幻想郷は今日も平和である。
紅魔館では名も無き門番が白黒の侵入者によって炭と化していても。
魔法の森の人形使いが孤独死寸前でも。
博麗の巫女が断食五日目に突入していたとしても。
それでも幻想郷は平和なのである。
竹林の奥にひっそりと佇む巨大な屋敷、永遠亭は中でも特別平和であった。
永遠そのものとも言える不可思議な存在が主をやっているのだから当然といえば当然かもしれない。
平和とは即ち、毎日毎日が同じ事を繰り返しさりとて変わったことが起きないこと平和というのである
たとえ辺りかまわず炎を撒き散らす傍迷惑な不死鳥の襲撃を受けようとも、哀れな兎が一匹、天災薬師の研究室に入ったまま二度と姿を見せなくなっても。それでもそれはいつも繰り返される日常なのだから、それはやはり平和と呼べるのである。
同じ事を永遠に、延々と繰り返す。
だから今日は平和なのだ。
まぁ、今のうちは。
「ふぁ、おはよー、えーりん」
寝ぼけ眼で従者に挨拶をしたのはこの永遠亭の主、輝夜である。
「おはようございます、姫」
実は全然早くない。
時刻は既に正午過ぎ。
お天道様も既に南中を通っている。
彼女、永淋は縁側で食後のお茶を飲んでいるところだった。
普通なら輝夜はお咎めの一つを受けてもいいところだ。
しかし、永淋が輝夜を咎めることはない。
それは何故か?
既に慣れてしまった、ということもあるだろう。
それはこの地上に降り立ってから既に百年単位の時間で繰り返されてきたことなのである。
今更あれこれいう気も起きないのかもしれない。
だが、それだけではない。
永淋は従者である。家臣である。
主が誤った道に逸れそうになったら、それとなく正しい道を教えてあげるのも従者の役目である。
しかし、それをしない原因は、主である輝夜自身にある。
輝夜は、主としてはあるまじき呼び名を貰っているのだ。
そう、彼女は
ニートなのだ。
何を今更、と思う人多いいだろう。
巫女といえば脇であり、スキマといえば少女臭であり、香霖といえば褌なのであるというのと同じだ。
そして、輝夜といえばニートなのである。
これらは一般的に幻想郷不変の事実と言われている。
もしこれらの事実が覆るようなことが起きれば、幻想郷全体に大いなる災いが降りかかるとふりかからないとか。
つまりは、それくらい輝夜はニートなのである。
ニートが昼過ぎまで寝ているのは当たり前。
またニートの大前提として、働かないという条件があるが輝夜は当然これも満たしている。
オプションとして引きこもりだとか24時間PC前警備員であるとかいうのもある。
しかしここで疑問が出てくる。
ニートは間違った道ではないのだろうか。
永淋がニートを誤った道としてカウントしないのにはそれ相応の理由がある。
まず一つとして、輝夜が元月の姫であるということ。
姫が労働するなどとは以ての外である。
輝夜はあまり外出を好まなかった。地上に降りてからはそれが特に顕著であるが。
そしてもう一つ、この幻想郷に理由はある。
ここ幻想郷では、別に職がないというのは別に珍しいことではないのである。
さすがに里の人間はだいたい皆が職を持っている。
けれど、妖怪はどうであろうか。
妖怪が職をもつなど、あまり考えられることではない。
歴史喰いの半獣などは例外中の例外なのである。
例えば、紅魔館の主であるつるぺた吸血鬼はどうであろうか。
主であるのだから仕事などしないのは当然であるが別に誰も彼女をニートなどと罵りはしない。
ただ館の中心でふんぞりかえっていればいいだけなのである。
そこに輝夜との差はどのようにして生まれるのかというと、そこにはカリスマという幻想郷にはなくてはならない重要な要素に辿り着くのであるが、それを話すと長くなるので割愛する。
以上が、ニート=絶対悪が幻想郷では成り立たないという根拠である。
だから永淋は咎めない。
主人がニートであろうとヒッキーであろうと。
いつもどおり慈愛に満ちた笑顔をその顔に貼り付けているのだ。
そう、いつもどおり。
相手に警戒心を抱かせない笑顔を意図的に作り出し無防備な相手から情報を引きづり出す。
長年一緒に暮らしてきた輝夜が相手である。
次の彼女の行動が、永淋には手に取るようにわか
「あ、永淋、私今日から働くわ」
らなかった。
次の瞬間、永淋は頭からボンっという音と湯気をだして倒れた。
笑顔が張り付いたままで不気味である。
えーりんふりーず。
姫、今なんと?
