「……というわけで今度の公演は……って、あの、聞いてますか?」
「聞いてる聞いてる。えっと?金剛の公園がどうしたって?」
「……全然聞いてないじゃないですか…」
妖夢はプリズムリバー三姉妹を前にため息をついた。因みに、とぼけたことを言ったのは真ん中のメルラン・プリズムリバー。
弱る妖夢を見て、一番下のリリカ・プリズムリバーがけらけらと笑いながら言う。
「聞くも何も、どうせいつも通りでしょ?大丈夫、私に任せてくれればすんごいブリリアントなステージにしてあげるって」
「私『達』でしょ。あと、話もちゃんと聞け。いつかみたいに公演の場所すらろくに聞いてなかったもんだから何処でやるのかすら当日になって解らなかった…何てことになったらどうするの」
べしんべしんと妹達にバイオリンの弦で頭を叩いてゆくのは一番上のルナサ・プリズムリバー。
「そんときゃお客の方が私たちに合わせて移動してもらえばいいじゃん」
「だから黙って聞け」
もう一発、リリカの頭に弦が振り下ろされる。
「…………」
妖夢はそんな姉妹達のやりとりを呆然と見ていた。
「ん?どうかした?」
ルナサがそんな妖夢を不思議そうに見返す。
「え?あ…いや…!」
妖夢は慌てて両手を振った。しばらく顔を赤くして口ごもっていたが、半ば呟くように言う。
「………何だか…仲良いんだなぁって……」
「「「は?」」」
妖夢の言葉に三姉妹は顔を見合わせた。
「…まぁ一応三人で楽団してるし…」
「悪くは無いけど…」
「改めて言われると色々微妙かも~」
三人は口々に疑問を含んだ言葉を発する。
「そうなんですか?」
意外そうな妖夢の言葉にリリカが胸を張る。
「っま!そこらは私の見事な音色が上手いこと取り持たせてるわけよ!実質的にリーダーは私ってことかな!」
「何言ってるんだ。全く、誰のお陰でステージが成り立ってると思ってるのか…」
「そうよねぇ。そこは私に感謝してもらわないとー……」
すかさず姉達のツッコミが入り、またしても妖夢そっちのけで口喧嘩が始まってしまう。
「…………」
そんな様子を見ながら、妖夢はやっぱり仲が良いなぁと心の中で深く思った。
とりあえずおつかいの一つであるプリズムリバーへの公演の注文は済ませた。
「えっと…次は…」
永遠亭で例の妙薬、『胡蝶夢丸』を購入してくるように幽々子に頼まれていたのだった。
妖夢は旋回して迷いの竹林へと飛んだ。
「ごめんください」
玄関で声を掛けると、たまたま近くを通りかかっていたのであろう鈴仙・優曇華院・イナバが何やらでっかい壷を抱えたままぱたぱたと出てきた。聞けば、何やら彼女の師匠に色々用事を言いつけられている最中らしい。
「それで?今日は勝手に上がりこまないみたいだけど…何の用なのかしら?」
そんなどこぞの魔法使いの様な扱いを受けるのは甚だ心外ではあったが、妖夢は用件を伝える。
「えっと、『胡蝶夢丸』を幽々子様が所望なのですが…」
「え?あの幽霊が『胡蝶夢丸』を…?普段から蝶々みたいなのに今更要るの?」
「それは……まぁモノは試しということだそうで…」
鈴仙の言い分は同意するところ大なのだが…幽々子に知れると何か大変なことになりそうなので妖夢は黙っていた。
「そんなに売れてる薬じゃないしそれはいいけど……てゐー!ちょっと私手が離せないからお願い!」
鈴仙が奥へ声を掛けるとぴょんぴょんと跳ねるようなステップで因幡てゐが現れた。
「ほいほい、何か用?」
「ちょっと師匠のところへ行って『胡蝶夢丸』貰って来て」
てゐはちらりと妖夢の方を見てから、残念そうに言う。
「あら~、お客さん残念。『胡蝶夢丸』は品切れ中ですよ~」
「え?そうなんですか?」
「そんなはずないでしょ?だってそんなにお客だって殆ど来てないし…」
鈴仙も驚いている。
てゐはチッチと指を振った。
「それでも品切れなんだな~…」
「そうですか…う~ん、それじゃ仕方ないですね…」
妖夢が永遠亭を辞そうとすると、てゐがぴょいと妖夢を飛び越して前に立った。
「と・こ・ろ・が!」
「わあっ!」
