在るが故に、何者も拒む事は出来ない。
それは始まり。
それは終わり。
終わり無くして始まり無く、始まり無くして終わり無し。
それは完全な因果であり、互いに無くてはならない輪の如き関係。
本来なら自覚の無い生死の場合であっても同じ事。
「―――では、その関係を断ってみたらどうなるのかしら?」
終わりの無い始まり。始まりのない終わり。
断ち切られた輪はどうなってしまうというのか。
始まりの無い終わりとは、即ち宇宙に還る事も無く死に続ける状態の事。
肉体の全器官がその働きを完全に止め、その後朽ちる事も無く恒久に在り続けるという事。
終わりの無い始まりとは、即ち永久に死ぬ事も無く生き続ける状態の事。
老化をする事も無く病に罹る事も無く、その後朽ちる事も無く恒久に在り続けるという事。
……なのだろうか?
それとも違う何かなのだろうか?
結局の所分からないし、考えた所で回答が存在しないのなら、考える意味が無い。
そんな時はどうしたら良いか?
答えは簡潔だ。
実際に断ち切ってみれば良い。
未来永劫悠久無窮、遼遠悠遠万世万代久遠の彼方。
そういうのを身を以って体験すれば、自ずと分かるに違いない。
ただし、死に続けるままでは面白くも無いから、生き続けるままという方で。
「よし、そうと決まれば―――」
永久に生き続けてみよう。
死から永久に遠ざかろう。
ともかく自分で知り得る悉皆を、いつまでもいつまでも永久に知り続けてみよう。
その為の方法はある。
その為の手段もある。
時間も費用も充分にある。
そうすれば、いずれ因果から外れた事とはどういう事か、答えが分かるだろう。
答えが分かった後の事はその時考えれば充分。
「不老の次に不死を望むのは至極当たり前の事だと思わない?」
何者も魅了してやまない笑みを浮かべ、全てを思う儘にしてきた月の姫は、以後月の姫では無くなった。
彼女に与えられたのは、永遠の罪と須臾の罪。三千大千世界の全てから放逐された古今に比類なき大罪。
しかし彼女は大罪をまるで意に介さず、与えられたものよりも得たものをこそ珍重した。
何せ不老といえど、今まで死んでしまってはそれまでだったのだ。
彼方に故郷を見上げ、彼女は心底嬉しそうに笑っていた。
自ら望んで因果から外れた彼女がこの先どうなるのか。
その正確なところは、彼女以外には知り得ない。
永く遠い、果て無き果てのその向こう―――三千大千世界も及ばない時間の遥か彼方に立った時、さて何を思うのか。
その正確なところは、彼女以外には知り得ない。
彼女の心は常磐の如く平常を保ち続けるのか。それとも渦潮の如く混濁を極めるのか。或いは凪の如く無となり失せるのか。はたまた熱に浮かされたが如く狂い尽きるのか。
その正確なところは、彼女以外には知り得ない。
永遠に。