Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

東風谷さんのデイリーライフ

2007/10/25 21:49:54
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守矢神社の朝の食卓は割と平穏である。

山中にあるため妖怪以外の訪れる頻度が基本的に低い事、裏を返せば、
また人里での知名度がさほどに高くない事が理由のひとつとして挙げられるだろうが、
とりあえず、いま一方の神社のように朝食をたかりに魔法使いが来たら吸血鬼と巫女がひとつ布団ですやすや眠っていて、
あまつさえ何かを拭いたのではないかと察せられるような懐紙がそこら中に放置されて居たりとか、
ましてや呑んだくれの鬼がそこに朝帰りして来た挙句吸血鬼の妹と天狗とその他色々とがいっぺんに押し寄せ、
フレッシュモーニングがカオティックモーニングになったりはしないのである。

ただ、その後に『今の所は』と付けておいたほうが良いかも知れないと、
当の守矢神社のハフリであるところの東風谷早苗は思っている。

ともあれ、最近の守矢神社の本格的な朝は、通常3人が卓を囲むあたりから始まるのが常だった。
円いちゃぶ台のため上座下座の区別がいまいち曖昧なのだが、だいたい縁側よりに神奈子が座り、
その神奈子を右手に見る形で120度ほどずれつつ、何故か『常在戦場』などと
達筆でしたためられた掛け軸を斜め後ろに諏訪子が、さらに120度、
つまり神奈子を左に、諏訪子を右に見る形で早苗が落ち着くのが、
諏訪子が巫女および魔法使いと弾幕をやらかして後のいつもの形である。

つまり早苗がナメクジね、とこの形が落ち着き始めた頃に諏訪子が言った。
3すくみのことを言ったつもりなのだろうが、早苗にそのつもりはあまりない。

とはいうものの、神社の表向きの祭られ神たる神奈子は例の騒動の後結構な頻度で幻想郷各地の宴に顔を出しているため、
朝にはまだ帰っていないケースもままあったりするから、朝卓につくのが早苗と諏訪子の2人だったり、
また多くの場合早苗も連れ出された挙句呑み潰されて諏訪子1人きりだったり、
酔い潰された早苗を放置して帰ってきた神奈子と諏訪子の2人だったりもするので、パターンは意外と多い。

3すくみなどという割に神奈子と諏訪子は仲が良いし、大体にして弄られるのはいつも早苗だ。

そして、秋も終りに差し掛かってめっきり冷えるようになってきた今朝はと言うと、これはこれで早苗のメモリーには無いパターンだった。

というのも、卓を挟んで早苗の正面に諏訪子が座り、ぽりぽりとやけに時間をかけて沢庵をかじっている。
しかも普段は諏訪子の左に見えている『常在戦場』が、諏訪子の右に見え、字面も『全力全開』に変わっていた。よくわからないが。

比較的早い帰りだったためそのまま卓についた神奈子が左に居るが、彼我の距離は普段より30度ほども近かった。

そんなわけで、今現在早苗の右90度ほどに位置している誰かが居ると言う事になるが。


「あむあむあむあむあむあむあむあむ」
 ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり

「…………」

「あむあむあむあむあむあむあむあむ」
 ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり

「…………」


その誰かは、朝餉に並んだ米、味噌汁、焼いた山女の順に箸をつける合間合間に、
卓の中央に置かれた漬物満載の皿をつついている。主に緑色したのを。


「…………」

「あむあむあむあむあむあむあむあむん?」
 ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり?


あまりにじっと見ていたからか、彼女は漬物ばかりでぷくりと膨らんだ頬の動きを一旦止め、
内容物を一息にごきゅりと嚥下してから、問うた。


「何?」

「いえ、その、よく飽きませんね」

「そりゃ河童だもん」

「はあ……やっぱりそうですか?」

「そうそう。やめられない止まらないってね」


それは何か違うと言いたかったのだが、果たして何が違うのか早苗も良く分からなかった。

釈然としないまま自作の味噌汁をすすりつつ視線を転じると、諏訪子の背景の掛け軸が『一閃必中』になっていた。
普段あまり注意して見た事がなかったので奇妙に思いはしたが、
きっとあれこれネタの変わる電光掲示板みたいなものだろうと、早苗はやや強引に己を納得させる。

2メートルほど手前の諏訪子はと言えば、既に米も味噌汁も山女も食い尽くしており、
おかわりとも言わずに、何が楽しいのか沢庵を1ミリ刻みでかじっている。

左手90度前方の神奈子は神奈子で、早苗が気まぐれに1センチ角に切ってみたミソスープの豆腐を、
ぷるぷると手を震わせながら一つずつサルベージしていた。
しかも山女の乗っていた平皿にずらりと並べている。

さっき見た時には、幾つか並べたその豆腐の列を箸で一辺にとって食べていたから、
神奈子にせよ諏訪子にせよ、食い物を粗末にしているとは言い難く、何とも言えない、
言えないが、それらをつくった早苗としては毎朝の事ながらいまひとつ釈然としないものがある。


