Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

宴のあと ~悪魔の妹

2008/01/07 12:35:42
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この話は前作「宴のあと ~帰り道~」の続編となります
出来れば、前作を読んでからこちら呼んでもらったほうが
色々とわかりやすいかと思います

一部更に前の作品「宴のあと」に繋がっている部分もありますが
こちらは話の内容としてはあまり関係ないので
興味があれば暇なときにでも読んでいただけると物凄く嬉しいです。

2作品とも プチ東方創想話ミニ  作品集その23にあります

それでは以下、本文となります



―――――――――――――――














 なんだろう
 屋敷がずいぶん騒がしい
 私が地下の部屋から出てきても誰一人、私を止めようともせず縦横無尽に動き回っている

 不思議に思いながら屋敷の中を歩いていると
 ふと、異質な二つの気配を感じた
 紅魔館の中では一度も感じたことの無い気配
 でも、どこかで感じたことのある気配
 私はなんとなくその二つ気配が気になったので、一体誰の気配なのか確かめてみることにした

 途中で何度か妖精メイドに止められたが全て無視
 ようやく二つの気配がある部屋の前にやってきた
 やっぱり知らないけど知ってる
 たぶん前に一度だけ気配の主に会ったことがあるんだろう
 私は意を決して部屋の扉を開ける
 そこにいたのは私と同じくらいの背で頭に・・・

 それは私の姿を見つけると苦笑しながら手招きしてきた
 その様子から私に何か手伝って欲しいのだろう

 カチリと私の中でスイッチが切り替わる

 もう

 私には

 その言葉は

 キコエナイ

「お前のせいでぇぇぇぇええええええ!!」

 右手を頭上に掲げ、魔力を集中する
 もっともっとだ!
 私の限界はこんなものじゃない!
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっとモットモットモット・・・

 全テヲ破壊スル力ヲ!!

―――禁弾「過去を刻む時計」―――











咲夜はレミリアの指示どうり全速力で紅魔館へ向かっていた。
このまま屋敷の中に入りフランを止めようかと考えていたが、屋敷の前で誰かが倒れていた。
それは予想を裏切ることなく門番の 紅 美鈴 であった。
たまには予想を裏切って欲しいものだが、これで外部から侵入した何者かとフランが戦っていることになる。
しかし、一体誰が?
周りが強すぎるため普段はやられ役ではあるが、美鈴は強い。
その実力は咲夜はもちろんレミリアも認めている。
だからこそ、紅魔館の門番をしているのだ。
その美鈴を倒したのだから、侵入者は並みの妖怪ではない。
侵入者の情報を得るため、咲夜は一旦、時間操作を止め美鈴に駆け寄った。
「美鈴!大丈夫?何があったの?」
「ぅ・・・さ、咲夜さん?」
咲夜の呼びかけで目を覚ました美鈴はゆっくりと上半身を起こした。
遠目にはわからなかったが、美鈴は予想以上にボロボロにやられており、満身創痍の状態であった。
「・・・侵入者は?」
「は、はい・・・西行寺 幽々子と伊吹 萃香です」
「ぇ!?」
美鈴を倒せるほどの、それもこの様子からして圧倒的な力でねじ伏せることの出来る者
予想していた妖怪の中に彼女たちも含まれてはいたが、彼女たちの可能性は限りなく低いと思っていた。
「すみません・・・一度は追い返したと思ったのですが・・・」
そう言って美鈴は悔しそうに俯いた。
その先には美鈴の放った弾幕の痕跡がありありと残っていた。
恐らく、幽々子を追い返すためにスペルを放ちそのスペルを放った直後に出来る隙をつかれたのだろう。
あの亡霊はとぼけているようで実はとんでもなく切れ者だったりするのだ。
それに加えて、鬼の萃香もいるのでは美鈴一人には荷が重すぎだ。
「わかったわ。あとは私に任せなさい」
咲夜はそう言うと美鈴をすっと抱き上げた。
「え?咲夜さん?私なんか置いておいて早くあの二人を!」
美鈴は咲夜のその行為に驚き、抗議の声を上げた。
しかし、咲夜はそれを遮り、屋敷の一角を見るように視線を送った。
「あ・・あれは・・・」
「そう、フランドールお嬢さまの『過去を刻む時計』よ。
 つまり今その二人は妹様と戦っている。・・・妹様は強い。
 そこまで心配する必要はないわ」
「・・・そ・・うですね」
「それにあの壁、誰が修理すると思ってるの?」
「ぁ・・あはははは・・・やっぱり私ですよねぇ」
美鈴は咲夜に苦笑しつつ答えた。
「あれ?」
次の瞬間には彼女は紅魔館内の医務室に横たわっていた。
「それじゃあ、侵入者の二人を片付けてくるわ。
 もうすぐレミリアお嬢さまも戻ってくるから、あなたはそこで休んでなさい」
咲夜はそう言い残し、医務室から去っていった。