「ここがお客さんのついてるところ!今日は『品切れの胡蝶夢丸』は無いけど『品切れじゃない胡蝶夢丸』はあるのです!」
「え…えぇ?それはどういう…」
混乱する妖夢に、てゐは畳み掛ける。
「なんっと!この『品切れじゃない胡蝶夢丸』!普段は『品切れの胡蝶夢丸』の二倍のお値段なんだけど、今日は特別プライズ!普段の半額でどうだっ!」
「そ…それは何てお得!!」
「嘘言ってないでさっさと持ってきなさい!」
いつの間にかてゐの後ろに移動していた鈴仙のチョップがてゐの頭(耳と耳の間)に綺麗に炸裂する。
「あ、嘘ですか…」
「あなたもそんな簡単な嘘に騙されないでよ…少し考えたら解るでしょ…」
鈴仙は呆れたように言う。
「う~ん、折角お客様にお得感をサービスしてあげたのに~…」
言いながら、てゐはさっさと奥へと下がって行った。
「……もう…てゐったら…」
ため息混じりに頭を振る鈴仙を見て、妖夢は思わず言ってしまう。
「妹みたいですねー……」
「……え?」
驚くというより、鈴仙は不審そうな顔をした。
「あ、いや…別に深い意味はないですけど……何となくそんな風に思ったから…」
「妹ね…確かに兄弟弟子ではあるけど…色々微妙よね…それにしたって手間のかかる妹だわ」
苦笑混じりにそう言う鈴仙を、しかし妖夢はどこか羨ましそうな視線で見ていた。
「…妹か……」
白玉楼。
お使いを終え、帰ってきた妖夢は幽々子とお土産のおやつを向かい合って食べていた。
「う~ん、羊羹って美味しいわね~…食べられるところが。そう言えば紅魔館も洋館って言うけど実は食べられるのかしら?」
「……」
「妖夢?どうかしたの?何か悩み事?」
幽々子に呼ばれて妖夢はハッと顔を上げた。
「あ…!いえ、何でもないですよ!」
「もう、妖夢はすぐに顔に出ちゃうんだから…どんと私に相談してみなさいな」
「そんな…幽々子様にわざわざ……」
「いいからいいから」
そんな風に催促されて妖夢は少し迷ったが…
「…あの…それじゃあ…言います…」
顔を伏せながら、恥ずかしそうに言う。
「あの…その、悩み事…っていうのとは違うんですけど……妹が…欲しいなぁ……と…」
最後まで言い切って、真っ赤になった顔を上げて妖夢は叫ぶように付け加える。
「あっ!わ…笑わないで下さいよ!別に私も本気で思っているわけじゃ…ないです…から…」
自然、語尾が弱まってしまった。
「笑ってないわよ…少ししか。そう、妖夢もそういう年頃なのねぇ…」
「年頃って…」
しみじみと言う幽々子に、妖夢は更に恥ずかしくなった。
「うぅ~…やっぱり何でもないです!忘れてください!」
「まぁまぁそう言わないで。そういう思いは大切にするべきよ」
「…うぅ…言わなきゃよかった…」
顔を伏せて恥ずかしそうに肩を縮こまらせる妖夢に、幽々子は優しく微笑む。
「じゃあ、こういうのはどうかしら?」
「?」
「普段がんばってくれてるお礼…というわけでもないけど、今日一日私が妖夢の妹になるっていうのは?」
「えぇえ!?幽々子様が妹!?そ…そんな恐れ多い……いや、色んな意味で…」
妖夢は全力で両手を振って断りを入れる。
「あら、そんなに遠慮すること無いのよ?さ、妖夢はなんて呼んで欲しい?姉上?姉さん?お姉さま?お姉ちゃん?」
「はぅ……」
その言葉に妖夢の心は大きく揺れた。仮にでも、姉と呼ばれてみたい衝動…
「…あの…それじゃあ…お姉ちゃんで……」
「そうそう、素直にならなきゃね。それじゃ今日は私のことは幽々子って呼ぶのよ?」
「え……えっと…ゆ…幽々子…」
「ふふっ、なぁにお姉ちゃん」
「………ッッ!」
何ともいえない昂りを妖夢は覚えた。
「こ…これが妹……」
なんだか頬が緩んでしまいそうな感じだ。
…ともあれ、こうして幽々子は妖夢の妹となったのだった。
「お姉ちゃん、おやつー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、お茶ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、庭の掃除ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、夕飯の準備ー」
