その小さな小さな闖入者が庭にいたのを見つけたとき、森にすむ魔法使いの霧雨魔理沙は、昼食後のまったりした時間の中、午後は何をしようかと楽しい思索にふけっている最中だった。
「やあ、お前さんかい、こんな散らかり放題の部屋になんか用かい?」
魔理沙は別に追い払うでもなく、けだるそうに窓の桟に頬杖をつきながら、しかし穏やかな口調で聞いた。それを聞いた闖入者は小走りで家の窓に近づくと、窓の桟に飛び乗り。魔理沙に語りかけた。
正式な客人として認められた闖入者は、自分たち一族は「神」によって作られたと主張した。そして、自分は何のために生まれたのかと考えているうちに限界を感じ、「神」以外の存在によって作られた者たちの考えを聞こうと思い、さまよっているうちにここまで来たと言う。
「ふむん、お前たちの一族は、『神さま』が自分らをなんのために作ったのか、何を自分たちに求めているのか。それを知ろうと議論してきたわけだな。」
自分たちが仲間同士で何を考え、どんな行動をとっても、それは『神』の作った筋書きでしかないんじゃないか。ひょっとしたら、次に自分の脳裏に宿る思考すらも、『神』に規定されきっているのではないかと考え、また、自分たちが『神』のことを探っていると知られたら、『神』から天罰を下されるかもしれないと思うようになり。みんな『神』について考える事を諦め、他の事に関しても無気力になってしまったと言う。
「そうか、それで、その『神さま』の被造物でない者を介入させれば、何かつかめるかもしれないと思ったんだな、小さい割に聡明だぜ。」
その小さな客人は熱心にこくこくとうなずく。
「私もな、自分がなんでここに生まれたのか、なんていう問いかけに答えが出せるわけじゃないぜ。でも、その『神さま』って奴も、意外と全知全能じゃなく、お前らの思考や行動を100パーセント支配するところまではできてないかもしれないぞ。」
魔理沙の言葉に、その客人は驚いた表情を見せる。顔には複雑な表情を見せる機能が無いようだったが、魔理沙にはそれが分かった。
「あるいは、全知全能だが、あえてお前たちがプログラムなんかじゃなく、独自に考えて動ける余地を残したのかもしれない。どっちにせよ、本当のことは私にもわからない、ただ、お前たちだって、『神さま』のことを100パーセント理解できないまでも、少しでもそれを知りたいんだろう。その試み、無駄じゃないと思う。」
魔理沙は、その客人の姿を見たときからすでに、『神』がどのような意図でそれら一族を創造したのか見当がついていた。だからこう言った。『こうも考えられるぜ』と前置きして。
「きっと『神さま』は一人ぼっちで寂しかったんだ。だから友達が欲しかった。表向き友達のように振舞うだけの被造物なら簡単に作れただろうが。そうじゃなく、きちんとした意志や感情を持ち、自分のことを知ってくれたうえで好いてくれる奴が必要だったんだ。」
客人が仮説を飲み込むのを待って、魔理沙は続けた。
「だから、自分のことを知られたくないどころか、むしろ『早く私を理解して、友達になってよ。』と思ってるんじゃないか? お前ら『神さま』のこと、好きか?」
客人はもちろん、と胸をはって答えた。
「なら少しでも理解できるようになって、『神様』を安心させてあげるといいぜ。」
客人はぜひ皆にその仮説を伝えると言い、深くお辞儀をして帰っていった。
「なんつーか、あいつ、『人間そっくりの自動人形を造るのが目標だ。』といいつつ、もう造れてんじゃん。」
魔理沙はそういうと、午後はヴワル魔法図書館で過ごそうと思い立った。
「まっ、幸せの青い鳥は実は身近にいた。とも言うしね。」
箒にまたがり、図書館へ向かう。少しくすんだ晩秋の青空だった。