青く輝く満月の下、吸血鬼 レミリア・スカーレット は紅魔館へ続く湖畔の道を歩いていた。
普通の魔法使い霧雨 魔理沙が企画した宴会の帰り道なのだが、
友人の魔女 パチュリー・ノーレッジ は酔い潰れていたのでとりあえず置いてきた。
後片付けをするようにメイド長 十六夜 咲夜 に指示しておいたので、
後片付けが終了しだいパチュリーを回収して戻ってくるだろう。
ぼんやりと考え事をしながら歩いていると何の前触れもなく咲夜がレミリアの背後に現れた。
「お嬢さま、ただいま戻りましたわ」
わざわざ時間を止めて追いかけてくる必要はないのに、とレミリアは苦笑を浮かべ振り返った。
「お疲れさま。ん?咲夜、パチェは?」
てっきり咲夜がパチュリーを連れて帰ってくるものだと思っていたが、その咲夜は手ぶらで目の前に立っていた。
「パチュリー様でしたら今夜はアリスのところにお泊りになるそうですわ」
「あぁ、あの人形遣いか」
レミリアはアリスのことはあまり詳しくは知らないが、パチュリーの図書館や宴会などで見る分には
特に警戒するような悪意などは感じないし、何よりパチュリー自身が泊まると言い出したのだろうから、
それなりに信頼できる人物なのだろうと結論付けた。
「あのパチェが外泊か~・・・ねぇ、咲夜?」
「いけません」
「ん?私はまだ何も言ってないけど?」
「霊夢のところに泊まりに行きたいと仰るのでしょう?それはいけません」
予想はしていたが咲夜にずばり言い当てられたレミリアは頬を膨らませた。
「む~・・・」
「むくれたところで許可できません。第一、今あそこには魔理沙もいるのですから、何があっても許可しません」
キッパリと断る咲夜にレミリアは抗議の視線を送っていたが、しばらくすると、ハァとため息をつき、
今回は諦めるわ、とくるりと紅魔館の方に向きを変え歩き始めた。
レミリアが本気でそうしたいと思っていたなら、咲夜が止めたところで全く効果はないが、
今回は遊び半分だったらしく、レミリアの方が簡単に折れたのだった。
しかし実際のところ、このメイド長、陥落寸前だったりする。
こうしてレミリアと咲夜は紅魔館に向けて歩き始めた。
しばらくして、不意にレミリアが口を開いた。
「ねぇ、咲夜。神社の桜はあとどれくらい持つかしら?」
「神社の桜でしたら、あと一週間ほどは見ごろかと思いますが・・・突然どうしたのですか?」
「フランのことよ」
「妹様ですか・・・」
「一週間あるなら、もう一度くらいは宴会が出来そうね」
「お嬢さま、もう一度、妹様を宴会に連れて行くということですか?」
咲夜は非常に不安そうな表情でレミリアを見た。
それに対してレミリアは困ったような表情で返す。
「あの子も霧の一件以来、少しずつ変わってきてるからね。いつまでも屋敷に閉じ込めておくわけにもいかない」
そう言うレミリアに対して咲夜は、ですが、と食い下がるが、レミリアはそれを手で制した。
それは十日前、今日と同じように魔理沙が企画した宴会でのことだった。
その宴会には霊夢、魔理沙、アリスはもちろんのこと、白玉楼からは 西行寺 幽々子 と 魂魄 妖夢 の主従、
永遠亭からは、蓬莱山 輝夜、八意 永琳、鈴仙・優曇華院・イナバ、さらに 因幡 てゐ が参加し、
加えて、鬼の 伊吹 萃香 と烏天狗の 射命丸 文、そして紅魔館からはレミリア、咲夜、パチュリーの三人に加え、
レミリアの妹 フランドール・スカーレット も参加していた。
フランにとって神社での宴会は初めての体験であったため、とても嬉しそうに参加していた。
その様子に彼女が羽目を外し過ぎないようにと、レミリア以下、紅魔館のメンバーが見守っていた。
しかし、時間が経つにつれて見守っていた紅魔館のメンバーも周りの状況の流され、
いつの間にかフランを見守ってる者はいなくなっていた。
そんな宴会が最も盛り上がる頃合だった。
「あはははははははははっ」
突然フランの笑い声が響き渡った。
