魔法の森の入口に店を構える香霖堂。
その店の店主森近霖之助は久方ぶりに至福の時を過ごしていた。
ランプに照らされ赤黒く輝くグラスを傾け、中に入っている赤ワインを喉の奥に流し込む。
酸味と渋みが舌に重く香り、そのバランスが品格を感じさせるようで心地よい。
残念なところがあるとすれば、この赤ワインの銘柄を擦れているため読むことができない所ぐらいである。
しかしこのお手製のカモ肉のサラダを頬張れば、そのようなことも些細なことのように感じてくるから不思議である。
よって森近霖之助は今、至福の時を過ごしているのであった。
「霊夢たちは神社の宴会、誰にも邪魔されずに高いワインを飲む、最高だ…」
ほんのりと顔を赤くしながらも、ワインを飲む勢いを緩めることはない。
店内はいつものようにごちゃごちゃとしているというのに、なぜか今は隠れた名店で飲んでいるかのような気分なっている。
「ならその隠れた名店ご自慢のワインを頂けないかしら?」
至福の時はひどくあっさり打ち砕かれる。
そういえばと頭を痛ませる。
たとえ霊夢たちが神社で宴会をやったとしてもそれは自由参加であり、必ず参加しなくてはいけないというわけでもない。
目の前の妖怪に関しては、ただはぶられたという方が正しいようであるが。
「まったくもう、どうして私の所に招待状を送ってこないのかしら?」
「僕としてはマヨイガに招待状を送れる人物の方に興味があるが」
「公務員なら簡単よ!」
「ぜひその公務員とやらを紹介してもらいたいものだね」
「残念、郵便局はもう民営化したから公務員はいないのよ」
「ああ、そうかい」
目の前の妖怪八雲紫は隙間に腰を掛けながらワインの入ったグラスに口をつける。ちなみの僕のワイングラスだ。
コクリと喉を鳴らしワインを飲み下す。
「注文いいかしら?」
「それは飲む前に決めるものだと思うんだが?あとここは飲み屋でもない」
「細かいことはいいじゃない、お金はちゃんと払うわよ?」
「…毎度あり…はぁ」
言っても無駄だと悟り、しぶしぶ了承して台所にひっこむ。
地下室からもう一本の例の赤ワインを引っ張り出して、同じ地下室に置いてあったワイングラスの埃を払い地下室を出る。
ついでに台所から香霖堂シェフ特製カモ肉のサラダを盛り付けて持っていく。
「はいどうぞ…食べ終わったらさっさと出て行ってくれないか?」
「あら、ここはごゆっくりお嬢様というところじゃないかしら?」
紫の手元にグラスとフォークを並べる。グラスには赤黒いワインをゆっくりと注ぐ。
出されたサラダにフォークを突き刺す。
それを口まで運び小さく口を開き、お嬢様のように行儀よく食べ始める。
さすがは長く生きた妖怪だ。和洋の礼儀作法は完璧なのだろう。
手持無沙汰になったので、近くの本棚から本を取り出し読み始める。
「御馳走様でした」
「…ああ、お粗末さまでした」
本から顔をあげて紫を見ると、どこから持ってきたのかナプキンで口を拭いているところであった。
「とてもおいしかったわ。ワインにとても合う前菜ね」
「メインディッシュは存在しないよ。ここはサラダ専門店なんでね」
「あら残念。それなら今日はお暇させていただくわ」
「ああ、そうしてくれ」
紫はピョンと一回跳ねると足もとに隙間ができ、その隙間に吸い込まれるように消えて行った。
あとには皿を片づける霖之助だけが残された。
彼の至福の時が再び始まる。
後日、隠れた名店香霖堂は月一の予約制で開店されるのだがそれを知っている者はほとんどいない。
まさに隠れた名店であった。彼の暇で至福な時はしばらく続きそうであった。
その店の店主森近霖之助は久方ぶりに至福の時を過ごしていた。
ランプに照らされ赤黒く輝くグラスを傾け、中に入っている赤ワインを喉の奥に流し込む。
酸味と渋みが舌に重く香り、そのバランスが品格を感じさせるようで心地よい。
残念なところがあるとすれば、この赤ワインの銘柄を擦れているため読むことができない所ぐらいである。
しかしこのお手製のカモ肉のサラダを頬張れば、そのようなことも些細なことのように感じてくるから不思議である。
よって森近霖之助は今、至福の時を過ごしているのであった。
「霊夢たちは神社の宴会、誰にも邪魔されずに高いワインを飲む、最高だ…」
ほんのりと顔を赤くしながらも、ワインを飲む勢いを緩めることはない。
店内はいつものようにごちゃごちゃとしているというのに、なぜか今は隠れた名店で飲んでいるかのような気分なっている。
「ならその隠れた名店ご自慢のワインを頂けないかしら?」
至福の時はひどくあっさり打ち砕かれる。
そういえばと頭を痛ませる。
たとえ霊夢たちが神社で宴会をやったとしてもそれは自由参加であり、必ず参加しなくてはいけないというわけでもない。
目の前の妖怪に関しては、ただはぶられたという方が正しいようであるが。
「まったくもう、どうして私の所に招待状を送ってこないのかしら?」
「僕としてはマヨイガに招待状を送れる人物の方に興味があるが」
「公務員なら簡単よ!」
「ぜひその公務員とやらを紹介してもらいたいものだね」
「残念、郵便局はもう民営化したから公務員はいないのよ」
「ああ、そうかい」
目の前の妖怪八雲紫は隙間に腰を掛けながらワインの入ったグラスに口をつける。ちなみの僕のワイングラスだ。
コクリと喉を鳴らしワインを飲み下す。
「注文いいかしら?」
「それは飲む前に決めるものだと思うんだが?あとここは飲み屋でもない」
「細かいことはいいじゃない、お金はちゃんと払うわよ?」
「…毎度あり…はぁ」
言っても無駄だと悟り、しぶしぶ了承して台所にひっこむ。
地下室からもう一本の例の赤ワインを引っ張り出して、同じ地下室に置いてあったワイングラスの埃を払い地下室を出る。
ついでに台所から香霖堂シェフ特製カモ肉のサラダを盛り付けて持っていく。
「はいどうぞ…食べ終わったらさっさと出て行ってくれないか?」
「あら、ここはごゆっくりお嬢様というところじゃないかしら?」
紫の手元にグラスとフォークを並べる。グラスには赤黒いワインをゆっくりと注ぐ。
出されたサラダにフォークを突き刺す。
それを口まで運び小さく口を開き、お嬢様のように行儀よく食べ始める。
さすがは長く生きた妖怪だ。和洋の礼儀作法は完璧なのだろう。
手持無沙汰になったので、近くの本棚から本を取り出し読み始める。
「御馳走様でした」
「…ああ、お粗末さまでした」
本から顔をあげて紫を見ると、どこから持ってきたのかナプキンで口を拭いているところであった。
「とてもおいしかったわ。ワインにとても合う前菜ね」
「メインディッシュは存在しないよ。ここはサラダ専門店なんでね」
「あら残念。それなら今日はお暇させていただくわ」
「ああ、そうしてくれ」
紫はピョンと一回跳ねると足もとに隙間ができ、その隙間に吸い込まれるように消えて行った。
あとには皿を片づける霖之助だけが残された。
彼の至福の時が再び始まる。
後日、隠れた名店香霖堂は月一の予約制で開店されるのだがそれを知っている者はほとんどいない。
まさに隠れた名店であった。彼の暇で至福な時はしばらく続きそうであった。
心地よい余韻が残りました。