「ふはははは!パチュリー!今日も堂々と泥棒しに来たぜ!」
「懲りないわねあなたも…返り討ちにしてあげるわ!」
紅魔館地下図書館。
今日も今日とて、パチュリー・ノーレッジは五月蠅いネズミと戦っていた。
しかし今日は何か、いつもと様子が違う。
「…横の連中は、何よ」
いつも一人で図書館にやってくる霧雨魔理沙だが、今日は彼女の傍らに二人の少女がいた。
「ふっ…よくぞ聞いてくれたぜ」
魔理沙は不敵に微笑み、パチュリーの問いに答えようとする。
しかし彼女の右側の少女が、その言葉を遮った。
「待って」
「ん?」
パチュリーはその少女に見覚えがある。
取材と称して何度か紅魔館を訪れた天狗の新聞記者であった。
「せっかくだから『あれ』やろうじゃない」
「おお、ここで初公開か。それもいいな」
魔理沙は頷いた。
そして――三人はパチュリーと向かい合う形で、横一列に並ぶ。
「弾消しカメラの文!」
「オートボムのてゐ!」
「ゴリ押し魔砲の魔理沙!」
三人はそれぞれかっこよくポーズを決めつつ、名乗りを上げる。
「「「三人合わせて!」」」
声をそろえる。
「「「幻想郷の明日を考える会!略して『ボムボム団』!!」
背後で火薬が炸裂し、色とりどりの煙が上がる。
密室状態の図書館は、あっという間に煙に包まれた。
咳き込むパチュリーを気にも留めず、三人の少女はハイタッチして喜んでいる。
「決まった決まった!」
「いやあ、三日間徹夜で練習した甲斐があったぜ!」
「もう明日の一面記事はこれで決まりね!」
その時、煙の向こうからひどく慌てた声が響いた。
「な…何よこれ!?火事!?パ、パチュリー様ーっ!ご無事ですかーっ!?」
図書館の司書、小悪魔の声であった。
程なくして小悪魔は床にうずくまるパチュリーを見つける。
「大丈夫ですか!?」
「ゴホッ…し、心配ないわ…それより小悪魔、あのふざけた連中をどうにかしないと…」
ボムボム団の面々は既に図書館のあちこちに散らばり、本を物色している。
魔理沙はいつものように稀少価値の高い魔導書を、
文は新聞のネタになりそうな外の世界の本を、
そしててゐは何でもいいのでとにかく高価そうな本をさがしていた。
「あなた達!」
パチュリーは空中に飛び上がると、手近にあった本棚の上に立つ。
「随分と好き勝手やってくれるわね!三人まとめて相手してやるわ!行くわよ小悪魔!」
「イエッサー!」
久々に本気で腹が立ったパチュリー。
いつになく全力全開で精霊魔法発動、七曜の弾幕を展開する!…が!
ボムボム団はその名の通り、やたらボムりまくる連中だった!
「マスタースパーク!ファイナルスパーク!霊撃!霊撃!また霊撃!」
「河童の科学力が改造した新型カメラ!フィルム巻取り速度は通常の三倍よ!」
魔理沙と文は誘導もカスリも無視したチキンボムで次々と弾を消して行く。
「くっ…ならあの兎だけでも!」
てゐは残りの二人ほど頻繁にボムを使わなかったが、弾が当たったと思った瞬間、
絶妙のタイミングで喰らいボムを発動し、被弾を防いでいた。
「ふふふ、野生動物のカンをなめないほうがいいわよ!」
ひたすらボムりまくるボムボム団の猛攻に、パチュリーは次第に追い詰められて行く。
「ひ…卑怯ですよ!あなたたちには弾幕少女としての誇りはないんですか!?」
小悪魔はてゐが放った兎玉を紙一重でかわしながら、声を上げる。
スペルカード戦は互いの技を見せ合い、その美しさを競い合う決闘法だ。
グレイズもパターン作りも度外視したボムの連発に、何の美しさがあるだろう。
しかし、ボムボム団はたじろぐ様子すら見せない。
「「「ない!」」」
彼女達は知っているのだ。
抱え落ちの空しさを、戦争の愚かさを、平和の尊さを!
