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※注意書き
題名の『亀』の字を目に留めて、この作品を開いて頂いた方へ。
この作品に、紅魔郷以前の靈夢(亀に乗ってたって本当ですか?)との関連性は一切ありません。
紛らわしい連想を抱かせてしまった事を、深くお詫び申し上げます。
それでもよろしいのでしたら、広い心で読み流して頂ければ幸いです。
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永遠亭の廊下を、彼女は駆けていた。
「はぁ、はぁ……!」
慌て過ぎて呼吸は乱れに乱れ、交互に振り上げる腕は動きもバラバラ。
頭上でせわしなく揺れる長い耳に視界を妨害されながらも、彼女がその速度を落とす事は無い。
「はぁ……はぁ……!」
目指すのは、ある一室。
決して広くはない筈の屋敷の廊下は、暗がりのせいかまたは焦りゆえか、その距離をやけに長く感じさせる。
その中を、彼女は走った。ひたすらに走り、そしておもむろに向きを変え、
「……師匠っ!!」
勢いよく襖を開け放ち、掠れかけた声で叫んだ。
所狭しと謎の機材が立ち並ぶ暗室の中。くるくるとフラスコを回す、白衣の後姿へと。
「……ウドンゲ。行儀がなってないわよ?」
呟きと共に、鬱陶しげな眼差しを向けられて。
まだ息の整ってないまま、それでも彼女は何とか声を絞り出した。
「……奴らが、来ます……!」
「は?」
「太陽の民が、地球に来ます……!」
それを聞いた彼女の目は途端に見開かれ、その表情をみるみるうちに驚愕の色へと変えた。
「ブリリアントドラゴンバレッタ!」
「フジヤマヴォルケイノ!」
高らかな雄たけびと共に、突き出された拳を互いの頬にめり込ませる。
輝夜と妹紅。不老不死の少女達は意識を途絶えさせ、畳の上に沈んだ。
それを囲んでいたイナバ達の中から歓声が沸き起こる。
蝶ネクタイに縞模様のシャツでカウントを取る者、眼帯を着けて立てと連呼する者。
それら全てを弾幕で吹き飛ばし、永琳はさて、と呟いた。
夜闇に覆われた竹林の見える、永遠亭の大広間。
そこに集まっているのは、珍しいといえば珍しい組み合わせだった。
「……お出迎えの催し?」
昏倒する二人と無数のイナバ達を無感動な眼で見下ろしながら、出された茶を啜る霊夢。
その客人と机越しに向かい合い、永琳は同じく落ち着き払った表情で告げた。
「いえ、恒例行事」
「……それで?」
霊夢の隣で正座している二人目の客人、慧音が切り出す。霊夢と永琳に比べ表情には色があったが、それは若干疑わしげに曇っていた。
「何故私達が呼ばれたのか、詳しく教えてはくれないか?」
「もとよりそのつもりだったわ……ウドンゲ!」
「はい、はーいっ」
散らばるイナバを片付けていた鈴仙が、返事と供にてゐ(まだ眼帯を着けている)を引きずってくる。不死者二人はほったらかしだったが、迂闊に触れれば襲ってきそうな雰囲気ではあった。
彼女が隣に腰を下ろすのを待ってから、永琳は改めて口を開いた。
「先ほど言っての通り、この幻想郷……もとい、外を含めた全世界が今、途轍もない危機に陥ってるの」
「はぁ」
努めて真剣な表情で話す永琳に対し、霊夢と慧音はぽかんとした顔で溜息のような声を漏らす。
「危機をもたらす者、それは……太陽の民」
「そこよ!」
突然、霊夢が身を乗り出して永琳の言葉を制した。その後ろで、慧音がうんうんと首を振る。
「その、太陽の民とは一体何なのか。それを聞けない事には、こちらとしても気を張りようがないのだが」
「そーよ。私の台詞とらないでよ」
「割り当てなど聞いてない」
「わかったわ」
