「わらわは輝夜。月の民じゃ。お主たち地上の民どもとは格が違うのじゃ」
「さぁ永琳!私たちの力を思い知らせてやりなさい!」
「はい輝夜様」
永琳は地上の民どもに迫っていった。
「あっはっは、見ろ人がゴミのようだ!!」
輝夜は空を仰ぎ
「祝え!今宵も月が輝いておる。そして授かるのだ!あのすばらしき魔力を!!」
「おーほっほっほっ」
「まだあさだよ?てるちゃんなにいってるの?おっかしぃー」
「う、うるさい!わらわに口答えするとは何様のつもりじゃ!」
すべり台のてっぺんで叫んでいても全く説得力がない。
「みんなーそろそろ中に入りましょうねー」
『はーい!』
永琳は子供たちを母屋へと促した。
「ほら、かぐやちゃんも中にはいりましょう」
「えーりんはわたしをうらぎるつもりか!」
「先生を呼び捨てにするのはだめですよ。かぐやちゃん今日はお昼抜きかな」
「ごめんなさい」
するすると滑り降りてくる輝夜。
ここは東方幼稚園。人間、化物、妖精、ありとあらゆるものたちが通う場所。
私、八意永琳はここで先生兼保健医をやっています。担当は月組です。
朝はみんなでおえかき。テーマは『だいすきなひと』です。
「これはもこうちゃんねー」
「ええ。殺してやりたいぐらいだいすきだわ…」
輝夜ちゃんはすばらしい友達をもっていていいですね。
「まりさちゃんは…」
「りんのすけ」
「んーこの棒は何かしら」
肌色を基調としたその絵の中でと黒々と強調された長い物体。
「たまにさわらせてもらえるんだけど、このまえしゃぶれよって…」
「まりさちゃん!」
「うわーん」
つい怒鳴ってしまいました。森近さんはあとで注意しておかないと。
「ちるのちゃんはかけてるかなー」
えっ!?なにこの単純な形の物体は…
「えーっと、これは誰なのかなー」
「ぺんたごん」
ぺんたごん?もしかしてあのジャスティス国防総省のこと?なんで?
「ちるのちゃん難しい言葉知ってるのね。でもね、今日は大好きな人をかいてほしいの」
「うん!だからぺんたごん」
「どうして?」
「だってつよそうじゃん!あたいつよいのだいすき!」
ふぅ
「すいかちゃんはどうかなー」
だけど萃香ちゃんはなにも描いていない。
「…」
そうか。
誰かを愛しても結局その人は先にいなくなってしまう。だから大好きと呼べる人がいなくなってしまったのね。
ごめんね萃香ちゃん…
「そしたらだいすきなものでもいいわよ」
そして彼女は紙いっぱいに、まるで極太の筆を使って書いたかのような文字を完成させました。
『酒』とでかでかと。
お絵かきのあとはアリス先生の人形劇です。
彼女はここに教育実習生としてきています。
―むかしむかしあるところに、ふたりの少女がいました。
ひとりは山へキノコ狩りに、ひとりは川へ洗濯にいきました。
アリス先生は毎回新しいお話を作ってきてくれて、子供たちも大喜びです。
―そのよる、ふたりは山で採れたキノコを食べることにしました。
赤や黄色や緑色をしたそのキノコはとてもおいしく、ふたりはいっぱい食べました。
すると突然ひとりの少女が『おなかがいたいよぉ~』と言ってその場に倒れてしまいました。
なるほど。これは食中毒の危険性を子供たちに教えるためのお話ですね。
医療に携わっている者としては大変にうれしいです。
しかしあの人形どこかで見たような…
―するともうひとりの少女がたいへん心配しました。
「大丈夫?魔理沙しっかりして!」
ん?魔理沙?
