きっかけは些細な事だった。
いつも通りに魔理沙がアリスをからかい、アリスがそれにさらに痛烈な皮肉で返す。
いつもならそうなるはずだった。
パァン!と小気味いい音が響き魔理沙の頬に痛みが走る。
「馬鹿! あなたになにが判るって言うのよ! 帰って!」
静かな湖面のような深いブルーの瞳を涙で揺らがせながらアリスは言い魔理沙を家から追い出した。
さらにすれ違いはつづく
いつも通りに魔理沙が図書館に侵入し、パチュリーと弾幕ゴッコをしつつ本を掻っ攫う。
いつもならそうなるはずだった。
パァン!と先ほど叩かれた方の反対側の頬に痛みが走る。
「・・・いつも思っていたけれど、本当に無神経だわ・・・もう、来ないで」
いつもは眠たそうにしている目を冷たく見下すように細め、パチュリーは魔理沙を図書館から追い出した
いつも通りにからかって、いつも通りに本を(死ぬまで)借りに行っただけなのに何故か今日は叩かれた。
魔理沙は不満だった、私とアリスの仲じゃないか。
魔理沙は憤慨した、私とパチュリーの仲じゃないか!
もやもやした気持ちを吐き出すべく博麗神社へと飛んだ。
「で?引っぱたかれた上に追い出されて泣く泣くココへイジケに来た・・・っと」
「泣いてないぜ! いじけてもいない・・・」
言葉とは裏腹に魔理沙はコタツに首から下全てをコタツに埋めてぐすぐす鼻をすすっていた。
「まぁ、いいけどね。 泣くだけ泣いて落ち着いたら謝りに行けば?」
「泣かないぜ! 謝りになんかいくもんか、あいつらが悪いのに!」
その言葉に呆れて溜息をつきつつ霊夢は言う
「あんたそんなこといってると友達無くすわよ、あの子らはあんたの友達でしょう?」
「もう友達なんかじゃないぜ、いきなり人の顔引っぱたく奴なんか」
魔理沙はぐずりながら強がる。
「それに、あいつらがいなくなったって私にはまだまだ友達がいるんだ! 霊夢こそ私くらいしかまともな友達がいないんだから、
私をもっと大切にしたほうがいいんだぜ」
ちょっとカチンと来た。
「そう? そこまで言うなら魔理沙と私で勝負でもする?」
「へ! 望むところなんだぜ」
先ほど泣いていたくせに、強気で魔理沙は受ける。
「なら、明後日の同じ時間に別々のイベントを開きましょう。 それで人数を多く集めたほうが勝ちよ」
「はは! 私を誰だと思ってるんだ? 幻想郷最速の宴会部長さんだぜ! 誰も来なくても泣くなよ霊夢!」
勝負方法を聞くなり憎まれ口を叩いて飛び去る魔理沙。
「・・・ふぅ、馬鹿なんだから・・・」
一息ついてから霊夢はおもむろに靴下を片方脱ぐ
「あ~! 脱ぎたての靴下が風で飛ばされちゃう~」
と、素人でもビックリな素晴らしく棒読みなセリフを吐きつつ庭先へ靴下を放る。
「「「霊夢の脱ぎたて靴下と聞いて飛んできました!!!!」」」
縁の下から文が、屋根裏から紫が、そしてコタツの中から萃香が飛び出した。
「いまだ! 神技『八方鬼縛陣』!」
ちょうど三人が一番靴下に接近する頃合を狙って結界を張る。
「「「しまった!罠か!?」」」
結界にとらわれ手も足も動かせない状態になってようやく気付く三人。
「あんたら、最強だったり最古だったりする割には間抜けよね・・・まぁいいわ、協力しなさい」
「あら、なんで私が霊夢に協力しなきゃいけないのかしら? 私は眠いのよ」
「わたしは取材に忙しいんです、お断りですね」
「そんな事より、酒のもーよ霊夢~、酒酒~ヒック」
囚われの身にも関わらずそれぞれ好き勝手な事を言い始める。
