その日の上白沢慧音は、仕事がいつもより早く終わったので妹紅の家に寄る事にしたそうな。
「おーい妹紅、居るかー?」
声を掛けながらガラガラと扉を開ける。
妹紅に限らず幻想郷の人はあんまり家に鍵をかけない。
おっと、『錠をかけない』のが正解だったか。
「お、けーね?いらっしゃーい」
「おお、居たか」
奥から声が聞こえた。
「どうしたのー?」
「ああ、今日は早く上がったんでな、一杯どうかと思って」
特に用事も無いのだが手ぶらで行くのも何だと思い、とりあえず酒と肴を買ってきていた。
これ位は気を利かせないといけないだろう。
「おおそりゃいいね、とりあえず上がってー」
どうも手が離せないのか、いつもは玄関まで出てくるのに今日は声だけの返事が返ってくる妹紅。
「じゃあお邪魔します」
そう言って中に入る私。
土間を抜け、中に上がり襖を開けると、そこにはこじんまりとしたいつもの部屋。
部屋の中央には囲炉裏があり、襖を開けた私に正対するように妹紅は座っている、そして何かを読んでいた。
「いらっしゃい!まあとりあえず座りなよ」
手元から目を離し、こちらを向いてそう言う妹紅。
元気そうだ。
「ありがとう、よいしょ…っと」
年寄り臭い声を出しながら、私は囲炉裏を挟んで妹紅と反対側に座る。
「ところで今日はどうしたの?」
「ああ、別に用って程じゃないんだがね」
そう言いながら、私は持ってきた酒を取り出す。
「どうだ?秋の夜長にひとつ」
「お~、いいねぇ」
一升瓶を見ると身を乗り出す妹紅。
「私も今日辺りやりたかったとこなんだ」
「肴もあるぞ」
「準備がいいね、待っててこっちも用意するから」
そう言って妹紅は立ち上がり、土間の方へ向かっていった。
部屋に残った私。
目の前には先程まで妹紅が読んでいた紙があったので、妹紅が来るまでの間の時間つぶしにとそれを手にとってみた。
紙面に「取り扱い説明」と言う文字、その下には商品名が書いてあった。
「…高枝切りバサミ?」
また珍しい物を買ったものだ。
その取説は一枚の紙に全部内容が書かれているタイプの物らしく、紙が小さく折り畳まれている。
「お待たせー」
お盆に湯飲みと適当な肴を置いて妹紅が戻ってきた。
そして帰ってきて早々に酒を開けようとする妹紅。
そんな彼女に私は声をかけた。
「また珍しい物を買ったんだな」
「ん?ああそれ、今日訪問販売の人が来てね」
妹紅は私の方を見つつ酒の蓋を開けた。
部屋にポンッと言う音が響く。
「ほらウチの家の前に柿の木があるでしょ?その実を採るのに便利そうだったから」
「飛んで採ったらいいんじゃないか?」
「それは何か行儀悪いしさ」
「まあそう…だな」
人によっては偶にこういう事にこだわる者が居る。
例えば血を吸うのは正面から向かって右側の首筋だとか、歌う歌にこだわりは無いが一曲目は決めているとか。
空を飛ぶのも、その一つ。
知っている中では紅魔館のメイド長などがそうだ。
急いでいる時以外は、屋敷のとても長い階段をわざわざ自分の足で昇り降りしているらしい。
当人ら曰く、むやみやたらと飛ぶのは行儀が悪いし横着だとか。
逆に巫女は無重力が身上の為か、そういう理論は全く持ち合わせおらず、いつでもどこでも浮かんでいる。
「そうそう、それにオマケも付いてきたんだ」
「オマケ…ねぇ」
こういう販売の類は、大概は何か付属品が付いてくる。
私個人としてはオマケを付けるよりも、値段をもうちょっと安くして欲しいと思う。
まあ、そのオマケ欲しさに品物を購入する者も居る訳だから、あながち間違った販売方法ではないのだろうが。
「なんだ?文々。新聞でも付いてくるのか?」
「…普通逆じゃないか?」
「冗談さ、ところで何が付いてきたんだ?」
「うどんげ」
「は?」
「いや、だからうどんげが…」
「待て待て待て!!」
「あ、本名は鈴仙・うどん…」
「違う!それ違う!!」
…ただ友と酒を飲みに来ただけなのに、何かとんでもないことに巻き込まれた気がする。
※※※※※※
「…鈴仙を買ってどうするんだ?」
「うーん」
「うーんじゃなくて!」
何を悩む。
悩むようなことをする気か!?
