注意・オリキャラが出ます。一人だけですが出ます。
そういうのが嫌いな人は見ないほうがいいです。
里の寺子屋。
それは半人半妖である上白沢慧音が先生を勤める場所である。
人気は上々、但し勉強の成果については芳しくない、といったところである。
が、それ抜きにしてもこの寺子屋は繁盛してる部類に入ることは間違いない。
それは先生である慧音のおかげであるといえる。
半人半妖という建前ではあるが、その物腰の柔らかさ(但し宿題を忘れる、等をすると頭突きが待っているが)や、面倒見のいい性格で老若男女問わず好かれているためである。
それはこの少年とて例外ではない。
この少年が寺子屋に来る理由の3分の1ほどは慧音に会いに来てるという理由であり、もう3分の2は単純に歴史に興味を持ってるからである。
少年にとって歴史とは未知である。自分の知らないことを知るという行為は少年にとってこの上無い喜びであった。
また、慧音は『幻想郷の歴史で判らない事は一つも無い』と称されるほどであり、つまり少年にとっては歴史を知るうえでこの上ない重要な人物でもある。
故に、今日もまた少年は寺子屋に通い、そして授業を終え、帰宅する。そんな単純な日常であった。
――――はずであった。
* * *
ある日、幻想郷で一つの小さな、それでいて些細な事件が起こった。
崖から一人の女性が転落し、下の竹に体を貫かれ死亡した、という単純なものである。
何でも運悪く心臓に刺さってしまい、それが致命傷となって絶命したらしい。
このことは里の人間が発見したらしく、あわてて里に伝えにいったのだそうだ。
そして、それを手早く処理したのが、上白沢慧音である。
慧音はその場所まで行くと、その女性を丁寧に弔い、そして周りを綺麗にし、そこに墓を作ったのだそうだ。
そのことを聞いた寺子屋の子供達の反応は、それはもう英雄を見るかのような目つきで慧音のことを見ていた。
慧音は若干恥ずかしそうだったが、それでも授業を再開することで何とか流れを普段のに戻したのである。
普段の少年ならば、このことに対して真っ先に慧音に羨望――あるいは愛恋と形容してもいいだろう――のまなざしを向けるはずだった。
しかし、今回は場合が違った。
先ほど、発見したのは里の人間だといった。そしてそれを伝えたのはその人間だ、とも。
しかし、その少し前に、別の人間が発見していたとしたら?
そして、そのことを皆に伝えずにいたとしたら?
もしも、そのときに見た死体が、後々に発見された死体と決定的に違っているのに気がついていたら?
そう、そしてそれを見た正真正銘の第一発見者こそ、この少年である。
* * *
「何?その死体の特徴?」
結局少年はいてもたってもいれず、少年の中にある“違和感”を知るために、慧音に話を聞いている次第である。
少年が聞いた質問事項は二つ。
一に、その死体についての外見。
そして二に、その死体は誰なのか?
さてここで一つ疑問が浮かび上がる。
それは“誰が死んだか”ということである。
普通、死んだ人間の身元ははっきりするものだが、今回の事件において、そこが酷く不鮮明なのだ。
おまけにこの事件は何故か通常よりも速いペースで人々に忘れ去られていっている。
少年は何故かそのことに焦燥感を抱き、気がついたら慧音に質問してるという事態にまでなっていた。
「ふむ……よくは覚えていないが、いやなんともへんな形容だが、普通の死体だったぞ?