言いつつも、霊夢達の質問は予測済みだったのだろう。永琳は背後から古びた巻物を取り出して机の上に広げた。そこには、難解な幾何学模様と図面が敷き詰められている。
それを覗き込んだ霊夢と慧音、ついでにいつの間にか起き上がっていたてゐは眉をひそめた。
「何これ?ウォーリーでも隠れてんの?」
「読んで教えなさいよグレートティーチャーカミシラサワ」
「幻想郷の歴史以外は専門外だ」
「読めるわけないじゃない。さっき師匠に言われて適当に書いたやつだから」
「意味ないの!?」
「雰囲気よ。察しなさい」
「察するか!」
霊夢は巻物を引ったくりビリビリに破り捨てる。それを見た鈴仙があーっと非難の声を上げるが、永琳はそれを無視して客人達を見据えた。
「太陽の民に関する記述なら頭に入ってるから、聞いて頂戴」
「さすが不老不死、時間の無駄遣いはお手の物ね」
「太陽の民というのはね……」
霊夢が呻くが、それも空しく受け流される。
「遠い昔、月の民と敵対関係にあった種族の事よ。私達に匹敵する文明を持ち、名前の通り太陽の表面に居住地を有していると言われているの」
「先生しつもーん」
「はい因幡さん」
ぴんと真上に手を伸ばしたてゐを、眼鏡をかけ直すような仕草をしながら永琳が指差す。
「太陽の上なんか住めるわけないでしょ?日焼けのし過ぎで死んじゃうわ」
「ところが彼らにはそれが可能だった。熱に、衝撃に、周囲のあらゆる変化に耐える術を、彼らは持っていたのよ。それを鎧のように纏って、民達は生活していると言うわ」
「私からも質問がある」
続いて、慧音がややひかえめに挙手する。
「はい委員長」
「誰が委員長だ……先ほど、敵対関係にあった、と言ったな。それにその伝え聞いたかのような口調。その太陽の民、今も太陽の上とやらで暮らしているのか?」
「不明よ。月と太陽との超長距離間戦争なんてまともに決着のつく筈も無く、冷戦状態に突入した両者はそれ以降一切の交流を行わなくなったの。そして長い年月を経て、その存在は一部の資料でのみ語られている……」
永琳が一息つき、その場にいた全員が押し黙る。が、話の内容を咀嚼出来ているのはどうやら慧音一人のようだった。
ぽかんと口を開けて呆ける霊夢とてゐ、そして巻物の断片を掻き集めるのに必死で話すら聞いていそうにない鈴仙。もっとも、彼女は事態を心得ている一人なのだろうが。
ふと、慧音は疑問を浮かべ、それを口に出す。
「太陽の民の事はわかった。だが、今は交流をしていないんだろう?何故それがこの世界に攻め入ってくる事を、お前達が知っているんだ?」
「それに関しては……ウドンゲ」
「は、はい!」
紙片をパズルのピースのように並べて唸っていた鈴仙が、ぴんと背筋を張り直す。
「……実は、太陽の民の事を教えてくれたのは、月にいる私の元同僚なの」
「その、耳で感受出来るという兎の波動とやらでか?」
「えぇ。観測中の太陽から、多数の船団の出撃を確認したそうよ。距離がありすぎて規模は未確定だけど、船団の予測進路は月を通過した先……」
「……地球に向かっているんですって」
鈴仙の話を継ぐように発された気だるげな声に、五人ははっと視線を向けた。
広間の片隅。気絶していた二人のうち、黒髪の頭がゆっくりと持ち上がる。
「―――姫!」
「……事の次第は理解してもらえたみたいね、客人方」
「聞いていたのか……しかし」
慧音は起き上がった輝夜と未だ倒れて動かない妹紅とを見比べる。多少不服そうに。
それに対し、輝夜は腫れた頬を擦りながら答えた。
「私の真っ直ぐな打ち下ろしに対して、この娘の大きく弧を描くブロー。パンチの相性が勝敗の差をつけたってところね……痛た」
「……なんのこっちゃ」
「とにかく……」
もぞもぞと服の裾を引き摺りながら、輝夜は机の前まで這った。霊夢と慧音の方へ向き直り、