宴会をやっているのだから笑い声が絶えることはないが、
紅魔館のメンバーからすればこの笑い声、この笑い方は、決して響いてはならないものだった。
必然的にレミリア、咲夜、パチュリーの三人がフランの姿を探す。
しかし、探す必要は全くなかった。
―――禁忌「レーヴァテイン」―――
フランの狂った笑い声と共に、彼女の持つ魔杖から炎が舞い上がる。
「さっ咲夜!!」
咄嗟にレミリアは咲夜の名を叫ぶ。
「わかっています!」
―――傷魂「ソウルスカルプチュア」―――
咲夜の持つナイフが煌き、魔杖を振り下ろさんと高く掲げられたフランの両腕を切断した。
しかし、彼女は吸血鬼だ。切断しただけではすぐに再生が始まってしまう。
―――夜符「デーモンキングクレイドル」―――
レミリアは咲夜が離脱するかしないかギリギリのところで突撃を仕掛けフラン本体を切断した両腕から引き離した。
そして、切断された腕こそ付いているものの、持ち手を失った魔杖をパチュリーが吹き飛ばす。
―――金土符「ジンジャ
「ゲホッ」
パチュリーは喘息でスペルと唱えきれない。
「パチェー!?なにしてる!!」
「ケホッ、さすがに急には・・・ケホッ」
両腕を失いながらもケラケラと笑いながら暴れるフランをレミリアは懸命に押さえつけながらパチュリーの方へ目を向ける。
その視線の先では、パチュリーが吹き飛ばし損ねた魔杖が、彼女に向かって落下を始めていた。
しかし、パチュリーはそれに気付くどころか、まだ咳き込んでいる。
「逃げろ!パチェ!!」
「え?」
レミリアがたまらず叫び声を上げたところで、ようやく息が整ったとパチュリーが顔を上げた。
そこには、既に目前に迫った魔杖の、レーヴァテインの炎の刃があった。
この距離ではスペルの詠唱は間に合わない。パチュリーの顔が一気に青褪めた。
「パチェー!!」
「ぁぁー・・・うるさい!!」
―――夢境「二重大結界」―――
寸前のところで飛び出した霊夢の結界が轟音を立てて炎の刃とぶつかる。
「くっ」
さすがの霊夢も、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持つフランが放ったスペルを
正面から受け続けることは難しい。
どんな強力なスペルも避ける方が簡単なのだが、今回ばかりは結界を解いて避けるわけにはいかない。
霊夢の背後には神社の社があるのだ。必死にもなる。
「全く・・・何が起こったのかと思ったわ」
そう言い、霊夢の横に立ったのはアリスだ。
アリスはサッと二体の人形を操作し、魔杖からフランの腕を払いのけ、そのまま魔杖を上空へと投げ捨てた。
「あとは頼んだわよ」
アリスの声に応えるように、いつの間にか上空に待機していた魔理沙がミニ八卦炉を構える。
―――恋符「マスタースパーク」―――
幻想郷において最強クラスの威力を誇る魔砲がレーヴァテインの炎を消し去り、魔杖を吹き飛ばす。
「やっぱり弾幕はパワーだぜ」
レミリアは三人のその手際の良さに感嘆していた。
しかし、少しはおとなしくなったかと思っていたフランが、お姉さま離してー、と再び暴れだした。
「ちょっと、フラン!おとなしくしなさい!!」
「やだー!弾幕ごっこするー!!魔理沙たちと遊ぶのー!!」
レミリアはフランを羽交い絞めにする形で何とか彼女の動きを封じていた。
そこに永琳が近づいてきてフランの口の中に丸薬を放り込んだ。
「妖怪用の即効性の睡眠薬よ。吸血鬼には試したことはないけど・・・そうね、一時間ぐらいは持つんじゃないかしら」
永琳が説明を終える頃には、フランは規則的な寝息をたて始めていた。
その様子にレミリアはようやくホッと息を付いたが、そのレミリアの頭上に霊夢のげんこつが落ちてきた。
「いたっ!?」
「あんたの妹でしょ、ちゃんと面倒見なさいよ」
霊夢は呆れたといわんばかりの表情でレミリアに詰め寄った。
「う~・・・」
「うー、じゃない」
「・・はい・・・」
「よろしい」
