紅魔館の図書館では、今日も必死に執筆活動に取り組むパッチュさんの姿がありました。
「もう少しよ、もう少しで極東の最新作が!」
「パチュリー様、後半に近づくにつれどんどんと内容がカオス化してません?」
「いつもの事じゃないの」
「永夜射なんか酷かったですもんねぇ」
「今回はもっと酷いわよ!」
「あらかじめ言わないでくださいよ!」
カリカリと響くペンの音、原稿の仕上がりを待つ小悪魔さん、
あまりにも暇なので、ふと積み上げられた本を見ればそこには面白いものが。
「あ、ボツネタ帳、小分けしてるんですね」
「その中からアイデアをまた持ってくる為によ」
「へー、どんなのがあるんですかね」
―――
「寒い……」
季節は冬、しんしんと降り注ぐ雪の中、自らの身体を抱きしめて凍え震える妖怪が一匹、
緑色のほわほわした髪、チェック柄のその衣服、彼女の名は風見幽香、とっても強い妖怪である。
「花が……花が何処にも咲いてない……」
彼女にはとある特性がある、年中花に包まれた場所で過ごすというものだ、
春ならいわずもがな、夏なら向日葵畑、秋なら秋でそれはもう色々と。
「寒いわ……花は何処……?」
問題は冬だ、冬に咲く花というのはとことん少ない、それはもう巫女が食料探しに困るぐらいに、
無論、勘の良い巫女ですら花探しに苦労するのだから、普通の妖怪の彼女はもっと見つけづらい。
「花……花……」
しかし何故彼女はここまで花を追い求めるのだろうか、
その理由は誰にもわからない……。
原稿はここで終わっている。
―――
「これ、ボツなんですか? 冒頭だけ書いただけのように見えますが」
「冒頭だけ思いついて書いた物よ、中盤もオチも思いつかないったらありゃしないわ」
「そこはほら、幽香さんと魔理沙さんあたりのカップリングでも」
「私に恋愛話は書けないのよ!!」
「はぁ……ではこちらは?」
―――
「んふふふ~ふんふ~ふんふ~ふふふ~」
「紫様?」
「ふふふふ~ふふふ~ふふふふ~……あら、なぁに?」
「何を……してらっしゃるのですか?」
紫が真昼間に縁側で日光浴をしながら鼻歌を歌っている、ありえない。
「ああ、歌を聴いていたのよ」
「歌、ですか?」
「そうよ、あなたも聞いてみる?」
そういって紫は藍にヘッドホンを手渡した、
藍の手の中で黒く光るそのU字型の物体、その存在を藍は一応知ってはいたが、
初めて手にとったその物体には警戒心も芽生えていた。
「ほら、耳につけて」
「はぁ……よいせ」
しかし、主人にせかされてはつけるほかは無く、黒光りする物体を頭へと運ぶ、
するとそれはピタリと頭に納まり、先端の柔らかい部分も耳にジャストフィットであった。
無論、普通の人間とは違う位置にある藍の耳になぜフィットするかを疑問に思うべきであったのだが。
「えーと、これでどうすればよろしいのでしょうか?」
「ちょっとまってね、いま再生を……えい」
ゆかゆか~ ゆかり~
ゆかゆか~
ゆかりん~ ゆかり~
ゆかゆかりんりん~
ゆっかり~ん ゆ~か~
「うふぉわぁぁぁぁぁ!? 何だこの地獄から響いてくるような声わぁぁぁぁ!!」
「いい曲でしょう?」
「のっ、脳が溶ける! この……は、外れない?!」
「百回リピートするまで外れないわよ?」
「勘弁してくださいよ紫さまぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヘッドホンを掻き毟り、転がりまわりながら悶え苦しむ藍が
段々と口ずさみながら違う違う違うとさらに苦悩する様子をしばらく楽しんでください。
「あー……うー……」
「そろそろかしらね、えい」
やがて藍の目は焦点が合わなくなり、その口からはただうめき声が漏れるだけであった。
「やりすぎたかしら? ほら、起きなさい」
「……はっ!!」
「気分はどう?」
「やっぱ加齢臭だと思うんですよ私は」
カッキィィィィィィン!!
原稿はここで終わっている。
―――
「うわぁ……」
「あなた、冒頭だけ読んでうわぁは無いでしょううわぁは」
「いやだってこれ……うわぁ」
「ボツになった理由がわかるでしょ?」
「よくわかります、では次行きましょう次」
―――
『Patchou maker (ぱちゅめいかぁ)』
誰でも気軽にパチュリーが作れます。
「出落ちかよ」
「何が?」
神社の縁側に腰掛けて霊夢と魔理沙がなにやら一冊の本を読んでいる、
本の題目はぱちゅめいかぁ、何故か日本語かつ平仮名の振り仮名だった。
「で、魔理沙」
「何だ?」
「パチュリーって図書館のあれ?」
「いや、この場合は植物のほうのパチュリーだろう、いい油が抽出できるんだ」
「ふぅん、それって食べれるの?」
「……一応、シソの一種ではあるけどな」
事の発端は、ある日神社に勝手に届けられた謎の宅急便からだった、
中に入っていたのは鉢植えセットと、ぱちゅめいかぁと書かれた一冊の本、
無論、霊夢は怪しんだのだが、そこは魔理沙の一押しがあったとか無かったとか。
「えーと、まず付属の鉢の底に小石を敷き詰めます」
「これか」
「次に魔力を帯びている土地の土を上の線まで入れてください」
「神社の土なら十分すぎるぐらいだな、よっと、せっと、ほいっと……よし、こんなもんか」
「そして土を掘り起こしてできた穴に付属の種を植えましょう、鉢と土は適当に処分してください」
「なんかもの凄く納得いかねぇ!!」
とりあえず空の彼方へと全力で放り投げた、
今頃は幻想郷の大地の一部となっている頃だろう。
―――
「なんでこれがボツなのよ!!」
「なんでパチュリー様が切れるんですか!!」
「大体各々が育てたパチュリーコンテストとか、秀逸なオチも思いついてたのよ!?」
「だったら書いてくださいよ!」
「スプリングファームと被るのよ!」
「そりゃどうしようもねぇ!」
「しかも最新の作品集でチルノにも先を越されたわ!」
「そりゃ悲惨だ!」
そして今日も図書館にはカリカリとペンを走らせる音が鳴り響く……。
ところで現行ではなく原稿では?
面白かったです!だからもっと没ネタを!!
藍、加○臭は禁句でありますよ。(;^ω^)
てかオチが栽培チルノwww
ギャグは勢いが大事だから、書き上げてから推敲し過ぎるとだんだん不安になってきて、ボツにしてしまうことってありません?