――魔理沙ファンの方だけはお読み下さいませぬよう伏してお願い奉ります。
「もう今年も終わりだな」
呟いてから読んでいた本から窓へと目をやると、すっかり暗くなったおかげで見えるはずの見慣れた風景は見えなかった。無理もない。すでに酉の刻は回っているはずだった。
冬はどうしても感傷的になってしまう。それは多分に、太陽が顔を出す時間の減少によって陰陽のバランスが陰寄りになってしまうことと関係しているだろう。
ましてや夜になってしまえば世界は黒く染まり、五行において玄(くろ)を冠する冬の気はますます強まる。思考も暗く、陰へと引き摺られて行ってしまう。
そして、一つの年が往く。毎日が特別で、それゆえに特別でない日々を送る僕でも、どうしても過去を振り返るようなことばかり考えてしまう。きっと過ぎ去った時間というものは「霖之助さん」
「…なんだい?」
僕の思索は、霊夢の無遠慮な声で中断を余儀なくされた。
「寒いんだけど」
「真冬に着込まずに居て寒いのは当たり前だよ。綿入れが奥にあるから」
彼女は僕が何を言っても、あの肩を出した巫女装束を着ることをやめようとしない。その上厚着もしない。聞くところによれば、最近幻想郷に来たという巫女もそんな衣装らしい。巫女の間にそういった不文律があるとは聞いたこともないのだが…。
「ん~…」
やはり、抵抗があるようだ。何故そこまで拘るのだろうか。何度訪ねてもはぐらかされ続けていたが、新入りの巫女に聞けば答えてくれるかもしれない。
「ま、店内に居るうちはいいか」
外に居るといけないらしい。ますますわからない。
僕が懸命に霊力や神との交信といった方向性から、巫女装束の肩を露出させる理由へのアプローチをしている内に、本人は店の奥で綿入れを着込んで暖かそうにしている。
と、外の冷気とともに見慣れた顔が飛び込んでくる。
「香霖。霊夢来てるか?」
「ああ、奥に」
もう一人の常連(客は付かないのが悩ましい)、魔理沙だ。鼻の頭が赤くなっているところを見ると、結構な距離を飛んできたようだ。発言から察するに、博麗神社経由でこちらに来たのだろう。
「夕飯を一緒に食べようと思ったら霊夢が居なくてな。こっちに居るなら香霖も一緒に食べ…」
「…? 魔理沙?」
店の奥に目を向けた魔理沙は、青褪めた顔をして目を見開いている。
視線の先には、霊夢。
「霊夢が腋を出してない!」
いくら毎日が特別だからって、そりゃないだろう。
僕はほんの数分前までの静かな時間に戻りたいと痛切に願った。これも冬のせいだろうか。
「霊夢腋は!?」
詰め寄る魔理沙。
「ちゃんとあるわよこのへたれ受け」
意味のわからない罵倒をする霊夢。
「へたっ!? いや、それより腋が出てない霊夢なんか霊夢じゃない! ただの巫女だ!」
もう訳がわからない。
「うるさいわね。あんたフェチだったの?」
「失礼な。私は霊夢のことを思って腋を出せと」
どう霊夢のことを思えば腋を出すことを薦めることになるのだろう。陰陽や五行では説明は付きそうにない。
「じゃああんたが居ない所でだけ腋を出すわよ」
「フェチです」
フェチらしい。
「じゃあ素直に見たいから出せって言えばいいじゃない」
「そ、そんなハレンチなことは言えないぜ…」
顔を赤らめてもじもじする魔理沙。腋フェチなのだと思うとなんだか気味が悪かった。
「大体腋がいいなら萃香や早苗でいいでしょーが」
そういえば新入り巫女はそういう名前だったな、と僕は目の前で繰り広げられる訳のわからないやり取りの内容からの逃避を図った。
「わ、私は腋ならなんでもいい変態とは違うんだぜ!」
自分はフェチだと公言する人を変態じゃないと言い切ることを、僕は出来そうにない。
「フン。いつもあの二人と居る時は腋を凝視してるくせに」
凝視しているらしい。僕は心からその二人と魔理沙が同時に来店しないことを願った。そんな魔理沙を見ているのは心底辛いに違いなかった。
