事の発端は、慧音が風邪をひいたことによる。
季節の変わり目だというのに、年甲斐なく夜遅くまで竹林を走り回っていたのがまずかったらしい。
追いかけられていた妹紅は何ともないというのに。
慧音は愚痴りながらも、寺子屋で代理として教鞭を振るってくれる奴を捜していた。
永琳、藍、アリス、パチュリー。しかし、いずれも拒否。
唯一、四季映姫だけが一日だけならやってもいいと答えたのだが、
「私に任せて貰えるのなら、子供達の性根は見違えるほど変わるでしょう。今のうちから教育しておかないと、将来眠いから眠ってしまったので仕事をしていなかった、という死神になるかもしれませんからね」
どうにも、子供達が洗脳されかねない程の勢いだったという。
仕方なく慧音は四季映姫も諦め、また代わりの人間を捜すことにした。
文の伝手もあり、いよいよ熱が九度を超したあたりで代わりの人間というか妖怪が見つかったのだ。
「私が今日だけ勉強を教える事になった、谷カッパのにとりだ。よろしくな」
そこはかとない不安は、あったのだけれども。
「まず、基礎的な事から訊いておくけど。1+1がわからない子はいないよね」
色褪せた壁に背を預けながら、にとりがそんな質問をする。
子供達は互いに顔を見合わせ、面白そうにクスクスと笑った。
「それぐらいわかりまーす。答えは2です」
「はい、間違い。そっか、やっぱりこんな簡単な事もわかってなかったんだ」
にとりの言葉に、子供達の間に動揺が走る。
「でも、慧音先生は2だって言ってました」
「それも一つ考え方。でも、そんなの大きくなったら関係ない。別のもっと役に立つ考え方をしてないと、駄目なんだよね」
手持ち無沙汰なのか、スパナを回しながらにとりは子供達の顔を見渡した。案の定、何を言っているのかわからないという顔だ。
「だ、だったら答えは何なんですか」
一人の男子が手を挙げながら、にとりに尋ねる。
「決まってる。1+1は爆発だ」
「ば、爆発?」
「そう、発明とは結局失敗の連続。だから、優れた発明家ほど多くの失敗を繰り返している。1+1とは無限の可能性。だからその答えはつまり、失敗の果てに多くの成功を勝ち取る事が出来るということ。ゆえに爆発」
唖然とした顔で、子供達は固まってしまった。
無理もない。にとりの発想は子供が理解できるものではなく、だからといって大人でも首を傾げるようなトンデモ理論だったのだから。
硬直した空気の中、勇気ある女の子が手を挙げた。
「じゃあ、3+2は?」
「爆発」
間髪入れず、そう答える。
「8-2は?」
「爆発」
抑揚すら同じ言葉を、にとりは何度も何度も質問される度に繰り返した。
結局、子供達が帰宅するまでににとりが言った言葉は、「爆発」「お腹減った」「それじゃあね」の三つしかなかったという。
すっかり風邪も完治した慧音。
久しぶりに寺子屋に向かい、再び教鞭をとることとなった。
にとりがどんな授業したのかは聞いていなかったが、少なくとも途中でお腹が減ったので帰った事は知っている。
やはり、気まぐれ河童には荷が重すぎた。
なんてことを思いながら、今日も授業を進める慧音先生。
「それじゃあ質問だ。太郎君が林檎を五個持っていました。そして更に三個ほど林檎を買い、それを四人で分けることにしました。さて、一人当たり貰える林檎の数はいくつ?」
一斉に子供達が手を挙げる。珍しいことだった。
いつもは、自信なさそうに顔を逸らしていた子供まで、今日は自信満々に手を挙げている。
これも教育の賜物か。密かに慧音は胸をあつくした。
「じゃあ、平太。答えてみろ」
平太君は胸を張って言いました。
「爆発です」
その後、事情を知った慧音先生が妖怪の山の方へ向かったのは言うまでもない。