「あむあむあむあむあむあむあむあむ」
 ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり


とするとやや偏食気味とはいえ、客にして河童と名乗ったところのいわゆる河城にとりの食いっぷりは、
普段とさして変わらぬメニューだとはいえ早苗には一服の清涼剤に等しい。

漬物の山から胡瓜ばかりを取っていくのは、この際些細な問題だろう。

そも、今朝の食卓に並ぶ胡瓜は山女ともども先日にとり自身が献納と称し持ってきたものだが、
比較的大きめの皿の大部分を占めていた胡瓜は、しかしそのほんの先鋒に過ぎない。

早苗の脳裏を食料庫で文字通り山積みになって出番を待つ瓜どもの大連隊の有様がよぎり、
背筋を朝のものだけではない冷気が撫でていった、ような気がした。

大連隊のほんの片鱗をつまみあげながら、早苗は聞いた。


「それにしても」

「あむん?」

「あんなにたくさんのきゅうり、一体どうしたんですか?
 もうそんな季節でもないですし」

「あー、それはね」


ぽりぽりごきゅりと何枚かの胡瓜を再び飲み込んでから、にとりが続ける。


「いま山で実験中の新作なのよ」


びし、と今しもその新作を唇の間に運び入れようとしていた早苗の箸が止まった。
ゆっくり、非常にゆっくりと右手を動かし、視線の焦点に問題の胡瓜を持ってくる。

薄緑が目に優しい、一見したところ普通の胡瓜である。

別にゴーヤや南瓜ではないし、ましてやスイカでもメロンでもなく、不意打ち気味にハミウリなどということもない。
瓜度としてはごく普通であろう胡瓜である。

というか、早苗も既に何枚か食ってしまっているし、神奈子と諏訪子は無論、にとりに至っては数十枚かそれ以上、
つまり本数にすれば相当な量を食っているわけで、別段恐々としなければならない理由もないはずだった。

だがしかし、この場において唯一の人間である所の早苗は不安を拭いきれない。
そもそも胃腸の強度が違うだろうし、現人神と言ったって幻想郷では多少力がある程度の、ただの人だ。
神どころか妖怪との呑みくらべにだって二の足三の足を踏む早苗にはクリティカルな一品の可能性もあった。

目に見えて冷や汗をたらす早苗に、にとりが慌てて付け加える。


「いやいや違う違う。
 胡瓜じゃなくって、栽培方法が新作なの」

「あ、そ……そうでしたか」

「そうそう。
 昔なじみが新しく開発した水耕栽培で作ってる胡瓜でね、作りすぎた分のおすそ分けなのよ」


でもさすがに多すぎよねーなどと屈託なく笑うにとりに安心し、早苗はようやく胡瓜を口に運んだ。
やや固めのような気もするが、漬かり具合も程よい感じで上手くできていると思った。ご飯にもあう。

胡瓜が果たして水耕栽培出来るモノだったかどうかについて確たる知識は早苗にはないが、
そこは多分山の妖怪の技術力の賜物だろうと思う事にした。


「でもまー、こんなに一杯出来るのは多分今回だけだから、安心してよ」

「そうですね、毎回こんなに出来てたんじゃさすがに多すぎますし」

「いや、じゃなくて面積的にね」

「……は?」

「ちょっとあってね、栽培面積が減らされちゃったんだよね。あのコ」


背筋になんとなくうすら寒いモノを、早苗は感じた。
しかし、特に問題なさそうだし、味も良かったしで、再び胡瓜を口に運ぶ。


「えーと……ああ、アレですか。多すぎるから別の作物に転換しなさいっていう」

「いやいや、そうでもないのよ。
 なんつーか、ちょっとした騒動があってね」

「はあ……騒動、ですか?」

「そう、突然変異でね。
 ツタ振り回しながら電撃を撒き散らす迷惑なオバケ胡瓜が出来ちゃって、
 で、それの退治でみんながおおわらわになったんで、罰としてしばらく減らされちゃったんだよ」


ぽりぽ、と胡瓜をかじる早苗の口が止まった。

それは胡瓜じゃなくて瓜は瓜でもヘチマなんじゃないかと意識のどこかで叫ぶ声が聞こえたが、
胡瓜をくわえたまま叫ぶ事だけはなんとか自制した。

ふと見ると、にとりとのやりとりを眺めていたらしい諏訪子と目が合った。楽しそうだった。とても。
さらにその後方では掛け軸の文字が『鋼鉄王子』に変わっていた。何か違うと叫びたかったがままならない。

ままならなかったので強めの風を掛け軸にぶつけたが小揺るぎもしなかった。悔しすぎる。


「でね、聞いたところによると、杖持ったおじいさんと青い鎧着た光の弾幕を使うあんちゃんが乱入して?
 それでそのオバケヘチマを改心させてどっかへ行っちゃったんだって言うんだけど、
 その爺さんが凄い工具さばきで、ひょっとしたらどこかの仙人だったんじゃないかって。
 ……ってあれ? どしたの、涙目だよ」