結局フランが突然暴れだしたのは、お酒に余り慣れていないフランに萃香が大量に酒を飲ませたのが原因であった。
このとき萃香は、既に霧化して逃走していたが、後日、霊夢にこっぴどくお叱りを受けたそうだ。
ちなみにパチュリーは霊夢が結界を発動させる直前に咲夜に救出され、傷一つない姿でピンピンしていた。
そんなパチュリーに腹を立てたレミリアがあとでちょっかいを出したのは言うまでもない。
また、余談ではあるが魔理沙が吹き飛ばした魔杖を探すために、某所の門番が徹夜で駆り出されたとか何とか・・・。
まぁ、この情報の真偽は定かではないのだが・・・
十日前の宴会でこんなことがあったのだ。
咲夜が反対するのも無理はない。
しかし、レミリアはその反論を遮り、次回の宴会にはフランも連れて行くと断言した。
「次は絶対にフランから目を離さない。しっかりと見守って見せるわ」
レミリアの目はフランに対する愛情と決意に満ちていた。
「そういうことでしたら、次回とは言わずに今回も連れていかれれば良かったのでは?」
「あの子鬼が原因とはいえ、フランにも責任の一端はある。今回はおしおきのためよ」
苦笑する咲夜に対して、レミリアも同じように苦笑で返した。
そう二人が笑いあった時、屋敷の方から轟音が響いた。
「なに!?」
「お嬢さま!屋敷が!!」
咲夜に言われ、紅魔館の方を振り返ると屋敷の中から「何か」がとび出していた。
「あれは・・・!」
レミリアが屋敷の方へ飛び立とうとした瞬間、目の前を氷の刃が通りすぎる。
「こんなところで吸血鬼に会うなんて、たまには夜中に遊びに出てみるものね!」
レミリアが威圧するようにゆっくりと湖の方へ振り返ると、
そこには氷の妖精 チルノ と宵闇の妖怪 ルーミア がフヨフヨと飛んでいた。
「これはアタイの最強伝説が始まったとしか考えられないわね!」
「そーなのかー」
「お嬢さま、ここは私が」
咲夜がナイフを構え、臨戦態勢に入るが、レミリアはそれを止めた。
「咲夜は先に屋敷に戻れ。この空気の読めない馬鹿どもは、私が潰す」
確かに時間を止めて移動できる咲夜の方が早く紅魔館に辿り着ける。
咲夜は、わかりました、とナイフをしまい、即座に移動を開始した。
「あれ?メイドが逃げた?」
咲夜が突然姿を消したことにチルノは気付いたが、
アタイ=最強→逃げた
という考えに至ったようで、満足げにうんうんと頷いていた。
ルーミアのほうは、チルノちゃんすごいー、と何の考えもなしに手を叩いていた。
「おい、二人まとめてかかってこい」
勝戦ムードで勝手に盛り上がっている二人も、レミリアの気迫のこもったその一言で一瞬身震いした。
「ふ・・ふん!メイドのいないあんたなんてアタイ一人で」
「お前たちのようなザコは百匹まとめてかかってきても同じだ。さっさと来い」
「ザ・・ザコ・・・」
雑魚とは最強とは対極の言葉だ。
この雑魚という言葉がチルノの闘争心に火をつけた。
「絶対に後悔させてやる!!いくよ、ルーミア!!」
「が・・がってん!!」
半分、逃げ腰の入っていたルーミアもチルノの勢いに巻き込まれる形でビシッと返事をした。
「喰らえぇぇぇええええええ!!」
―――氷符「アイシクルフォール」―――
無数の氷の刃がレミリアに迫る。
しかし、その氷の弾幕には隙間も多く、避けきることなど造作もない。
「ルーミア!」
「りょーかい!」
―――夜符「ナイトバード」―――
チルノはそのことを理解しているのか、ルーミアに指示を出し自身の氷の弾幕にルーミアの弾幕を加えた。
「アタイの最強の弾幕にルーミアの弾幕!避けれるものなら避けてみろ!!」
チルノは自信に満ちた声で叫んだ。
チルノの氷の弾幕の隙間を埋めるようにルーミアの弾幕が配置されているため、弾幕の密度はかなり上がっている。
しかし、避けきれないほどの密度ではない。
その気になれば弾幕を全て避けきり二人の目の前に移動することは可能だ。
しかし、レミリアは微動だにしない。