「はいはい」
………………
………
…
「って!これじゃ呼び方が変わっただけでいつもと何も変わりませんよ!」
「あらそう?う~ん、それじゃ…」
そんなことを言う幽々子に、妖夢は叫ぶように言う。
「もういいですっ!幽々子様はどうしたって幽々子様ですよっ!」
「………」
幽々子が驚いたように目を広げていた。
「……あ…」
何故だろう…感情が昂ってしまった。殆ど何の意識もしないうちに叫んでしまっていた。
「ご……ごめんなさい!」
妖夢は白玉楼を飛び出した。
妖夢は川辺に座って落ち込んでいた。
「何をやってるんだ私は……」
独り、呟く。
「…勝手に妹を欲しがって…幽々子様の手まで煩わせて…その上勝手な言い分で飛び出して……これじゃ幽々子様の御付失格だ…」
ぎゅっと、膝を抱える。
「……本当に、何をやってるんだろう…私は…」
唇と噛んで、脇に置いてあった刀を掴んだ。素早く抜いて、びゅんと一振りする。
「師匠の言葉を思い出せ…!迷いは断て!迷いは剣を鈍らせる!」
もう一度びゅんと振る。
「それは迷いじゃないでしょう?」
「……幽々子様…」
妖夢は刀を止めた。振り返らずとも解る…聞き馴染んだ主人の声だ。
「なんでも迷いだと断じてしまってはいけないわ。言ったでしょう?そういう想いは大切にしなさいって」
「…私は幽々子様の御付ですから。妹は必要ありません」
妖夢が出来る限りの毅然とした声でそういうと、後ろの主人は少し笑ったような声で言った。
「必要があって持つものじゃないけどね、妹っていうのは」
「と…とにかく!…さっきはすみませんでした…あの、私すぐに今日の仕事に戻りますから…!」
「いいのよ、お姉ちゃん」
さすがに妖夢は振り返った。
「からかわないでください!
妖夢はきつく言ったが、幽々子は優しい微笑みを浮かべていた。
「言ったでしょう?今日は私が妹だって…」
「…幽々子様…もういいですから…」
泣きそうな妖夢に、幽々子は微笑む。
「これも、さっき言ったでしょ?妹は欲しくてもつものじゃないって…逆に言うと、欲しくなくっても妹はいるのよ。嫌がったって、今日一日私は妹だから、ね?」
幽々子は気を遣ってくれているのだ。
「…ですが…私、あんなことを言って飛び出した手前……」
「いいのよ、妹にどう接しようが、それはあなたの自由。でしょ?」
幽々子は自分の夢を叶えてくれようとしている。その気持ちが、何よりも嬉しかった。
「…幽々子様…」
妖夢は、泣きそうな、それでいて照れたような顔をした。
「………はい…ありがとうございます…えぇと……幽々子…」
妖夢は思う。
姉がいれば、こんな感じなのかな……と。
で、結局。
「お姉ちゃん、夕飯ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、お茶ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、お風呂ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、寝るー」
「はいはい」
改めて始まった幽々子様一日妹体験は、特別改善されることもなく妖夢はほとんどいつもと同じように幽々子の世話に追われて終わった。
妖夢は思う。
妹ってこんな感じなのかな…
先ほど妖夢は幽々子に自分の姉を見た。しかしこうしてみると確かに幽々子が妹のように感じなくも無い。
姉兼妹。
なるほど。
妖夢は改めて自分の中の幽々子の存在の大きさを思った。
後日譚。
「…ということがあって、まぁ何だかんだでいい経験になったと思います」
宴会の席で、妖夢は咲夜に例の妹騒動の話をしていた。
「へぇ~……」
(しゅ…主人が妹!??)
咲夜は想像した。レミリア様の…
『おねぇちゃ~ん……』
思わず鼻血が出そうになる。
(こ…これだわ…っ!!)