こう、血はたくさん出ていたし、顔面も蒼白だったし。何より汚れが酷かったな。崖から落ちたからだと思うが……」
と、慧音。
少年は、そうですか、と一言いって、次いで二つ目の質問をした。
「すまんが、私にもよく分からないのだ。力になれなくて悪いな……」
頭をたれて謝る慧音に、首を左右に振って、謝ることはない、と弁護する少年。
ぶしつけな質問をして悪かったと、少年が謝り、それに対し『気にするな』と微笑む慧音。
少年もそんな慧音を見て少しだけ和らいだ表情を見せて、そして、最後に一ついいですか。と前おいて。
「本当に先生は、その人のことを覚えてないんですか?」
と尋ねた。
少しだけ驚いた表情を見せた慧音だったが、やはり回答は同じく『よく分からない』であった。
再び少年は謝ると、慧音もそろって謝り、神妙な空気になったところで少年は退散した。
* * *
そして少年は現場に戻った。
現場といっても今はちょこんと墓がおいてあるだけのところだが。
そこで一人思案する。
(あの死体は、やっぱり僕の見間違いなんだろうか?皆、普通の死体だ、って言ってるし)
少年は慧音のところへ行く前、事実上の第一発見者の家に行き、同じ質問をしたところ、結局答えは慧音とほとんど同じであった。
(死体には血がついてたって言うし、顔面蒼白だって言うし……)
自分の記憶を探って、自分が見た死体のことを思い出す。
刺さってはいたが血は出てなく、
顔の色も綺麗な肌色で、
そして、自分を見つけたときにぎょろりと見開かれた目。
あれは自分を見たせいで目が見開かれた、と少年は思うのだが。普通に考えればそういうことはない。しかしどうにもそのときの目の動きが生々しかったため、いまだに少年は忘れられないでいたのだ。
(考えていても埒が明かないな)
少年がそう考えてそこから立ち去ろうとしたとき、
――――――ジャリ
と、地を踏む音が聞こえた。
少年はびくりと震えて音がしたほうを振り返る。
誰もいない
少年は気のせいかと思い、道を戻ろうとすると。
―――――パキリ
と、今度は木の枝を踏む音がした。
気のせいじゃない!
そう少年は思うと恐ろしくなって、音がした空間を見た。
ぼやりと黒い影が見える。
その影がこちらに近づくたびに段々と輪郭をなしてきて、黒い影はとうとう人の形へと成った。
――――――それは、あの日死んだはずの女性だった。
「ひっ!!」
すとん、と体が地面に落ちる。
体中に力が入らない。
手足がじんじんと痺れる。
目が少女を見つめて離れない。
のどはからからに渇き、唾はねっとりと口内に絡み付いてくる。
「……っは……ぅ!」
声が震えて口から漏れる。
声というよりは音であるが。
少女は相変わらず少年をじっと見つめたまま。
しかし、ゆっくりではあるが一歩一歩確実に少年の元へ近づいている。
不意に、少女の口がゆっくりと動いた。動いたのだが何を言ったのかは少年には聞き取れなかった。
否、言わなかったのかもしれない。痛いほどの静寂の中で少女が言った言葉が聞こえない、というのはあまり考えられないからだ。
しかし、もしかすると――――――
そう、少年が考えた途端。少女が、少女の手がゆっくりと少年に伸びていって、その首を―――――――――
「どうしたのだ?」
そこで、後ろから声が聞こえた。
声の主は、上白沢 慧音であった。
* * *
少年がぎこちなく首を後ろに曲げる。
そんな少年の様子を見た慧音は少しだけ驚いて(それでも表面上は平静を装っていた)もう一度少年に問うた。
「どうしたのだ?」
その言葉を聞いた少年は、がくがくと震える顎でゆっくりと、声にならない言葉をつむいだ。
「けい……ね……せん……せい……?」
「あ、ああ。私だが……本当にどうしたのだ?というより大丈夫か?」
慧音が少年に近づいて軽く背中をさする。そうしてからふらつく少年に肩を貸して何とかたたせた。
少年の顔は、それこそ、この前の死体のように真っ青で、体はがくがくと震えていた。
これは危ないかもしれない。