「妹紅…お前何をしたのか分かってるのか…?」
「まぁ一応…」
「一応!?」
「でも、どうするったって…ねぇ」
「『ねぇ』じゃない!詳細を説明してくれ!」
「だからね、今日の昼頃に訪問販売が来て…」
「まずそこから分からん、何で鈴仙の訪問販売が来るんだ!」
「いや、あれは高枝切りバサミの…」
「…飽くまでもそっちと言い張るか」
「やっぱりさ、訪問販売って一つ売れると大きいからね」
「誰が買うか!」
「私は買った」
「確かに、お前が買っている以上この話自体が成り立たないかも知れないが…しかし、だな…ほら、分かるだろ?」
「何かさっきから慧音機嫌悪いなぁ、ってことぐらい?」
「その程度!?」
これはいよいよ駄目な気がしてきた。
「…まぁ百歩譲って販売しに来たとしよう、何故購入した?」
「そりゃ柿を取るために…」
「いや、鈴仙が付いてくる時点で何かおかしいと思わなかったか?」
「変だと思ったけど…まあいいか、って」
「何だそれは!お前は『まあいいか』でブレザー兎を買ってしまう人なのか!?」
「だってオマケがあるなら貰っとかなきゃ損じゃない」
「損!?」
「まあ確かに…変だとは思ったけどさ、その時は『あ、いいな』って思ってね」
「思ってねって…」
それに『あ、いいな』って思えるのか?
相手はブレザーを着てウサ耳なんだぞ!?
「ツカミ刃もあるし付け替えのノコギリも付いてる、それに枝打ち一発とオマケ盛り沢山だったんだよ」
「付いてちゃいけないオマケもあるだろう!」
「剪定バサミ?確かに2つは要らないけど…」
「そこじゃない!」
「えっと…見た目より軽い?」
「本体の説明でもない!!もっと根本的なところ!!」
「…錆びにくい?」
「だから高枝切りバサミから離れろ!」
よほど高枝切りバサミが欲しかったのか、その話題から離れられない妹紅。
一体彼女に何があったのだろうか?
「…で、どんなヤツが来たんだ?」
「えっと、10段階調節で…」
「売りに来た奴だ!!」
「えっとサングラスしてて…」
「ふむ」
目線を隠すとは、ますます怪しい。
って言うか、妹紅は怪しいとか思わなかったんだろうか?
「ワンピースで、にんじんのペンダントをぶら下げてて…ウサ耳だった」
「まるっきりてゐじゃないか!」
「いや、私もそう思って『てゐだろ』って言ったんだよ」
そりゃ突っ込むだろうな。
「それから?」
「そしたら『他人の空似です』って返してくるから、そうかな~って思ってさ」
「…まあ、本人を見て無いからその件に突っ込むのは止めておこう」
何故だろう、もの凄く悔しい…
「…して、それの口車に乗せられたと?」
「うーん、私が欲しかったのもあるんだけど…ローンは死ぬまで組めるって言ってたし」
「お前は死なないだろう!と言うかその説明でよく儲けが大きいとか何とか言えたな!?」
「でもお得な感じがするじゃない」
「…分からん!お前の損得勘定はとことん分からん!」
「でもね、私が説明すると変に聞こえるけど…相手はちゃんと説明してくれたんだよ?」
「ちゃんと説明したからって、オマケに鈴仙が付いてくるって言った時点で何か変だとか思わなかったのか?」
「そこら辺もきっちり説明があって『あーなるほどな』って思ったんだ」
「…どんな説明なんだ?」
「『今なら、このハサミを使ってくれる助手のオマケ付きです!』」
「それで納得出来るのか!?」
それってオマケと捉えられるのか!?
「全自動とかなら『嘘っぽいなぁ…』ってなったけど、助手付きなら間違いないし便利だなって」
「それが知り合いなんだぞ?」
「なら尚更お得かなって、オマケだし」
「……とりあえずもっと一般的な損得感覚を持ち合わせてくれ、もう無理かもしれんが」
何故か目頭が熱くなってきた。
しかし、ここで投げ出す訳にはいかない!