「いえ、何でもありませんっ」


やっぱヘチマかよとか、それ仙人じゃなくてドクター何とかじゃないかとか、しかも某岩本版かよとか思いながら、
どうにか口の中の胡瓜を飲み下して言ったが既に味の分かるような状態ではない。

精神的な後味の悪さにちょっぴり泣き出しそうになっている早苗をこともなげに見やり、
どうやらさすがに沢庵を食うのに飽きたらしい諏訪子が自身たっぷりにのたまった。


「ま、ヘチマじゃそこらへんが関の山ね。
 私なら酸性雨でも降らすところよ。ねえ早苗」

「はあ」

「おや、それじゃ困るね。
 わたしが諏訪子の先輩ってことになってしまうよ、ねえ?」

「いえ、私その世代じゃありませんからよくわかりませんが」


どうやらこちらも豆腐を食い尽くしたらしい神奈子までが同意を求めてくるが、
分かりたくもない、とは流石に神二柱を前に口には出来ないような気がした。


「あー、でもそうすると早苗が一番先輩になるわね。風使うし」

「お、それを忘れてたねぇ。
 どうだい、確か持って来たきり電気がなくて動いてない扇風機があったけど、やってみない?
 こう、体の前に張り付けて」

「何をですか。
 それに私は別にそこまで強敵認定されてませんしアイテム2号も持ってませんから。
 だいたい風使いなら射命丸さんがいるじゃないですか」

「だめだめ、天狗はちゃんと別にいるからね、鼻の長いのが」


駄目だこの神ども。
早苗の脳裏に常ならぬ造反根性がぶわりと湧き出てきたが、
「シャメイマルでござる!」とか言いながら飛び回ってる文を想像することでかろうじて耐えた。
というか、あっちの方がぴったりじゃないとか思う。いやホントに。


「何回やっても何回やってもあややーがたおせーないよー♪」

「ってちょっと待って下さい!
 ここは話の流れ的に私の名前が来るとこじゃないんですか!?」


ふとみょんな歌が聞こえると思ったらにとりだった。
きゅうりをポリポリしながらご満悦の様子だが、その歌が幻想入りするにはまだ早かろうに。


「まあ、残機潰し的な意味合いから言うと射命丸かしらね」

「意外と早苗って残機潰せないしねぇ、私の負担が増えちゃって増えちゃって」

「うあああああんっ!!?」


自ら奉ずる神どもにまでこの言われよう、わりと報われないハフリである。







朝食後、神二柱と河童の仕打ちにぶちぶちと不平を漏らしながら食器を洗っていると、不意に背中に冷気を感じた。
何事かと思って振り返ると白と青っぽい服の妙齢の女性がニコニコと自分を指差して立っている。


「どちらさまですか?」と早苗が丁重に聞くと、その女性は突然北極圏の先住民のような防寒着を取り出してぴっちり着込むと、
顔の周りのファーを冷気の余波で雪化粧させ、実に堂々たる態度で言った。









「大先輩よ」








30秒ほど時を止められてから、早苗はおもむろに以前河童の誰かが持ってきたスタンガンみたいなもので電撃をぶち込んで昏倒させると、
手ごろなサイズの樽に突っ込んでからボンド詰めにして湖に放り込んだ。

帰り道、一緒に幻想郷に落ち着いた秋の姉妹神と会った。

「冬っぽい人を見かけなかったか」と聞かれたので「二ヶ月位したら20周年記念に誰かが釣り上げますよ」と言っておいた。

二柱ふたりには意味が通らなかった様子ではあったものの、
どことなく納得した感じで引き上げていったので早苗もしばらくの間すっかりこのことを忘れており、
次に思い出すのは年の瀬、遅れてきた冬妖怪に「わはははははははリンガリングスラッシャー!!」
と弾幕ごっこを挑まれた時のことである。




どうしようもなくぐちゃぐちゃなまま、続かない
ほぼすべての方に、初めまして。

以前創想話本体に何かを投稿したのは1年半ほども前のことになります。
性懲りもなくアレの続きっぽいものをなんとなく作ってはいたのですが、
気付くと容量が150kに達したのに終わりが見えないので気分転換に風神録の皆さんをなんとなくいじくっていたらこんなことに。

脳内の岩男メモリー頼りにネタを引きずり回したので、どこもかしこもネタにまみれて変な事になりました。
コメディを書くには自分は修行が足りない、そんな気もしますが。

既出ネタ多数と予想。被ってたらエクスパンデッドされてきます。

でも早苗をいじくりたくて書いたから後悔はしていない。きっと。


もうすぐ20周年は本当の話。
某の中将
コメント



1.脇役削除
いや~なんか懐かしい感じのボスがイッパイでうれしいね
ヘチマ、扇風機、アイスマンとか、他にもいろいろ出てきそうな
幻想郷ですね 楽しかったです あと河童は岩男の3で出てきましたよ
2.名無し妖怪削除
ワ…ワイ○ーヘチマールじゃないか!!
3.名前が無い程度の能力削除
岩本版X2じゃないか!