「スズランの精霊さん、私に力を貸して! コンパロコンパロ、大きくな~あれっ!」
彼女は若干いつもより声のトーンを上げ、そう言いながらくるんと回って決めました。先ほど師匠が手渡した謎のステッキから意味もなく星型の何かが撒き散らされます。弾幕ではないようですが。
角度から表情から計算されつくしたポーズに加えてウインクするその姿は正直愛らしいものだと思いますが、なんとなく背筋が寒くなるのはなぜでしょうか。
「そ れ よ !」
間違いなくその原因の一つであると思われる師匠が隣で感涙にむせび泣いています。
師匠をスズラン畑に連れてきてからこっち、彼女にすっかり参ってしまった師匠は永遠亭の管理も放り出して毎日通い詰め。
何十年も一緒に生活していて、実はこの手のものが大好きだったという師匠の性癖を見抜けなかったのが敗因でしょうか。
「最近あの犬メイドの気持ちがわかるようになってきたわハァハァ」とか言いながら夜なべして服を縫ってるのを見て涙ぐんでしまった私をどうか責めないでください。
おかげで毎日昼前には起きていた輝夜様も、最近じゃ未の刻も過ぎるころにようやく……あまり変わってないですね。
そして今日もまたなにやら閃いたのか、特訓と称して朝っぱらから彼女、メディスンに飛んだり跳ねたりさせていた師匠ですが、日も西に傾こうという時分になってようやく何かの真理を得たようです。
「う~ん、これ本当に役に立つの?」
首をひねりながらメディスンは言います。その意見にはまったく同意です。しかし師匠は激しくかぶりを振って、
「何を言うの!」
と拳を握りしめました。熱いです。
「かわいらしさは全ての要素に優先して人々の心をとらえるのよ。いい……」
師匠はつかつかとメディスンに歩み寄り、ビシィッ! と鼻先に指を突きつけました。
「アゴヒゲアザラシだったからみんなちやほやしたのであって……もしゾウアザラシだったら即行で射殺されていたに違いないのよ!」
「アザラシって何?」
師匠、的確ではありますが、時事ネタにしては古すぎます。
「あなたの最大の武器は……そのかわいらしさなの!」
首を傾げるメディスンをよそに師匠は一人でヒートアップしていきます。
「そうなの?」
「そうなのよ!」
我が意を得たり。ここぞとばかりに畳み掛ける師匠。
「よって……あなたはそのかわいらしさを極限まで高めることで、矛でもあり同時に盾でもある最強の業(わざ)を手に入れるッ! それはあなたの目標……えーとなんだっけ……あーそうそう、人形解放に大きく近づくことにもなるの!」
「そ……そうなんだ……!」
メディスンの目に、徐々に目に光が点っていきます。
「ありがとう永琳! てっきり永琳が自分の趣味を私に押し付けようとしているだけなのかとかあの呪文みたいなのには意味があるのかとかそもそもどこも大きくなってないじゃんとか思っていたけど、私間違ってた! 頑張ってこの技を私のものにしてみせるわ!」
「メディスンちゃぁーん!」
スズラン畑の中でひっしと抱き合う二人を夕日が赤く照らします。その場面だけ見れば感動的であると言えなくもありません。
というか、冷や汗の一つも流さない師匠はさすがだなあと思いました。
「というわけであなたは今日から『毒魔法少女ぽいずん★メディ』よ!」
「うん、永琳!」
肩を抱いてあさっての方向を、いや未来を見つめる二人。青春ですね。でも師匠、毒って二回言ってますよそれ。
視線を脇にそらすと、てゐがウサギ達を指揮してなにやら収穫作業にいそしんでいます。
私の記憶では、毒の件についててゐはウサギ達に何も説明してなかったような気がするのですが、聞かれなかったから言わなかったということなんでしょうか。
というかさっきから私はスズラン畑の中で倒れているんですが、どうして誰も気付いてくれないのでしょう?
これも悪行を積んできた報いなのでしょうか。酷いです閻魔様。
「今後の課題は……そう、もっと『きゃるぅん』感を出すことね!」
「よくわかんないけどわかった! よおしスーさん、頑張ろう!」
盛り上がってますね。私のほうはと言うとだんだん視界が白くなってきましたよ。
あの太陽が山陰に消え世界が闇に覆われるとき、私の世界も闇に覆われるのかしら。そもそも私はなぜここにいるのかしら。そして私はこれからどこに行くのかしら。クォ・ヴァディス・ウサギ。あら、私って詩的。
あれ、こんなところにどうしてあなたが? あ、またサボってるのね。怒られるよ。ちっとも幽霊が減らない……え、違う? 早く戻れ? どこへ? そういやこの花畑、川なんてあったっけ?