「アタイの勝ちよ!!」
チルノは勝利を確信し言い放った。
―――紅符「スカーレットシュート」―――
二人には一瞬の出来事で何が起こったのか全くわからなかった。
チルノが勝利宣言をしたと思ったら、何故か自分たちの弾幕が消滅し、何かが二人の間を通り過ぎていったようだった。
「こんな脆い弾幕で、この私が倒せると思ったのか?」
レミリアは魔力の残り香を放つ右手を正面に突き出した姿で、二人を睨みつけた。
二人は今度こそ、その眼光に恐怖した。
「本当の弾幕をみせてやるよ」
そういったレミリアの手に再び魔力が集中する。
―――獄符「千本の針の山」―――
レミリアの手から無数の針状の紅弾が放たれる。
その弾幕の密度は先ほど二人が放ったスペルとは比べ物にならないほど高い。
二人はこの弾幕は自分たちでは避けきれないと本能的に悟り、
弾幕の有効範囲から逃れるために全速力で上空へ向かった。
しかし、二人が逃げた先には、満月を背にレミリアが悠然とした姿で待ち構えていた。
先ほどまで青い光を放っていた月だが、レミリアの魔力の影響を受けてか、今は紅く輝いている。
「この私にケンカを売ったことを後悔するんだな」
紅い月を背にバッと翼を広げたその姿は、まさに夜の王と称されるに相応しい風格に満ちていた。
―――魔符「全世界ナイトメア」―――
「「ぎゃあぁぁぁぁ」」
二人は情けない悲鳴を上げ、湖へと落ちていった。
レミリアは二人が落ちていくのを確認すると、紅魔館に向かって全速力で飛び立った。
屋敷を突き破ってとび出していた「何か」、アレはフランのスペル「過去を刻む時計」だ。
とても嫌な予感がする。
普通の魔法使い霧雨 魔理沙が企画した宴会の帰り道なのだが、
友人の魔女 パチュリー・ノーレッジ は酔い潰れていたのでとりあえず置いてきた。
後片付けをするようにメイド長 十六夜 咲夜 に指示しておいたので、
後片付けが終了しだいパチュリーを回収して戻ってくるだろう。
ぼんやりと考え事をしながら歩いていると何の前触れもなく咲夜がレミリアの背後に現れた。
「お嬢さま、ただいま戻りましたわ」
わざわざ時間を止めて追いかけてくる必要はないのに、とレミリアは苦笑を浮かべ振り返った。
「お疲れさま。ん?咲夜、パチェは?」
てっきり咲夜がパチュリーを連れて帰ってくるものだと思っていたが、その咲夜は手ぶらで目の前に立っていた。
「パチュリー様でしたら今夜はアリスのところにお泊りになるそうですわ」
「あぁ、あの人形遣いか」
レミリアはアリスのことはあまり詳しくは知らないが、パチュリーの図書館や宴会などで見る分には
特に警戒するような悪意などは感じないし、何よりパチュリー自身が泊まると言い出したのだろうから、
それなりに信頼できる人物なのだろうと結論付けた。
「あのパチェが外泊か~・・・ねぇ、咲夜?」
「いけません」
「ん?私はまだ何も言ってないけど?」
「霊夢のところに泊まりに行きたいと仰るのでしょう?それはいけません」
予想はしていたが咲夜にずばり言い当てられたレミリアは頬を膨らませた。
「む~・・・」
「むくれたところで許可できません。第一、今あそこには魔理沙もいるのですから、何があっても許可しません」
キッパリと断る咲夜にレミリアは抗議の視線を送っていたが、しばらくすると、ハァとため息をつき、
今回は諦めるわ、とくるりと紅魔館の方に向きを変え歩き始めた。
レミリアが本気でそうしたいと思っていたなら、咲夜が止めたところで全く効果はないが、
今回は遊び半分だったらしく、レミリアの方が簡単に折れたのだった。
しかし実際のところ、このメイド長、陥落寸前だったりする。
こうしてレミリアと咲夜は紅魔館に向けて歩き始めた。
しばらくして、不意にレミリアが口を開いた。
「ねぇ、咲夜。神社の桜はあとどれくらい持つかしら?」
「神社の桜でしたら、あと一週間ほどは見ごろかと思いますが・・・突然どうしたのですか?」
「フランのことよ」