はたらく?ハタラク?歯鱈区?旗楽?………
わからない?
この私が、たかだか平仮名にして四文字の言葉の意味も理解できないというの!?
月の頭脳と謳われたこの私が。
あり得ない有りえないありえないアリエナイ
認めない見とめないみとめないミとめナい………
「私は天才私は天才私は天才私は天才…」
「ちょ、ちょっと、永淋!」
「ッハ…」
「やっと戻ってきた。まったく、私が働くって言ったくらいで。大袈裟ね」
「…姫、今なんと……」
「だから、働くと言っているでしょう?仕事がしたいのよ」
「………」
従者は喋らない。
顔は伏せられていて表情は影に隠れて見えなかった。
「えーりん…?」
「姫」
永淋は立ち上がった。
「姫、ついてきてください。手伝って欲しい仕事がありますから」
その顔にはいつもどおりの、慈愛に溢れた笑みが浮かんでいた。
「へー、すごいのねぇ」
永淋に連れてこられたのは、彼女の研究室であった。
実は輝夜はこの部屋に入ったのは初めてである。
輝夜はもともと学問が好きでないが、地上に降りてからからは特にそれが顕著であるからしょうがないかもしれない。
永淋の研究室は実に近未来的であった。
壁は全面白く塗装されており、軽く叩いてみると金属であることがわかった。
床も全面白いタイルがしきつめられていた。
あちこちに実験道具が積まれており、中には月でみたような精密機械もあった。
「では姫、説明しますのでこちらの椅子に座ってお聞きください」
永淋が座るように促した椅子は、至って普通の椅子であった。
真っ白でシンプルなデザイン。
材料は一見木を使っているようで、人の温もりを感じるようであった。
ただ、それがこの無機質な部屋の中では異質に感じられる。
しかし、実際に座ってみれば
「冷たい…?」
次の瞬間
「!?」
椅子のあちこちから拘束具が飛び出し、輝夜を締め付けた。
背もたれからは首を。
肘掛からは手首を。
脚部からは足首を。
がんじがらめだ。
「まさか、こんな簡単に引っかかってくれるとはね」
永淋が背を向けたまま言葉を発した。
それは語りかけているというよりかは、独り言に聞こえた。
しきりに腕を動かし、何かの作業をしているようであった。
「え、えーりん!?まさか、仕事って新薬の実験台なんかじゃないわよね!?」
永淋が腕を止めた。
「場合によっては、そうなるわね。」
「永淋、冗談にも限度があるのよこんなことをして、ゆるされるとおもっ
「黙りなさい」
永淋が、振り向いた。
背筋が凍った。
これが、永淋?
その瞳には、光がなかった。
影が無かった。
ただ青い色がレンズを通して見えるだけ。
底が見えず、吸い込まれるような感覚を覚る。
そして、その手には…注射器。
「まったく、何時の間に入れ替わったというのかしら」
入れ替わった?
誰が?
私が?
「私でさえ最初は気づけなかった。本当にうまく化けたものね」
まさか、この従者は頭がおかしくなってしまったのではないか。
そうだ、そうに違いない。
でなければどうして私にこんなことができるのか。
「でも、あなたはドジを踏んだわ。本物が、自分から働くなんて言い出すはずがないのよ。…私でさえ、姫からその言葉を聞き出すことはできなかったというのに」
私が悪いの?