季節の変わり目だというのに、年甲斐なく夜遅くまで竹林を走り回っていたのがまずかったらしい。
追いかけられていた妹紅は何ともないというのに。
慧音は愚痴りながらも、寺子屋で代理として教鞭を振るってくれる奴を捜していた。
永琳、藍、アリス、パチュリー。しかし、いずれも拒否。
唯一、四季映姫だけが一日だけならやってもいいと答えたのだが、
「私に任せて貰えるのなら、子供達の性根は見違えるほど変わるでしょう。今のうちから教育しておかないと、将来眠いから眠ってしまったので仕事をしていなかった、という死神になるかもしれませんからね」
どうにも、子供達が洗脳されかねない程の勢いだったという。
仕方なく慧音は四季映姫も諦め、また代わりの人間を捜すことにした。
文の伝手もあり、いよいよ熱が九度を超したあたりで代わりの人間というか妖怪が見つかったのだ。
「私が今日だけ勉強を教える事になった、谷カッパのにとりだ。よろしくな」
そこはかとない不安は、あったのだけれども。
「まず、基礎的な事から訊いておくけど。1+1がわからない子はいないよね」
色褪せた壁に背を預けながら、にとりがそんな質問をする。
子供達は互いに顔を見合わせ、面白そうにクスクスと笑った。
「それぐらいわかりまーす。答えは2です」
「はい、間違い。そっか、やっぱりこんな簡単な事もわかってなかったんだ」
にとりの言葉に、子供達の間に動揺が走る。
「でも、慧音先生は2だって言ってました」
「それも一つ考え方。でも、そんなの大きくなったら関係ない。別のもっと役に立つ考え方をしてないと、駄目なんだよね」
手持ち無沙汰なのか、スパナを回しながらにとりは子供達の顔を見渡した。案の定、何を言っているのかわからないという顔だ。
「だ、だったら答えは何なんですか」
一人の男子が手を挙げながら、にとりに尋ねる。
「決まってる。1+1は爆発だ」
「ば、爆発?」
「そう、発明とは結局失敗の連続。だから、優れた発明家ほど多くの失敗を繰り返している。1+1とは無限の可能性。だからその答えはつまり、失敗の果てに多くの成功を勝ち取る事が出来るということ。ゆえに爆発」
唖然とした顔で、子供達は固まってしまった。
無理もない。にとりの発想は子供が理解できるものではなく、だからといって大人でも首を傾げるようなトンデモ理論だったのだから。
硬直した空気の中、勇気ある女の子が手を挙げた。
「じゃあ、3+2は?」
「爆発」
間髪入れず、そう答える。
「8-2は?」
「爆発」
抑揚すら同じ言葉を、にとりは何度も何度も質問される度に繰り返した。
結局、子供達が帰宅するまでににとりが言った言葉は、「爆発」「お腹減った」「それじゃあね」の三つしかなかったという。
すっかり風邪も完治した慧音。
久しぶりに寺子屋に向かい、再び教鞭をとることとなった。
にとりがどんな授業したのかは聞いていなかったが、少なくとも途中でお腹が減ったので帰った事は知っている。
やはり、気まぐれ河童には荷が重すぎた。
なんてことを思いながら、今日も授業を進める慧音先生。
「それじゃあ質問だ。太郎君が林檎を五個持っていました。そして更に三個ほど林檎を買い、それを四人で分けることにしました。さて、一人当たり貰える林檎の数はいくつ?」
一斉に子供達が手を挙げる。珍しいことだった。
いつもは、自信なさそうに顔を逸らしていた子供まで、今日は自信満々に手を挙げている。
これも教育の賜物か。密かに慧音は胸をあつくした。
「じゃあ、平太。答えてみろ」
平太君は胸を張って言いました。
「爆発です」
その後、事情を知った慧音先生が妖怪の山の方へ向かったのは言うまでもない。
でも「爆発」しか書いてない数学の回答用紙・・・これ数学じゃねぇよ。
A.爆発ですw