「妹様ですか・・・」
「一週間あるなら、もう一度くらいは宴会が出来そうね」
「お嬢さま、もう一度、妹様を宴会に連れて行くということですか?」
咲夜は非常に不安そうな表情でレミリアを見た。
それに対してレミリアは困ったような表情で返す。
「あの子も霧の一件以来、少しずつ変わってきてるからね。いつまでも屋敷に閉じ込めておくわけにもいかない」
そう言うレミリアに対して咲夜は、ですが、と食い下がるが、レミリアはそれを手で制した。
それは十日前、今日と同じように魔理沙が企画した宴会でのことだった。
その宴会には霊夢、魔理沙、アリスはもちろんのこと、白玉楼からは 西行寺 幽々子 と 魂魄 妖夢 の主従、
永遠亭からは、蓬莱山 輝夜、八意 永琳、鈴仙・優曇華院・イナバ、さらに 因幡 てゐ が参加し、
加えて、鬼の 伊吹 萃香 と烏天狗の 射命丸 文、そして紅魔館からはレミリア、咲夜、パチュリーの三人に加え、
レミリアの妹 フランドール・スカーレット も参加していた。
フランにとって神社での宴会は初めての体験であったため、とても嬉しそうに参加していた。
その様子に彼女が羽目を外し過ぎないようにと、レミリア以下、紅魔館のメンバーが見守っていた。
しかし、時間が経つにつれて見守っていた紅魔館のメンバーも周りの状況の流され、
いつの間にかフランを見守ってる者はいなくなっていた。
そんな宴会が最も盛り上がる頃合だった。
「あはははははははははっ」
突然フランの笑い声が響き渡った。
宴会をやっているのだから笑い声が絶えることはないが、
紅魔館のメンバーからすればこの笑い声、この笑い方は、決して響いてはならないものだった。
必然的にレミリア、咲夜、パチュリーの三人がフランの姿を探す。
しかし、探す必要は全くなかった。
―――禁忌「レーヴァテイン」―――
フランの狂った笑い声と共に、彼女の持つ魔杖から炎が舞い上がる。
「さっ咲夜!!」
咄嗟にレミリアは咲夜の名を叫ぶ。
「わかっています!」
―――傷魂「ソウルスカルプチュア」―――
咲夜の持つナイフが煌き、魔杖を振り下ろさんと高く掲げられたフランの両腕を切断した。
しかし、彼女は吸血鬼だ。切断しただけではすぐに再生が始まってしまう。
―――夜符「デーモンキングクレイドル」―――
レミリアは咲夜が離脱するかしないかギリギリのところで突撃を仕掛けフラン本体を切断した両腕から引き離した。
そして、切断された腕こそ付いているものの、持ち手を失った魔杖をパチュリーが吹き飛ばす。
―――金土符「ジンジャ
「ゲホッ」
パチュリーは喘息でスペルと唱えきれない。
「パチェー!?なにしてる!!」
「ケホッ、さすがに急には・・・ケホッ」
両腕を失いながらもケラケラと笑いながら暴れるフランをレミリアは懸命に押さえつけながらパチュリーの方へ目を向ける。
その視線の先では、パチュリーが吹き飛ばし損ねた魔杖が、彼女に向かって落下を始めていた。
しかし、パチュリーはそれに気付くどころか、まだ咳き込んでいる。
「逃げろ!パチェ!!」
「え?」
レミリアがたまらず叫び声を上げたところで、ようやく息が整ったとパチュリーが顔を上げた。
そこには、既に目前に迫った魔杖の、レーヴァテインの炎の刃があった。
この距離ではスペルの詠唱は間に合わない。パチュリーの顔が一気に青褪めた。
「パチェー!!」
「ぁぁー・・・うるさい!!」
―――夢境「二重大結界」―――
寸前のところで飛び出した霊夢の結界が轟音を立てて炎の刃とぶつかる。
「くっ」
さすがの霊夢も、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持つフランが放ったスペルを
正面から受け続けることは難しい。
どんな強力なスペルも避ける方が簡単なのだが、今回ばかりは結界を解いて避けるわけにはいかない。
霊夢の背後には神社の社があるのだ。必死にもなる。