「眠いとか、酒とか取材とか言う割にはあんたらうちに潜んでなにしてたのよ」
呆れて博麗 霊夢が問う。
「「「霊夢を視線で裸にして楽しんでただけです」」」 「・・・大結界『博麗弾幕結界』」
ぴぴぴちゅーん
「で?協力してくれるわよね?」
「「「・・・はい、喜んで・・・」」」
☆★☆★
イベント当日、魔理沙は落ち込んでいた。
理由はだれにも相手にされなかったから。
行く先々で今日のイベントを宣伝し誘いをかけた、なのに誰一人として魔理沙のイベントに参加する意思を示したものはいなかった。
「なぁ、明後日なんだが、久しぶりにまた宴会するから来ないか?」
「ん? 私はその日霊夢のイベントに屋台出すから無理だね」
「なぁ、明後日なんだけど、宴会やるんだけど参加するよな?」
「あたいは霊夢に誘われてるからそっち行くよ、大ちゃんもレティも一緒に行くんだ~」
「なぁ、明後日なんだけど・・・」
「ごめん、その日は無理、なんだか知らないけどあの紅白のとこで面白い事やるんだって」
「なぁ、明後日・・・」
「ん? いくらくれんの? うちらのライブもただじゃないからね」
「なぁ・・・」
「なに? これから紅白巫女んとこのイベントの出し物メカの準備するんだから、邪魔しないでよね」
いつもは二つ返事で来ることを承諾するくせに、今回に限って誰もうんと言わない・・・
ふと宴会騒ぎの時萃香が言っていたことを思い出す。
「あんたは皆と対等じゃない、そろそろ気づいてきたんじゃない? 自分が皆に遊んでもらっているだけってことに・・・」
そのときは一笑にふしたその言葉が急に現実味を帯びて魔理沙にのしかかる。
「私は・・・遊んでもらってただけなの・・・か・・・?」
視界がどんどん歪んでいく、目頭が痛い、鼻の奥がツンとする。
「私は・・・わた・・し・・ひぐっ・・・ぐす・・・」
耐え切れなくなって嗚咽が漏れる。
惨めで切なかった。
思いが溢れて熱い水となって目から零れ落ちる。
帰ろう・・・そう思い箒に跨る。
「なに泣いてるのよ」
「・・・泣き虫」
不意に聞きなれた、ここにないはずの声がこだまする。
「アリス・・・パチュリー・・・ひぐっ」
涙を見られまいと慌てて反対側をむく。
「へ! 何しに来たんだよ、お前たちはこの宴会には呼んでいない筈だぜ?」
「強がり言って・・・寂しくて泣いてたくせに・・・」
パチュリーがゆっくりと魔理沙の横に下りる。
「ふん! 泣いてなんかいない! 寂しくもない!」
「声をかけた時、嬉しそうな顔をしたくせに」
アリスがからかう様に魔理沙の顔を覗き込む
「うるさい! 嬉しそうな顔なんてしてない! いきなり人の顔をぶつ奴らに会って何で嬉しそうにしなきゃいけないんだ!
それにどうせお前たちも私と遊んでやってるだけなんて見下してているんだろう!」
アリスと反対側を向こうとし、パチュリーと目があってしまいバッと下を向く。
「この前のことは謝らないわよ・・・あなたが悪い・・・でも、私は今でも魔理沙を友人だと思っているわ・・・」
パチュリーがそっと魔理沙の右手を両手で握る。
「痛い目見ないとわからないでしょう、あなたは。 友達だからこそ許せない時だってあるしね」
アリスがぎゅっと魔理沙の左手を握る。
「「ほら・・・宴会、するんでしょう?」」
逃げられないようにぐっとひきつけてアリスとパチュリーが問う。
「アリス・・・パチュリー・・・ぅ・・・ひ・・・ひぐ」
再び、こみ上げてくるものがあった。
寂しかったし、嬉しかった。
嬉しい! 嬉しい!! 嬉しい!!!
