Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

何が為に厄を集めるか

2007/11/23 11:09:01
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1


     ○ ○ ○ ○ ○


今日もくるくる回って厄集め。

調子が良かったからいつもより多めに回ったら沢山厄が集まった。
これだけ集まったら暫くは妖怪どころか人間にも会えはしない、会った皆に不幸に会うから。
だから今日も樹海の奥でひっそりと厄と一緒に時間を過ごす。
その間もくるくる回って厄集め。
厄が尽きる事は無い、生きとし生けるものが存在する限り厄は生まれ続ける。
だから私は厄を集める、この殆ど誰も来ない深い樹海の中で。
厄神としての使命を持ってからずっと続けてきた当たり前の事。

何の為に厄を集めるか
それはこの地に暮らす人間の為に


     ○ ○ ○ ○ ○


今日も変わらずくるくる回って厄集め。

今日はいつぞやの白黒の人間がやって来た。どうやら山にある栗を狙ってきた様子。
危険を伴う山への進行を止めるのも私の役目、それが人間を不幸にしない為の第一歩。
止めに入るも白黒は強い、頑張ってみるも蹴散らされて先へ進んでしまう。
先に進む時、白黒はこんな事を言っていた。

『またえんがちょの神様に会った、これじゃ幸先が悪い』

言われても仕方がない、私の周りはどんな時でも殆ど厄が取り巻いている。
大抵の人は近づいただけで多数の不幸に見舞われる。
だからこの深い樹海で厄と共に時間を過ごす。

何の為に厄を集めるか
それは私の使命だから


     ○ ○ ○ ○ ○


今日も人間の為にくるくる回って厄集め。

回っていたら珍しく里の人間が迷い込んできた。この人間も山の稔り目当てだろうか。
白黒とかでも危ないけど何の力も持たない人間が入るのはなお危ない。引き止めて帰り道を知らせるのが人間の為。
目の前に下りたら人間が驚いて腰を抜かした。きっと周りに渦巻く厄が見えたから。
私が一歩近づくと人間は二歩下がり、私が二歩近づくと人間は三歩下がった。
きっと妖怪と間違われたからだと思う。私はただ心配して近づこうとしているだけなのに。
話が進まないから離れた位置から話しかける。私が何者でありどうしたいのかを。
暫くしてようやく納得してくれた。
でもやっぱり私に近づこうとしない。それどころか更に距離を離していた。
そして帰り道を知るやいなや、慌てて振り返って走っていった。
まるで化け物から逃げるみたいに。
確かに離れていれば不幸にはならない、厄はただ私の周りを渦巻いているだけだから、ましてや襲いもしない。
なのに人間は慌てて逃げた。命かながらの様子で逃げた。
仕方がないと思う。誰だって不幸にはなりたくない、目に見える不幸なら尚更近づかない。
誰も私に近づこうとしない。
私は誰からも好かれず、この深い樹海の中で厄と共に時間を過ごす。

何の為に厄を集めるか
それがなんだか分からなくなってきた


     ○ ○ ○ ○ ○


今日もくるくる回って厄集め。何の為にしているのか分からない厄集め。

今日も人間が一人迷い込んできた。里に住む小さな子供だ。
最近は人間の警戒心も薄れているのかもしれない、危険な山に近づくのが連日現れるなんて。
それでも山に近づけない為に止めに入る、それが私の使命だから。
近くに下り立っても子供は呆然と眺めるだけ、驚かないし逃げもしない。
それどころか私が何者なのかを尋ねてきた。

『私は鍵山雛。ここで厄を集め、厄が人間の下に戻らないよう監視している厄神』

当たり前の様に答えておいて自分に違和感。
なぜ厄を集めているのだったか、なぜ人間の下に戻らないよう監視しているのか。
気が付けばそれさえ分からないという事実に内心戸惑った。
それでも今はその答えより子供を里に返してあげる事が先決、それが私の使命だから。
ここは危ない所、だからまっすぐ後ろの道を戻りなさい。
いつも通りの台詞、いつも通りのやり取り。
普段ならその後、人間達は慌てて逃げ帰っていく。
でも子供はすぐには逃げなかった。
それどころか、厄が渦巻く私に自ら近づいた。

『神様、いつも守っててくれてありがとう』

満面の笑みでそんな他愛のない一言を言って私の前に手を差し伸べる。
掌には一つの小さなべっこう飴、私に一個くれるらしい。
恐る恐る一個もらうと、子供は満足した様子で頷き、軽い別れの挨拶をしてから今度こそ去っていった。
残ったのは私の手の上にある琥珀色をした一つのべっこう飴。
飴は舐める物、だから私はそれを口に入れて舌でころころと転がす。
すると砂糖だけで出来た単純な甘さが口の中に広がり、同時に視界が滲んで見えた。

私はこの深い樹海で厄と共に時間を過ごす。

何の為に厄を集めるか
それが今になって思い返された。


     ○ ○ ○ ○ ○


今日も今日とでくるくる回って厄を集める。

今日は誰もやってくる気配は無い、だからこの前腑抜け気味だった分を取り返す為に思いっきり厄を集める。
厄は今日も沢山集まった。これからも厄が絶える事は無いだろう。
生きとし生けるものがいる限り厄は沸き続けるのだから。
そして厄がある限り私は存在し続けるだろう。
この深い樹海で厄と共に時間を過ごすだろう。

何の為に厄を集めるか

それは大好きな人間の笑顔を守りたいから

神様だって生き甲斐が必要なんだと思います。
そんな事を考えながら書いた一品
更待酉
コメント



1.名無し妖怪削除
雛ちゃんはいい奴だ……(´;ω;`)ブワッ
2.名無し妖怪削除
こんな厄神のお話を待っていた。感謝!!
雛嬢可愛いよ。
3.更待酉削除
それはかとなく返信タイム

>雛ちゃんはいい奴だ……(´;ω;`)ブワッ
雛は良い神様ですよ、きっと。

>こんな厄神のお話を待っていた。感謝!!
依然要訓練の身ですが気にいただけたなら何よりです。