朝、美鈴が目を覚ますと、何者かが自分にしがみ付いていた
「……なんで、ミスチーがしがみ付いているんでしょうか?」
不思議に思ったが
「まあ、別にいいか」
美鈴は気にしなかった
「……紅魔館に居た頃の鶉さん達みたいですね…」
門番をしていた頃に、朝食のコッペパンを半分残し
それを、飛んでくる鶉達にあげていたことを思い出す
「……妹様とこっそりと、あげていた時もありましたね
……お嬢様も一緒にあげたいのに出て来れなかったことも」
懐かしい思い出がよみがえる
思わず、寝ているミスチーの頭を撫でていた
ミスチーも気持ちがいいのか、撫でている手に擦り寄る
「ん~……お父さん…」
「……よしよし」
もうしばらく、静かな時間が続きそうだった
「慧音先生!おはようございます」
「うん、おはよう」
慧音は、今日も町を歩いていた
困った人が居たら、それを助けてやり
子供達が居たら、物事を教え
お年寄りが居たら、仕事を手伝い
人外を見たら……
「……妹紅…なんでここで倒れているんだ?」
「ごめん、助けてくれると助かる…」
とりあえず話を聞く
地面に倒れている自分の友人を起こすと
「で?何で倒れているんだ」
そう問いただした
「慧音を探している人に倒された……」
簡単に言うが、妹紅を倒すなんて事は
普通の人間では出来る芸当ではない
……そうなれば、おのずと対象は決まってくる
「霊夢なら、そんな面倒な事はしない
妖夢だったら、挨拶をきちんとする
メイド長なら、そんな事せずに妹紅の服だけを綺麗に
切り刻んでいく……となると」
慧音の頭には一人しか浮かばない
「……魔理沙だな…」
その答えに妹紅が頷く
「当たり……早く家に帰ったほうがいいよ」
「何でだ?」
妹紅が足元に着いた埃を払うと
「……もしかしたら、荒らされるかも」
その一言で、慧音は全速力で走り出した
「……大丈夫みたいだな」
家についてみると、魔理沙が居た
しかし、いつもと様子が違う
「……よう、待ってたぜ」
いつものような覇気が感じられず
むしろ、少し落ち込んだ感じだった
「……なにがあった?」
相手が人間なら、慧音は出来る限りの事をする
……それがはた迷惑な人でも…
「歴史を見てほしい奴が居るんだ」
魔理沙がそう答える
「……何の目的だ?」
慧音の力、歴史をつくり食べる能力があれば他人の
歴史を見ることは簡単だ。だがそれは相手を監視するのと
同じだ、故に慧音は余りそのような事をしない
魔理沙もそれを承知の上で聞いているのだろう
「…昨日なんだけどな…」
魔理沙からの話に、色々驚いた
まず、魔理沙も美鈴を探している事
そして、魔法の森で何者かにやられた事
気がつけば、香霖堂に連れて来られた事
最後に……香霖堂の店主が魔理沙を連れて来た者に…
「……『紅美鈴は今は幻想郷に居ない』…そう言ったんだな?」
慧音が聞き返した
「香霖は確かにそう聞いたらしいぜ」
幻想郷に居ないということは
「外の世界に行った、とは考えられないな」
「ああ、もし外の世界に行くとしたら結界に何らかの
反応があるはずだ、そんな事があったら霊夢も動くはずだぜ」
霊夢が、神社でお茶を飲んでいるのは確認済みらしい…
「ならば考えられるのは……」
幻想郷から出れないが、居ないとなれば