西行寺 幽々子は死を操る。
よほど心配は無いと思うが、幽々子たちが何故、紅魔館に侵入したのかわからない以上用心するに越したことは無い。
こういう時パチュリーがいると心強いのだが、あいにく今夜は外泊中、なんとも厄介なことだ。
それに美鈴には心配ないといったが、実際は逆であった。
伊吹 萃香、あの鬼はまずい。
フランは萃香に飲まされた酒が原因で、前回の宴会を途中退席、今回の宴会を不参加にされたようなものだ。
そのことを理解しているフランが我を失って暴走しないわけが無い。
「お嬢さま・・・早く来てくださいよ・・・」
咲夜はこれから向かう先の状況を考えると、そう呟かずにはいられなかった。







萃香はフランの繰り出す紅弾を一定の距離を置いて避け続けていた。
何より最初の一撃が危なかった。
術者であるフランの腕が吹き飛ぶほどの魔力が込められていたのだ。
一瞬でも気付くのが遅ければ、跡形も無く消滅していただろう。
それにしても、萃香には何故自分が攻撃されているのかわからなかった。
唯一、思い浮かぶのは少し前に博麗神社で行われた宴会での事だが、いくらなんでもココまで恨まれるとは思えない。
「ちょっと、あんた!一体なににそこまで怒ってるのよ!?」
「うるさい!うるさい!うるさい!ウルサイ!!」
フランは萃香の言葉にまるで耳を傾けようとしない。
それどころか、先のスペルで吹き飛んだ腕に魔力を込め、一気に再生した。
「壊す壊す壊す壊す壊すコワスコワス!!跡形モナク壊ス!!」
再生した手には一枚のカード。
フランはそれを発動させるべく魔力を集中する。

しかし、そのカードは銀のナイフによってはじかれた。
「フランドールお嬢さま!」
「おぉ!悪魔のメイド!!」
「・・・」
萃香は助かったとばかりに咲夜の登場を手を叩いて喜んだ。
が、すぐに部屋に立ち込める殺気に身震いした。
「咲夜ぁ・・・何で邪魔するのぉ?」
「フランドールお嬢さまの無念はわかります。ですが、これ以上」
咲夜の言葉を遮るように咲夜の足元の床がドンッと轟音をたてて弾けた。
「これ以上?・・・これ以上、私の邪魔をするようならぁ・・・
 咲夜ぁ・・・あなたからコワスよ?」
咲夜はフランの視線から動けなかった。
これでも、いくつも死線を潜り抜けてきた。
殺気を向けられることにも慣れている。
でも、これほど純粋な、これほど強力な、強大な殺気と狂気のこもった視線を受けたことなど一度も無い。
フランがこの視線を並みの人間や妖怪に向けようものなら、十中八九、発狂して狂い死ぬことだろう。
それほどの視線なのだ。
一体誰が動くことの出来ない咲夜を責めることが出来るだろう。
フランはそんな咲夜に向け愉悦の表情を浮かべたあと、スッと萃香のほうを向いた。
視線が外れた直後、ストンッと咲夜が座り込む音が聞こえた。

「さぁ、邪魔者はいないよ?・・・塵も残さずコワシテアゲル」
「ぁぁ・・・もう、わかったよ」
萃香はフランの狂気に染まった視線を平然と・・・いや、その視線に応えるように自らも激しい殺気を放った。
さすがは鬼。
その気迫は一瞬ではあったが今のフランさえ圧倒した。
「あんたが一体なにに腹を立てているのかは知らない。
 でも、本気で向かってきてるのはよくわかった。
 なら、こっともそれに応えて本気で相手をしてやるよ!」
萃香はそう言うと腰に下げた瓢箪、伊吹瓢から一口酒を飲んだ。
もちろんこの行為には挑発の意味も含まれていたが、
それ以上に萃香自身が戦いに備えて気分を高揚させる意味合いが大きかった。
しかし、フランにとってはその酒は全ての元凶。

