前門の虎、後門の狼。
今現在の状況にぴったりと当て嵌まる言葉だろう。
私の前には閻魔の四季映姫・ヤマザナドゥ、後ろには蟲の妖怪・リグル・ナイトバグ。
私は何でこの面子といるのだろうか。心当たりがあれば良いのだが、それすらも覚えが無い。そもそも面識すら無い。二人ともこれが初対面だったりする。
名前と特徴は麓の巫女――――霊夢から一通り教えて貰っていたので直ぐに一致した。それにしても分かりやすい特徴の方々だ。ロリ閻魔にショタ妖怪。さて、そのような面子が何故に私のところへとやって来たのかが問題だ。
先ほどの言葉を訂正。前門のロリ、後門のショタが正しいか。
飛んで逃げようかと思ったけど、忌わしくもおっそろしい黒光りのアレが大量に私を取り囲んでいて逃げれない。足元にいるだけなら未だしも、私の周りをぶんぶんと嫌な羽音を立てて飛び回っている。Gの牢獄(ジープリズン)と名付けようか。とまあ余裕綽々の様で実は内心はいっぱいいっぱい。先程から寒気が引かない。ぶっちゃけ泣く寸前。気を失って逃げる手もある。だけど倒れた先はヤツが隙間なく敷き詰められているので自分の体重でぷちぷちとアレを潰してしまうのは明白。ってか何よあれ? 30㎝近くもあるじゃないの。
幻想郷は古代の生物も生息しているのかと勘ぐってしまう。 流石にこれはデスラー総統もびっくりして青ざめるんじゃないか?
「今日は白黒付けに来ました」
「私は別に興味ないんだけどねー。閻魔様がどうしてもって言うから付いてきたんだ」
興味ないなら来なくていいじゃない。どうしてもって言うのは嘘だろコンチクショウ!!
その手に持っているのは何だ? エビアンって書かれたペットボトルじゃないのよ。ええい、所詮は蟲か。ミネラルウォーターに釣られよって。こうなることが分かっていればロッコのおいしい水でこっちに引き込んでおいたのに。
などと悔やんでももう遅い。この状況を打破する為には奇跡でも起こさない限り無理だ。
そもそも大量に沸いたヤツを一瞬にして殺す奇跡などありはしない。
「まずはこれを見て貰いましょう」
閻魔様が手に持った3枚の写真を私に渡す。写真をざっと見渡し、霊夢に教えてもらった特徴や名前と写真の人物とを一致させていく。
左から風見幽香・上白沢慧音・大妖精。フラワーマスターにハクタクに名も無き妖精……?
「気がつきませんか?」
閻魔様に言われてようやく気がついた。
「皆、閻魔様やリグルも含めて髪の毛が緑色ですね」
「そう、それは貴女にも当て嵌まる事です」
確かに私も髪の毛は緑色なんだけど。それだけじゃない。
態々此処まで来る理由が分からない。
「さて、話を戻しましょう。何故私が此処に来たのか」
「白黒付けに来ましたと仰られていましたが……」
「そうです!!」
びしっと悔悟の棒を此方に指す閻魔様。棒には『一球人魂』と書かれて……、書かれて?
「あの……、閻魔様」
「どうしたのですか?」
「その悔悟の棒に書かれているのは……」
「ああ、これですか?」
「はい」
良くぞ気がつきましたと言わんばかりに頷き、嬉しそうに語りだす閻魔様。
「これはですね、かの有名なメジャーリーガーに書いて頂いた有難いものなのですよ」
「へ、へぇ~。それは凄いですね……。
それで、そのお方の名前は?」
「マイク・グリーンウェルです」
オーウ、緑つながりでグリーンウェルですか閻魔様。有名なことは有名だけど違う意味で有名ですよね。
おかげで大金積んで獲得した阪神は涙目。甲子園の電光掲示板も彼の為に態々変えたのに使われることは殆ど無かったですよね。
いやいや閻魔様。違うって。そう嬉しそうに悔悟の棒をフルスイングするんじゃねぇ。ピシュウッ!! って空気を切り裂く音が此方まで聞こえてますがな。何で閻魔様はこんなにスイングスピードが速いのか。
それ以上に気になるのが『一球人魂』。間違ってますやん。何で気がつかないのかなぁ。
「あはははは……。え、閻魔様、私に何か用があって来られたのでは?」
「え? ああ、そうでしたね。すみません、私としたことが」
「いえ、それで何を白黒付けに来られたのでしょうか?