―「あぁちょっとあたっちまっただけだ。たいしたことないって。」
「でも、魔理沙に何かあったらわたしもう…」
「心配するなってアリス。私はいつでもお前のそばにいてやるから…」
そういって魔理沙はアリスに軽くキスをし、彼女の服をするすると脱が―
―ドーン
子供たちに手を出すお話はまずいですね。
ちょっと妄想癖が強いところがアリス先生の欠点です。
休み時間です。
「せんせー」
「どうしたの?うどんげちゃん」
「ぴよちゃんがいなくなっちゃった」
ぴよちゃんというのはうどんげちゃんが母屋の中でかわいがっているひよこのことです。
「だから小屋の中で飼いましょうって言ったのに」
「でもせまいところにとじこめちゃったらかわいそう…」
うどんげちゃんは本当に動物が好きなのね。
とてもきれいな心の持ち主で先生うれしいです。
「わかりました。あとで一緒に探してあげますね」
「…うん」
うなずいて振り返った彼女の背中には謎のしみが…
赤くもあり、黄色くもあるそのしみはまさか!?
「うどんげちゃん、ちょっとお洋服脱ぎましょうか」
脱がした彼女の服をまじまじと見つめてみたのですが、これは…
あら?
匂いを嗅ぐと何か違いますね。
酸っぱいような鼻にツーンとくるような。
「それね、きのうおひるごはんたべていたらこぼしちゃって、それではんたいむきにきてたの」
なるほど。これはケチャップとマスタードでしたか。
よかった。
もしアレでしたら、うどんげちゃんはショックで立ち直れなかったでしょう。
とりあえず彼女の服は洗濯しておいてあげることにしました。
紅組のパチュリー先生はいろんな本を持っていて、いつも子供たちに聞かせてあげています。
今日はどんなお話なのでしょうか。
―この世界とはまた違う別の世界のお話。そこにいる一人の少年は毎晩悩んでいました。
時間がない。何も思いつかない。眠気が襲ってくる。このままでは真っ白になってしまう―
・
・
・
すばらしいお話です。
先ほどのように脱線することもなく、子供たちに教訓を伝えてあげることができるすばらしい内容でした。
『時間を計画的に使わなければ歴史の1ページは真っ白になってしまう』
ちょっと難しかったせいか、チルノちゃんはスースーと寝てしまっていますね。
実にかわいい寝顔です。
「ほぉ…このパチュリー様が絵本を読んでさしあげているというのに寝るとはいい度胸ね」
パチュリー先生?
「咲夜!」
パチンッ
「パチュリー様お呼びでしょうか」
「連れて行きなさい」
その後、チルノちゃんは紅魔館で世間の厳しさを教え込まれたらしいです。
寝たら死ぬ。まさしく冬山登山ですね。
「なぞなぞを出しまーす」
子供たちはビクビクでなぞなぞどころではないといった感じですが。
あんなことがあったあとではしょうがないですね。
『バーに来る飛べない鳥はなーんだ』
みんなちんぷんかんぷん。
あまりにもなぞなぞが高度すぎて私もわかりませんでした。
その様子を見てパチュリー先生は大喜びでした。
彼女が言うには自身の最高傑作らしいです。
お昼の献立は毎日先生方が交代で考えています。今日は雪組担当藍先生の番です。
食後にはおやつも待っています。今日のおやつはウェディングケーキらしいです。
「いただきます」
『いただきます』
藍先生の考えたお昼はどれもおいしそうです。
とくにこの唐揚げ。
とてもやわらかくてジューシー、脂の乗り具合もちょういい。
「藍先生。この鶏肉おいしいですね」
「えぇ、実は新鮮な鶏肉が手に入りましてね。それを使ったんです」
なるほど。鮮度がいいからこそこの味が出せるのですね。
「その鶏肉は先生が持ってきてくれたんですか?」
「いいえ、ついさっきまで調理場にいた鳥です」
あら?