「ぁ・・ぁぁぁあああああああああああああ!!」
フランは悲鳴にも似た叫び声を上げ紅弾を大量に放った。
その威力、速度、密度、その全てが先ほどまでの物より更に威力が増している。
だが、我を失い闇雲に放たれるだけの弾幕では萃香を捕らえることは出来ない。
それどころか、フランの弾幕は屋敷の床を、壁を、天井を撃ち抜き、それらが塵となり視界を遮ってしまう。
周りが何も見えなくなってもフランは紅弾を放つことを止めない。
それが大きな隙となった。

「どこを見てるんだ?」

その声に気付いたフランが振り返る。
そこを狙い済ましたかのように萃香はフランの鳩尾に拳を叩き込んだ。
「がふっ!?」
何一つ容赦の無い一撃がフランを吹き飛ばす。
フランは勢いよく数回バウンドしそのまま床に倒れこんだ。
「そんなデタラメな攻撃が、この私に通じるとでも思ったのか」
「・・・」
「次でトドメだ」
「ふふ・・あははははははははははっ」
床に転がったままフランは不意に笑い声を上げた。
その様子に萃香は怪訝そうな表情をした。
さっきの一撃は確かな手応えがあった。
少なくとも内臓破裂、上手くいけば背骨さえも折れているはずなのだ。
しかし、フランは笑い声を上げながらムクリと立ち上がった。
「あはは・・は・・・ゲホッ」
笑い声が途絶えたかと思うとフランは大量の血を吐き出した。
やはり少なくとも内臓は潰れている。
だが、フランは笑っていた。
「あはははははははははははははははははははははははははっ」

―――秘弾「そして誰もいなくなるか?」―――

そして笑い声を残してフランの姿が消えた。
「しまった!!」
萃香はフランの異様な姿に戸惑いスペルを発動させる隙を与えてしまったのだ。
部屋の中にフランの狂気に染まった笑い声が響き渡り、その笑い声が萃香の感覚を惑わせる。
どこから攻撃が来るのか萃香には全く予測できない。
霊夢ならその鋭い勘で難なく避けることができるのであろうが、萃香にはそんな便利な勘はない。
突然、真横に嫌な気配が近づいてきた。
萃香は咄嗟に防御体制をとるがフランの攻撃は防御態勢をとった逆側から放たれた。
「な!?」
逆側から放たれた攻撃を体をムリヤリ反らすことでなんとか直撃はかわした。
しかし、その後も予測不可能な攻撃が次々と繰り出される。
「あはははははははははははははははははははははっ」
攻撃が繰り出されている間もフランは笑い続けている。
「くっ・・ちょっとまずいわね」
いくら頑丈な鬼とはいえ、このまま攻撃を受け続ければそう長くはもたない。

萃香は考えた。
このスペルは術者の姿が見えない。
なら術者は一体どこにいるのか?
「あはははははははははははははははははははははっ」
「くそ!!気が散る!!」
部屋中に響き渡るフランの笑い声が萃香の思考を妨げていた。
「だいたい、この声だって部屋中から・・・部屋中?
 ぁぁ、そういうことか」
萃香はニヤリと笑うと右手を正面に突き出し力を込めた。
「え?」
「つかまえた」
気づいたときには、その手にフランの左足が握られていた。
「自らを細分化して弾幕と化し、相手を狙い撃つ。私の『六里霧中』とそっくりね」
「ぇ?え?」
萃香は笑い、フランは困惑する。
「今度こそ終わりよ!!」

―――萃鬼「天手力男投げ」―――

萃香は全力でフランを投げ飛ばした。
その先には鋭く尖った天井の残骸がある。
いくら再生能力の高い吸血鬼でもその体を貫かれれば再生には非常に長い時間がかかる。
いや、このままの勢いでぶつかればフランの体は粉々に砕けるだろう。
「ぁ・・・あ・・・?」
フランの目には自らの身に迫る危機がスローモーションのように見えた。
萃香は勝利を確信し目を背けた。
「ぐふっ」
しかし、萃香の耳に届いたのは残骸が砕ける音でもフランが砕ける音でもなく
何かが潰れるような鈍い音と、誰かのくぐもった声であった。

