『どうして首を傾ける必要があろう。
ただ目を落とすだけでいいのだ、あれは我らの遥か下。 ―― ルナティック』
『虚が、影が、闇が、夜が、宇宙が黒い理由。
そう、簡単な問い。そして、簡単な答え。
それはね、私の髪が黒いから。
最初から最後まで、染まる事無く黒なのよ。 ―― 蓬莱山 輝夜(月)』
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人の世の昔より定め伝えられてきた問いかけには、こうある。
争乱を飾る薬莢がああも美しいのは、
不滅の破砕を夢見る罪こそ尊ぶのは、
無益な抵抗が巨悪を噛み千切るのは、
落涙の感動を時に鬱陶しく思うのは、
五穀の豊饒がひいて衰退を招くのは、
何故のことなのか。
五つの難題は五つの矛盾の物語であり、答は無い。
答えられた数だけの答えがあり、その全てが間違いで、また正しくもある。
答えても答えなくても同じであり、問う方も問われた方も問答の無為を悟ることすら出来ず煩悶する。
ひたすらに困難な題目であるが――気づく者は気付くのだ。
それが世を司る五芒の支柱の実態なのだという事に。
――― ―― ― ―― ―。
―― ―― ―――― ――。
―――――― ― ―――。
―――― ―――――― ―。
―――――――――――――。
ここに、五種難題はかくのごとくにして解き明かされた。
所謂リ・ビッグバンであるが、まだそこには真空とエーテルと微粒子しか内在していなかった為、銅鑼や喇叭の音は鳴り響く事無く、天の火も聖十字連結も実現せぬまま、静かに始まりのみが告げられたのだ。
そうして、長らく始まりが続くことになった。
世明けである。
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(あー、ちっくしょうめ・・・また騙されたわ)
黒の海――まだ接する海面の存在しないそれ――に漂う、白色の霊魂がぼやく。
天河も見えないはじまりの宇宙の只中にあって、紛れもなく生きているそれは、過去いつの日かプシュケと呼ばれた一つの巨大意識と同等の澄み渡った知能でもって、何の益体も無いことにウダウダと文句を垂れていた。
(びびらせやがって、改め、ぬか喜びさせやがって)
(あれ、まだ怖がれたのね、あなた)
かつてそれが持っていた名に因み“向こう側”と付そう、大きな落胆と諦観が併在し且つ濁り無きその魂に、極めて原始的な、否、正しく原始そのものの微動が届く。
(まぁ、お化け屋敷らしく、子供騙しだったでしょう?)
こちらもまた則に従い“あかずの夜”と付そう、嬉々と笑む気色の波をのみ靡かせる初界の黒は、少しずつ己の領域、黒海を増していく。
(あんなに簡単に引っ掛かるだなんて、やっぱり、人間なんだわ。素敵。
何十、何百億年経っても大人になれない子供。ピーターパンは大人しか殺せない。素敵)
(なぁぁんで、同い年近いのに未だにもって子ども扱いなのよ。
何度と無く想ってたけど、この際はハッキリ聞かせてもらいたいね)
(お腹すいたぁ。早く美味しい料理を存在させないと。
背に腹は、あらやだ、替えまくり宇宙だったわね)
(聴けよ。っつか、聴くんじゃない。感じるんだ)
(あなたは何食べる? 私はあなた)
(聴けよ。っつか、感じろよ)
(ケチねぇ。あなたも食べればいいのに)
(だー、ずるいっつーんだよ、いつもながら。
あんた不味いんだよ、不健康なんだよ、お外で遊べよ)
(だからあなたは子供なのよ、判ってないなぁ、もう!)
(え、逆ギレ?)
