彼女は何も言わずただ空を見上げていた
博麗神社にはたくさんの人が集まった。
赤と白の巫女服を着た小さな女の子がその様子をずっと見ていた。
「霊夢ちゃん、その格好はだめよ。」
霊夢、そう彼女は博麗 霊夢。
その声を聞いた霊夢は走り出した。
森へと駆け出した姿はすぐに見えなくなった。
「…霊夢ちゃんは見送らなくてもいいのかしら…。」
そうつぶやいた女性を上から見ていた女がいた。
正しくは『霊夢』を見ていたのだ。
「ま、信じたくは無いでしょうけど。」
女は長い髪をくるくると指に巻きつけながら呟いた。
「私は今、あんた達のとこにはいけないわ。妖怪だもの。
後で会いに行くけど、楽しかったわよー。博麗の巫女サン。」
そういうと空から彼女の姿は消えた。
今日は博麗霊夢の両親の葬式だったのだ。
霊夢の両親は、霊力がとても強く、妖怪も簡単に倒してしまう力を持っていた。
いつものように妖怪退治を頼まれた二人は霊夢を神社において出て行った。
『帰ってきたら今日はご馳走よ。約束するわ。』
『それまでいい子にしてるんだぞ、約束だ。』
『うん、約束。気をつけてね。』
そんなやり取りが家族最後のものとなった。
二人はすぐに妖怪を見つけルールにのっとり相手を倒した。
スペルカードを使い果たした妖怪を確認して、二人は帰ろうと背中を向けた。
茂みから魔力を感じた二人は振り返ったがそのときにはもう遅かった。
ルールを無視し、妖怪が二人の心臓をめがけ爪を振り下ろした。
二人は即死だった。
その妖怪はただ知能がひくく、ルールが理解できなかったのかもしれない。
でも、博麗の巫女を殺す。というしてはいけないことをしてしまったのだ。
もちろんその後、その妖怪は退治されたが、二人の命が戻ってくるわけが無い。
そのまま神社につれて帰った。
二人が帰ってきたと思いでてきたのだろう。
霊夢のうれしそうな顔から表情が消えた。
箱の中にいる二人を見た霊夢はその日から何も言わなくなった。
ずっと空を見上げて、何もすることなくただ座ったいるだけ。
その様子を見て情けないと思う人がいただろうか。
その様子を見て声をかけれる人がいただろうか。
だれも何もできなかった。
彼女は何もしない。
泣きもしない。
叫びもしない。
寂しい、哀しいと訴えないその姿が痛々しかった。
森の中に消えた霊夢は葬式の時間になっても戻ってこなかった。
霊夢の席だけぽっかりと空いていた。
まるで霊夢の心のように。
火葬の時たくさんの人が花を捧げた。
一人二人、どんどん積まれていく花。
もう最後というときに紅白の巫女服が見えた。
土まみれになっているその手には花があった。
たくさんの花。
積まれてきたたくさんの花の上に霊夢の持ってきた花がのせられた。
そのまま二人の体は火の中に入れられた。
ずっと霊夢はその場に立ち尽くしていた。
人が少しずつ減っていく中ずっと、立っていた。
火も消え、空には星が光り始めた。
それでもそこからいなくなろうとはしなかった。
「約束、したのに。」
霊夢の声が境内に響いた。
「どうして、みんな幸せになれないのかな、ゆかり。」
「あらばれてた?」
『ゆかり』と呼ばれた女、八雲 紫。
どこからとも無く現われ、霊夢の横にたった。
「お母さんとお父さんと約束したんだよ。お留守番してるって、
帰ってきたらご馳走だって。」
「そうね。あの子は嬉しそうにいってたわ。」
「でもね、約束。守れなかったね。」
「そうね。二人とも・・・・。」
そこまで言うと紫は何もいえなくなった。
『死』という事は、この子には、霊夢には大きすぎることだった。
6歳になったか、ならないか。
そんな少女には耐え切れないことなのだ。
泣かないで、ずっと我慢してきたのだ。
「私、結界まもって行くの?」
「ええ。」
「できるのかな。」
「できるわ」
二人が死んだときに結界を守るものについてもちろん話が出た。
でも、霊夢の力は誰もが認めるほど大きいもので
反対は出ることなく、霊夢が結界を守っていくことに決まったのだ。
「そんなの、そんなのわかんない。」
「?」
霊夢が小さく、振り絞るように声を出した。
「私にはできない!お母さんがいないもん!
もう笑ってくれないんだよね!?
もう話してくれないんだよね!?
どうして!どうして?!何でお母さん死んだの!お父さんなんで死んじゃったの!?」
今までのすべてを吐き出すように紫に叫んだ。
今までの霊夢が嘘のように。
紫は霊夢を抱きしめた。
「私!…お母さんに褒めてもらいたかった。
全部、やろうともしないで、任せようとして・・・。
お花頑張ったんだよ?二人とも好きだった花探すの頑張ったんだよ?」
「えぇ。分かるわ。」
「でもね…。もう褒めてもらえないの。よくできたって・・・。」
「いってるわ。きっとね。でもあなたがそんなに悲しんでちゃ二人とも天国にいけないわ。」
「てんごく・・・。」
「えぇ。だから、泣き止んで?
霊夢が寂しくなったらいつでもあなたのお母さんになってあげるわ。」
「ゆか…おかーさん。」
霊夢がそう小さくつぶやいた。
紫の抱きしめる手に力が入る。
霊夢はその暖かさと母を重ねた。
暖かい。私の居場所。
空を見上げると数え切れないほどの星が輝いていた。
「私頑張るよ。お母さん、お父さんみててね・・・・?」
つぶやいた声は空へと吸い込まれた。
「おーっす霊夢ー!」
「あら、魔理沙じゃない。」
「今日も茶を飲んで空みてんのか?よっぽど暇なんだな。」
「そんなことないわよ。」
「きちんと理由があるのよー?」
「げっ、紫・・・。」
「げってなによぉ霊夢ー。」
「なぁ紫!理由って何だ?」
「まー、話すと長いんだけどー。霊夢かわいかったわー。私に抱きついて『おかーさん』って。」
「ゆ~か~り~?」
「あらどうしたの?」
「どうしたのじゃない!何そんな口からでまかせを・・・」
「嘘じゃないわよ~?」
「そうなのか?いいネタができたぜ!」
「ちょっ!魔理沙!待ちなさいって、どこ行くのよー!」
「あら、あら。若いっていいわねー。
霊夢も大きくなったわー。いろんな妖怪にすかれてるけど大丈夫よねー。
あんたも安らかに眠りなさいな。あの子が死ぬまでずっとみててあげるから。」
紫の声が空へと響いた。