ハッとして顔を上げるとそこには無数の銀のナイフ

「なに!?」
「プ・・プライベートスクウェア・・・だ」

フランの殺気と狂気で動けなくなっていたはずの咲夜がフランの危機に時間を止め天井の残骸を排除し、
さらに自分の体をクッションにしてフランを受け止めたのだ。
そして恐らく今の萃香相手には時間稼ぎにしかならないであろうが、手元にある全てのナイフも投げておいた。
「さ・・咲夜・・・」
咲夜の胸の中におさまっているフランが恐る恐る顔を上げた。
「フランドールお嬢さ・・ゴホッ」
咲夜はフランに対して笑いかけたつもりだった。
しかし、自らをクッションにフランを受け止めたため、その体はボロボロであった。
咲夜は血を吐き出し、そのまま気を失ってしまった。
「咲夜?・・・咲夜ぁ!!」

 さっき私は咲夜を壊すといった
 本気だった
 でも、咲夜は・・・

「ふぅ、・・・メイドに助けられたね」
咲夜のナイフを捌ききった萃香は二人に歩み寄った。
「助かったとはいえ、あんたの負けだよ。おとなしく、そのメイドを」
「お前ぇぇぇえええええ!!」
フランは萃香に掴みかかろうとするが、足をかけられ盛大に転んだ。
「私に向かってくる暇があるなら早くこのメイドを医者に連れていきなよ」
「・・や・・・さ・・や・・・さく・・さくや・・・」

 咲夜は血を吐いて倒れてしまった
 私を助けるために
 私はあの鬼に自由を奪われた
 次は咲夜を奪われる?
 嫌だ
 悔しい
 悔しい悔しい悔しい
 許さない許さない許さない許さない許さない
 絶対に許さない!!

そのとき、フランは自分の手が何かに触れていることに気付いた。
それは咲夜にはじかれたスペルカード
全てを焼き払うフランの代名詞ともいえるスペルカード『レーヴァテイン』
「・・咲夜・・・」
フランはこのカードは咲夜が送ってくれた物であるような錯覚を覚えた。
「ふふ・・あは・・・あははははははははっ」

 そうだ、咲夜がくれた!
 あの鬼を壊すために咲夜がくれた!!

フランの瞳に再び狂気が戻ってくる。
「絶対許さない・・・絶対・・・コワス」
フランはスペルカードを掲げ魔力を集中する。

「そう何度も油断はしないよ」

―――酔夢「施餓鬼縛りの術」―――

萃香は魔力の集中は感じるやいなや、鎖を振るいフランを捕らえた。
「こんな鎖ぃぃいいいいい!!」
フランは鎖を断ち切ろうともがくが、魔力どころか力さえまるで入らない。
「無駄だよ。この鎖に捕らえられている限りあんたは無力だ」
そう言うと萃香は鎖を引っ張りフランを勢い良く引き寄せ、そのままフランの顔を殴りつけた。
「がっ!?」
顎が砕け、脳が揺れる。
「あんたはココで終われ!」
もう一度殴るべく萃香は勢い良くフランを弾き飛ばす。

そのとき凛とした声が響いた。
「終わらせはしないよ」

―――神槍「スピア・ザ・グングニル」―――

フランを縛る鎖がグングニルの一撃で砕けた。
「・・・人の家で何を勝手に暴れているんだ?」
「ぉ・・おふぇえふぁま」
萃香にはじかれフラフラと倒れかけたフランをレミリアが抱きとめた。
「全く、次から次へと・・・」
フランへのトドメを咲夜に邪魔され、次はレミリアに邪魔された。
さすがに萃香も焦りを覚えた。
しかし、レミリアはまるで萃香のその焦りを振り払うかのように言った。
「念の為に言っておくけど、私が手を出すのはここまでよ」
その言葉に萃香は目を白黒させ、フランは覚えるような目でレミリアを見た。

このまま自分は姉に見捨てられてしまうのではないか?
自由を失い、咲夜を失い、更に姉も失う。
そうなってしまえば自分は地下深くに永遠に幽閉されるしかない。
魔理沙や霊夢と出会うことで、外の世界を知った、家族を知った。
そして、家族から愛情を貰い、自由を知った。
知ってしまった今、あの地下の生活に戻ることは恐怖以外の何者でもない。

フランはすがるようにレミリアを見上げた。
するとレミリアは厳しい顔付きで、しかし、その目には優しさを湛えてフランを見つめた。
「フラン、よく聞きなさい。
 誇り高いスカーレットの名を持つ者が無様に負けることは許さない」
「・・・」
「自分の能力の踊らされて負けるなんて無様な姿は決して晒してはいけない」
「・・・」
「咲夜なら心配ないわ。あの程度で死ぬほど弱くは無い。
 だから、フラン・・・あなたも自分を強く持ちなさい」
「・・・うん!」
フランはレミリアの言葉に強く頷いた。
レミリアはそんなフランを満足げに見ると、今度は萃香の方を見る。
「子鬼、貴様も本気で戦え。もし、手を抜くような仕草をしてみろ、
 その時はその頭・・・貫いてやる」
レミリアは萃香を威圧するように言い放つとフランから離れ咲夜のそばに歩み寄っていった。