「全く・・・何が起こったのかと思ったわ」
そう言い、霊夢の横に立ったのはアリスだ。
アリスはサッと二体の人形を操作し、魔杖からフランの腕を払いのけ、そのまま魔杖を上空へと投げ捨てた。
「あとは頼んだわよ」
アリスの声に応えるように、いつの間にか上空に待機していた魔理沙がミニ八卦炉を構える。
―――恋符「マスタースパーク」―――
幻想郷において最強クラスの威力を誇る魔砲がレーヴァテインの炎を消し去り、魔杖を吹き飛ばす。
「やっぱり弾幕はパワーだぜ」
レミリアは三人のその手際の良さに感嘆していた。
しかし、少しはおとなしくなったかと思っていたフランが、お姉さま離してー、と再び暴れだした。
「ちょっと、フラン!おとなしくしなさい!!」
「やだー!弾幕ごっこするー!!魔理沙たちと遊ぶのー!!」
レミリアはフランを羽交い絞めにする形で何とか彼女の動きを封じていた。
そこに永琳が近づいてきてフランの口の中に丸薬を放り込んだ。
「妖怪用の即効性の睡眠薬よ。吸血鬼には試したことはないけど・・・そうね、一時間ぐらいは持つんじゃないかしら」
永琳が説明を終える頃には、フランは規則的な寝息をたて始めていた。
その様子にレミリアはようやくホッと息を付いたが、そのレミリアの頭上に霊夢のげんこつが落ちてきた。
「いたっ!?」
「あんたの妹でしょ、ちゃんと面倒見なさいよ」
霊夢は呆れたといわんばかりの表情でレミリアに詰め寄った。
「う~・・・」
「うー、じゃない」
「・・はい・・・」
「よろしい」
結局フランが突然暴れだしたのは、お酒に余り慣れていないフランに萃香が大量に酒を飲ませたのが原因であった。
このとき萃香は、既に霧化して逃走していたが、後日、霊夢にこっぴどくお叱りを受けたそうだ。
ちなみにパチュリーは霊夢が結界を発動させる直前に咲夜に救出され、傷一つない姿でピンピンしていた。
そんなパチュリーに腹を立てたレミリアがあとでちょっかいを出したのは言うまでもない。
また、余談ではあるが魔理沙が吹き飛ばした魔杖を探すために、某所の門番が徹夜で駆り出されたとか何とか・・・。
まぁ、この情報の真偽は定かではないのだが・・・
十日前の宴会でこんなことがあったのだ。
咲夜が反対するのも無理はない。
しかし、レミリアはその反論を遮り、次回の宴会にはフランも連れて行くと断言した。
「次は絶対にフランから目を離さない。しっかりと見守って見せるわ」
レミリアの目はフランに対する愛情と決意に満ちていた。
「そういうことでしたら、次回とは言わずに今回も連れていかれれば良かったのでは?」
「あの子鬼が原因とはいえ、フランにも責任の一端はある。今回はおしおきのためよ」
苦笑する咲夜に対して、レミリアも同じように苦笑で返した。
そう二人が笑いあった時、屋敷の方から轟音が響いた。
「なに!?」
「お嬢さま!屋敷が!!」
咲夜に言われ、紅魔館の方を振り返ると屋敷の中から「何か」がとび出していた。
「あれは・・・!」
レミリアが屋敷の方へ飛び立とうとした瞬間、目の前を氷の刃が通りすぎる。
「こんなところで吸血鬼に会うなんて、たまには夜中に遊びに出てみるものね!」
レミリアが威圧するようにゆっくりと湖の方へ振り返ると、
そこには氷の妖精 チルノ と宵闇の妖怪 ルーミア がフヨフヨと飛んでいた。
「これはアタイの最強伝説が始まったとしか考えられないわね!」
「そーなのかー」
「お嬢さま、ここは私が」
咲夜がナイフを構え、臨戦態勢に入るが、レミリアはそれを止めた。
「咲夜は先に屋敷に戻れ。この空気の読めない馬鹿どもは、私が潰す」
確かに時間を止めて移動できる咲夜の方が早く紅魔館に辿り着ける。
咲夜は、わかりました、とナイフをしまい、即座に移動を開始した。
「あれ?メイドが逃げた?」
咲夜が突然姿を消したことにチルノは気付いたが、
アタイ=最強→逃げた
という考えに至ったようで、満足げにうんうんと頷いていた。