魔理沙はミニ八卦炉を構え、パチュリーに向けた。
「行くぜ…弾幕がパワーだってことを教えてやる…!」
「このっ…ふざけるな!」
パチュリーは吼える。
しかしその声は、視界を埋め尽くす光の渦に飲み込まれ、消えていった――。
※※※
「パチュリー様!パチュリー様!」
目覚めて最初に目に入ったのは、小悪魔の顔だった。
その目に涙を浮かべて、パチュリーの顔を覗きこんでいた。
「何よ…大袈裟ね」
パチュリーはゆっくりと身体を起こした。
自室のベッドの上だった。
「すみません…結局、また本を持っていかれてしまって…」
「いつもの事でしょ…とはいえ」
溜め息をつきつつ、パチュリーは答えた。
魔理沙がここから勝手に本を持ち出すのは、今に始まった事ではない。
しかし今回ほど手ひどくやられたのは初めてだった。
そして何より、本を持っていく人数が三人に増えている。
被害の大きさも、今までよりは間違いなく上である。
「とはいえ…」
そこまで言って、パチュリーは黙り込んだ。
そのまま、沈黙がその場を支配する。
「パチュリー様?」
沈黙に耐えかねた小悪魔が、不安げな顔で尋ねる。
パチュリーは答えなかった。
次の日、紅魔館のどこにもパチュリーの姿はなかった。
彼女の部屋の机の上には「山へ行く」と書かれた紙が置いてあった。
※※※
妖怪の山。
パチュリーは山の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
木々の精気が溶け込んだ爽やかな気体が、身体中に染み渡るのを感じる。
いつも自分が篭もっている図書館にはない「自然」があった。
そこかしこに、草花や風、あるいは日光に宿る精霊の存在を感じる。
パチュリーが山に入った目的は一つ。
自身の精霊魔法を鍛えるためであった。
今の自分では、あのボムボム団に勝つことはできない。
魔法のレベルを今よりも数段階上に引き上げる必要があった。
「…と言ったものの、まず何をすればいいのかしらね」
これまでパチュリーは修行、というものをしたことがなかった。
今までの自分は、本で読んだ魔法を本の通りにやってみたらできた…というパターンがほとんどだ。
勢いで山にやってきたのはいいものの、するべきことが見つからない。
立ち止り、辺りを見回してみるが、何も答えにはならなかった。
早くも諦めが心を支配し始めたその時、それは起こった。
「なっ!?これは…」
傍らを流れていた川から、大きな目が二つ、ぎょろりと覗いていた。
まるで巨大な蛙が自分を見ているようだった。
ざぶり、と音を立てて、その蛙が水中から姿を現わした。
蛙の目と見えたそれは「その者」が被っていた帽子の装飾だった。
(お…女の、子…?)