それを見届けたフランは改めて自分の敵、伊吹 萃香を見た。
能力なしの純粋な力比べでは萃香のほうが圧倒的に強い。
それに、ただ弾幕を放つだけではまるで当たらない。
ならば、能力を駆使して戦うしかない。
姉の期待に応えるためにも能力を駆使して勝つのだ。
フランは「壊す」のではなく「勝つ」ために思考をめぐらせる。
一方、萃香はフランが先ほどまでより強敵になったことを認識した。
先ほどまでは、能力は高いがそれを活かすことが出来ない力を振るうだけの存在であった。
しかし、今は自分の能力を利用し活かそうとしている。
それに今後はこちらの攻撃も先ほどまでのように当たるとは限らない。
「全く、何でこんな面倒なのと戦わなきゃいけないんだか」
口では悪態をつきながらも、萃香の顔には全力で戦える喜びがあった。

そして、フランのスペルの発動をきっかけに三度、戦いが始まる。

―――禁忌「フォーオブアカインド」―――

三体の分身を加え、四人に増えたフラン
それに対して萃香は自分も疎の力で分裂しようかと考えたが、
向こうは四人のうち本物は一人、こちらは全て本物、
しかも、こちらは分裂した分だけ力も半減する。
半減した力で分身は倒せても本物が倒せるとは思えない。
相手の数にあわせて分裂するのは分が悪い。
ならば、一体ずつ本物に当たるまで確実に潰していく。
そう結論付け、萃香は迎撃の態勢をとる。

萃香が迎撃の態勢をとったのを確認すると、フランは萃香を三人で囲み、紅弾を放った。
そして、残りの一人が紅弾の弾幕に紛れて、萃香に接近を試みる。
紅弾を放つ人数が増えた分、弾幕の密度は大幅に上がった。
それでも、まだ避ける余地は残されている。
問題は弾幕にまぎれて接近してくるフランだ。
至近距離から避けた先、避けた先を狙われたのでは危険すぎる。
なら、接近してきているフランから倒す。
萃香は左手に力を込めた。
するとそこには小さな黒い玉、萃の力の宿った小さなブラックホールが出現する。
それを接近してきているフランに向けると、本人の意思とは関係なく萃香に近づき過ぎてしまう。
手の届く範囲まで近づいてしまえば萃香の勝ちだ。
萃香は近づき過ぎたフランを全力で殴り飛ばす。
投げ飛ばされたフランは壁に激突し、消滅した。
「こいつは分身か。じゃあ、次は右のやつだ!」
萃香は分身が消滅するのを確認すると間髪入れずに、左手のブラックホールをかざし、紅弾を放つフランの一人に接近する。
そして、二人目のフランも殴り飛ばされ消滅した。
残った二人のフランは止まったまま撃ち続けるのは危険と判断し、萃香を中心に円を描くように回り始めた。
全方位から降り注ぐ紅弾、動き続ける二人のフラン、
萃香は狙いを定めることが出来ず防戦一方へと追い込まれていった。
しばらくの間、萃香は油断無く紅弾を避け続けていた。
しかし、その均衡は萃香が瓦礫につまずいた事で崩れる。
「しまっ!?」
フランはそのわずかな隙を見逃さず、一人は正面から紅弾を、一人は背後から急接近する。
正面の紅弾を避けきれば背後から接近するフランに、背後を気にすれば正面のフランに隙を作る。
そこで萃香は急所への直撃だけを避けるべく体をわずかに捻る。
直後、わき腹と左肩に激痛が走るが、それだけだ。
その後の行動には何の支障も無い。
崩れたバランスはほんの僅か、背後から接近するフランを迎え撃つには十分過ぎる体勢だ。
「ぁぁぁぁあああああああああ!!」
萃香は咆哮と共に背後から接近していたフランを掴むと正面のフランに向けて投げつけた。
二人のフランは空中で衝突し、そのまま瓦礫の山に突っ込んだ。