……願わくば。
純真で素直な彼女が、私と同じ立ち位置にならないよう――
彼女は若干いつもより声のトーンを上げ、そう言いながらくるんと回って決めました。先ほど師匠が手渡した謎のステッキから意味もなく星型の何かが撒き散らされます。弾幕ではないようですが。
角度から表情から計算されつくしたポーズに加えてウインクするその姿は正直愛らしいものだと思いますが、なんとなく背筋が寒くなるのはなぜでしょうか。
「そ れ よ !」
間違いなくその原因の一つであると思われる師匠が隣で感涙にむせび泣いています。
師匠をスズラン畑に連れてきてからこっち、彼女にすっかり参ってしまった師匠は永遠亭の管理も放り出して毎日通い詰め。
何十年も一緒に生活していて、実はこの手のものが大好きだったという師匠の性癖を見抜けなかったのが敗因でしょうか。
「最近あの犬メイドの気持ちがわかるようになってきたわハァハァ」とか言いながら夜なべして服を縫ってるのを見て涙ぐんでしまった私をどうか責めないでください。
おかげで毎日昼前には起きていた輝夜様も、最近じゃ未の刻も過ぎるころにようやく……あまり変わってないですね。
そして今日もまたなにやら閃いたのか、特訓と称して朝っぱらから彼女、メディスンに飛んだり跳ねたりさせていた師匠ですが、日も西に傾こうという時分になってようやく何かの真理を得たようです。
「う~ん、これ本当に役に立つの?」
首をひねりながらメディスンは言います。その意見にはまったく同意です。しかし師匠は激しくかぶりを振って、
「何を言うの!」
と拳を握りしめました。熱いです。
「かわいらしさは全ての要素に優先して人々の心をとらえるのよ。いい……」
師匠はつかつかとメディスンに歩み寄り、ビシィッ! と鼻先に指を突きつけました。
「アゴヒゲアザラシだったからみんなちやほやしたのであって……もしゾウアザラシだったら即行で射殺されていたに違いないのよ!」
「アザラシって何?」
師匠、的確ではありますが、時事ネタにしては古すぎます。
「あなたの最大の武器は……そのかわいらしさなの!」
首を傾げるメディスンをよそに師匠は一人でヒートアップしていきます。
「そうなの?」
「そうなのよ!」
我が意を得たり。ここぞとばかりに畳み掛ける師匠。
「よって……あなたはそのかわいらしさを極限まで高めることで、矛でもあり同時に盾でもある最強の業(わざ)を手に入れるッ! それはあなたの目標……えーとなんだっけ……あーそうそう、人形解放に大きく近づくことにもなるの!」
「そ……そうなんだ……!」
メディスンの目に、徐々に目に光が点っていきます。
「ありがとう永琳! てっきり永琳が自分の趣味を私に押し付けようとしているだけなのかとかあの呪文みたいなのには意味があるのかとかそもそもどこも大きくなってないじゃんとか思っていたけど、私間違ってた! 頑張ってこの技を私のものにしてみせるわ!」
「メディスンちゃぁーん!」
スズラン畑の中でひっしと抱き合う二人を夕日が赤く照らします。その場面だけ見れば感動的であると言えなくもありません。
というか、冷や汗の一つも流さない師匠はさすがだなあと思いました。
「というわけであなたは今日から『毒魔法少女ぽいずん★メディ』よ!」
「うん、永琳!」
肩を抱いてあさっての方向を、いや未来を見つめる二人。青春ですね。でも師匠、毒って二回言ってますよそれ。
視線を脇にそらすと、てゐがウサギ達を指揮してなにやら収穫作業にいそしんでいます。
私の記憶では、毒の件についててゐはウサギ達に何も説明してなかったような気がするのですが、聞かれなかったから言わなかったということなんでしょうか。
というかさっきから私はスズラン畑の中で倒れているんですが、どうして誰も気付いてくれないのでしょう?
これも悪行を積んできた報いなのでしょうか。酷いです閻魔様。
「今後の課題は……そう、もっと『きゃるぅん』感を出すことね!」
「よくわかんないけどわかった! よおしスーさん、頑張ろう!」
盛り上がってますね。私のほうはと言うとだんだん視界が白くなってきましたよ。
あの太陽が山陰に消え世界が闇に覆われるとき、私の世界も闇に覆われるのかしら。そもそも私はなぜここにいるのかしら。そして私はこれからどこに行くのかしら。クォ・ヴァディス・ウサギ。あら、私って詩的。
あれ、こんなところにどうしてあなたが? あ、またサボってるのね。怒られるよ。ちっとも幽霊が減らない……え、違う? 早く戻れ? どこへ? そういやこの花畑、川なんてあったっけ?
……願わくば。
純真で素直な彼女が、私と同じ立ち位置にならないよう――
止めんといて。
永かったなぁ(遠い目)
GJです! 騙されやすそうなメディスンに幸あれ。
――――続きが読みたいですよぅ……