パチュリーの目の前に現れた「その者」は、幼い少女であった。
しかし彼女の友人同様、強大な力を持つものに特有の圧倒的な存在感を感じた。
(何者かしら…ま、山の妖怪の類なんでしょうけど)
少女は口を開いた。
「わたしは土着神の諏訪子!」
「ど…どちゃくしん?」
パチュリーの問いに答えず、少女は続ける。
「人も神も戦い鍛えればどこまでも強くなる!わたしはそんな鍛えぬかれたミシャグジたちと共に生きてきた!」
小柄な少女の身体が、一瞬大きくなったかのように見えた。
少女の放つ、神懸り的な気合いのなせる技だろうか。
「そしてこれからもな!迷える魔女よ…!わたしたちのスーパーパワーを受けてみるがいい!アー!ウーッ!」
「こ…この力は!?」
川面が、神々しい光を反射して煌めいた。
※※※
パチュリーが紅魔館から姿を消して一ヶ月。
幻想郷では、ボムボム団の悪行が人々の頭を悩ませていた。
豊穣の神様を脅し、栗や銀杏を独り占めして高額で里の人間に売りつけたり、
宵闇の妖怪を一日中松明を持ってつけまわしたり、
蛍の妖怪にイナゴの佃煮を大量に送ったり、
雪女の家の前で地球温暖化が引き起こす地球の暗い未来の話を毎日したりした。
ボムボム団の面々は元々そんなに悪い連中ではないのだが、
自分達のひたすらボムる戦法が意外にも強く、なんとなく調子をこいてしまったというのが実情だ。
主に一面ボスをいじめる辺り、彼女達の潜在的なスケールの小ささが見て取れる。
「そろそろわたしたちももっとでっかい事をやっていいと思うのぜ」
「ほう…それはどんな?(思うのぜ?)」
「お金儲けになることがいいわ(思うのぜ?)」
ある日、ボムボム団はいつものように悪巧みをしていた。
「待ちなさい!」
そんなボムボム団の前に、そいつはやってきた。
ボロボロの服を身につけ、髪も肌もかなりアレな感じに荒れた少女。
しかし少女の身体からは無駄に健康優良なオーラが漂っている。体育会系だ。
「お、お前まさか…パチュリー?」
「そうよ!わたしはあなた達に復讐するために修行をしたのぜ!」
「へえ…面白い。わたしたちのボムの嵐に敵うってのか?」
「返り討ちですよ(したのぜ?)」
「ウササササ(したのぜ?)」
先ほどから文とてゐは気にかかることがあったのだが、空気を読んで触れずにいた。
『あなた達が悪い事をするのは別に構わないわ!でも、借りは返させてもらうわよ!』
かつてのパチュリーならばこう言っただろう。
しかし、山で修行を積んだ今のパチュリーは違う。
そう、ケロちゃんこと洩矢諏訪子の元で心と身体の修行を積んだ今のパチュリーは…。
「悪い事をする奴等は、神に代わって殺してやる!」
すごい変わりようだ。
正義の味方というスタンスを取りつつ、全く躊躇わずに『殺してやる』である。
「やってみろ!またわたしの魔砲の餌食にしてやるぜ!」
「い~い具合に服が破けてますねえ…くっくっく、そんなに撮って欲しいんですか…」
魔理沙は時代劇の悪者のようにミニ八卦炉に舌を這わせる。
文は敬語、つまり取材モード…否、盗撮モードだ。
てゐはいつもと変わらない表情で立っているようで、全身のバネにゆっくりと気を巡らせていた。
ボムボム団、臨戦態勢である。
(わたしは山で様々な事を学んだわ)
パチュリーの脳裏に、諏訪子の教えが甦る。
飯盒を使った米の炊き方。
テントの張り方。
薪を割る時の、ちょっとしたコツ。
川で捕まえた魚の料理の仕方。
食べられる野草と、食べられない野草。
(師匠…あなたの遺志、わたしが立派に継いでみせるわ!)
青い空に、諏訪子の笑顔が浮かんでいた。
その笑顔は語りかける――まだ死んでねえよ、と。
「どうしたパチュリー!こないならこっちから行くぜ!」
「…!」
パチュリーの目が大きく見開かれ…そしてまた閉じた。
静かに指を組み合わせ、印を結ぶ。
「アノクタラサンミャクサンボダイアノクタラサンミャクサンボダイ…」
ブツブツと呪文のようなものを唱える。
「ノーレッジ・ダッシュ・7(セブン)!」
神々しい光がパチュリーを包み込んだ。
その光の強さに、ボムボム団は思わず目をつぶってしまう。
「うわっ…」
「何!?」
そして光が晴れたとき――そこには全身を白い装束で包んだパチュリーがいた。
額には太陽を象った金色の飾りが輝く。
それはパチュリーが操る七曜の精霊のうち「日」の精霊の力の顕現。
太陽の化身。
そう、パチュリーの山での修行の成果がこれであった。
精霊の力を弾幕として使うのではなく、己の肉体に精霊の力を宿らせる魔法。
元々虚弱な体質のパチュリーがこの魔法を体得するのは難しかった。
それゆえ、この魔法の存在を知りつつもパチュリーは手を出す事はなかったが…しかし!