「太陽の民が月では無くこの地球へ攻め入るとすれば、狙いはおそらく月の姫であるこの私よ」
「…………」
「けれど奴らの戦力は計り知れない。地球上で争えば、この世界は火の海になってしまうかも。その前に、奴らを迎撃しなければならないの」
「……それはつまり、敵を宇宙で迎え撃つ、と?そんな事が、」
「出来るわ、永琳の術を使えば。そして、あなた達を呼んだのは……博麗霊夢、上白沢慧音、そして……妹紅」
名前を呼ぶと共に、彼女達の顔を―――背後で眠る妹紅の、も―――順に見回す。高貴なる姫君、その瞳にはわずかな憂いと、決意とが揺らめいていた。
「あなた達幻想郷の人間に、頼みがあるの」
輝夜は、客人たちに向かって深くゆっくりと頭を垂れた。
「太陽の民の迎撃に協力して頂戴。月の民の問題とはいえ、永遠亭に奴らを撃退するだけの戦力は無い。お願い、力を貸して……」
「……輝夜」
「…………」
永琳達は、それを黙って見ていた。目を背ける事無く、前髪で表情を隠し微動だにしない輝夜を見守っている。
かつて無かったのだろう、この我侭な姫が自ら頭を下げた事など。その光景を見ていた慧音でさえ、申し訳ないような面持ちになる。
「馬鹿言わないでよ」
沈黙を破ったのは、霊夢だった。
声を張り上げ、その表情には不満を募らせて。立ち上がり輝夜達を見下ろす。
「太陽の何とかだとか宇宙でどうだとか、厄介事は幻想郷の中だけでウンザリだわ。あなた達、前に何やったか覚えてる?」
「……満月の隠蔽に関しては、深く反省してるつもりよ。私も、姫も」
答えたのは永琳だったが、霊夢はそれを無視してなお輝夜を睨む。それは彼女の返答を期待しているような眼差しでもあった。
「大体、何で呼んだのが私達三人だけなのよ?私だって妖怪の百や二百なら蹴散らせる自信があるけど、それで戦力を覆せるようには到底思えないわ」
「それは、この世界……もとい幻想郷の危機に際しては、博麗の巫女の助力が必須だったから。それに、妹紅になら多少の迷惑くらい……」
ようやく顔を上げ、今度は輝夜が答えた。
慧音にぽつりと、私はとばっちりか、と呟かれ、またわずかにうつむきかけるが。霊夢の言葉がそれを制した。
「それ以外の人達には迷惑かけたくないって事?だったらまた逃げ隠れすればいいじゃない」
「それは……もう嫌なの。私は堂々と生きていきたい。この幻想郷ならそれが出来る。だから、ここから離れたくない……」
「そんな我侭言ってる時点で、充分迷惑被ってるのよ、こっちは」
「おい、霊夢……」
慧音がたしなめるように霊夢の袖を引くが、荒げられた彼女の言葉の連打はなお止まない。
「いい加減自覚しなさいよね?月の民がどうとかなんて、幻想郷にいる以上は関係ないの。みんな揃いも揃って厄介事持ち込んで悪びれもしない、ろくでもない連中ばっかりよ。あんただってもう幻想郷の一員なんだから、もっと堂々と迷惑かけてみせなさい」
「……え?」
「それにね……ろくでもない連中ってのは、ろくでもない事に集まってくるものなのよ」
そう言い、霊夢はその場で振り返る。理解出来ずただ見上げる輝夜たち一同を他所に、月夜の照らす庭先に向かって、すぅっと空気を取り込んだ。
そして一声、
「―――いつまで隠れてんのよ、あんた達!!」
「―――大佐!敵に見つかったぜ!」
茂みから、ひょこんと二人の少女が顔を出した。
そのうちの一人、黒白の魔法使いが焦るでもなく笑う。それを見て驚愕したのは永琳だった。
「霧雨魔理沙!?そんな、確かに霊夢一人になるよう呼び出したのに……」
「こいつの尾行テクをあなどっちゃいけないぜ」
そう言って、魔理沙は首根っこを捕まえたもう一人を突き出す。
