女を地面に下ろす。
※ ※ ※
地面に下ろされた少女は、首を絞められた事で咳き込んでいた。
その少女を見下ろす女性・・・厄神こと、鍵山 雛。
雛の怒りの表情はまだ収まっていなかった。
体から、抑えきれない厄の塊が漂い始めていた。
「で? なんで死のうとしていたのよ?」雛は少女に聞いた。
「誰が・・教えるもんですか・・・」少女は雛をにらむ。
「まあ、いいけどね」
雛は少女に目線を合わせずにただ言い放つ。
「とにかく、ここではやめてくれないかしら? ここは里の人も参拝に訪れる場所なのよ。
バカをやられて参拝客が減ったら、こっちもいい被害者だわ」
「なんて勝手な・・・」
少女は雛の言葉を聞いて、思わず口に出てしまう。
「いいのよ、ここじゃなければ。 ここ以外だったらお好きにどうぞ。その時は絶対に止めないから」
少女の怒りが頂点に達した。
「もういいわよ! やめればいいんでしょ! 」 と、怒鳴り声をあげて、足元においてあった手紙を
掴み取り、ビリビリに破いて捨てた。
「アンタを恨んでやる・・・呪ってやる・・・」
雛をにらむ少女の目に狂気の光が灯った。
「あらあら、呪いや恨みの専門家に勝てるとでも思って?」
そういうと、雛は今まで体の中に溜め込んでいた厄をすべて解放した。
すさまじい量の厄が雛の体の周りに展開する。
夜中でも分かるほどの、おぞましく、禍々しい気の渦。
そして、その禍々しい気の中心でこちらを向いて、不気味な笑みを浮かべる雛。
「ヒッ・・・」少女の一瞬で顔色が変る。
少女に一気に恐怖が襲い掛かる。
この人は人間じゃない・・・
・・・殺される・・・
直感でそう感じ取った少女は、叫びながら一目散に森の外へ逃げていった。
その姿を見た雛は、少し泣いていた。
「いいのよ・・・これで・・・・」
誰よりも、人の死の無念の心を知る神。
まだ自分が人形の頃に、無念の死を遂げた魂を数え切れないほど浄化していた記憶があるために、
今の少女の様に、自分で死を選ぶという選択をする人間が許せなかった。
「人間は、いつか必ず死ぬのよ・・・」
展開していた厄を体に仕舞い込む。
「一番の不幸・・・・それは、親よりも先に逝ってしまう事」
少女が覚悟を決めて一歩を踏み出した時の言葉を思いだす。
「私があの少女から恨みを買えば、その不幸はなくなる・・・これでいいのよ」
悲しげな表情のまま、雛は家へと戻っていった。
※ ※ ※
その後、里で少女の葬式があがったという話を聞かなかった。
里に新聞を届けに行っている射命丸に聞いても、里の寺子屋の講師である慧音に聞いても、
それらしき式はなかったそうだ。
「いいのよ、これで・・・生きている事が、一番の幸せなんだから・・・・」
雛は自分にいい聞かせる様にポツリとつぶやいた。
ラストの辺りは何とも言えない良さがありました。
正しくその通りですね。
何よりも不幸でもあるし
何よりも「親不孝物」です。
自分でも書いていて、「これは雛じゃないよな・・」って思ったりする場面があったりしました。
ただ、最近の安易に「死ね」等の言葉がTVなどのメディアを通じて流れてくるのを聞くと、悲しい気持ちになります。
そういった事を踏まえて、これを書いてみたつもりです。