諏訪子との出会い、そして彼女の課した修行が全てを変えた。
山での特訓――わずか一ヶ月の間に、パチュリーは強靭な肉体と、精霊と一体化する魔法を手にしたのだ。
「な…何だあ?」
己の目を疑う魔理沙。
しかし目の前で起こっていることは事実である。
パチュリーは今や太陽の力をその身に宿した、地上の恒星である。
太陽の熱と光がパチュリーの体内を駆け巡り、チャクラを回転させる。
心と身体の内に眠る未知のエネルギーが目覚める。
それは冷たく凍りついた蕾が、柔らかな春の日差しに呼び覚まされ、花開くイメージ。
やがて土の下から多くの命が這い出し、その生を謳歌する。
空には鳥が歌い、地上には花が咲き乱れ――やがて訪れる夏を待ち、太陽を讃える。
全ての命はやがて、太陽を目指し、万里の道を行くのだ。
長い、長い道――その道の途中で、失われる命もある。
しかしそれらの命はいつしか太陽に辿り着き、燃え盛るプロミネンスの中で生まれ変わる。
炎が紡ぐ輪廻。
終わりなき生命の環(わ)。
そう、それは朝に昇り夕に沈み、そしてまた朝に昇る――太陽は正に、生と死の輪廻の顕現だ。
パチュリーは己の内に、転地の開闢から幾度となく繰り返されてきた命の営みを見ていた。
それはつまり、宇宙――パチュリーは宇宙の内にありながら、その内に宇宙を宿したのだ。
パチュリーは印を結び、目を閉じたままだ。
しかし、その心にもう一つの目を開いた。
神にのみ持つ事を許された、己の内の宇宙を覗き込む目。
そう、パチュリーの精神は神の領域に入ったのだ。
『光あれ』
パチュリーは己の内の宇宙に語りかけた。
神として。
たった一人の魔女の身体に封じこめられた、小さな宇宙に光が満ちた。
ビッグバン。
宇宙の始まりだった。
パチュリーより生まれ、パチュリーが開いた宇宙。
その宇宙は言わばパチュリー宇宙――神懸った言い回しで略すれば、パッ宙である。
己の内の宇宙に気づき、パチュリーは神の領域へ足を踏み入れた。
だが、それは特別な事ではない。
それに気づくきっかけと、手段。
必要なのはそれだけだ。
誰もがそこへ至る道を持っている。
そう、あなたも――。
※※※
その後パチュリーはボムボム団をボッコボコにしたり、まあ色々やった。
とりあえずボムボム団は解散した。
また、一ヶ月がたった。
射命丸文は、今日も張り切って新聞を書いている。
彼女は時折、ボムボム団での日々を思い出す。
しかしよく考えれば、一ヶ月前の時点で天狗の新聞の大会が迫っていたのだ。
どの道時期が来ればそっちに専念するつもりだった。
因幡てゐは、最近は博麗神社の名よりも、守矢の神社の名を使って賽銭を集めたほうがいいと気づいた。
ボムボム団?何だっけ?