「れ、霊夢!違うのよこれは断じてストーキングでは……!」
「アリス……いやなんか薄ら寒い視線は感じてたけど」
先ほどまでの威勢良い立ち振る舞いを忘れ、霊夢は言いようのない脱力感に襲われる。
その隣に、よろよろと輝夜が歩み並んだ。その表情に憂いと、決意とは違う熱い感情を浮かべて。
「……何で」
「何で私がいないのか、って?いるわよ、当然」
声と共に、空から飛来するものがあった。
魔理沙たちの近くに華麗に着地した人影は、妖艶さとは異なる異彩を放っていた。霊夢が、半眼で呻く。
「……誰」
「ひどいわ、霊夢。このスカーレット・デビルを忘れるなんて」
「それは覚えてるけど。ていうか、何なのよその格好?」
見てくれから、彼女をレミリアと判別するのはほぼ不可能に近かった。
銀色の光沢を放つ厚ぼったい衣装で全身を羽まで包み、頭部に設けられた黒く半透明な窓枠からは、吸血鬼の赤い瞳すら覗えない。まるで屑鉄のお化けのようだった。
「―――こんな事もあろうかと、河童に依頼して作らせた対紫外線防護服よ」
霊夢たちの疑問に答えるように、永遠亭の廊下から声が届いた。床の軋む音と共に歩いてきた声の主に対し、レミリアが告げる。
「遅いわよ。咲夜」
「申し訳ありません。ですが、やはりここは玄関から入るのが礼儀かと」
「……鍵閉めてた筈だけど」
慇懃無礼に頭を下げる紅魔館メイド長に向かって、鈴仙がぼそっと呟く。咲夜は冷たい一瞥と共に答えた。
「礼儀だから」
「うぅ……わかったからナイフちらつかせないで」
「私の後ろに隠れても体格的に当たるよ、鈴仙ちゃん?」
竦みあがりてゐの背後に身を隠す鈴仙は、特に誰も気には留めず。
レミリア(のような物体)は腕を組んで、不敵に微笑んだ(ように見えた)。
「太陽に喧嘩売るんですって?私としても日頃から恨みのある事だし、そのお値段吊り上げてやるわ」
「…………っ」
輝夜は声にならない言葉を紡ぐように、パクパクと口を動かす。が、語るべき言葉は自身の心の内ですら定かでない。
立ち尽くす彼女を囲む一同の下に、またしても別の声が響いた。
「ほら妖夢ー、早くついて来なさーい」
「お待ち下さいってば、幽々子さまー!」
「……あんまり辛気臭かったからお化けが出たぜ」
その掛け合いに誰もが予想したとおり、ひらひらと舞う無数の蝶を纏いながら、亡霊の姫が優雅に舞い降りてきた。一拍遅れて彼女の横に、普段の太刀に加えて異様に膨らんだ風呂敷を担いだ従者も到着する。
「もう。今宵は太陽でバーベキューなんだから、グズグズしてちゃ駄目よ」
「そう言われましても、食材が少々重過ぎます……」
『食材』という言葉に反応してか、妖夢の担ぐ風呂敷の中身が暴れ蠢き、ついでにチンチンと鳴いた。それを見た幽々子は満足げに舌なめずりし、続いて輝夜へと微笑む。
「というわけだから、よろしくね」
「……は、はぁ」
なるべく風呂敷を視界には入れず、輝夜はドン引きしつつも愛想笑いを浮かべる。微妙に食い違いながらも笑い合う二人を尻目に、霊夢は疑わしげな表情で辺りを見回した。
「……亡霊組までいるとなると、あいつも」
「勿論、愛しの紫はいつでもあなたのスキマに」
「ぎゃあっ!?」
唐突に、室内にも関わらず傘を差した女性が広間の机上に現れた。
その傍にいた全員が悲鳴を上げ飛び退く。顔を引きつらせた霊夢が祓い棒を突きつけると、彼女は眉尻を下げながらも微笑んだ。
「ここにも一人いたか、ストーカー!」
「はしたないわ、濁音で叫ぶなんて」
言いながら、紫は近くに開けた空間の隙間に手を入れ何かを引っ張り出す。触角を生やした人間大のそれは、畳の上に音を立てて落下した。潰れたゴキブリのような態勢で、嘆く。
「うぅ、なんで私まで……?」
「五分しか魂が無くたって、盾くらいにはなるでしょ」