で、そんなこんなの紅魔館。
「あ…あのですね、レミリア様……」
「ん?なに、咲夜?」
「わ…私…実は妹を持ってみたいと思ったりしているのですが……」
「妹?ふぅん、でも言うほど良いものでもないから止めときなさい」
「…………あ……そうですか…」
存外、実際に妹を持っているヒトというのはその存在に冷静だったりするのです。
≪二重オチ≫
「聞いてる聞いてる。えっと?金剛の公園がどうしたって?」
「……全然聞いてないじゃないですか…」
妖夢はプリズムリバー三姉妹を前にため息をついた。因みに、とぼけたことを言ったのは真ん中のメルラン・プリズムリバー。
弱る妖夢を見て、一番下のリリカ・プリズムリバーがけらけらと笑いながら言う。
「聞くも何も、どうせいつも通りでしょ?大丈夫、私に任せてくれればすんごいブリリアントなステージにしてあげるって」
「私『達』でしょ。あと、話もちゃんと聞け。いつかみたいに公演の場所すらろくに聞いてなかったもんだから何処でやるのかすら当日になって解らなかった…何てことになったらどうするの」
べしんべしんと妹達にバイオリンの弦で頭を叩いてゆくのは一番上のルナサ・プリズムリバー。
「そんときゃお客の方が私たちに合わせて移動してもらえばいいじゃん」
「だから黙って聞け」
もう一発、リリカの頭に弦が振り下ろされる。
「…………」
妖夢はそんな姉妹達のやりとりを呆然と見ていた。
「ん?どうかした?」
ルナサがそんな妖夢を不思議そうに見返す。
「え?あ…いや…!」
妖夢は慌てて両手を振った。しばらく顔を赤くして口ごもっていたが、半ば呟くように言う。
「………何だか…仲良いんだなぁって……」
「「「は?」」」
妖夢の言葉に三姉妹は顔を見合わせた。
「…まぁ一応三人で楽団してるし…」
「悪くは無いけど…」
「改めて言われると色々微妙かも~」
三人は口々に疑問を含んだ言葉を発する。
「そうなんですか?」
意外そうな妖夢の言葉にリリカが胸を張る。
「っま!そこらは私の見事な音色が上手いこと取り持たせてるわけよ!実質的にリーダーは私ってことかな!」
「何言ってるんだ。全く、誰のお陰でステージが成り立ってると思ってるのか…」
「そうよねぇ。そこは私に感謝してもらわないとー……」
すかさず姉達のツッコミが入り、またしても妖夢そっちのけで口喧嘩が始まってしまう。
「…………」
そんな様子を見ながら、妖夢はやっぱり仲が良いなぁと心の中で深く思った。
とりあえずおつかいの一つであるプリズムリバーへの公演の注文は済ませた。
「えっと…次は…」
永遠亭で例の妙薬、『胡蝶夢丸』を購入してくるように幽々子に頼まれていたのだった。
妖夢は旋回して迷いの竹林へと飛んだ。
「ごめんください」
玄関で声を掛けると、たまたま近くを通りかかっていたのであろう鈴仙・優曇華院・イナバが何やらでっかい壷を抱えたままぱたぱたと出てきた。聞けば、何やら彼女の師匠に色々用事を言いつけられている最中らしい。
「それで?今日は勝手に上がりこまないみたいだけど…何の用なのかしら?」
そんなどこぞの魔法使いの様な扱いを受けるのは甚だ心外ではあったが、妖夢は用件を伝える。
「えっと、『胡蝶夢丸』を幽々子様が所望なのですが…」
「え?あの幽霊が『胡蝶夢丸』を…?普段から蝶々みたいなのに今更要るの?」
「それは……まぁモノは試しということだそうで…」
鈴仙の言い分は同意するところ大なのだが…幽々子に知れると何か大変なことになりそうなので妖夢は黙っていた。
「そんなに売れてる薬じゃないしそれはいいけど……てゐー!ちょっと私手が離せないからお願い!」
鈴仙が奥へ声を掛けるとぴょんぴょんと跳ねるようなステップで因幡てゐが現れた。
「ほいほい、何か用?」
「ちょっと師匠のところへ行って『胡蝶夢丸』貰って来て」
てゐはちらりと妖夢の方を見てから、残念そうに言う。
「あら~、お客さん残念。『胡蝶夢丸』は品切れ中ですよ~」
「え?そうなんですか?」
「そんなはずないでしょ?だってそんなにお客だって殆ど来てないし…」
鈴仙も驚いている。
てゐはチッチと指を振った。
「それでも品切れなんだな~…」
「そうですか…う~ん、それじゃ仕方ないですね…」
妖夢が永遠亭を辞そうとすると、てゐがぴょいと妖夢を飛び越して前に立った。
「と・こ・ろ・が!」
「わあっ!」