彼女の言葉である。
霧雨魔理沙は、唯一ボムボム団での活動を反省した人物だった。
ボムに頼った戦法を考え直し、地道に弾幕の腕を磨くようになったのだ。
「霊夢!」
今日も魔理沙は箒に乗り、博麗神社に舞い降りる。
「弾幕ごっこしようぜ!そうだな…今日はお互いノーボムで、てのはどうだ?」
「はいはい。どうせ断っても無理矢理始めるんでしょ」
空は秋晴れ。
幻想郷は平穏を取り戻し、一面ボス達も静かな暮らしを再び手にする事ができた。
「よおし…じゃあルールを確認するぜ!B装備、パワー3からスタート、低速封印のノーボムバトルな!」
あ、ちなみにパチュリーは修行を止めたらまたすぐ元の虚弱体質に戻ったみたいです。
「懲りないわねあなたも…返り討ちにしてあげるわ!」
紅魔館地下図書館。
今日も今日とて、パチュリー・ノーレッジは五月蠅いネズミと戦っていた。
しかし今日は何か、いつもと様子が違う。
「…横の連中は、何よ」
いつも一人で図書館にやってくる霧雨魔理沙だが、今日は彼女の傍らに二人の少女がいた。
「ふっ…よくぞ聞いてくれたぜ」
魔理沙は不敵に微笑み、パチュリーの問いに答えようとする。
しかし彼女の右側の少女が、その言葉を遮った。
「待って」
「ん?」
パチュリーはその少女に見覚えがある。
取材と称して何度か紅魔館を訪れた天狗の新聞記者であった。
「せっかくだから『あれ』やろうじゃない」
「おお、ここで初公開か。それもいいな」
魔理沙は頷いた。
そして――三人はパチュリーと向かい合う形で、横一列に並ぶ。
「弾消しカメラの文!」
「オートボムのてゐ!」
「ゴリ押し魔砲の魔理沙!」
三人はそれぞれかっこよくポーズを決めつつ、名乗りを上げる。
「「「三人合わせて!」」」
声をそろえる。
「「「幻想郷の明日を考える会!略して『ボムボム団』!!」
背後で火薬が炸裂し、色とりどりの煙が上がる。
密室状態の図書館は、あっという間に煙に包まれた。
咳き込むパチュリーを気にも留めず、三人の少女はハイタッチして喜んでいる。
「決まった決まった!」
「いやあ、三日間徹夜で練習した甲斐があったぜ!」
「もう明日の一面記事はこれで決まりね!」
その時、煙の向こうからひどく慌てた声が響いた。
「な…何よこれ!?火事!?パ、パチュリー様ーっ!ご無事ですかーっ!?」
図書館の司書、小悪魔の声であった。
程なくして小悪魔は床にうずくまるパチュリーを見つける。
「大丈夫ですか!?」
「ゴホッ…し、心配ないわ…それより小悪魔、あのふざけた連中をどうにかしないと…」
ボムボム団の面々は既に図書館のあちこちに散らばり、本を物色している。
魔理沙はいつものように稀少価値の高い魔導書を、
文は新聞のネタになりそうな外の世界の本を、
そしててゐは何でもいいのでとにかく高価そうな本をさがしていた。
「あなた達!」
パチュリーは空中に飛び上がると、手近にあった本棚の上に立つ。
「随分と好き勝手やってくれるわね!三人まとめて相手してやるわ!行くわよ小悪魔!」
「イエッサー!」
久々に本気で腹が立ったパチュリー。
いつになく全力全開で精霊魔法発動、七曜の弾幕を展開する!…が!
ボムボム団はその名の通り、やたらボムりまくる連中だった!
「マスタースパーク!ファイナルスパーク!霊撃!霊撃!また霊撃!」
「河童の科学力が改造した新型カメラ!フィルム巻取り速度は通常の三倍よ!」
魔理沙と文は誘導もカスリも無視したチキンボムで次々と弾を消して行く。
「くっ…ならあの兎だけでも!」
てゐは残りの二人ほど頻繁にボムを使わなかったが、弾が当たったと思った瞬間、
絶妙のタイミングで喰らいボムを発動し、被弾を防いでいた。
「ふふふ、野生動物のカンをなめないほうがいいわよ!」
ひたすらボムりまくるボムボム団の猛攻に、パチュリーは次第に追い詰められて行く。
「ひ…卑怯ですよ!あなたたちには弾幕少女としての誇りはないんですか!?」
小悪魔はてゐが放った兎玉を紙一重でかわしながら、声を上げる。
スペルカード戦は互いの技を見せ合い、その美しさを競い合う決闘法だ。
グレイズもパターン作りも度外視したボムの連発に、何の美しさがあるだろう。
しかし、ボムボム団はたじろぐ様子すら見せない。
「「「ない!」」」
彼女達は知っているのだ。
抱え落ちの空しさを、戦争の愚かさを、平和の尊さを!
