幻想郷に、秋が来る。
日没が次第に早くなり、入道雲はいつの間にか秋特有の高い空へと変わる。
吹き付ける熱風は頬を撫でる涼風に取って代わり、動物達は次第に冬支度を始める。
紅葉を司る神である秋静葉もまた、秋を迎えるための準備をしていた。
妖怪の山の麓、そこに広がる森の上空。
傾いた太陽に茜色に染められた風景を見渡すと、静葉は静かに舞を始める。
最初の一歩は厳かに。
振り出した手はしなやかに。
静かに、しかし力強く。
秋の到来を告げる舞が始まる。
舞は告げる、秋が来たと、冬支度を始めろと。
本能を呼び覚まされた木々は、慌てて冬支度を開始する。
くるり、と手を返し腕を広げる。
紅葉はやがて落葉へと繋がる、緩慢な、それでいて性急な死への行進。
葉は枝との連絡を断たれ、行き場をなくした糖分は変質し、葉緑素は崩壊を始める。
複雑な足運び、つま先が描く軌跡。
やがて来る鮮やかな色彩のかがやきは、死を目前にした最後の命の光か。
光のように、炎のように。
回る、回る、スカートの裾を翻して。
燃え上がるように色づいたと思ったら、すぐ北風に吹かれて儚く地へと落ちていく。
終焉のイメージ。
激しくなる舞。
精神は闇の淵へ。
強くなっていく死のヴィジョン。
踊る、踊る――
死を、輝きを――
踊る、踊る、踊る踊る踊る――
死を、死を、死を死を死を――
「静葉ー!」
眼下から掛けられた声に、静葉の意識は現実へと急速に引き戻される。
「穣子。どうしたの?」
「今日は収穫祭よ。いまから皆で飲むんだから静葉も行こうよー」
軽くため息。
「いま仕事をしてたのはわかってるでしょうに……」
今度は穣子がため息をつく番だった。
「もう十分でしょ。いつも夢中になって我を忘れるんだから」
多少の冷静さを取り戻した静葉は、周囲を見渡し穣子の言う通りの状況であることを知る。
「ね、だから行こう」
「しょうがないわね……」
腕を引っ張る穣子に引きずられるようにして飛び立つ。
里へと向かいながら、静葉は闇の底へと沈んでいこうとしていた気分がいつの間にか持ち直していることに気づく。
こんなとき、静葉は穣子と姉妹で本当に良かったと思うのだ。
幻想郷に、秋が来た。
「み、穣子だって言ってんだおーっ!!」
ホントはどちらでも"正しい"と言えるけどね…「ミノリコ」と読みさえすれば。日本の神様だから。