それを自覚する切欠はパチュリーの一言だった。
「レミィ」
顔を逸らさず視線だけをレミリアへと向ける。
そこにはかっこよくカリスマ溢れるポーズをビシッと決め込み、不気味に全身を光らせているレミリアの姿があった。これは半年前、咲夜に教えてもらったポーズで何でもカリスマに満ち溢れるようになる嘘臭さ全快のポーズである。問題は習得に約半年もの時間がかかる為、面倒くさがりのレミリアがさくっと手っ取り早く教えて貰えないと我侭言った所―――――
何故か弾幕やスペルが尻から出るようになってしまい、人間不信ならぬ従者不信に陥ってしまった。
尻からである。
もう一度言おう。尻からである。
紅魔館の変態吸血鬼此処に極まる。対峙する相手としては色んな意味で威圧感満載であろう。何せ此方に尻を突き出してスペルを放ってくるのだ。緊張感など微塵も無い上、気のふれた痛い子にしか見えない摩訶不思議。
レミリアも自身の持つスペルカードを神槍『お尻・ザ・グングニル』だとか紅符『不尻城レッド』に改名しようと本気で考えていた位に思いつめていたらしい。開き直りとも言うが。
結局それから半年間みっちりと修行しなおして尻から弾幕やスペル発動の情けなくも最悪の事態から抜け出せた訳なのだ。
話を戻そう。今は尻の話ではない。
「レミィ?」
その姿を維持するので精一杯なのかパチュリーが呼んでも聞こえていない様子。その光景は異様かつ不気味の一言に尽きる。一言じゃない? 知らんがな。
「ねえレミィ」
「……肩の後ろの2本のゴボウの真ん中の―――――」
「れ・み・ぃ」
「ロココ調の……、って何よパチェ」
ようやく気がついたのか、かっこよくカリスマ溢れるポーズを解きパチュリーが座っている隣の席へと腰を下ろす。
レミリアが腰を掛けたのを見計らってか、栞を挟み本を閉じる。
「ずっと前から思っていたことなんだけれども」
「何よ?」
「貴女ってセンス無いわね」
「センス?」
「そう、センス。詳しく言うとネーミングセンス」
空気が凍った。序にレミリアの時も止まった。
「え? 嘘? 私ってセンス無いの?」
「……自覚してなかったのね。
レミィ。貴女、一年ほど前に咲夜に名前を付けたわよね?」
「ええ」
「その時の咲夜の表情を見た? 明らかに引いていたわ。ドン引きよ」
「だって、私の従者になるんだからカリスマ溢れる名前じゃないと駄目でしょ?
ちゃんと相応しい名前を考えたじゃない」
洗濯板も真っ青の大平原と呼ぶに相応しいぺたんこな胸を突き出し、えへんと威張るレミリア。
威張れる事じゃないだろう。
「だからって、メルセデス咲夜だとかチョコボール咲夜、かっくらきん咲夜にボルテス咲夜は流石に酷いわ。
もっとましな名前が思いつかなかったの?」
「カッコいいじゃない。語呂もいいじゃない。ぶーぶー」
口を尖らせ不満を漏らすレミリア。
アンタそんなだからカリスマが無いとか言われるんだよ。
「拗ねない膨れない。頬を突くわよ?」
「私の頬は指をも砕くわよ? 貧弱が代名詞の紫もやしに出来るかしら?」
「レミィ、もっぺん尻からスペル発動する身体になってみる?」
「パチェ、愛しているわ」
「私はそっち方面にはてんで興味ないから丁重に断らせていただくわ。それに今はその話じゃないから。
で、咲夜だけじゃないでしょ? 美鈴にも同じような名前を付けようとしていたじゃないの」
「CBR1100ダブル美鈴とかGSX1300美鈴RとかZX美鈴Rの事?
いいじゃないの、速そうで」
「長い、分かり辛い、第一妖怪に付ける名前じゃない。
それとホンダ・カワサキ・スズキが入っていてヤマハが入って無いのはおかしい」
そういう問題ではないだろう。
「スペルカードのネーミングにしてもそう。不夜城レッドに始まり全世界ナイトメアまで。
もう少し考えた方が良くない?」
厳しいことを付くパチュリーだがこれも友人のレミリアの事を思っての発言。
確かにセンスは無いに等しいだろう。下から数えればぶっちぎりの筈だ。
「おっかしいなぁ……。昔はセンスの塊だとかステータスにセンス○があるから育てやすいとか言われていたのに……」
腕を組み、うーんと唸るレミリア。
レミリアの言う昔がどれ程昔なのかはパチュリーには見当が付かない。と、言う事は二人が出会う以前の事なのではないか? 少なくともパチュリーがレミリアと出会った時には他者と比べて3桁は位の違うネーミングセンスを持ち合せていたのだ。対抗できるのは永遠亭の変態薬師だけだろう。
「そうね……。ねえレミィ、もし私に新しい愛称をつけるとしたら、で何か考えてみないかしら?」
態々地雷原に足を踏み入れる様な真似をしなくても良かろうに。
「うーん……。ヘタレもやしのへm「小悪魔、尻からスペル発動するようになる呪術をかける本は何処に閉まったかしら?」 最後まで言わせなさいよ!!」
「それだけは駄目よ。忌まわしき過去の記憶がそれだけは駄目だと訴えているのよ」
「何の話よ?」
「こっちの話。レミィは知らなくても良いわ。
それじゃあね……。小悪魔に名前を付けるとしたら? 考えてみて」
先ほどまで忙しなく動き回っていた小悪魔が石膏で固められたかのように止まった。ギギギギと音を立てながら首を回しゆっくりとこちらを見つめる。既に彼女は半泣きだ。
両人差し指をなめ、こめかみに添えて指をくりくりと回すレミリア。ポクポクポクとどこかで聞いた擬音だけが図書館を支配する。数分その音が鳴り続いたかと思うと頭に電球が舞い降りチーンと一つ音が鳴った。
「テッド・コアクマー、暴走天使(ミッドナイト)こぁ。んー後はねぇ……」
「そ、そこまでで良いわよレミィ」
小悪魔は泣いた。只管に泣いた。悪魔らしくないと言われていても悪魔であることには変わりないのだ。
なのに天使。暴走が付いているとはいえ天使。せめて堕天使にしてくれと言いたかったが、咽て言えなかった。
「やっぱり駄目なのかしら?」
「小悪魔の反応を見なさい。あれが喜んでいるように見えて?」
「……駄目かぁ」
「ま、自覚出来るようになっただけでも良しとしましょう。
これからはセンスを磨く特訓よ。サボったら一生尻からスペル生活だと思いなさい」
「嫌でござる!! それだけは嫌でござるよ!!」
結局、レミリアのセンスが失われた原因は不明のままである。
「ねーねーめーりん」
「フラン様、どうかしましたか?」
「きゅっとしてぎゅーっとしてどかーんしてもいい?」
「駄目です。私が壊れちゃうじゃないですか」
「だいじょーぶ。めーりんの頭についてる弾幕×って書かれた赤い看板みたいな物を壊すだけー」
「赤い看板? それは何でしょうか?」
「しらなーい。でもねー昔お姉さまにも同じようなものがあったんだよー。青くってセンス○って書かれてた!!」
「……もしかしてそれが原因で」
「めーりんどーしたの?」
「いえ、何でもないですよ……」
でも『不夜城レッド』や『全世界ナイトメア』、
おそらくレミリアがつけたであろう『殺人ドール』とかのネーミングセンスは好きだぜ!
※)美鈴PHANTASMフラグが立ちました。
つーか美鈴砕いてもらえwww