魔理沙はミニ八卦炉を構え、パチュリーに向けた。
「行くぜ…弾幕がパワーだってことを教えてやる…!」
「このっ…ふざけるな!」
パチュリーは吼える。
しかしその声は、視界を埋め尽くす光の渦に飲み込まれ、消えていった――。
※※※
「パチュリー様!パチュリー様!」
目覚めて最初に目に入ったのは、小悪魔の顔だった。
その目に涙を浮かべて、パチュリーの顔を覗きこんでいた。
「何よ…大袈裟ね」
パチュリーはゆっくりと身体を起こした。
自室のベッドの上だった。
「すみません…結局、また本を持っていかれてしまって…」
「いつもの事でしょ…とはいえ」
溜め息をつきつつ、パチュリーは答えた。
魔理沙がここから勝手に本を持ち出すのは、今に始まった事ではない。
しかし今回ほど手ひどくやられたのは初めてだった。
そして何より、本を持っていく人数が三人に増えている。
被害の大きさも、今までよりは間違いなく上である。
「とはいえ…」
そこまで言って、パチュリーは黙り込んだ。
そのまま、沈黙がその場を支配する。
「パチュリー様?」
沈黙に耐えかねた小悪魔が、不安げな顔で尋ねる。
パチュリーは答えなかった。
次の日、紅魔館のどこにもパチュリーの姿はなかった。
彼女の部屋の机の上には「山へ行く」と書かれた紙が置いてあった。
※※※
妖怪の山。
パチュリーは山の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
木々の精気が溶け込んだ爽やかな気体が、身体中に染み渡るのを感じる。
いつも自分が篭もっている図書館にはない「自然」があった。
そこかしこに、草花や風、あるいは日光に宿る精霊の存在を感じる。
パチュリーが山に入った目的は一つ。
自身の精霊魔法を鍛えるためであった。
今の自分では、あのボムボム団に勝つことはできない。
魔法のレベルを今よりも数段階上に引き上げる必要があった。
「…と言ったものの、まず何をすればいいのかしらね」
これまでパチュリーは修行、というものをしたことがなかった。
今までの自分は、本で読んだ魔法を本の通りにやってみたらできた…というパターンがほとんどだ。
勢いで山にやってきたのはいいものの、するべきことが見つからない。
立ち止り、辺りを見回してみるが、何も答えにはならなかった。
早くも諦めが心を支配し始めたその時、それは起こった。
「なっ!?これは…」
傍らを流れていた川から、大きな目が二つ、ぎょろりと覗いていた。
まるで巨大な蛙が自分を見ているようだった。
ざぶり、と音を立てて、その蛙が水中から姿を現わした。
蛙の目と見えたそれは「その者」が被っていた帽子の装飾だった。
(お…女の、子…?)
パチュリーの目の前に現れた「その者」は、幼い少女であった。
しかし彼女の友人同様、強大な力を持つものに特有の圧倒的な存在感を感じた。
(何者かしら…ま、山の妖怪の類なんでしょうけど)
少女は口を開いた。
「わたしは土着神の諏訪子!」
「ど…どちゃくしん?」
パチュリーの問いに答えず、少女は続ける。
「人も神も戦い鍛えればどこまでも強くなる!わたしはそんな鍛えぬかれたミシャグジたちと共に生きてきた!」
小柄な少女の身体が、一瞬大きくなったかのように見えた。
少女の放つ、神懸り的な気合いのなせる技だろうか。
「そしてこれからもな!迷える魔女よ…!わたしたちのスーパーパワーを受けてみるがいい!アー!ウーッ!」
「こ…この力は!?」
川面が、神々しい光を反射して煌めいた。
※※※
パチュリーが紅魔館から姿を消して一ヶ月。
幻想郷では、ボムボム団の悪行が人々の頭を悩ませていた。
豊穣の神様を脅し、栗や銀杏を独り占めして高額で里の人間に売りつけたり、