「大体…本人も嫌がってたりしないか?」
「ハサm「鈴仙が、だぞ?一応忠告しとく」
最後の気力を振り絞って、私は突っ込む。
「…『一番安全なところに拾われた』って喜んでたよ」
「理由は何となく分かるが…」
「一瞬どうしようかなって思ったけど、本人が喜んでるなら、まあいいかって」
「だからお前は『まあいいか』で人の命を預かる女なのか!?」
軽い…この娘、軽すぎる…
だいたいこんな感じで堂々巡りの話が続けられていたその時。
ガラガラっ
「ただいま帰りました~」
当の本人が登場した。
「あ、お帰り~」
「うわ!ホントに居た!」
正直、冗談だと思いたかった。
実は嘘だと言って欲しかった。
そんな私の僅かな、ほんの僅かな望みを、本人の登場によりついに断ち切られてしまった。
果たして、妹紅に一体何があったのだろうか?
もし何か私に至らぬ点があったと「あ、慧音さんいらっしゃい、お茶出しますね」
「馴染んでる!?」
「今日は酒を持ってきてもらったんだ」
「あら、そうなんですか」
「まあ手を洗ったらそこに座りなよ」
「はーい」
面食らってる私を尻目に、鈴仙は手を洗いに行った。
「…遊びに来てるとか言うオチは無いよな?」
「いんや、住み着いてる」
「何でそんな落ち着いて答えられるんだ」
「ん~長生きしてるからかな?」
「…それは間違いないが」
説得力がありすぎて、逆におかしな気がするのは私だけだろうか?
「妹紅さーん、このサンマ焼いちゃっていいですか~?」
「いいよー、と言うことで慧音、早速サンマ焼いちゃうね」
ちなみにこのサンマは、私が肴にと持ってきたヤツだ。
「じゃ、焼きに行ってくる」
「人の話を聞けーー!!」
「あぁぁ…」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか…」
私は本気で頭を抱えている。
いつもの帽子を自分の横に置いて、文字通り頭を抱えて悩んでいる。
そして私の前には湯飲みに並々と注がれた酒と、焼きたてのサンマ(不死鳥焼き)、それに幾らかの肴が置かれていた。
「冷めないうちにどうぞ♪」
そんな私を意に介さない様子で、鈴仙は私にサンマを勧めてくる。
「あれ?慧音さん、腕怪我してますね」
「ん…あぁそうだな」
頭を上げて自分の右腕を見ると、ひじの辺りに小さな切り傷があった。
おそらく知らないうちに竹の葉で切ったのだろう。
この家は竹林の中にあるからな。
「そんな時はこの軟膏とガマの油をどうぞ」
そう言って小瓶と壺を渡してくれる鈴仙。
「ああ、ありがとう…」
「流石薬師の弟子だな~」
「ふふ、任せてください」
勧められたとおり薬を塗る。
よく効く薬らしく、外傷は綺麗に治まった。
しかし遊びに来ただけなのに、何故か受けた心の傷は全然治りそうに無い。
キリキリキリ…
「うう…次は胃が痛くなってきた」
「大丈夫ですか?そんな時はこの軟膏とガマの油をどうぞ」
「流石薬師の弟子だな~」
「ふふ、任せてください」
「……」
ぐぐぐぐ…
「はぁ……今度は頭が…」
「それは大変ですね…そんな時はこの軟膏とガマの油をどうぞ」
「流石薬師の弟子だな~」
「ふふ、任せt「何回やる気だ!!」
やっとのことで突っ込みを入れる私。
「えっと…後2回くらい?」
「やらなくていい!!大体頭痛や腹痛がガマの油で治るか!!」
「これ、田舎の祖母直伝なんです」
「師匠直伝のことをやれ!!」
「ならこの座薬を…」
「やめぃ!」
「結構効くよ?」
「体験済みなのか!?」
しばらくの間、そんなどうしようも無いやり取りが繰り広げられた後。
少しの沈黙が訪れた。
そして、妹紅が沈黙を打ち破るようにぼそりと私に言った。
「…分かったよ慧音」
妹紅は言葉を続ける。
「とりあえず、よく分からないけど何か悪いことをしたなって気がしてきたよ」
「……ホントにとりあえずだな」
まあ、今の妹紅にここまで納得させただけでもよしとしよう。
そうさせてくれ。頼む。
「だから、さ…」
「うん…」
次の言葉を待つ。
「とことん呑んで嫌なこと忘れよう!」
「賛成です!さぁさ冷めないうちに♪」