そう考えた慧音は、少年をひょいと背負った。
「い、いいですよ、ここまでしなくても」
少年があせって否定すると、
「気にするな。生徒の面倒を見るのが先生の役割だからな」
そういってふわりと微笑んだ。
その微笑があまりにもきれいだったためか、少年は慧音の背中に顔をうずめた。
ふと気がついて少年が林を見やると、女性の姿は消えていた。
ただ、少年は女性の動かした口から、何を言ってるのかを予想していた。
そして、恐らくこう言ってるのではないかと目星をつけて、もしその予想が当たっていたらと身震いした。
あの時女性が言った言葉、それは。
もうすぐだぞ
そう、言ってる気がしたのだから。
そういうのが嫌いな人は見ないほうがいいです。
里の寺子屋。
それは半人半妖である上白沢慧音が先生を勤める場所である。
人気は上々、但し勉強の成果については芳しくない、といったところである。
が、それ抜きにしてもこの寺子屋は繁盛してる部類に入ることは間違いない。
それは先生である慧音のおかげであるといえる。
半人半妖という建前ではあるが、その物腰の柔らかさ(但し宿題を忘れる、等をすると頭突きが待っているが)や、面倒見のいい性格で老若男女問わず好かれているためである。
それはこの少年とて例外ではない。
この少年が寺子屋に来る理由の3分の1ほどは慧音に会いに来てるという理由であり、もう3分の2は単純に歴史に興味を持ってるからである。
少年にとって歴史とは未知である。自分の知らないことを知るという行為は少年にとってこの上無い喜びであった。
また、慧音は『幻想郷の歴史で判らない事は一つも無い』と称されるほどであり、つまり少年にとっては歴史を知るうえでこの上ない重要な人物でもある。
故に、今日もまた少年は寺子屋に通い、そして授業を終え、帰宅する。そんな単純な日常であった。
――――はずであった。
* * *
ある日、幻想郷で一つの小さな、それでいて些細な事件が起こった。
崖から一人の女性が転落し、下の竹に体を貫かれ死亡した、という単純なものである。
何でも運悪く心臓に刺さってしまい、それが致命傷となって絶命したらしい。
このことは里の人間が発見したらしく、あわてて里に伝えにいったのだそうだ。
そして、それを手早く処理したのが、上白沢慧音である。
慧音はその場所まで行くと、その女性を丁寧に弔い、そして周りを綺麗にし、そこに墓を作ったのだそうだ。
そのことを聞いた寺子屋の子供達の反応は、それはもう英雄を見るかのような目つきで慧音のことを見ていた。
慧音は若干恥ずかしそうだったが、それでも授業を再開することで何とか流れを普段のに戻したのである。
普段の少年ならば、このことに対して真っ先に慧音に羨望――あるいは愛恋と形容してもいいだろう――のまなざしを向けるはずだった。
しかし、今回は場合が違った。
先ほど、発見したのは里の人間だといった。そしてそれを伝えたのはその人間だ、とも。
しかし、その少し前に、別の人間が発見していたとしたら?
そして、そのことを皆に伝えずにいたとしたら?
もしも、そのときに見た死体が、後々に発見された死体と決定的に違っているのに気がついていたら?
そう、そしてそれを見た正真正銘の第一発見者こそ、この少年である。
* * *
「何?その死体の特徴?」
結局少年はいてもたってもいれず、少年の中にある“違和感”を知るために、慧音に話を聞いている次第である。
少年が聞いた質問事項は二つ。
一に、その死体についての外見。
そして二に、その死体は誰なのか?
さてここで一つ疑問が浮かび上がる。
それは“誰が死んだか”ということである。
普通、死んだ人間の身元ははっきりするものだが、今回の事件において、そこが酷く不鮮明なのだ。
おまけにこの事件は何故か通常よりも速いペースで人々に忘れ去られていっている。
少年は何故かそのことに焦燥感を抱き、気がついたら慧音に質問してるという事態にまでなっていた。
「ふむ……よくは覚えていないが、いやなんともへんな形容だが、普通の死体だったぞ?