モクモクと粉塵の立ち昇る瓦礫の山からフランが飛び出す。
その姿はボロボロだが、萃香も同様にかなり消耗している。
「今度こそ最後にしよう」
「・・・」
互いに次の攻撃が最後の攻撃になるだろうと覚悟する。
「いくぞ!!」

―――「百万鬼夜行」――――――QED「495年の波紋」―――

必殺の弾幕が互いを相殺する。
両者とも時間が経つにつれて弾幕の密度が上がり、なかなか均衡は崩れない。
いや、先ほどから僅かではあるが萃香の弾幕がフランの弾幕を押し始めている。
十秒も経てば、その差はハッキリと現れた。
「このまま押し切って、私の勝ちだ!」
萃香は最後の仕上げと弾幕を強化すべく力を込めた。
「・・・」
しかし、フランは顔色一つ変えない。
いや、その顔には表情が無い、感情が無い、生気も無い。
「・・・?」
勢いに乗っていた萃香もそんなフランに違和感を感じた。


そのとき、瓦礫の山から炎が舞い上がる。
そこに立つのは、悪魔の妹 フランドール・スカーレット
その手に握られているのは、害なす魔杖 レーヴァテイン

「そっちが分身だよ!」
「なにぃ!?」

分身とは弾幕を打ち出すための砲台。
砲台越しのスペルでは本来の威力を発揮することは不可能だ。
それを萃香は自分のスペルがフランのスペルに勝っていると勘違いし、
目の前のフラン、分身であるフランを倒すために攻撃を集中してしまったのだ。
今ここで本物フランに攻撃の対象を変更すれば、目の前で相殺している弾幕の餌食となるだろう。
そして、このまま分身のフランの弾幕を相殺し続けていては、
本物のフランの攻撃を防ぐこともかわずことも出来ない。
現状のままでは、どう転んでも萃香の負けだ。

「それなら・・・さっさと分身を倒して迎え撃つまで!!」

萃香は持てる全ての力を正面の分身のフランにぶつける。
本物のフランが萃香に接近するまでの数秒、この僅かな時間に分身を倒すためだ。
しかし、分身越しとはいえ『495年の波紋』はフランの持つ最強のスペルだ。
そう簡単に打ち崩せるものではない。

「ぅらぁぁぁああああああああああああ!!」
「やぁぁああああああああああああああ!!」

二人の咆哮が響き、レーヴァテインが振り下ろされる。







レーヴァテインの炎の刃は萃香に届くことなく消滅した。
それと同時に『495年の波紋』を放っていた分身も、
屋敷を貫いたまま止まっていた『過去を刻む時計』も消滅した。


「・・・なんで・・・?」
萃香は突然のことに言葉を失った。
確か自分は間に合わなかったはずだ。
分身の弾幕を打ち崩すことが出来ず、目の前に炎の刃が迫っていたはずなのだ。

「フランの魔力が尽きたのよ」
その疑問に答えたのはレミリアだった。
「普段使うことの無い限界以上の魔力を使った攻撃、
 普段行うことの無い身体の大部分の急な再生
 さすがのフランも魔力が持たなかったようね」
「魔力・・・切れ・・・」
「そう、魔力切れ。
 あと数秒でもフランの魔力が持っていれば、お前の負けだったでしょうね」
レミリアは魔力が尽き気を失っているフランをそっと抱き上げ、
そして、咲夜の横に寝かした。
「はは・・あははは・・・
 魔力切れ?まるでお情けで貰ったような勝ちね」
「そうね、どんな形であれフランは負け、お前が勝った」
萃香はペタリと座り込み自嘲気味に笑った。
レミリアはそんな萃香に近づき、その頭を思い切り殴った。
「ぃたっ!?」
何事かと上を見上げれば不敵な笑みを浮かべたレミリアの姿があった。
「これで私の勝ち」
「は?」
「フランは負けたけど、これで私の勝ちね」
「はぁ!?ちょっと待て!!」
「これでお前は私たち姉妹に借りができた」
「何の話だ!?」
「借りがあるのだから、私たちに協力しなさい」
「勝手に話をすす・・・協力?」
「そう協力」
レミリアは満面の笑みを浮かべていたが、萃香は狐につつまれたような顔をしていた。


そのとき、部屋の隅からもぞもぞと何かが動く音がした。
何事かと音のする方を見ていると何かが這い出してきた。
「ふぅ、酷い目に遭ったわ」
「あ、忘れてた。
 私は幽々子を止めようとしてたんだった」
そこにいたのは天衣無縫の亡霊 西行寺 幽々子
どうやら、幽々子はさっきまで『過去を刻む時計』と床の間に挟まって動けなかったようだ。
そして、フランと萃香が激闘を繰り広げたこの部屋は

