まだかな・まだかな・。
「さぶいよぅさむいよぅ」
銀色の軟らかいつぶてがひどくゆっくり落ちてくる。
一度口に入れて味が無いかと試してみたこともある。けれど味は透明無味無臭。
しかも何だかこれはゴミが水を集めたものだとか。
白くて丸くてロマンティックな雪もゴミだなんて何だか可哀想だな、とそんな思いと一緒に白い息を吐き出した。
つまりてゐにとって雪はゴミでしかない。
ゴミゴミゴミ。ゴミがいっぱいふっている。
「さみぃぃ、ばかばかゴミめぇ」
降り始めた雪は土をほんの少しも埋めることも叶わず消えていく。
人間みたいだな、と、てゐは手をこすり合わせた。冷たい。はかない。力が無い。哀れ。
寒さや雪や全部ひっくるめた季節とかがあの9とかふとましい奴のせいなのではないかと思うと腹が立ってくる。
真朱色の自分の服はずいぶんと薄く頼りない材質だった。鼻先が何回もこすったせいで赤い。
てゐは門の方を見つめている。帰ってくるのを待っている。
白いちらちらと舞うその薄く仄かな銀の幕の向こうから、誰かが。
てゐの待っているその誰かがやってきた。
「ただ今戻りましぃぅぁぁぁぁぁぁ!!?」
「やったぃ引っ掛かったぁ!!!」
てゐの視界に現れたのは、マフラーを付けた鈴仙だった。
門の鴨居から直径3m、深さ20mのてゐお手製、落とし穴を掘っておいたのだ。
見事に鈴仙はあいさつの言葉をいうこともできず落ちてくれた、覗き込むと涙目の鈴仙がこちらを見上げている。
「てゐ!何するのもぅ!」
「引っ掛かるほうが悪い!・・・・・ふへっくしゅん。」
赤い瞳がきらりと光り鈴仙が軽やかな跳躍で穴から飛び出てきた。
てゐの前に立ちはだかった。
あまりの行動の速さに幾度も修羅場を抜け出たてゐも動けずに身をすくめた。
こんな悪戯はいつものことで、いつも泣いては怒る鈴仙だから、今回の事で堪忍袋の尾が切れたのかと思った。
ところが
ふわ
「てゐ!ダメじゃない!こんな薄着で外に出ちゃ!」
鈴仙がブレザーを肩に掛けマフラーをまいてくれた。
マフラーの赤とピンクが目に痛い。
その色が涙腺を刺激する。
「早く、中に入ろ。お師匠様が待ってるから!私先に入ってるね。」
白い雪の向こう側で手を振る鈴仙がスローモーションのように蠢いている。
霞んでいる、ただ鈴仙が綺麗に笑っているのはわかった。
雪はやっぱりゴミに違いない。
綺麗に笑う鈴仙の顔をほんの少しでも隠してしまう。
「・・・・・ずるいよぉ・・・・・」
私ばっかりずるい。
私ばっかり幸せで、ずるい。
赤くて熱い鼻先に、きらりと白い雪が落ちた。
同じように赤くて熱いほおに、唇に、目に。
溢れてくる笑顔が押さえきれず、てゐはマフラーとブレザーごと自分を抱き締めた。
この台詞を読んだ時点では、てっきり鈴仙の優しさにずるいと言ってると思ったら、自分にでしたか