こう、血はたくさん出ていたし、顔面も蒼白だったし。何より汚れが酷かったな。崖から落ちたからだと思うが……」
と、慧音。
少年は、そうですか、と一言いって、次いで二つ目の質問をした。
「すまんが、私にもよく分からないのだ。力になれなくて悪いな……」
頭をたれて謝る慧音に、首を左右に振って、謝ることはない、と弁護する少年。
ぶしつけな質問をして悪かったと、少年が謝り、それに対し『気にするな』と微笑む慧音。
少年もそんな慧音を見て少しだけ和らいだ表情を見せて、そして、最後に一ついいですか。と前おいて。
「本当に先生は、その人のことを覚えてないんですか?」
と尋ねた。
少しだけ驚いた表情を見せた慧音だったが、やはり回答は同じく『よく分からない』であった。
再び少年は謝ると、慧音もそろって謝り、神妙な空気になったところで少年は退散した。
* * *
そして少年は現場に戻った。
現場といっても今はちょこんと墓がおいてあるだけのところだが。
そこで一人思案する。
(あの死体は、やっぱり僕の見間違いなんだろうか?皆、普通の死体だ、って言ってるし)
少年は慧音のところへ行く前、事実上の第一発見者の家に行き、同じ質問をしたところ、結局答えは慧音とほとんど同じであった。
(死体には血がついてたって言うし、顔面蒼白だって言うし……)
自分の記憶を探って、自分が見た死体のことを思い出す。
刺さってはいたが血は出てなく、
顔の色も綺麗な肌色で、
そして、自分を見つけたときにぎょろりと見開かれた目。
あれは自分を見たせいで目が見開かれた、と少年は思うのだが。普通に考えればそういうことはない。しかしどうにもそのときの目の動きが生々しかったため、いまだに少年は忘れられないでいたのだ。
(考えていても埒が明かないな)
少年がそう考えてそこから立ち去ろうとしたとき、
――――――ジャリ
と、地を踏む音が聞こえた。
少年はびくりと震えて音がしたほうを振り返る。
誰もいない
少年は気のせいかと思い、道を戻ろうとすると。
―――――パキリ
と、今度は木の枝を踏む音がした。
気のせいじゃない!
そう少年は思うと恐ろしくなって、音がした空間を見た。
ぼやりと黒い影が見える。
その影がこちらに近づくたびに段々と輪郭をなしてきて、黒い影はとうとう人の形へと成った。
――――――それは、あの日死んだはずの女性だった。
「ひっ!!」
すとん、と体が地面に落ちる。
体中に力が入らない。
手足がじんじんと痺れる。
目が少女を見つめて離れない。
のどはからからに渇き、唾はねっとりと口内に絡み付いてくる。
「……っは……ぅ!」
声が震えて口から漏れる。
声というよりは音であるが。
少女は相変わらず少年をじっと見つめたまま。
しかし、ゆっくりではあるが一歩一歩確実に少年の元へ近づいている。
不意に、少女の口がゆっくりと動いた。動いたのだが何を言ったのかは少年には聞き取れなかった。
否、言わなかったのかもしれない。痛いほどの静寂の中で少女が言った言葉が聞こえない、というのはあまり考えられないからだ。
しかし、もしかすると――――――
そう、少年が考えた途端。少女が、少女の手がゆっくりと少年に伸びていって、その首を―――――――――
「どうしたのだ?」
そこで、後ろから声が聞こえた。
声の主は、上白沢 慧音であった。
* * *
少年がぎこちなく首を後ろに曲げる。
そんな少年の様子を見た慧音は少しだけ驚いて(それでも表面上は平静を装っていた)もう一度少年に問うた。
「どうしたのだ?」
その言葉を聞いた少年は、がくがくと震える顎でゆっくりと、声にならない言葉をつむいだ。
「けい……ね……せん……せい……?」
「あ、ああ。私だが……本当にどうしたのだ?というより大丈夫か?」
慧音が少年に近づいて軽く背中をさする。そうしてからふらつく少年に肩を貸して何とかたたせた。
少年の顔は、それこそ、この前の死体のように真っ青で、体はがくがくと震えていた。
これは危ないかもしれない。
そう考えた慧音は、少年をひょいと背負った。
「い、いいですよ、ここまでしなくても」
少年があせって否定すると、
「気にするな。生徒の面倒を見るのが先生の役割だからな」
そういってふわりと微笑んだ。
その微笑があまりにもきれいだったためか、少年は慧音の背中に顔をうずめた。
ふと気がついて少年が林を見やると、女性の姿は消えていた。
ただ、少年は女性の動かした口から、何を言ってるのかを予想していた。
そして、恐らくこう言ってるのではないかと目星をつけて、もしその予想が当たっていたらと身震いした。
あの時女性が言った言葉、それは。
もうすぐだぞ
そう、言ってる気がしたのだから。
怖い、でも続きが気になる~。
むしろそれが致命傷となって ←前の文に、竹に貫かれて死んだとあるので「むしろ」は蛇足になるかと。
続きがとても楽しみです。
読み応えありです。