紅魔館の食料庫

「全く、この屋敷はどうなっているのかしらね」
そう呟いて立ち上がった幽々子の腹部をグングニルが貫いた。
「いたぁーい!?」
これ以上死ぬことは無い亡霊でも痛いものは痛いらしい。
グングニルにより磔にされた幽々子にレミリアがゆっくりと近づいていく。
「あら?あらら??」
「そうか・・・お前が原因か」
レミリアは幽々子に、満面の笑みを向けた。
但し、目は笑っていない。
「あらー・・・?何でそんなに怒ってるのかしら?」
「カリウムが足りないんだよ!!」









「・・・フランドーっ・・・ぐっ」
「あら、もう起きたの?でも、まだ動いてはダメよ」
咲夜は紅魔館内の自分の部屋で目覚めた。
その傍らには八意 永琳の姿があった。
永琳を呼んだのは咲夜だ。
フランと萃香を止めに入る前に、美鈴を診てもらうために小悪魔に呼んでくるよう頼んでおいたのだ。
しかし、こうして自分が診られることになるとは思ってもみなかった。
「あなたは人間なのに無茶しすぎね。
 今度、蓬莱の薬を創ってあげましょうか?」
永琳はふざけてそう言うが、咲夜は真剣に頭を振った。
「永遠に生きるなんてごめんだわ」
「あら、そう。
 でも、あなたのご主人は限りなく永遠に近い命を持ってるじゃない」
永琳は興味深げに咲夜の顔を覗き込む。
咲夜の方は少し鬱陶しそうに永琳を見上げる。
「そうね、お嬢さまたちは永遠に近い命を持っている。
 でも、私はそんなに長く仕える気はないわ」
「あら?あなたは彼女の忠誠を誓ってるんじゃないの?」
「えぇ、忠誠を誓っているわ」
「だったら」
「だからこそ」
咲夜は永琳に挑むように鋭い眼つきで言い放つ。
「だからこそ、私は人として生き、人として死に、人として彼女に仕える」
「・・・」
「貴女のように永遠に仕えるなんて、ごめんだわ」
咲夜はこれ以上話すことは無いと、スッと目を閉じた。
「・・そう・・・どうも、あなたとは意見が合わないわね」
永琳の方もこれ以上は何を話しても無駄だと察し、
診察道具などを片付け立ち上がった。
「そうそう、あの門番の娘はただのケガ、あなたほど酷くもないし何の問題も無いわ
 それと、あなたは少なくとも一日は安静にしていること。
 もちろん時間を止めたりしちゃダメよ。
 時間を止めたら、私の薬の効き目が無くなってしまうのだから」
「・・・フランドールお嬢さまは?」
「彼女は吸血鬼よ?一晩も休めばすっかり元通りよ
 それじゃぁ、お大事ね、メイドさん」
永琳は最後にそう告げると咲夜の部屋から去っていった。
「・・・人として・・・か」











フランは薄暗い部屋で目を覚ました。
そこは495年間見続けた自分の部屋。
「・・負けたのか・・・」
「そうね、あなたは負けたわ」
「ぇ?・・・お姉さま」
声が聞こえるまで気付かなかったが、
フランが寝ているベットの横にレミリアが座っていた。
「・・私・・・負け・・・」
「本当に無様だったわ」
「・・・」
「あの子鬼の無様な姿、あなたにも見せてあげたかったわ」
「・・・え?」
フランはハッと起き上がりレミリアを見た。
そこには満足そうな笑みを浮かべた姉の姿があった。
「あの子鬼ときたら、自分が勝ったはずなのに、
 まるで死んでいるかのような無様な顔をしていたわ」
「・・・」
「よく頑張ったわね、フラン」
レミリアはフランの頭を優しくなでた。
すると、フランはレミリアに抱きつき、声を上げて泣いた。
レミリアはそんな妹をぎゅっと抱きしめた。