共鳴と反発。
黒はそのやり取りを心底から楽しみ、白はそこに馴染みつつも積年の辛みから顔を顰める。
器の顔面ではない、精神の表情が原初の宇宙に飛沫く。
二色を分けるのは此処にあって個の過程にあらず、祖の同類にある。
反応と共用。
(そういやあんたの付き人はどうしたの? あれも同類なんでしょうに)
(うん? 永琳のことかー)
(なぜ伸ばす)
(いやちょっと。って、永琳が蓬莱人のわけないじゃない)
(え)
(あなたも騙されてたクチ? やだ、そんなに純心でどうやって生きてきたのよ~)
(は、だって、あいつ――)
(彼女は大嘘つき。歴史にすら嘘をつく。
天才だもの。出来ないことなんて、私を白くすることぐらいしかない)
(するっていうと)
微笑と当惑。
どちらにしたところで不信が介在する。
黒へ白へ、伝播しあう波は、それそのものが生きている。
意思を手向けるその瞬間にだけ、共通の場が作られる。世界。
見当と苦笑。
(あいつはそうやって全部の真実を、深層閾に隠してきた。
表面だけを見ている者には、あれの天才を見抜けない。
私やなんかの脳だって、本当はもっと優れているのに――誰も気付かない)
(そう。人間は物事を忘れたりなんかしないの。
骨だけになったって、何も無くなったってね。永遠とはそういうこと)
(ってことは、まだ生まれていないだけなんだ)
(欠片はそこかしこにあるわ。ほら・・・これもそう)
(わからんし)
(未熟ねぇ)
(もう腐ることも出来ない。究めることも出来ない。それはあんたも同じじゃないの)
(ほらぁ、私は最初から黒だって言ってるのに。ネタは上がってるのよ)
(まぁ、ずっと前からホンボシだったけど)
(なんだ、わかってるのね)
喜色と審議。
(それも嘘。彼女が神をも騙くらかして創った、偽の真実よ。
彼女は薬を作った。私はそれを指示した。私が降臨する為の嘘。
蓬莱の罪を犯していたのは、私だけ。それも・・・)
(元々、あんたが蓬莱山だったから、カグヤだったから)
(私の原罪ね。けれど、とっくに時効だった。一瞬も永遠も同じだから)
(ふぅん、なるほど。黒だったわけだよ)
(あなたは、肝だけ黒いのよ)
(やだなぁ)
(ふふ)
(しかし、どーすっかねぇ・・・まぁ、縮退があっという間なら、
膨張も一時ってことか。自業自得たぁいえど、気長に待とっと)
(・・・良かった)
(何が)
(一旦この世を終わらせて良かった、というのが一つ)
(けしかけといてよく言うよ)
(もう一つは・・・)
(もう一つは?)
(アナザワン)
(負けて死ね)
(ノってくるのも不気味ね)
(また逆ギレかよ)
(あはは)
(もう一つは、私も黒。私とあなたが似ている事が、良かった)
(キモ)
(あははは)
**
}
最早宇宙が彼女らの周りを公転する。
煙もまた見えなくなるだけで、届いた全てと繋がる糸なのだ。
手を変え品を変え、様々に現してみた所で、手品は繰り返しを繰り返しているに過ぎない。
それでも手品が楽しいのは・・・無意味の繰り返しから何かが産まれる事を期待する誰かがいるからだ。
勿論、彼女たちは何も期待していない。
儚い期待が似合うのは人間だけだし、彼女たちは期待が外れることを知っている。
常に主賓でありながら登場人物でいることができるのも、草月が常に人と共にあるからである。
世界の終わりに終わらない彼女らの世界。
ただ黒白のみの混濁としたうねりの海に、今は二人溶け合って、漂っている。
それは喧嘩も出来ない平和な闇。光の訪れる前の、明るい闇。
長い長い、今だけの時間を超え。
夜も暦も、ここから始まっていくのだ。
我々の知る彼女らはまだ遠く。
さぁ目を閉じて。
また二人、夜と向こうで殴り合える喧騒の光が、どうか、一刻も早く甦りますようにと。
因果地平の彼方から、世明けの二人に祈りを捧げる。
...Bad Ending ?
No. Good, True, and Never Ending !
ま、0⇒1は無限の隔たりがあるけれど、+1=-1なら以外と早いかも
しれませんね。
地べたを這いずる者から、新たなる夜明けを祈って乾杯!(寝酒はホドホドに)
お気に入りなのに読みこなせない。
ひさびさに聞いてみよっと。
なんてステキな