「うわーーーーん!!」
思わず二人に抱きついた。
「ほら、泣かないの・・・ちょっと!鼻水が垂れてるわよ!」
「魔理沙・・・苦しい・・・息が・・・」
抱きつかれた二人もまんざらではなさそうだった。
「うわーーーーーん!うわーーーーーん!!」
「ほんとうに泣き虫ね・・・皆に見られたら笑われるわよ?」
「息が・・クヒ・・・」
アリスはそっと魔理沙の頭を撫でながら言う、パチュリーは呼吸困難に陥りながらも魔理沙の背を撫でる。
「いいんだもん、私にはお前たちしかいないんだもん! うわーん!」
「「そのセリフ!頂き!!」」
不意にどこからか第三者の声が響く
「・・・ふぇ?」
「だれ!?」
「ヒュー・・・?」
三人が気付くと同時に隙間から霊夢と紫が這い出してくる。
空からは文が降りてきて、茂みから光学迷彩を身に纏ったカッパのにとりが出てくる。
「あんたたち、首尾は?」
「ええもう、バッチリですよ。 明日の紙面は『黒白プレイガールついに年貢の納め時か!?』で決まりですね!」
「上々だよ、決定的セリフは全て録音できたよ」
とにとりが手に持っていたメカを操作すると『私にはお前たちしかいないんだもん!私にはお前たちしかいないんだもん!』と魔理沙の声が再生された。
「ふふふ、魔理沙~ 全部みてたわよ~? 聞いてたわよ~? よかったわね、仲直り で き て!」
紫がニヤニヤ笑いながら魔理沙に言う
「お、お前たち・・・どうして・・・?」
「あんたと別れた後に皆に協力してもらってね、一芝居うたせてもらったわ。 どう?結構効いたでしょう?」
「魔理沙に一泡吹かせてやれるって聞いてねぇ、光学迷彩くん1号の敵は討たせてもらったよ!」
「おまけにあんな大胆発言! いやぁ、今回の発行部数は伸びますよ~」
状況を把握しきれない魔理沙に、霊夢とにとり、文が順々に答えていく。
「つまりは私たち・・・」
「・・・嵌められたようね・・・」
アリスとパチュリーが納得したようにつぶやく
「お、お前たち! よくも私に恥をかかせてくれたな! 絶対仕返ししてやるんだからな!」
「まぁまぁ、照れない照れない! 魔理沙さんの愛の告白は明日幻想郷中に音声付でばら撒いてあげますから!」
文はそういいつつ飛び上がり、魔理沙が弾幕を張るより早くすっ飛んでいった。
「ちょっと!私たちは何もしてないのに何で巻き込まれているのよ!」
「え~? 魔理沙の友達なんでしょー? 一連托生ってやつで大人しく巻き込まれといてよー」
まだその場にいたにとりにアリスが掴みかかるが、すんでのところでにとりは光学迷彩を使ってその場から掻き消えた。
「・・・あなたたちは逃がさないわよ・・・」
「あらあら、恋人たちの邪魔をしたらいけないわね、霊夢帰るわよ~」
「それじゃあ、末永くお幸せにね」
パチュリーが呪文詠唱に入るとすぐに紫と霊夢は隙間に飛び込んでしまった。
「・・・どうしよう」
「・・・どうするの?」
「・・・どうしようかしらね」
残された三人は顔を見合わせる。
「飲むか」
「飲むの?」
「飲みましょうか」
結局は飲む事にした、今はもう飲んで忘れてしまおう。
明日天狗を捕まえて新聞を撒かせないようにすればいい・・・
今日は三人だけの宴会を楽しもう。
私には二人の友達がいるのだから。
☆★☆★
「号外だよー! あの黒白魔法使いがついに年貢の納め時だよー! 号外ー!号外だよー!」
三人の魔法使いたちがささやかな宴会を楽しんでいる頃、神速で記事を書き上げた文が幻想郷の隅々にまで号外を配りまくっていたのだった。
魔理沙は周りに自分の傍若無人っぷりを許されて生きてるからな。
ホント周りは大人だなって思った
まぁ東方ならではといったところか
外の世界じゃ間違いなく生きていけんな、原作でも周りからそう好かれていないが。
そういう子供っぽいところが母性本能をくすぐるんだよ、きっと。
大切な一生涯の宝物です。
そう、心の宝物です。