「いや、死んでもいないぜ……」
魔理沙が調べた所
冥界にも、魔界にも、三途の川、第三世界にも居なかったらしい
「……何なんだ?この第三世界とは」
「二つの世界が重なった世界だぜ」
魔理沙のボケが華麗にスルーされたが
確かに、それなら歴史を見ることが必要だとわかった
「……では少し待ってくれ」
慧音が歴史を見るための準備をし始めた
慧音が持ってきたのは
大きな鏡だった
「どうするんだ?」
魔理沙が尋ねると、慧音が鏡を地面に置きながら
「私が見るだけなら、こんなものなど必要ないが
お前も見たいだろうから、これに映すことにする」
そういって慧音は鏡の前に座り込む
「……いくぞ?」
そう前置きしてから力を集中し始める
「ぐっ?がはっ!」
しかし、鏡に映す前に
いきなり、慧音が苦しみ始めた
「どっどうした!」
魔理沙が心配そうに慧音に近ずく
慧音が目元に手を当てながら
「……本当に、どうやってあの妖怪は生きてきたんだ?」
「はっ?」
慧音の目から涙がこぼれる
「……いままでいろんな歴史を見てきたが…
これほど酷いものは見たことがない……」
さまざまな歴史を見てきた慧音ですら
その歴史……いや生活は、酷いものだった
「そんなに酷いのか?」
魔理沙が慧音に尋ねる
「人生がそのまま修行だな……」
「……絶対に門番なんかやりたくないな…」
そこで止まっておけばよいが、美鈴の歴史を見ないことには
今の彼女がどうなっているかがわからない
「取り合えず……鏡に映るようにしてみるか…」
そういうと慧音が何か取り出す
「なんだそれ?」
魔理沙に聞かれて、慧音が答えた
「一種の精神増幅薬だ……」
そういうと、それを一気に飲み干す
「おっ、おい…大丈夫か?」
「……少し待ってろ…」
慧音が力を集中させる
すると、鏡に何か映りだす
「おっ!見えてきたぜ」
鏡に映ったのは
魔理沙の倒されて、空を見上げ涙を流している美鈴の姿だった
「ちょっと戻りすぎだな……」
その言葉に、慧音が別のシーンに変える為に
再び集中し始める……
「ぬう……」
「おいおい…大丈夫か?」
心配する魔理沙に対して片手で留めると
鏡にまた何か映し出された
「次はなんだ?」
今度は、美鈴が射命丸文に対して
何か放っている所であった
「……なんだあれ?(弾幕が)見えないぞ」
「ぬ?集中力が足りなかったか?」
「おい!ちがっ…」
慧音が勘違いして、さらに精神増幅薬を飲み干す
「うっぷ!」
魔理沙が喋るよりも早く慧音がそれを飲み干す
「……なんかやばそうだからもう飲むなよ?」
「……飲みすぎた…まあ、もう少しぐらいなら」
頭を抱えながら、次の映像を鏡に映す
大量の妖怪が今まさに何者かの前に現れている所だった
「よし!これなら何かわかるかも知れないぜ」
もう少しで、美鈴が何処に居るのかわかりそうな時だった
「ろれろほげ~!!!!」
慧音が精神増幅薬に耐え切れずに……壊れた
「おっ、おい…もういい! 無茶するな!」
魔理沙が止めに入る、しかしそれを振り払おうとする慧音
「どっ……ど根性!!!」
「だから!もうやめろって」
このままでは死んでしまうかもしれなかったので
「せい!」
魔理沙が慧音の頭を八卦炉で叩く
「ぐっ!?」
(ぴしっ!)
