「先生やりたい!」
あたいが言うと、その人はいっぱい後ろにさがって、それから泣き出した。へんてこりんな帽子を抱っこして。生徒たちに、ええと、ハナムケできない、とか喚いている。泣くほど嬉しいのかな。
約束だもんね。あたいが勝ったら何でも言うこときくって。湖はあたいの最強の場所だもん。負けるもんか。
「いいでしょ、あたいが先生で。やったげるよ任しといて」
「約束を破ってはいけない、普段生徒に言っていることだが……いや嘘も方便とも、しかし、」
言葉を切ると、こっちを見た。あたいに憧れてる? たくさん見てから、「鹿がない」とか「舌がない」とか言って、
「一日だけお前に任せよう。何を教えたいかこの紙に書くといい」
真っ白い紙と黒い炭をくれた。そっか、先生って何か教えるものだったんだ。紙のはじめに、炭で「教えること」と書く。
「ありがと。後は大丈夫だから」
教えることを探すために、あたいはすごい光年で飛んだ。
神社で巫女に紙を見せると、
「賽銭箱にお金を入れるといい気分になれるわよ。って、あんたが書くの? 心配だなぁ……」
炭を取られそう。急いで書いた。平気なのになんで嫌そうな顔するんだろ。
「もしかしてあたいから先生取ろうとしてる!? やんないよ」
「要らないわ」
『さいせん箱に入れるとなれるわよ』
獣道で会った狐に聞くと、
「三途の河の計算式はどうかしら。貴女では分からないかな」
などとくやしいことを言った。
「ゲテモノのくせに生意気よ、かかってきなさいよ」
「正しくはけだものね、正しくないけど。ではまず河の定義から――」
数字がいっぱいでわからないので途中で全力で力を出して逃げた。もっとちゃんと教えなさい、ごちゃごちゃでぐちゃぐちゃよ!
何教わったかほとんど忘れた。
『さいせん箱に入れるとゲテモノになれるわよ。あなたでは正しくない』
紅い家の番人は、
「忍耐と鍛錬に勝る宝はありません。どんな辛い状況でも心で乗り切れます」
よくわからないけどとても熱いことを教えてくれた気がする。
「うん、どうもありがと。あのさ、何でそんな格好でいるの? バカみたいだよ」
あたいがそう教えてあげると、番人は涙をわんさか落とした。スカートをちょびっとまくったポーズで、門に縛りつけられている。
「中身見えるよ。見せてるの?」
「やっぱり乗り切れません咲夜さんもうこれ解いてー、バカにバカって言われたー」
「無礼おくせんまんよ!」
むかっとしたので凍らせて出て行ってやった。いい気味。
『さいせん箱に入れるとゲテモノになれるわよ。あなたでは正しくない咲夜さん。ニンジンと短気に勝る力はない』
その後もいっぱいいっぱい教えることを聞いた。気がついたら空が暗かった。次の家で終わりにするつもり。
竹やぶの中の小屋。へんてこりんな帽子の人が、へんてこりんなリボンの人に抱きついて泣いていた。大変な泣き声。
「私はどうしたら良いと思う、妹紅。やはりあの妖精の言葉になど従うべきではなかった。場の勢いでついやってしまった」
「深呼吸。慌てない。明日になれば忘れてるって」
リボンの人が帽子の人の頭を撫でる。優しい感じ。
「でも、万一、万が一にもあれが覚えていてやってきたら! 可愛い教え子が冷凍保存される様は見たくない」
「よしよし、私がいるから。明日は教室見張ってるわ。凍ったら溶かす」
じゃましたらいけないかな。ううん、何だか暑いし冷ましてあげよう。
「こんばんは」
あたいを見ると、へんてこりんな帽子の人はひっ、とかぎゃっ、とかへんてこりんな声をあげた。何かしたっけ。
「ねえ、あたい教えることを探してるの。何か教えてよ」
震えるへんてこな人じゃなくて、リボンの人が答えた。
「何でもいい?」
頷いたら、明日は晴れると教えてくれた。わかりやすかった。
「明日晴れるなら、またガマと決闘しようかな。またあたいの全勝に決まってる」
「そうするといいわ」
そうと決まったら早く帰らなきゃ。紙と炭を放り出して、あたいは急いで湖へ飛んだ。
「行ったよ」
「あ、ありがとう妹紅、生徒が救われた」
慧音の濡れた頬を大事そうに拭うと、妹紅はチルノの紙を拾い上げた。目を走らせ、首を傾げ、慧音に差し出した。
「あれは何を教えるつもりだった?」
『さいせん箱に入れるとゲテモノになれるわよ。あなたでは正しくない咲夜さん。ニンジンと短気に勝る力はない。珍しい機械があ~う~。山の神様一番えらいんです←チルノはもっとえらい! うさぎ鍋はとり鍋と違ってやばんだから愛がこもってるんだぜ』
それはともかく、味は知らん。一度は食ってみたいものです。
妹紅かっこいいなあ
しかし、下ごしらえを確りしてからならかなり美味しいですよ(兎の年にもよる)