Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

魔女と魔法使い 第三夜

2005/07/11 01:28:02
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pm10:30





この森は人を喰らうと恐れられている。幻想郷の魔が集まり、禍々しい妖気で常に満ち溢れている。森の中央の最深部は人間どころか妖怪ですら近づかないほどの瘴気で支配され、何者をも寄せつけない。そんな森を少女が歩いていた。なんの恐れもなく、なんの迷いもなく、腕に数冊の本を抱えながら。少女は森を怖がらない。恐れない。当然だった。彼女は人間ではなく魔女なのだから。

昼間でも薄暗い森は、夜になれば完全に闇と化す。緑の木々は物言わぬ黒き壁となり、頭上を覆い尽くす枝葉は月明かりを頑なに拒んでいる。宙に浮かぶ魔力で作られた光球が道先を照らす。その後を追うように歩くアリスの周囲を飛び回りながら、そっと顔を眺めてみる。上機嫌に見えるのはわたしの思い違いじゃないと思う。言ったら絶対に違うって怒るけど、やっぱりアリスと魔理沙は仲が良いと思う。なにかと衝突する事が多くて、口喧嘩、弾幕ごっこは日常茶飯事。傍目には仲が悪いようにしか見えなくて、いつも背中を向け合っているような二人だけど、本当に仲が悪いなら困った時に協力しようとはしないはずだ。魔理沙に渡すつもりのグリモワールはアリスの数多い蒐集品の中でも貴重な品。それを譲ってまで協力を頼むのだから、どれだけ魔理沙を信頼しているか分かる。
『違うのよ、上海。本当は魔理沙と協力なんて真っ平御免だけど、今回の事件は厄介そうだから仕方なく組むの。仕方なくね』
ついさっき家で交わした会話を思い出す。
『アリス、嘘ついてるよっ。本当に魔理沙と組むのが嫌だったら他の人に頼めばいいじゃない。霊夢とかパチュリーとか、えぇと、チュウゴクさんだったっけ?手伝ってくれる人はたくさんいるよっ』
『上海、今回の事件は時間勝負なの。月を欠けさせている術・・・どんなものかは正確に分からないけど、きっと夜しか発動しないと思う。もし途中で朝になってしまったら妖気が途絶えて犯人の元へ行けなくなるわ。今から神社や紅魔館に向かう余裕はないの』
だから、一番近くに住んでいる魔理沙と行くのだと。それがむっと来た。どうして自分を偽るんだろう。協力して欲しいならそう言えばいいのに、決して素直になろうとしない。絶対に否定するから黙っているけど、今だって嬉しそうな顔をしてる。わたしは魔理沙が大好き。アリスもきっと魔理沙が大好き。でも、わたしの『好き』とアリスの『好き』は別物だ。だって、アリスは魔理沙の事を・・・
「ついたわね」
アリスの声で我に返る。もう魔理沙の家の前まで来ていた。
「魔理沙ーっ、いるー?」
手の塞がっているアリスの代わりに扉を叩く。返事は無く、深と静かなままだ。
「寝てるのかな」
「眠ってるなら叩き起こしてでも連れてくだけよ。鍵は開いてる?」
「ちょっと待って。うん、開いてる」
小さな手足で苦労しながら扉を開く。
「相変わらず無用心ね」
アリスは魔理沙の家に来る度に口癖のように無用心ね、と言う。わたしもアリスと同感で、魔理沙は無防備過ぎると思う。アリスはちゃんと侵入者に備えて強力な結界を張り巡らせているし、例え家の中に侵入されても数百数千の人形達が待ち構えている。並みの人間や妖怪ならまず生きて帰れない。だけど、魔理沙は結界どころか鍵すらかけてない。これじゃあ家の中の物を全部持っていかれても文句は言えないけど、わたしの知る限り魔理沙が物を盗まれたと聞いた事は無い。まぁ、
「うわぁ」
こんなに滅茶苦茶に撒き散らかされてたら何が無くなっても気付かないだろう。
倉庫という表現は正しくない。これは物置だ。積み重ねられた本の山、きのこが入った籠、他にも布やら綿やら使い方のよく分からない外の世界の品など、貴重な物とそうでない物がごちゃごちゃに置かれ・・・否、散乱してる。一体自分の家をなんだと思っているんだろうか。自然とため息が口から漏れた。
「わたし、魔理沙が心配になってきたよ」
「心配するだけ無駄よ。そういう奴なんだから」
悟ったように呟くアリスは、床のわずかな隙間を慣れた調子で踏み越えながら魔理沙の部屋へと向かう。
「?」
ふと、視界に入ったものが気になって振り返った。魔法薬の調合に用いる様々な実験器具と材料が置かれた机。その中で一際異彩を放つ、毒々しさを通り越えてもう綺麗と表現してもいい極彩色のきのこ。
(あれ、なんだっけ)
そのきのこが何故かとても気になった。自分はあれを知っている。どこかで見た事がある。なのに、中々思い出せない。
「どうしたの、上海」
いいところまで記憶が浮かび上がった所で、アリスの声でまた沈んでしまった。
「ん、なんでもないよ」
魔理沙の部屋に入っていくアリスを追いかける。
部屋の中は薄暗い。魔理沙はベッドで横になっていた。背中を向けているので顔は見えない。やっぱり眠ってるんだろうか。
「よぉ、アリス。こんな夜更けになんの用だ」
と思ったら声をかけてきた。だけど、
(?)
得体の知れない違和感があった。
「あんたに用事が無かったらわざわざ夜中に来ないわよ」
「そうか。だけど私は今忙しいからまた今度にしてくれ」
「忙しい?ベッドで横になってる事が忙しいって言うの、あんたは」
「ああ。だから悪いが今日は帰ってくれ」
「冗談じゃないわ。どうしても起きないつもりなら無理矢理叩き起こすわよ」
「よぉ、アリス。こんな夜更けになんの用だ」
また同じ台詞の繰り返し。・・・繰り返し?
「そうか。だけど私は今忙しいからまた今度にしてくれ」
「あんた、ふざけてるの?」
堪忍袋の尾が切れる寸前なのか、アリスの声音は荒くなっていた。
「ちゃんとこっちを向きなさい!魔理・・・」
寝ている魔理沙の肩を引っつかんでこちらに向けて、
「・・・沙・・・」
アリスは絶句した。そりゃそうだろう。知り合いの顔がへのへのもへじになってたら誰だって驚く。部屋が薄暗くてよく分からなかったけど、髪は綿を金色に染めただけのもの。つまり。
「よくも」
アリスは俯いて、静かに呟く。
「人形遣いの私に、よくもまぁこんな舐めた真似してくれたわね」
わたしは耳に掌を強く押しつけて目を閉じた。直後。
「魔理沙ァァァァァァァァァァッ!!!!!」
七色の人形遣いの絶叫が霧雨邸の窓ガラスを震え上がらせた。

pm10:50

次回、魔女と魔法使い 第四夜

歪な月が浮かぶ秋の夜。
魔女と魔法使いの二人は夜を駆ける。
孤独犬ポチ
コメント



1.名無し妖怪削除
今回はちょっと短めでカナシス
続きヨミタイス