ルーミアのほうは、チルノちゃんすごいー、と何の考えもなしに手を叩いていた。
「おい、二人まとめてかかってこい」
勝戦ムードで勝手に盛り上がっている二人も、レミリアの気迫のこもったその一言で一瞬身震いした。
「ふ・・ふん!メイドのいないあんたなんてアタイ一人で」
「お前たちのようなザコは百匹まとめてかかってきても同じだ。さっさと来い」
「ザ・・ザコ・・・」
雑魚とは最強とは対極の言葉だ。
この雑魚という言葉がチルノの闘争心に火をつけた。
「絶対に後悔させてやる!!いくよ、ルーミア!!」
「が・・がってん!!」
半分、逃げ腰の入っていたルーミアもチルノの勢いに巻き込まれる形でビシッと返事をした。
「喰らえぇぇぇええええええ!!」
―――氷符「アイシクルフォール」―――
無数の氷の刃がレミリアに迫る。
しかし、その氷の弾幕には隙間も多く、避けきることなど造作もない。
「ルーミア!」
「りょーかい!」
―――夜符「ナイトバード」―――
チルノはそのことを理解しているのか、ルーミアに指示を出し自身の氷の弾幕にルーミアの弾幕を加えた。
「アタイの最強の弾幕にルーミアの弾幕!避けれるものなら避けてみろ!!」
チルノは自信に満ちた声で叫んだ。
チルノの氷の弾幕の隙間を埋めるようにルーミアの弾幕が配置されているため、弾幕の密度はかなり上がっている。
しかし、避けきれないほどの密度ではない。
その気になれば弾幕を全て避けきり二人の目の前に移動することは可能だ。
しかし、レミリアは微動だにしない。
「アタイの勝ちよ!!」
チルノは勝利を確信し言い放った。
―――紅符「スカーレットシュート」―――
二人には一瞬の出来事で何が起こったのか全くわからなかった。
チルノが勝利宣言をしたと思ったら、何故か自分たちの弾幕が消滅し、何かが二人の間を通り過ぎていったようだった。
「こんな脆い弾幕で、この私が倒せると思ったのか?」
レミリアは魔力の残り香を放つ右手を正面に突き出した姿で、二人を睨みつけた。
二人は今度こそ、その眼光に恐怖した。
「本当の弾幕をみせてやるよ」
そういったレミリアの手に再び魔力が集中する。
―――獄符「千本の針の山」―――
レミリアの手から無数の針状の紅弾が放たれる。
その弾幕の密度は先ほど二人が放ったスペルとは比べ物にならないほど高い。
二人はこの弾幕は自分たちでは避けきれないと本能的に悟り、
弾幕の有効範囲から逃れるために全速力で上空へ向かった。
しかし、二人が逃げた先には、満月を背にレミリアが悠然とした姿で待ち構えていた。
先ほどまで青い光を放っていた月だが、レミリアの魔力の影響を受けてか、今は紅く輝いている。
「この私にケンカを売ったことを後悔するんだな」
紅い月を背にバッと翼を広げたその姿は、まさに夜の王と称されるに相応しい風格に満ちていた。
―――魔符「全世界ナイトメア」―――
「「ぎゃあぁぁぁぁ」」
二人は情けない悲鳴を上げ、湖へと落ちていった。
レミリアは二人が落ちていくのを確認すると、紅魔館に向かって全速力で飛び立った。
屋敷を突き破ってとび出していた「何か」、アレはフランのスペル「過去を刻む時計」だ。
とても嫌な予感がする。
容赦ねーなおぜうさま
一言でも感想書いてもらえると凄く嬉しいです
<12/14の名無し様
チルノはそれなりに目立つようにしたのですが、ルーミアはちょっと影薄いかな・・・
と心配してたのですが、大丈夫だったのかな
<12/15 15:07の名無し様
お嬢さまは怒ったら手加減を知りません(`・ω・´)
でも、ネーミングせんs(レミリアストーカー
続くんかな?
中途半端ですみません;
まだまだ勉強中なため、どう切ればいいかよくわからずこんな形にしてしまいました
あと、ちゃんと続きます!
ちゃんとした終わりになるよう頑張ってます
<12/16 22:46の名無し様
楽しみといっていただけると、とても励みになります
期待に応えれるよう頑張ります