私には心当たりが全く無いのでさっぱりなのですが」
「何、単純な事ですよ。だけどとても重要なことです」
単純だが重要。何のこっちゃ。
「そう、貴女は白黒つけなければならない事がある。
それは――――――」
「それは?」
閻魔様は閉じていた瞼をかっと見開き、悔悟の棒を此方に突きつける。
「貴女は貧乳か巨乳であるかという事ッ!!」
ズコーーーーッ!! っと盛大にこけそうになるが我慢する。何せ周りにはヤツがいるのだ。
それよりも、そんな下らない理由で態々此方まで来たのか。閻魔様も随分と暇で仰る。
別に私に胸があろうと無かろうとどっちでも良いじゃないか。
しかも何? 何で貧と巨だけなんだ? 普通も選択肢に入れろよコノヤロウ。
「ええっと……、ですねぇ」
どうにも歯切れの悪い返事しか出来ない。そもそも私はこのような話題は得意ではない。得意なら得意で何かと問題ありだと思うのだが。
それよりも、胸……。あんまり思い出したくないなぁ。
発育測定の時は測るのが嫌で奇跡の力を使って仮病し、一人で測って担任に渡していたのを思い出した。
結局の所ここ3・4年は測っていないので正確な数値は私も知らない。
「私は、ですねぇ……」
「正直に答えなさい。閻魔を前にして嘘をつくなど言語道断。嘘をついた時点で即地獄行きです」
「あー、いやその……。何と言うか……」
「どうしました? 答えられないのですか?」
ええい、正直に話そう。
「最近測った覚えが無いもので、よく知らないのですよ」
「ならば今から測りましょう!!」
即答かよ。
「今から!? うそぉ……」
「何も恥ずかしがることはありません。女同士なのですから」
待て待て待て待て。その発言は誤解されちゃいますって、閻魔様。
「ちょ、ちょっと待ってください!!
自分で測りますから!!」
「駄目です、公平を規す為に自分ではなく他人に測って貰うのが一番なのです」
「だ、だからと言って……!!」
ホント勘弁してください。もう逃げ出したい。でも逃げれない。
「おやまあ、何やら困っているようだねぇ。早苗」
「か、神奈子様!!」
「さっきから何をしているのかと思って遠巻きに見ていたが、流石にこれはねぇ。
閻魔様に測られるのが嫌なら私が測ってあげようじゃないか。
これなら早苗も閻魔様、双方とも納得いくだろう?」
「む、仕方が無いですね」
「うう……、私に拒否権は……」
「「ありません」」
息ピッタリにハモる神奈子様と閻魔様。
私、東風谷早苗に逃げ場なし。
「分かりました……。でも恥ずかしいので家の中で測ります。閻魔様もそれでよろしいですか?」
「嘘をつかないと誓うのなら何処で測ろうと構いません」
「うぇぇ……。やっぱり恥ずかしい……」
「早苗、諦めなさい」
「加奈子様ぁ……」
リグルにヤツの群れを私の周りから取り除いてもらい、胸の大きさを測るために家に入る。
神奈子様なら私の事を昔から知っているし幾分か羞恥心も薄れるだろうが、矢張り恥ずかしいものは恥ずかしい。
測定は数分で終わったがさらしを巻き直すのと服を着るのに時間がかかってしまい、思ってよりも遅くなってしまった。
「測り終わったわ。
回りくどい事は一切なし。結果だけを言うわよ」
「ええ、それで構いません。さ、どうぞ」
「早苗はね――――――――」
ほんでよく見たら一球人魂(いっきゅうひとだま)やないですか!!w
そして閻魔様とりぐるんに挟まれた早苗の状況を、羨ましいと感じてしまった私はもう末期かも。
早苗の精神が持ったことこそ奇跡
だが私は彼女をロリだと言い張ってみる。