というか会話の流れから察するに、もしかしてこの二人は痴話喧嘩をしているのだろうか。あまりに発言の内容がブッ飛んでいてわからなかったが。
「そんなに腋がいいなら木のくぼみでも舐めてればいいのよ!」
お願いだから霊夢。これ以上罵倒の文句と思しき言葉を魔理沙に浴びせないでくれ。僕の心が折れそうだ。
「霊夢こそ! レミリアやフランや小悪魔の羽をじっと見てるじゃないか! ミスティアが霊夢がいやらしい手つきで羽を撫でるんだって言ってたぜ!」
「ドキッ! べ、別にそんなんじゃないわよ!」
口でドキッと言う人を見るのは長いこと生きてきたが初めてだった。特に見たくもなかったが。
「そんなに羽が生えてるのがいいなら風車と結婚すればいいだろ!」
ラ・マンチャの騎士も結婚まではしなかったなあ。
そろそろ僕の限界も近づいている。
「この羽フェチ!」
「腋よりかはマシよへたれ総受け!」
僕はもう何も考えず、カウンタの裏に積んであるガラクタの山から、あるものを探し出すことに専念することにした。
「私は! ただ魔理沙の羽根が一番綺麗だなって…」
「え…」
「随分前に…使ってたでしょ? 羽が生える魔法…。あの羽が、目に焼きついて離れないのよ」
「わ、私だって、霊夢の腋が一番綺麗だって…あの二人の腋を見ながら…ずっと…」
僕はようやく、お目当てのものを探し出した。
「ああ! 魔理沙!」
「霊夢!」
生まれ生まれ生まれ生まれて生の初めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し。
今宵の森近霖之助は――
晴れやかな笑顔を浮かべて、二人が振り返る。
「霖之助さん」
「香霖」
「「私たち、結婚することにしました」」
以上が、草薙の封が解かれた一件の一切の次第である。
「もう今年も終わりだな」
呟いてから読んでいた本から窓へと目をやると、すっかり暗くなったおかげで見えるはずの見慣れた風景は見えなかった。無理もない。すでに酉の刻は回っているはずだった。
冬はどうしても感傷的になってしまう。それは多分に、太陽が顔を出す時間の減少によって陰陽のバランスが陰寄りになってしまうことと関係しているだろう。
ましてや夜になってしまえば世界は黒く染まり、五行において玄(くろ)を冠する冬の気はますます強まる。思考も暗く、陰へと引き摺られて行ってしまう。
そして、一つの年が往く。毎日が特別で、それゆえに特別でない日々を送る僕でも、どうしても過去を振り返るようなことばかり考えてしまう。きっと過ぎ去った時間というものは「霖之助さん」
「…なんだい?」
僕の思索は、霊夢の無遠慮な声で中断を余儀なくされた。
「寒いんだけど」
「真冬に着込まずに居て寒いのは当たり前だよ。綿入れが奥にあるから」
彼女は僕が何を言っても、あの肩を出した巫女装束を着ることをやめようとしない。その上厚着もしない。聞くところによれば、最近幻想郷に来たという巫女もそんな衣装らしい。巫女の間にそういった不文律があるとは聞いたこともないのだが…。
「ん~…」
やはり、抵抗があるようだ。何故そこまで拘るのだろうか。何度訪ねてもはぐらかされ続けていたが、新入りの巫女に聞けば答えてくれるかもしれない。
「ま、店内に居るうちはいいか」
外に居るといけないらしい。ますますわからない。
僕が懸命に霊力や神との交信といった方向性から、巫女装束の肩を露出させる理由へのアプローチをしている内に、本人は店の奥で綿入れを着込んで暖かそうにしている。
と、外の冷気とともに見慣れた顔が飛び込んでくる。
「香霖。霊夢来てるか?」
「ああ、奥に」
もう一人の常連(客は付かないのが悩ましい)、魔理沙だ。鼻の頭が赤くなっているところを見ると、結構な距離を飛んできたようだ。発言から察するに、博麗神社経由でこちらに来たのだろう。