三日後


「これは見事な桜ね、神社なんか目じゃないくらい」

無縁塚の巨大な桜の木の下に、レミリア、咲夜、パチュリー、小悪魔、美鈴、
そして、フランの姿があった。

「こらこら、一家心中か?そんなことは、このあたいの目が」
「出たわね、サボり魔」

予想どうりに人物の登場に咲夜が一言ボソッと漏らす。

「なっ、サボり魔だなんて人聞きの悪い」

小声で漏らしただけのはずだが、このサボり魔には聞こえたらしい。
そのまま言い訳をつらつらと並べ立て始めるが、その話はあっさりと打ち切られる。

「お酒を片手に現れては、まるで説得力がありませんよ、小町?」
「しっ四季さま!?」

酒を片手にフラフラと死神 小野塚 小町 が現れ、それを待っていたかのように
楽園の最高裁判官 四季映姫・ヤマザナドゥ が姿を現した。

「この桜の下で花見をしようとは、あなた達は少し慎重になる必要がある。
 ・・・ですが、今回は特別に目を瞑りましょう」
「あら?咲夜から随分口うるさいと聞いていたのに、意外とあっけないのね」
「今回の花見は、貴女と貴女の妹さんにとって善行となります。
 善行であることにわざわざ文句をつける道理はありませんよ。
 それに、今年の桜は綺麗な色をしています。以前のような危険はありませんよ」

映姫はそういうとニコリと笑い、その場にスッと腰を下ろした。
小町も、どういうことなにかイマイチ理解していないが、それにならい映姫の横に腰を下ろした。

すると、彼女たちを皮切りに、霊夢にアリス、輝夜に永琳ら永遠亭の面々、ルーミアやミスティアなどの妖怪たち、
ついには慧音に妹紅まで姿を現し、とうとうどこに住んでいるかもわからない八雲一家まで現れた。
それは、まさに幻想郷の主だった人間、妖怪たちが一同に集まった百鬼夜行のようであった。

「さぁ、フラン。今夜はあなたが主役よ
 主役らしくしっかりと挨拶をして来なさい」
「でもお姉さま、魔理沙が見当たらないんだけど」
そう言われてみれば、いつも最初に騒ぎ出すはずの魔理沙がいない。
「そういえば、ここしばらく魔理沙の姿は見てないわね」
レミリアたちの近くに来ていた霊夢がそうつぶやくと、
霊夢の背後から紫がにゅっと現れた。
「そういえば、すっかり忘れてましたわ」
紫はそう言うと、スッと宙を指でなぞり、スキマを広げた。

「ぎゃふっ」

すると、そこから魔理沙が落ちてきた。
「紫・・・あんた、まさかあの時から・・・」
「おほほほほほほほほほほほほ~」
霊夢がゾッとしたという表情で紫を見ると、
紫は口元を扇で隠し、胡散臭い笑い声を残して離れていった。

「イテテテ・・・一体なんなんだ!
 って、何だこの集まりは?
 祭りか?宴会か!?
 それなら私が!!」
ついさっきまでスキマに閉じ込められていたとは思えない元気さで魔理沙は動き出した。
しかし、レミリアがそれを力ずくで押し止めた。
「今日の主役はフランよ
 お前は少し静かにしてな」
「ぁ・・ぁぁ、わかった。
 なら、全力でフランをサポートするぜ」
さすがの魔理沙も三日間の監禁で多少は弱っているようだった。

「さぁ、フラン」
「フランドールお嬢さま」
レミリアと咲夜、そして他の紅魔館の住人たちに見守られ、
フランは桜の正面、妖怪たちの中心に堂々と立った。


そして、今夜の宴が始まる



続編でありながら、完成までに随分と時間がかかってしまいました。
ごめんなさい

妹様の性格がちょっと微妙な気もしますが
私の中ではこんな感じにうつってます
お嬢さまも然り

あと、この作品以降は
私がまともな作品が出来たと感じればプチではなく
創想話の方に投稿してみようと思います。

こちらで、かなり勇気付けられたので
叩かれるの覚悟で逝ってみようと思います

ぁ、逝っちゃダメか
緋色
http://hiiro1127.jugem.jp/
コメント



1.名前がない程度の能力削除
カリスマなお嬢様と狂気な妹様良いッすねぇ
創想話の方は肩の力抜いて頑張ってください
2.緋色削除
こんな無駄に長いだけの作品にコメくださってありがとうございますTT
時間を置いて自分で読んでみるとかなり矛盾点がでてきましたが、
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

お嬢さまはかわいいけどカリスマの塊なんだ!!がコンセプトです(ぇ

それと、
<肩の力抜いて~
というありがたいお言葉をいただきましたが
どうもカチコチでがんばることになりそうです

かなり小心者なので・・・


って、自分のコメ無駄に長いー
ごめんなさいー