「ここがお客さんのついてるところ!今日は『品切れの胡蝶夢丸』は無いけど『品切れじゃない胡蝶夢丸』はあるのです!」
「え…えぇ?それはどういう…」
混乱する妖夢に、てゐは畳み掛ける。
「なんっと!この『品切れじゃない胡蝶夢丸』!普段は『品切れの胡蝶夢丸』の二倍のお値段なんだけど、今日は特別プライズ!普段の半額でどうだっ!」
「そ…それは何てお得!!」
「嘘言ってないでさっさと持ってきなさい!」
いつの間にかてゐの後ろに移動していた鈴仙のチョップがてゐの頭(耳と耳の間)に綺麗に炸裂する。
「あ、嘘ですか…」
「あなたもそんな簡単な嘘に騙されないでよ…少し考えたら解るでしょ…」
鈴仙は呆れたように言う。
「う~ん、折角お客様にお得感をサービスしてあげたのに~…」
言いながら、てゐはさっさと奥へと下がって行った。
「……もう…てゐったら…」
ため息混じりに頭を振る鈴仙を見て、妖夢は思わず言ってしまう。
「妹みたいですねー……」
「……え?」
驚くというより、鈴仙は不審そうな顔をした。
「あ、いや…別に深い意味はないですけど……何となくそんな風に思ったから…」
「妹ね…確かに兄弟弟子ではあるけど…色々微妙よね…それにしたって手間のかかる妹だわ」
苦笑混じりにそう言う鈴仙を、しかし妖夢はどこか羨ましそうな視線で見ていた。
「…妹か……」
白玉楼。
お使いを終え、帰ってきた妖夢は幽々子とお土産のおやつを向かい合って食べていた。
「う~ん、羊羹って美味しいわね~…食べられるところが。そう言えば紅魔館も洋館って言うけど実は食べられるのかしら?」
「……」
「妖夢?どうかしたの?何か悩み事?」
幽々子に呼ばれて妖夢はハッと顔を上げた。
「あ…!いえ、何でもないですよ!」
「もう、妖夢はすぐに顔に出ちゃうんだから…どんと私に相談してみなさいな」
「そんな…幽々子様にわざわざ……」
「いいからいいから」
そんな風に催促されて妖夢は少し迷ったが…
「…あの…それじゃあ…言います…」
顔を伏せながら、恥ずかしそうに言う。
「あの…その、悩み事…っていうのとは違うんですけど……妹が…欲しいなぁ……と…」
最後まで言い切って、真っ赤になった顔を上げて妖夢は叫ぶように付け加える。
「あっ!わ…笑わないで下さいよ!別に私も本気で思っているわけじゃ…ないです…から…」
自然、語尾が弱まってしまった。
「笑ってないわよ…少ししか。そう、妖夢もそういう年頃なのねぇ…」
「年頃って…」
しみじみと言う幽々子に、妖夢は更に恥ずかしくなった。
「うぅ~…やっぱり何でもないです!忘れてください!」
「まぁまぁそう言わないで。そういう思いは大切にするべきよ」
「…うぅ…言わなきゃよかった…」
顔を伏せて恥ずかしそうに肩を縮こまらせる妖夢に、幽々子は優しく微笑む。
「じゃあ、こういうのはどうかしら?」
「?」
「普段がんばってくれてるお礼…というわけでもないけど、今日一日私が妖夢の妹になるっていうのは?」
「えぇえ!?幽々子様が妹!?そ…そんな恐れ多い……いや、色んな意味で…」
妖夢は全力で両手を振って断りを入れる。
「あら、そんなに遠慮すること無いのよ?さ、妖夢はなんて呼んで欲しい?姉上?姉さん?お姉さま?お姉ちゃん?」
「はぅ……」
その言葉に妖夢の心は大きく揺れた。仮にでも、姉と呼ばれてみたい衝動…
「…あの…それじゃあ…お姉ちゃんで……」
「そうそう、素直にならなきゃね。それじゃ今日は私のことは幽々子って呼ぶのよ?」
「え……えっと…ゆ…幽々子…」
「ふふっ、なぁにお姉ちゃん」
「………ッッ!」
何ともいえない昂りを妖夢は覚えた。
「こ…これが妹……」
なんだか頬が緩んでしまいそうな感じだ。
…ともあれ、こうして幽々子は妖夢の妹となったのだった。
「お姉ちゃん、おやつー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、お茶ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、庭の掃除ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、夕飯の準備ー」
「はいはい」
………………
………
…
「って!これじゃ呼び方が変わっただけでいつもと何も変わりませんよ!」