「夕飯を一緒に食べようと思ったら霊夢が居なくてな。こっちに居るなら香霖も一緒に食べ…」
「…? 魔理沙?」
店の奥に目を向けた魔理沙は、青褪めた顔をして目を見開いている。
視線の先には、霊夢。
「霊夢が腋を出してない!」
いくら毎日が特別だからって、そりゃないだろう。
僕はほんの数分前までの静かな時間に戻りたいと痛切に願った。これも冬のせいだろうか。
「霊夢腋は!?」
詰め寄る魔理沙。
「ちゃんとあるわよこのへたれ受け」
意味のわからない罵倒をする霊夢。
「へたっ!? いや、それより腋が出てない霊夢なんか霊夢じゃない! ただの巫女だ!」
もう訳がわからない。
「うるさいわね。あんたフェチだったの?」
「失礼な。私は霊夢のことを思って腋を出せと」
どう霊夢のことを思えば腋を出すことを薦めることになるのだろう。陰陽や五行では説明は付きそうにない。
「じゃああんたが居ない所でだけ腋を出すわよ」
「フェチです」
フェチらしい。
「じゃあ素直に見たいから出せって言えばいいじゃない」
「そ、そんなハレンチなことは言えないぜ…」
顔を赤らめてもじもじする魔理沙。腋フェチなのだと思うとなんだか気味が悪かった。
「大体腋がいいなら萃香や早苗でいいでしょーが」
そういえば新入り巫女はそういう名前だったな、と僕は目の前で繰り広げられる訳のわからないやり取りの内容からの逃避を図った。
「わ、私は腋ならなんでもいい変態とは違うんだぜ!」
自分はフェチだと公言する人を変態じゃないと言い切ることを、僕は出来そうにない。
「フン。いつもあの二人と居る時は腋を凝視してるくせに」
凝視しているらしい。僕は心からその二人と魔理沙が同時に来店しないことを願った。そんな魔理沙を見ているのは心底辛いに違いなかった。
というか会話の流れから察するに、もしかしてこの二人は痴話喧嘩をしているのだろうか。あまりに発言の内容がブッ飛んでいてわからなかったが。
「そんなに腋がいいなら木のくぼみでも舐めてればいいのよ!」
お願いだから霊夢。これ以上罵倒の文句と思しき言葉を魔理沙に浴びせないでくれ。僕の心が折れそうだ。
「霊夢こそ! レミリアやフランや小悪魔の羽をじっと見てるじゃないか! ミスティアが霊夢がいやらしい手つきで羽を撫でるんだって言ってたぜ!」
「ドキッ! べ、別にそんなんじゃないわよ!」
口でドキッと言う人を見るのは長いこと生きてきたが初めてだった。特に見たくもなかったが。
「そんなに羽が生えてるのがいいなら風車と結婚すればいいだろ!」
ラ・マンチャの騎士も結婚まではしなかったなあ。
そろそろ僕の限界も近づいている。
「この羽フェチ!」
「腋よりかはマシよへたれ総受け!」
僕はもう何も考えず、カウンタの裏に積んであるガラクタの山から、あるものを探し出すことに専念することにした。
「私は! ただ魔理沙の羽根が一番綺麗だなって…」
「え…」
「随分前に…使ってたでしょ? 羽が生える魔法…。あの羽が、目に焼きついて離れないのよ」
「わ、私だって、霊夢の腋が一番綺麗だって…あの二人の腋を見ながら…ずっと…」
僕はようやく、お目当てのものを探し出した。
「ああ! 魔理沙!」
「霊夢!」
生まれ生まれ生まれ生まれて生の初めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し。
今宵の森近霖之助は――
晴れやかな笑顔を浮かべて、二人が振り返る。
「霖之助さん」
「香霖」
「「私たち、結婚することにしました」」
以上が、草薙の封が解かれた一件の一切の次第である。
自決するために草薙の剣を自らの腹に突き刺したというわけですか(曲解)
おねがいふたりをたすけてあげて><
読み終わった瞬間
「脇巫女霊夢」がBGNに流れてきた・・(音楽聴きながら読んでましたので。
何だかな~~。
他所でやれ二人とも