働くことの何処が悪いのか。
ねぇ、教えてよ………永淋。
「さぁて、お注射の時間ね。痛くない、痛くないわよ。…この後は痛いかも知れないけどね」
「その薬は体の自由を奪うわ。あぁ、感覚はなくならないから安心していいわ。そうでなきゃ、楽しめないものね」
「さて、あなたは一体何処のまわしものかしら。洗いざらい喋ってもらうわよ…まさか、月からの刺客、じゃないわよね?」
「まさかと思うけど、もし本当にそうなら面倒ね。また月を隠さないと。…まぁ、一回目のデータがあるのだから二回目の失敗はありえない。邪魔をするものは、本気でもってして、皆殺し」
「あぁ、楽しみね。あなたはいったい、どんな声で鳴いてくれるのかしら…」
「さて、はじめましょうか。神様にお祈りは?苦痛に喚きながら、命乞いをする準備は、O,K?」
「アハ、アハハハッハハハハハハ、ハハッ」
まぁどうせ何をされても生き返るんだ。
そうすれば、いくらなんでも正気に戻るだろう。
その時、永淋はどんな顔をするのだろうか。
驚くだろうか、報復を怖れるだろうか、非礼を侘びるだろうか。
…この従者のことだから、開き直るのかもしれない。
嗚呼、きっとこの部屋の外では私達の姿が見えないだけで平和そのものなのだろう。
いてもいなくても、大して違いはないのだろう。
なんか、悔しかったり。
「………夢?」
目が覚めてみれば、目に映ったのは見慣れた天井だった。
昨晩パソコンをつけたまま寝てしまったらしい。
熱暴走でフリーズしたのかブルー画面を煌々と移していた。
「どうして、あんな夢を」
…考えていても、仕方が無い。
「あ、もうこんな時間」
今日は妹紅と殺し合いの約束をしていたのだった。
急がないと遅れてしまう。
パソコンを強制終了させると、輝夜は部屋を飛び出していた。
白い雲と青い空。
今日も、永遠亭は平和である。
「…はぁ」
「師匠、どうしたんですか?溜息なんてついて」
「なんだか、急に仕事する気が無くなってしまって…」
「………」
紅魔館では名も無き門番が白黒の侵入者によって炭と化していても。
魔法の森の人形使いが孤独死寸前でも。
博麗の巫女が断食五日目に突入していたとしても。
それでも幻想郷は平和なのである。
竹林の奥にひっそりと佇む巨大な屋敷、永遠亭は中でも特別平和であった。
永遠そのものとも言える不可思議な存在が主をやっているのだから当然といえば当然かもしれない。
平和とは即ち、毎日毎日が同じ事を繰り返しさりとて変わったことが起きないこと平和というのである
たとえ辺りかまわず炎を撒き散らす傍迷惑な不死鳥の襲撃を受けようとも、哀れな兎が一匹、天災薬師の研究室に入ったまま二度と姿を見せなくなっても。それでもそれはいつも繰り返される日常なのだから、それはやはり平和と呼べるのである。
同じ事を永遠に、延々と繰り返す。
だから今日は平和なのだ。
まぁ、今のうちは。
「ふぁ、おはよー、えーりん」
寝ぼけ眼で従者に挨拶をしたのはこの永遠亭の主、輝夜である。
「おはようございます、姫」
実は全然早くない。
時刻は既に正午過ぎ。
お天道様も既に南中を通っている。
彼女、永淋は縁側で食後のお茶を飲んでいるところだった。
普通なら輝夜はお咎めの一つを受けてもいいところだ。
しかし、永淋が輝夜を咎めることはない。
それは何故か?