「どうでもいいけど、机の上に立たないでもらえないかしら……」
「あらそう?」
冷や汗を垂らして告げる永琳に見上げられ、紫はあっさりと机から降りた。
広間と、廊下と、庭にいる全員を一様に見回し、その笑みを一層濃くする。輝夜はその意味を悟って、紫に食って掛かろうとした。
「永夜組、全員集合ね」
「……あなたが皆を、」
「……その永夜組って、私も入ってるわよね?」
広間の片隅から呟かれた声。見ずとも判る、しかしなお、輝夜は振り返らずにはいられなかった。
慧音が、その名を呼ぶ。
「妹紅!」
同じように片頬を腫らせたまま、輝夜と妹紅は視線を交わした。
文字通り殺し合うほど仲の悪い二人だというのに、最初に目が合ったのは、何故か。挑戦的な彼女の眼差しは、しかし笑みを湛えていた。
「…………」
「私は気絶させて連れて行こうとでも?馬鹿ね、あんたの拳は軽いのよ」
「…………っ」
「あんたがこうもビビる太陽の民っての。私がぶっ潰してやれば、即ち私があんたより強いって証明になるわよね」
「…………っっ」
「そうしたらあんたも潔くその首私に……って、お?」
声を出さなかったのは、ひとえに高貴なる姫としての意地だった。
それでもはっきりと、輝夜は泣いていた。
瞳の奥から、頬を伝い流れてくる感情の奔流。ほのかに辛く、熱い。震える方をいさめる事が出来ず、輝夜はその場に屈む。
その場にいた全員が、じと目で妹紅を見やった。
「涙腺決壊させやがった……」
「サイヤ人みたいな事言うわね……」
「教師として苛めを見逃すわけには……」
「わ、私が泣かしたんじゃないわよ!?」
肌を刺す非難の視線に絶えられず妹紅は絶叫するが、誰も取り合おうとしない。ついでに何故か永琳まで嬉しそうに涙を拭っていたが、それらをとりあえず蚊帳の外において。
霊夢は輝夜の震える肩へと手を伸べた。
「……まぁ、こういう事よ」
「…………」
「あんたの背負ってる宿命とか、世界の危機とか。色々大変なんだろうけど、そんなの笑って構えてればいい。堂々と巻き込めばいいのよ。私達からしたら、何だってお祭り騒ぎも同然なんだから」
「……ん」
「なんたって、ここは幻想郷よ?あなたがしたいと思った生き方を、ここは叶えてくれるわ」
「……うん」
顔を上げて、涙でまみれて、赤く腫れた頬で。
微笑む彼女は、月を眺めるよりも遥かに魅力的に映えた。太陽など霞むほど、輝いていた。
それを見て満足げに、霊夢も微笑み返す。それを囲む誰もが……幻想郷の民達が、力強い笑顔を浮かべた。
霊夢は永琳の方へ向き直り、
「……これで勝てないわけは無いわよね?」
「えぇ……最高の戦力だわ。これで太陽の民に立ち向かえる」
「……その太陽の民っていうの」
ふとアリスが、広間の方へと近づいて来た。首を傾げ、疑問を述べる。
「太陽から向かってくるのよね?迎撃するにしても、布陣を敷くにはまだ時間に猶予があると思うんだけど。そいつらが何時この世界に来るか、わからないの?」
「太陽の民の技術力が現在どうなっているかは不明だけど、過去の資料を下に地球との接触時間は計算してあるわ」
永琳はそう答えると、おもむろに立ち上がった。誰もが―――この事に関しては聞いていなかったのだろう、輝夜と兎達も―――、彼女の言葉が再度紡がれるのを待つ。期待と、ほんの少しの緊張を含んだ沈黙を破り、永琳は告げた。
「奴らは来るわ――――――60万年後に」
「月に帰れぇぇぇぇぇぇっ!!」
その夜、万華鏡の如く彩られた巨大な弾幕の嵐が、博麗大結界を震わせた。
60万年後――――――迫り来る太陽の民を迎え撃ったのは、三人の不死者だったという。
光速なら8分で到着する距離とはいえ・・・
成る程…亀の歩みだな
だがそれがいい!!!