Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

孤独な戦い

2007/11/11 09:56:28
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人間だけでなく、多くの妖怪も眠りにつく丑三つ時。
冥界に位置する白玉楼もその例外ではなく、屋敷の周りはひっそりと静まりかえっている。
だがそんな中、一人だけ夜を徹しようとする少女がいた。
それは冥界に住む亡霊嬢のただ一人の従者、魂魄 妖夢である。

自身の寝床に折目正しく敷かれた布団の上で、
妖夢は一人、気を研ぎ澄ませていた。

「……」

薄く開かれた目は畳の上のただ一点を見つめており、
両脚は正座しているのと同じく揃えられ、右手は左の腰にかけられている白楼剣の柄を握り締めている。

妖夢の他には誰もいないはずの空間。
冥界にも虫の幽霊はいるが、顕界の虫たちのように積極的に鳴くことはない。
加えて寝室の窓や襖は閉めきられているため、
聞こえてくるのは無音状態特有のキーンというわずかな耳鳴りだけ。
秋の夜長に相応しい、ひんやりとした空気が一面に立ち込めている。

―その時、妖夢の背後からがたっという物音がした。

「っ!?」

妖夢は白楼剣を抜きつつ膝を起こして振り返り、
物音のした方向へと身構えた。

しかし、そこには何者の姿も見えない。
どうやら強風が窓を打ち付けただけらしい。

「はぁ…はぁ…」

体を捻ったままの態勢で妖夢はがっくりと両肘をつき、
四つん這いのような姿勢になった。
その額には、玉のような大粒の汗が浮かんでいる。
荒い呼吸とともに両肩が上下し、それにつれて汗が頬を伝い、雫となって顎の先から落ちた。

いくら妖夢が日頃の鍛練を怠らないとはいえ、その体力には限界がある。
ずっと気を張り詰めていたせいか、精神的にもかなり消耗してしまったらしい。

「くっ…」

本来寝ているはずの時間に起きているということも、妖夢にとって悪い方向に作用した。
視界がぼやけ、意識が朦朧とし、全身の力が抜けそうになり――


「うあああああああああああっ!!」


妖夢が、吼えた。
白楼剣を床に突き立て、気合いを入れ直したのだ。

―まだ、負けるわけにはいかない。
せめて、この夜が明けるまで…!


再び、どこかからぱたぱたと何者かが駆けてくる音が聞こえる。
しかし今回は妖夢も過剰な反応を見せることはなかった。

「妖夢っ!?」

寝室の襖が乱暴に開かれる。
妖夢の想像した通り、そこには幽々子の姿があった。

「幽々子…さま…」

幽々子は慌てて妖夢のそばへと駆け寄った。
仰向けに倒れ込みそうになる妖夢の体を支えてやると、妖夢の寝巻がびっしょりと濡れていることに気が付く。
どうやら、相当長い間苦しんでいたようだ。

「妖夢、何があったの…?」

幽々子の腕の中でも、妖夢は相変わらず苦しげな呼吸を続けている。
それでもどうにか虚ろな瞳を幽々子に向け、か細い声を絞り出した。

「一つ、お願いしたいことが…あるんです」

―これはまるで、死に行く者が今わの際に残すような言葉ではないか。
幽々子は言いようのない不安を胸に感じた。
しかし、今は妖夢を落ち着かせてやることが先決だ。

妖夢を抱きしめてやりたい衝動を抑え、幽々子は優しく声をかけた。

「私にできることなら何でも言って頂戴」

普段通りの穏やかな表情で、妖夢の瞳を真っ直ぐに見つめてやる。
その様子を見て安心したのか、僅かに妖夢の頬がゆるんだ。
妖夢は口を開きかけ、一度唾を飲み下し、一つ大きく息を吐いて、
そしてようやく、幽々子に伝えたのだ。



「おトイレついてきてもらえませんか…?」




夜の白玉楼はお化けがいっぱいなのかもしれません。
そう考えると、怖がりな妖夢には最悪の環境ですね。
goma
コメント



1.名無し妖怪削除
ある意味予想通りだったけどそれでも吹いたw
2.名無し妖怪削除
お爺様(妖忌)がいれば言いやすかったか、幽々様以上に言い難かったか
3.名無し妖怪削除
お化けと幽霊の違いとはなんなのかー
4.名無し妖怪削除
めっさ笑ったw