「何も分かって無いじゃないか!!」
~おしまい~
「おーい妹紅、居るかー?」
声を掛けながらガラガラと扉を開ける。
妹紅に限らず幻想郷の人はあんまり家に鍵をかけない。
おっと、『錠をかけない』のが正解だったか。
「お、けーね?いらっしゃーい」
「おお、居たか」
奥から声が聞こえた。
「どうしたのー?」
「ああ、今日は早く上がったんでな、一杯どうかと思って」
特に用事も無いのだが手ぶらで行くのも何だと思い、とりあえず酒と肴を買ってきていた。
これ位は気を利かせないといけないだろう。
「おおそりゃいいね、とりあえず上がってー」
どうも手が離せないのか、いつもは玄関まで出てくるのに今日は声だけの返事が返ってくる妹紅。
「じゃあお邪魔します」
そう言って中に入る私。
土間を抜け、中に上がり襖を開けると、そこにはこじんまりとしたいつもの部屋。
部屋の中央には囲炉裏があり、襖を開けた私に正対するように妹紅は座っている、そして何かを読んでいた。
「いらっしゃい!まあとりあえず座りなよ」
手元から目を離し、こちらを向いてそう言う妹紅。
元気そうだ。
「ありがとう、よいしょ…っと」
年寄り臭い声を出しながら、私は囲炉裏を挟んで妹紅と反対側に座る。
「ところで今日はどうしたの?」
「ああ、別に用って程じゃないんだがね」
そう言いながら、私は持ってきた酒を取り出す。
「どうだ?秋の夜長にひとつ」
「お~、いいねぇ」
一升瓶を見ると身を乗り出す妹紅。
「私も今日辺りやりたかったとこなんだ」
「肴もあるぞ」
「準備がいいね、待っててこっちも用意するから」
そう言って妹紅は立ち上がり、土間の方へ向かっていった。
部屋に残った私。
目の前には先程まで妹紅が読んでいた紙があったので、妹紅が来るまでの間の時間つぶしにとそれを手にとってみた。
紙面に「取り扱い説明」と言う文字、その下には商品名が書いてあった。
「…高枝切りバサミ?」
また珍しい物を買ったものだ。
その取説は一枚の紙に全部内容が書かれているタイプの物らしく、紙が小さく折り畳まれている。
「お待たせー」
お盆に湯飲みと適当な肴を置いて妹紅が戻ってきた。
そして帰ってきて早々に酒を開けようとする妹紅。
そんな彼女に私は声をかけた。
「また珍しい物を買ったんだな」
「ん?ああそれ、今日訪問販売の人が来てね」
妹紅は私の方を見つつ酒の蓋を開けた。
部屋にポンッと言う音が響く。
「ほらウチの家の前に柿の木があるでしょ?その実を採るのに便利そうだったから」
「飛んで採ったらいいんじゃないか?」
「それは何か行儀悪いしさ」
「まあそう…だな」
人によっては偶にこういう事にこだわる者が居る。
例えば血を吸うのは正面から向かって右側の首筋だとか、歌う歌にこだわりは無いが一曲目は決めているとか。
空を飛ぶのも、その一つ。
知っている中では紅魔館のメイド長などがそうだ。
急いでいる時以外は、屋敷のとても長い階段をわざわざ自分の足で昇り降りしているらしい。
当人ら曰く、むやみやたらと飛ぶのは行儀が悪いし横着だとか。
逆に巫女は無重力が身上の為か、そういう理論は全く持ち合わせおらず、いつでもどこでも浮かんでいる。
「そうそう、それにオマケも付いてきたんだ」
「オマケ…ねぇ」
こういう販売の類は、大概は何か付属品が付いてくる。
私個人としてはオマケを付けるよりも、値段をもうちょっと安くして欲しいと思う。
まあ、そのオマケ欲しさに品物を購入する者も居る訳だから、あながち間違った販売方法ではないのだろうが。
「なんだ?文々。新聞でも付いてくるのか?」
「…普通逆じゃないか?」
「冗談さ、ところで何が付いてきたんだ?」
「うどんげ」
「は?」
「いや、だからうどんげが…」
「待て待て待て!!」
「あ、本名は鈴仙・うどん…」
「違う!それ違う!!」
…ただ友と酒を飲みに来ただけなのに、何かとんでもないことに巻き込まれた気がする。
※※※※※※
「…鈴仙を買ってどうするんだ?」
「うーん」
「うーんじゃなくて!」
何を悩む。
悩むようなことをする気か!?