「じゃあ誰かが持ってきたんですか?」
「わたしは知りませんよ」
「その鳥って羽毛が黄色でしたか?」
「えぇよくご存知で」
姉さん事件です。
これはまずいです。あのいなくなったひよこだとしたら一大事です。
とにかく子供たちが食べる前に回収しないと。
「みんなっ!食べちゃだめ!」
「せんせーどうしたの?」
「せんせいっ♪私がそんなことをするはずがないじゃないですか」
とりあえず藍先生のほほを思いきりつねておきました。
「ふぇーりんひぇんひぇいふぁあいい♪」
「そんなことどうでもいいです」
「ふぁぁ…でもさっきまで生きていた鳥を使ったというのは本当ですよ」
「どういうことですか?」
「今朝調理場で下準備をしていたら2羽のニワトリがいて…」
「もしかしてそのニワトリの足に番号札ついてなかった?」
「ついていましたよ」
まさか。
私は急いで母屋の裏にある竹林の中に入っていきました。
そこには私しか知らない秘密の地下実験施設があるのですが…
やはり扉が開いています。
祈るような気持ちで中に入ってみると
「あぁいない。私の実験用動物がいなくなってる…」
藍先生。もう手加減はしません。
「せんせい?」
「うどんげちゃん!どうしてここにいるの?」
「あそんでたらここをみつけて…」
遊んでたら?もうお昼ごはんは終わったのですか。
私ったらショックで時間が経つのも忘れていたようですね。
幸いなことに、他に人はいないようです。
「ここにいたニワトリさんとかウサギさんがどこにいっちゃったか知らないよね?」
「とじこめられててかわいそうだったからわたしがきのうにがしてあげたよ」
「そうなんだ~」
彼女の頭をガッとつかんだ。
これからはうどんげに実験対象となってもらうようにしましょう。
さて、おひるねのお時間です。
あら萃香ちゃんが見当たりませんね。
「ねぇすいかちゃんどこに行ったか知らない?」
「知らないよー」
トイレに行ったのでしょうか。
でもトイレにはいません。
じゃあ外で遊んでいるのかな。
外にもいません。
「どこにいったのかしら」
他の先生方も見つけられませんでした。
「まさか誘拐された…」
森近さんは永久追放ですね。
「深刻な事態ね」
「魔理沙ちゃん!聞いてたのね」
魔理沙ちゃん…なんてやさしい子なの。
「それじゃあ一緒に探し…」
「全員水小袋怪物できてしまったわ。電気鼠に虐殺されてしまう。」
だめだわ。
とにかく探さないと。
もしかしたら子供たちしか知らないような秘密の場所があるのかもしれない。
そうだわ、他の子供たちにも協力してもらうことにしましょう。
「萃香ちゃーん!萃香ちゃーん!」
『すいかちゃんどこー』
どこにもいません。
もしかしたら本当に誘拐されてしまったのでしょうか。
森近さんには…
「あっ!萃香ちゃん」
彼女は母屋から少し離れた林の中で座り込んでいました。
「萃香ちゃんどこにいってたの!みんな心配してたのよ」
よく見ると萃香ちゃんの手には黄色いものが。
「もしかしてひよこを探してたの?」
「…うん」
「なんで勝手に探しにいっちゃったの」
「…だって、ひとりぼっちじゃさみしいから」
そうか。
この子は孤独の寂しさを誰よりも知っている。
だからひよこがひとりぼっちで寂しいのではないかと心配していたのね。
「萃香ちゃんはやさしいのね」
と、萃香ちゃんの後ろに何かいるのですがあれは…
「あれそのうさぎさんは?」
「ひよこをさがしてたらみつけたの」
あぁよかった。藍先生から逃げ切った生き残りね。
とりあえず他の人に見つからないうちに地下にもどしておかないと。
「よかった。見つかったんですね」
見つかったか。よりにもよって藍先生に。
「あらそのうさぎさんどうしたんですか?」
「あ、あぁ萃香ちゃんが見つけたらしいですよ」
「かわいいですね。幼稚園で飼いましょうか」
「え!?あ、あぁそうですね」
うどんげちゃん…これから大変だろうけどがんばってね。