既に慣れてしまった、ということもあるだろう。
それはこの地上に降り立ってから既に百年単位の時間で繰り返されてきたことなのである。
今更あれこれいう気も起きないのかもしれない。
だが、それだけではない。
永淋は従者である。家臣である。
主が誤った道に逸れそうになったら、それとなく正しい道を教えてあげるのも従者の役目である。
しかし、それをしない原因は、主である輝夜自身にある。
輝夜は、主としてはあるまじき呼び名を貰っているのだ。
そう、彼女は
ニートなのだ。
何を今更、と思う人多いいだろう。
巫女といえば脇であり、スキマといえば少女臭であり、香霖といえば褌なのであるというのと同じだ。
そして、輝夜といえばニートなのである。
これらは一般的に幻想郷不変の事実と言われている。
もしこれらの事実が覆るようなことが起きれば、幻想郷全体に大いなる災いが降りかかるとふりかからないとか。
つまりは、それくらい輝夜はニートなのである。
ニートが昼過ぎまで寝ているのは当たり前。
またニートの大前提として、働かないという条件があるが輝夜は当然これも満たしている。
オプションとして引きこもりだとか24時間PC前警備員であるとかいうのもある。
しかしここで疑問が出てくる。
ニートは間違った道ではないのだろうか。
永淋がニートを誤った道としてカウントしないのにはそれ相応の理由がある。
まず一つとして、輝夜が元月の姫であるということ。
姫が労働するなどとは以ての外である。
輝夜はあまり外出を好まなかった。地上に降りてからはそれが特に顕著であるが。
そしてもう一つ、この幻想郷に理由はある。
ここ幻想郷では、別に職がないというのは別に珍しいことではないのである。
さすがに里の人間はだいたい皆が職を持っている。
けれど、妖怪はどうであろうか。
妖怪が職をもつなど、あまり考えられることではない。
歴史喰いの半獣などは例外中の例外なのである。
例えば、紅魔館の主であるつるぺた吸血鬼はどうであろうか。
主であるのだから仕事などしないのは当然であるが別に誰も彼女をニートなどと罵りはしない。
ただ館の中心でふんぞりかえっていればいいだけなのである。
そこに輝夜との差はどのようにして生まれるのかというと、そこにはカリスマという幻想郷にはなくてはならない重要な要素に辿り着くのであるが、それを話すと長くなるので割愛する。
以上が、ニート=絶対悪が幻想郷では成り立たないという根拠である。
だから永淋は咎めない。
主人がニートであろうとヒッキーであろうと。
いつもどおり慈愛に満ちた笑顔をその顔に貼り付けているのだ。
そう、いつもどおり。
相手に警戒心を抱かせない笑顔を意図的に作り出し無防備な相手から情報を引きづり出す。
長年一緒に暮らしてきた輝夜が相手である。
次の彼女の行動が、永淋には手に取るようにわか
「あ、永淋、私今日から働くわ」
らなかった。
次の瞬間、永淋は頭からボンっという音と湯気をだして倒れた。
笑顔が張り付いたままで不気味である。
えーりんふりーず。
姫、今なんと?
はたらく?ハタラク?歯鱈区?旗楽?………
わからない?
この私が、たかだか平仮名にして四文字の言葉の意味も理解できないというの!?
月の頭脳と謳われたこの私が。
あり得ない有りえないありえないアリエナイ
認めない見とめないみとめないミとめナい………
「私は天才私は天才私は天才私は天才…」
「ちょ、ちょっと、永淋!」
「ッハ…」
「やっと戻ってきた。まったく、私が働くって言ったくらいで。大袈裟ね」
「…姫、今なんと……」
「だから、働くと言っているでしょう?仕事がしたいのよ」
「………」
従者は喋らない。
顔は伏せられていて表情は影に隠れて見えなかった。
「えーりん…?」
「姫」
永淋は立ち上がった。
「姫、ついてきてください。手伝って欲しい仕事がありますから」
その顔にはいつもどおりの、慈愛に溢れた笑みが浮かんでいた。
「へー、すごいのねぇ」
永淋に連れてこられたのは、彼女の研究室であった。
実は輝夜はこの部屋に入ったのは初めてである。
輝夜はもともと学問が好きでないが、地上に降りてからからは特にそれが顕著であるからしょうがないかもしれない。
永淋の研究室は実に近未来的であった。
壁は全面白く塗装されており、軽く叩いてみると金属であることがわかった。
床も全面白いタイルがしきつめられていた。
あちこちに実験道具が積まれており、中には月でみたような精密機械もあった。
「では姫、説明しますのでこちらの椅子に座ってお聞きください」
永淋が座るように促した椅子は、至って普通の椅子であった。
真っ白でシンプルなデザイン。
材料は一見木を使っているようで、人の温もりを感じるようであった。
ただ、それがこの無機質な部屋の中では異質に感じられる。
しかし、実際に座ってみれば
「冷たい…?」
次の瞬間
「!?」
椅子のあちこちから拘束具が飛び出し、輝夜を締め付けた。
背もたれからは首を。
肘掛からは手首を。
脚部からは足首を。
がんじがらめだ。
「まさか、こんな簡単に引っかかってくれるとはね」
永淋が背を向けたまま言葉を発した。
それは語りかけているというよりかは、独り言に聞こえた。
しきりに腕を動かし、何かの作業をしているようであった。
「え、えーりん!?まさか、仕事って新薬の実験台なんかじゃないわよね!?」
永淋が腕を止めた。
「場合によっては、そうなるわね。」
「永淋、冗談にも限度があるのよこんなことをして、ゆるされるとおもっ
「黙りなさい」
永淋が、振り向いた。
背筋が凍った。
これが、永淋?