「妹紅…お前何をしたのか分かってるのか…?」
「まぁ一応…」
「一応!?」
「でも、どうするったって…ねぇ」
「『ねぇ』じゃない!詳細を説明してくれ!」
「だからね、今日の昼頃に訪問販売が来て…」
「まずそこから分からん、何で鈴仙の訪問販売が来るんだ!」
「いや、あれは高枝切りバサミの…」
「…飽くまでもそっちと言い張るか」
「やっぱりさ、訪問販売って一つ売れると大きいからね」
「誰が買うか!」
「私は買った」
「確かに、お前が買っている以上この話自体が成り立たないかも知れないが…しかし、だな…ほら、分かるだろ?」
「何かさっきから慧音機嫌悪いなぁ、ってことぐらい?」
「その程度!?」
これはいよいよ駄目な気がしてきた。
「…まぁ百歩譲って販売しに来たとしよう、何故購入した?」
「そりゃ柿を取るために…」
「いや、鈴仙が付いてくる時点で何かおかしいと思わなかったか?」
「変だと思ったけど…まあいいか、って」
「何だそれは!お前は『まあいいか』でブレザー兎を買ってしまう人なのか!?」
「だってオマケがあるなら貰っとかなきゃ損じゃない」
「損!?」
「まあ確かに…変だとは思ったけどさ、その時は『あ、いいな』って思ってね」
「思ってねって…」
それに『あ、いいな』って思えるのか?
相手はブレザーを着てウサ耳なんだぞ!?
「ツカミ刃もあるし付け替えのノコギリも付いてる、それに枝打ち一発とオマケ盛り沢山だったんだよ」
「付いてちゃいけないオマケもあるだろう!」
「剪定バサミ?確かに2つは要らないけど…」
「そこじゃない!」
「えっと…見た目より軽い?」
「本体の説明でもない!!もっと根本的なところ!!」
「…錆びにくい?」
「だから高枝切りバサミから離れろ!」
よほど高枝切りバサミが欲しかったのか、その話題から離れられない妹紅。
一体彼女に何があったのだろうか?
「…で、どんなヤツが来たんだ?」
「えっと、10段階調節で…」
「売りに来た奴だ!!」
「えっとサングラスしてて…」
「ふむ」
目線を隠すとは、ますます怪しい。
って言うか、妹紅は怪しいとか思わなかったんだろうか?
「ワンピースで、にんじんのペンダントをぶら下げてて…ウサ耳だった」
「まるっきりてゐじゃないか!」
「いや、私もそう思って『てゐだろ』って言ったんだよ」
そりゃ突っ込むだろうな。
「それから?」
「そしたら『他人の空似です』って返してくるから、そうかな~って思ってさ」
「…まあ、本人を見て無いからその件に突っ込むのは止めておこう」
何故だろう、もの凄く悔しい…
「…して、それの口車に乗せられたと?」
「うーん、私が欲しかったのもあるんだけど…ローンは死ぬまで組めるって言ってたし」
「お前は死なないだろう!と言うかその説明でよく儲けが大きいとか何とか言えたな!?」
「でもお得な感じがするじゃない」
「…分からん!お前の損得勘定はとことん分からん!」
「でもね、私が説明すると変に聞こえるけど…相手はちゃんと説明してくれたんだよ?」
「ちゃんと説明したからって、オマケに鈴仙が付いてくるって言った時点で何か変だとか思わなかったのか?」
「そこら辺もきっちり説明があって『あーなるほどな』って思ったんだ」
「…どんな説明なんだ?」
「『今なら、このハサミを使ってくれる助手のオマケ付きです!』」
「それで納得出来るのか!?」
それってオマケと捉えられるのか!?
「全自動とかなら『嘘っぽいなぁ…』ってなったけど、助手付きなら間違いないし便利だなって」
「それが知り合いなんだぞ?」
「なら尚更お得かなって、オマケだし」
「……とりあえずもっと一般的な損得感覚を持ち合わせてくれ、もう無理かもしれんが」
何故か目頭が熱くなってきた。
しかし、ここで投げ出す訳にはいかない!
「大体…本人も嫌がってたりしないか?」
「ハサm「鈴仙が、だぞ?一応忠告しとく」
最後の気力を振り絞って、私は突っ込む。
「…『一番安全なところに拾われた』って喜んでたよ」
「理由は何となく分かるが…」
「一瞬どうしようかなって思ったけど、本人が喜んでるなら、まあいいかって」
「だからお前は『まあいいか』で人の命を預かる女なのか!?」
軽い…この娘、軽すぎる…
だいたいこんな感じで堂々巡りの話が続けられていたその時。
ガラガラっ
「ただいま帰りました~」
当の本人が登場した。
「あ、お帰り~」
「うわ!ホントに居た!」
正直、冗談だと思いたかった。
実は嘘だと言って欲しかった。
そんな私の僅かな、ほんの僅かな望みを、本人の登場によりついに断ち切られてしまった。
果たして、妹紅に一体何があったのだろうか?