宵闇の妖怪を一日中松明を持ってつけまわしたり、
蛍の妖怪にイナゴの佃煮を大量に送ったり、
雪女の家の前で地球温暖化が引き起こす地球の暗い未来の話を毎日したりした。
ボムボム団の面々は元々そんなに悪い連中ではないのだが、
自分達のひたすらボムる戦法が意外にも強く、なんとなく調子をこいてしまったというのが実情だ。
主に一面ボスをいじめる辺り、彼女達の潜在的なスケールの小ささが見て取れる。
「そろそろわたしたちももっとでっかい事をやっていいと思うのぜ」
「ほう…それはどんな?(思うのぜ?)」
「お金儲けになることがいいわ(思うのぜ?)」
ある日、ボムボム団はいつものように悪巧みをしていた。
「待ちなさい!」
そんなボムボム団の前に、そいつはやってきた。
ボロボロの服を身につけ、髪も肌もかなりアレな感じに荒れた少女。
しかし少女の身体からは無駄に健康優良なオーラが漂っている。体育会系だ。
「お、お前まさか…パチュリー?」
「そうよ!わたしはあなた達に復讐するために修行をしたのぜ!」
「へえ…面白い。わたしたちのボムの嵐に敵うってのか?」
「返り討ちですよ(したのぜ?)」
「ウササササ(したのぜ?)」
先ほどから文とてゐは気にかかることがあったのだが、空気を読んで触れずにいた。
『あなた達が悪い事をするのは別に構わないわ!でも、借りは返させてもらうわよ!』
かつてのパチュリーならばこう言っただろう。
しかし、山で修行を積んだ今のパチュリーは違う。
そう、ケロちゃんこと洩矢諏訪子の元で心と身体の修行を積んだ今のパチュリーは…。
「悪い事をする奴等は、神に代わって殺してやる!」
すごい変わりようだ。
正義の味方というスタンスを取りつつ、全く躊躇わずに『殺してやる』である。
「やってみろ!またわたしの魔砲の餌食にしてやるぜ!」
「い~い具合に服が破けてますねえ…くっくっく、そんなに撮って欲しいんですか…」
魔理沙は時代劇の悪者のようにミニ八卦炉に舌を這わせる。
文は敬語、つまり取材モード…否、盗撮モードだ。
てゐはいつもと変わらない表情で立っているようで、全身のバネにゆっくりと気を巡らせていた。
ボムボム団、臨戦態勢である。
(わたしは山で様々な事を学んだわ)
パチュリーの脳裏に、諏訪子の教えが甦る。
飯盒を使った米の炊き方。
テントの張り方。
薪を割る時の、ちょっとしたコツ。
川で捕まえた魚の料理の仕方。
食べられる野草と、食べられない野草。
(師匠…あなたの遺志、わたしが立派に継いでみせるわ!)
青い空に、諏訪子の笑顔が浮かんでいた。
その笑顔は語りかける――まだ死んでねえよ、と。
「どうしたパチュリー!こないならこっちから行くぜ!」
「…!」
パチュリーの目が大きく見開かれ…そしてまた閉じた。
静かに指を組み合わせ、印を結ぶ。
「アノクタラサンミャクサンボダイアノクタラサンミャクサンボダイ…」
ブツブツと呪文のようなものを唱える。
「ノーレッジ・ダッシュ・7(セブン)!」
神々しい光がパチュリーを包み込んだ。
その光の強さに、ボムボム団は思わず目をつぶってしまう。
「うわっ…」
「何!?」
そして光が晴れたとき――そこには全身を白い装束で包んだパチュリーがいた。
額には太陽を象った金色の飾りが輝く。
それはパチュリーが操る七曜の精霊のうち「日」の精霊の力の顕現。
太陽の化身。
そう、パチュリーの山での修行の成果がこれであった。
精霊の力を弾幕として使うのではなく、己の肉体に精霊の力を宿らせる魔法。
元々虚弱な体質のパチュリーがこの魔法を体得するのは難しかった。
それゆえ、この魔法の存在を知りつつもパチュリーは手を出す事はなかったが…しかし!