その瞳には、光がなかった。
影が無かった。
ただ青い色がレンズを通して見えるだけ。
底が見えず、吸い込まれるような感覚を覚る。
そして、その手には…注射器。
「まったく、何時の間に入れ替わったというのかしら」
入れ替わった?
誰が?
私が?
「私でさえ最初は気づけなかった。本当にうまく化けたものね」
まさか、この従者は頭がおかしくなってしまったのではないか。
そうだ、そうに違いない。
でなければどうして私にこんなことができるのか。
「でも、あなたはドジを踏んだわ。本物が、自分から働くなんて言い出すはずがないのよ。…私でさえ、姫からその言葉を聞き出すことはできなかったというのに」
私が悪いの?
働くことの何処が悪いのか。
ねぇ、教えてよ………永淋。
「さぁて、お注射の時間ね。痛くない、痛くないわよ。…この後は痛いかも知れないけどね」
「その薬は体の自由を奪うわ。あぁ、感覚はなくならないから安心していいわ。そうでなきゃ、楽しめないものね」
「さて、あなたは一体何処のまわしものかしら。洗いざらい喋ってもらうわよ…まさか、月からの刺客、じゃないわよね?」
「まさかと思うけど、もし本当にそうなら面倒ね。また月を隠さないと。…まぁ、一回目のデータがあるのだから二回目の失敗はありえない。邪魔をするものは、本気でもってして、皆殺し」
「あぁ、楽しみね。あなたはいったい、どんな声で鳴いてくれるのかしら…」
「さて、はじめましょうか。神様にお祈りは?苦痛に喚きながら、命乞いをする準備は、O,K?」
「アハ、アハハハッハハハハハハ、ハハッ」
まぁどうせ何をされても生き返るんだ。
そうすれば、いくらなんでも正気に戻るだろう。
その時、永淋はどんな顔をするのだろうか。
驚くだろうか、報復を怖れるだろうか、非礼を侘びるだろうか。
…この従者のことだから、開き直るのかもしれない。
嗚呼、きっとこの部屋の外では私達の姿が見えないだけで平和そのものなのだろう。
いてもいなくても、大して違いはないのだろう。
なんか、悔しかったり。
「………夢?」
目が覚めてみれば、目に映ったのは見慣れた天井だった。
昨晩パソコンをつけたまま寝てしまったらしい。
熱暴走でフリーズしたのかブルー画面を煌々と移していた。
「どうして、あんな夢を」
…考えていても、仕方が無い。
「あ、もうこんな時間」
今日は妹紅と殺し合いの約束をしていたのだった。
急がないと遅れてしまう。
パソコンを強制終了させると、輝夜は部屋を飛び出していた。
白い雲と青い空。
今日も、永遠亭は平和である。
「…はぁ」
「師匠、どうしたんですか?溜息なんてついて」
「なんだか、急に仕事する気が無くなってしまって…」
「………」