もし何か私に至らぬ点があったと「あ、慧音さんいらっしゃい、お茶出しますね」
「馴染んでる!?」
「今日は酒を持ってきてもらったんだ」
「あら、そうなんですか」
「まあ手を洗ったらそこに座りなよ」
「はーい」
面食らってる私を尻目に、鈴仙は手を洗いに行った。
「…遊びに来てるとか言うオチは無いよな?」
「いんや、住み着いてる」
「何でそんな落ち着いて答えられるんだ」
「ん~長生きしてるからかな?」
「…それは間違いないが」
説得力がありすぎて、逆におかしな気がするのは私だけだろうか?
「妹紅さーん、このサンマ焼いちゃっていいですか~?」
「いいよー、と言うことで慧音、早速サンマ焼いちゃうね」
ちなみにこのサンマは、私が肴にと持ってきたヤツだ。
「じゃ、焼きに行ってくる」
「人の話を聞けーー!!」
「あぁぁ…」
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもあるか…」
私は本気で頭を抱えている。
いつもの帽子を自分の横に置いて、文字通り頭を抱えて悩んでいる。
そして私の前には湯飲みに並々と注がれた酒と、焼きたてのサンマ(不死鳥焼き)、それに幾らかの肴が置かれていた。
「冷めないうちにどうぞ♪」
そんな私を意に介さない様子で、鈴仙は私にサンマを勧めてくる。
「あれ?慧音さん、腕怪我してますね」
「ん…あぁそうだな」
頭を上げて自分の右腕を見ると、ひじの辺りに小さな切り傷があった。
おそらく知らないうちに竹の葉で切ったのだろう。
この家は竹林の中にあるからな。
「そんな時はこの軟膏とガマの油をどうぞ」
そう言って小瓶と壺を渡してくれる鈴仙。
「ああ、ありがとう…」
「流石薬師の弟子だな~」
「ふふ、任せてください」
勧められたとおり薬を塗る。
よく効く薬らしく、外傷は綺麗に治まった。
しかし遊びに来ただけなのに、何故か受けた心の傷は全然治りそうに無い。
キリキリキリ…
「うう…次は胃が痛くなってきた」
「大丈夫ですか?そんな時はこの軟膏とガマの油をどうぞ」
「流石薬師の弟子だな~」
「ふふ、任せてください」
「……」
ぐぐぐぐ…
「はぁ……今度は頭が…」
「それは大変ですね…そんな時はこの軟膏とガマの油をどうぞ」
「流石薬師の弟子だな~」
「ふふ、任せt「何回やる気だ!!」
やっとのことで突っ込みを入れる私。
「えっと…後2回くらい?」
「やらなくていい!!大体頭痛や腹痛がガマの油で治るか!!」
「これ、田舎の祖母直伝なんです」
「師匠直伝のことをやれ!!」
「ならこの座薬を…」
「やめぃ!」
「結構効くよ?」
「体験済みなのか!?」
しばらくの間、そんなどうしようも無いやり取りが繰り広げられた後。
少しの沈黙が訪れた。
そして、妹紅が沈黙を打ち破るようにぼそりと私に言った。
「…分かったよ慧音」
妹紅は言葉を続ける。
「とりあえず、よく分からないけど何か悪いことをしたなって気がしてきたよ」
「……ホントにとりあえずだな」
まあ、今の妹紅にここまで納得させただけでもよしとしよう。
そうさせてくれ。頼む。
「だから、さ…」
「うん…」
次の言葉を待つ。
「とことん呑んで嫌なこと忘れよう!」
「賛成です!さぁさ冷めないうちに♪」
「何も分かって無いじゃないか!!」
~おしまい~
蝦蟇の口もぱっくりと開いてしまいます。w
みょんの所なら、
桜一杯で需要有りそうだし、お金持ってそうだし、おまけも食材として有効活用してくれたろうに。
鈴仙がついてくるなら買いますって、マヂで。
「どうした妹紅したもあるか」と素で読んでしまった自分はモンペ穿いてきます
危険な場所のことを想像すると涙が出ました
ウサギ無残
なんだこの天然漫才コンビw
なんでこんな発想が出来るんだよwww