諏訪子との出会い、そして彼女の課した修行が全てを変えた。
山での特訓――わずか一ヶ月の間に、パチュリーは強靭な肉体と、精霊と一体化する魔法を手にしたのだ。
「な…何だあ?」
己の目を疑う魔理沙。
しかし目の前で起こっていることは事実である。
パチュリーは今や太陽の力をその身に宿した、地上の恒星である。
太陽の熱と光がパチュリーの体内を駆け巡り、チャクラを回転させる。
心と身体の内に眠る未知のエネルギーが目覚める。
それは冷たく凍りついた蕾が、柔らかな春の日差しに呼び覚まされ、花開くイメージ。
やがて土の下から多くの命が這い出し、その生を謳歌する。
空には鳥が歌い、地上には花が咲き乱れ――やがて訪れる夏を待ち、太陽を讃える。
全ての命はやがて、太陽を目指し、万里の道を行くのだ。
長い、長い道――その道の途中で、失われる命もある。
しかしそれらの命はいつしか太陽に辿り着き、燃え盛るプロミネンスの中で生まれ変わる。
炎が紡ぐ輪廻。
終わりなき生命の環(わ)。
そう、それは朝に昇り夕に沈み、そしてまた朝に昇る――太陽は正に、生と死の輪廻の顕現だ。
パチュリーは己の内に、転地の開闢から幾度となく繰り返されてきた命の営みを見ていた。
それはつまり、宇宙――パチュリーは宇宙の内にありながら、その内に宇宙を宿したのだ。
パチュリーは印を結び、目を閉じたままだ。
しかし、その心にもう一つの目を開いた。
神にのみ持つ事を許された、己の内の宇宙を覗き込む目。
そう、パチュリーの精神は神の領域に入ったのだ。
『光あれ』
パチュリーは己の内の宇宙に語りかけた。
神として。
たった一人の魔女の身体に封じこめられた、小さな宇宙に光が満ちた。
ビッグバン。
宇宙の始まりだった。
パチュリーより生まれ、パチュリーが開いた宇宙。
その宇宙は言わばパチュリー宇宙――神懸った言い回しで略すれば、パッ宙である。
己の内の宇宙に気づき、パチュリーは神の領域へ足を踏み入れた。
だが、それは特別な事ではない。
それに気づくきっかけと、手段。
必要なのはそれだけだ。
誰もがそこへ至る道を持っている。
そう、あなたも――。
※※※
その後パチュリーはボムボム団をボッコボコにしたり、まあ色々やった。
とりあえずボムボム団は解散した。
また、一ヶ月がたった。
射命丸文は、今日も張り切って新聞を書いている。
彼女は時折、ボムボム団での日々を思い出す。
しかしよく考えれば、一ヶ月前の時点で天狗の新聞の大会が迫っていたのだ。
どの道時期が来ればそっちに専念するつもりだった。
因幡てゐは、最近は博麗神社の名よりも、守矢の神社の名を使って賽銭を集めたほうがいいと気づいた。
ボムボム団?何だっけ?
彼女の言葉である。
霧雨魔理沙は、唯一ボムボム団での活動を反省した人物だった。
ボムに頼った戦法を考え直し、地道に弾幕の腕を磨くようになったのだ。
「霊夢!」
今日も魔理沙は箒に乗り、博麗神社に舞い降りる。
「弾幕ごっこしようぜ!そうだな…今日はお互いノーボムで、てのはどうだ?」
「はいはい。どうせ断っても無理矢理始めるんでしょ」
空は秋晴れ。
幻想郷は平穏を取り戻し、一面ボス達も静かな暮らしを再び手にする事ができた。
「よおし…じゃあルールを確認するぜ!B装備、パワー3からスタート、低速封印のノーボムバトルな!」
あ、ちなみにパチュリーは修行を止めたらまたすぐ元の虚弱体質に戻ったみたいです。
そこ以外は面白かった
ボムボム団の元ネタはあれかなとおもったり、パッ宙に目覚める所はセブンセンシズに至ったのかなとニヤニヤしながら読了。面白かったです。
魔理沙、ボムに頼らなくなったのはいいが反省してねぇww
貴様、レザマリだな!
飢狼伝…何処の日本拳法の達人ですかwww
ちょwwww
ちょwww四天王最弱の人じゃないですかwwwww
魔理沙、それ反省やない。反則や!www
カブトボーグっすかwwww
チャージ三回自重www