「あらそう?う~ん、それじゃ…」
そんなことを言う幽々子に、妖夢は叫ぶように言う。
「もういいですっ!幽々子様はどうしたって幽々子様ですよっ!」
「………」
幽々子が驚いたように目を広げていた。
「……あ…」
何故だろう…感情が昂ってしまった。殆ど何の意識もしないうちに叫んでしまっていた。
「ご……ごめんなさい!」
妖夢は白玉楼を飛び出した。
妖夢は川辺に座って落ち込んでいた。
「何をやってるんだ私は……」
独り、呟く。
「…勝手に妹を欲しがって…幽々子様の手まで煩わせて…その上勝手な言い分で飛び出して……これじゃ幽々子様の御付失格だ…」
ぎゅっと、膝を抱える。
「……本当に、何をやってるんだろう…私は…」
唇と噛んで、脇に置いてあった刀を掴んだ。素早く抜いて、びゅんと一振りする。
「師匠の言葉を思い出せ…!迷いは断て!迷いは剣を鈍らせる!」
もう一度びゅんと振る。
「それは迷いじゃないでしょう?」
「……幽々子様…」
妖夢は刀を止めた。振り返らずとも解る…聞き馴染んだ主人の声だ。
「なんでも迷いだと断じてしまってはいけないわ。言ったでしょう?そういう想いは大切にしなさいって」
「…私は幽々子様の御付ですから。妹は必要ありません」
妖夢が出来る限りの毅然とした声でそういうと、後ろの主人は少し笑ったような声で言った。
「必要があって持つものじゃないけどね、妹っていうのは」
「と…とにかく!…さっきはすみませんでした…あの、私すぐに今日の仕事に戻りますから…!」
「いいのよ、お姉ちゃん」
さすがに妖夢は振り返った。
「からかわないでください!
妖夢はきつく言ったが、幽々子は優しい微笑みを浮かべていた。
「言ったでしょう?今日は私が妹だって…」
「…幽々子様…もういいですから…」
泣きそうな妖夢に、幽々子は微笑む。
「これも、さっき言ったでしょ?妹は欲しくてもつものじゃないって…逆に言うと、欲しくなくっても妹はいるのよ。嫌がったって、今日一日私は妹だから、ね?」
幽々子は気を遣ってくれているのだ。
「…ですが…私、あんなことを言って飛び出した手前……」
「いいのよ、妹にどう接しようが、それはあなたの自由。でしょ?」
幽々子は自分の夢を叶えてくれようとしている。その気持ちが、何よりも嬉しかった。
「…幽々子様…」
妖夢は、泣きそうな、それでいて照れたような顔をした。
「………はい…ありがとうございます…えぇと……幽々子…」
妖夢は思う。
姉がいれば、こんな感じなのかな……と。
で、結局。
「お姉ちゃん、夕飯ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、お茶ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、お風呂ー」
「はいはい」
「お姉ちゃん、寝るー」
「はいはい」
改めて始まった幽々子様一日妹体験は、特別改善されることもなく妖夢はほとんどいつもと同じように幽々子の世話に追われて終わった。
妖夢は思う。
妹ってこんな感じなのかな…
先ほど妖夢は幽々子に自分の姉を見た。しかしこうしてみると確かに幽々子が妹のように感じなくも無い。
姉兼妹。
なるほど。
妖夢は改めて自分の中の幽々子の存在の大きさを思った。
後日譚。
「…ということがあって、まぁ何だかんだでいい経験になったと思います」
宴会の席で、妖夢は咲夜に例の妹騒動の話をしていた。
「へぇ~……」
(しゅ…主人が妹!??)
咲夜は想像した。レミリア様の…
『おねぇちゃ~ん……』
思わず鼻血が出そうになる。
(こ…これだわ…っ!!)
で、そんなこんなの紅魔館。
「あ…あのですね、レミリア様……」
「ん?なに、咲夜?」
「わ…私…実は妹を持ってみたいと思ったりしているのですが……」
「妹?ふぅん、でも言うほど良いものでもないから止めときなさい」
「…………あ……そうですか…」
存外、実際に妹を持っているヒトというのはその存在に冷静だったりするのです。
≪二重オチ≫
でも歯形の意味は分からない……orz
気付く人は気付きます
気付かない人へ、
幽々子様の最初の言葉
しかしゆゆ様…あんたレンガすら食うんですか
おちが上手く弟しかいない私も妹はほしいと思います
しかしコレは良いゆゆみょん!
でもどうしても体格差を想像すると、違和感がヤバいですw