慧音が倒れると同時に
八卦炉から心地のよい音が響く
「あ~……壊れたかな?…後で香霖に見てもらわないとな…」
だが、八卦炉の一撃のおかげで
慧音は気絶していた……
「はっ!液体人間」
「……なにわけわからない事言ってるんだ?」
慧音が目を覚ましたのは、それから少ししてからだった
「まあ、妖怪達に聞けばある程度わかるかな?」
魔理沙が、鏡に映った美鈴の歴史を見て
そう結論を出した……
「もう少し歴史を「頼むから!もう、これ以上その変な薬を飲むな!」
む、ならやめておくか」
慧音が歴史をさらに見ようとしたが
魔理沙がそれを止めた
「よし! それなら今からでも大暴れしてやるぜ!」
魔理沙がそう言って、飛び出して行こうとしたのを慧音が止める
「まて、今のお前では少し心配だ」
慧音の言葉に魔理沙が動きを止めた
「なんだって?」
「もうそろそろ夜だ、それにお前の持っているそれ……
壊れているのだろう?」
慧音が指差した先には……
「……確かにそうだな」
そこには、慧音を気絶させるために犠牲になった八卦炉の姿があった
流石に、魔理沙も八卦炉が壊れていては
夜の妖怪達に挑むのは肩の荷が重い
「でも、時間が経てば面倒になるぜ?」
魔理沙の言い分は確かだ
時間が経てば、美鈴が生きていても何処に居るかは
さらにわからなくなるだろう
「大丈夫だ」
だが、慧音が自信ありげにそう答えた
「私が妖怪達に聞きに行けばいい」
確かに、これほど心強い味方はないだろう
「いいのか?」
「ああ、このぐらいならかまわん」
慧音は人が好きなのだ……それが迷惑な人でも
「……最近は子供達も、妹紅も、永遠亭の姫も
みんな賢くなったからな……ふふふっ…久しぶりに
頭突きができるな……」
こっちが本音でした……
「(こっ、こえ~)まっ、まあよろしく頼むぜ」
このままかかわると、自分も頭突き食らうんじゃないかと
心配した魔理沙は慧音を置いて、香霖堂に向かう事にした
「ふふふふっ……」
「な、なあ……慧音?」
「妖怪達なら……遠慮はいらないよな……ふふっ…ふふふふっ」
「(駄目だ! 下手すると私も被害を受ける)ちょっと輝夜のところに行って来る」
慧音をよく見ている妹紅さんも、今の慧音は危ないと判断するほど
今の慧音さんは、良い笑顔でした
逃げ出そうとした妹紅さんでしたが…
(がしっ!)
「……妹紅、少しお願いがあるんだが?」
肩を掴まれてにっこりと笑いかけられた
「はっ、はい!なんでしょうか?」
恐怖の余りに思わず丁寧に聞き返すと
「今日一日、里を守ってくれ……ちょっと魔法の森に出てくるから」
「はい!わかりました!」
有無を言わせない笑顔だったので
妹紅は『はい』としか答えれなかった
(助かった……妖怪達には申し訳ないけどね)
妹紅は名もない妖怪達に、心の中で黙祷をささげた
一方その頃
「ん~……あれ?…」
ミスチーが目を覚ますと、美鈴が
自分の頭を撫でているところでした
「あっ、起きた?」
ミスチーが起きた事に気がついたのか
美鈴が声をかけてきた
「えーと……おはよう」
しばらくの間、寝起きで頭が働かなかったが
今の状況を判断して……
(かあ~っ)
ミスチーの顔が真っ赤になった
(なんで私頭撫でてもらっているの!?
いや、むしろうれしいけど)
ミスチーがパニックを起こしている事に美鈴は気がつかない
「大丈夫?顔赤いよ」
そういってミスチーの頭に手をのせると
熱をはかろうとした
「だっ、大丈夫!熱なんかないから」
自分が、パニックになっている事を悟られないように
あわてて起き上がった
「無茶したらいけませんよ」
起き上がったミスチーに、そういってから美鈴も起き上がり
「さて?また鰻を取ってきますね」
外に出て行ってしまった
美鈴が外に出てしばらく経ってから
「……もう少し頭撫でてもらえばよかった…」
そういって地面にガックリと倒れこみ
チンチンと泣いている夜雀の姿が見られたらしい
作者名が名無し妖怪になってますよ。
名無し妖怪ですよ~。
脇役さんの根性、
士かと受け止めたぞ!!
いつもプチ創想話を開いたとき、このシリーズがあるかなと楽しみにしてます!頑張ってください!
っていうか昭和男児は幻想入りしたんすか(笑。
ところどころにちりばめられた小ネタにニヤリとしてしまうww
このおっさんホイホイめ(褒め言葉的な意味で)