Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

トリニティ・ゼロ

2005/07/08 06:32:37
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 博麗神社、その母屋の屋根の上に、三人の妖精が腰掛けている。
 彼女たちは、時に自分たちの数序詞が『匹』と呼ばれることに大変怒りを覚えている。そこいらのカエルやアブラムシじゃないんだから、きちんとした人格を認めていただきたい。
 だが、人間と同じ『人』というのも何だかねえ、とか我が侭なことを考えたりもしているのである。
「……つまんないわねぇ」
 右から、金の髪と小さなリボンが目立つサニーミルク。
「あなたは、いつもそればっかりね」
 真ん中に、長い黒髪を傘で覆い隠しているスターサファイア。
「頭が温かいんでしょう」
 左端に、心なしか冷めた口調で解析する、お嬢様然としたルナチャイルド。
 言い様によっては、三人共が我が侭なお嬢様のようなものなのだけど。
「沸点が低いとも言うわね」
「だから、常温でも脳みそがこぽこぽ沸騰するのよね」
「ぶくぶくー」
「……あんたら」
 好き勝手言い放題の妖精たちに、サニーミルクは容赦なく蹴りを放つ。ドロップキックを助走無しで執行できるのは羽根を持つ妖精の特権だが、こういうアクロバティックなことに使うために羽根がある訳ではないんだろうなぁ、とスターサファイアは考える。無論、避けた飛び蹴りは残ったルナチャイルドに着弾する。出来の良い避雷針だ。
「ああぁッ! 避けるし!」
「ルナは喰らったからいいじゃないー」
「良くないッ! 滞りなくあんたも喰らえーっ!」
 指を鳴らし、光の屈折を調整する。
 同時に、サニーミルクの姿が一瞬のうちに透過する。しまった、とスターサファイアが思うより先に、首元に柔らかくも強く圧力が与えられる。
「く、チョークスリーパーか……!」
「へっへー。タップもロープも不可能だよ。味方もいないしねー」
 例によって、避雷針は屋根の上で伸び切っている。
 役に立たないわね、とスターサファイアは自分が仕出かしたことを棚に上げつつ、口から魂が零れそうになるのを必死で押し留めた。
 妖精は魂が昇華した存在だとかいう話なので、特に魂がある訳でもないのだが、こういうのは何でも思い込みである。エクトプラズムみたいな。
(あ……。三途の川に、七色の虹が掛かってる……)
 何かしら不吉な概念を理解したと同時に、スターサファイアは締め上げてくる腕を渾身の力でこじ開け、そのまま思い切り噛み付いてやった。がぶ、とチーターがシマウマの太ももに噛り付くように。
「あっ……。い、いだだだだだだッ! 痛いー! 痛いってば、ばかーっ!」
「あぐぐぐ」
「おいこら、咀嚼すんなぁーっ!」
 傍から見れば、微笑ましいじゃれ合いに見えたであろう妖精たちの喧騒も、勝手に屋根を使われている家主にとって迷惑千万であって。
 ルナチャイルドが失神した以上、屋根の上で繰り広げられる喧騒を消すものは誰もなく。
「……やかましい」
 うだるような暑さの中、畳にうつ伏せている巫女が苛立たしげに愚痴っていた。



 黄泉平坂の幻影を垣間見たスターサファイア、その必死の抵抗が実り、サニーミルクも地獄のホールドを解除せざるを得なくなった。まあ、じゃれ合うのは好きでも、痛いのは願い下げなのである。
「あ~、いたたたた……。全く、痕が出来たらどうするのよぅ……」
「クスリを打っちゃったことにすれば」
「もっと駄目じゃん!」
「あら。だったら、私がサニーに絞められた痕も、『本懐が遂げられずに思い余って……』ということなってしまうわ」
「う……。で、でも、絞め痕は割りと早く消えるし……」
「遺書には、『サニーにSM用の荒縄で絞め殺されました』って書いておくわね」
「書くなッ! しかもSMて! というか、他殺なのに遺書が書いてあるっておかしいでしょ!」
 激昂するサニーミルクを見て、スターサファイアはきょとんと首を傾げる。
 その後、得心が入ったとばかりに微笑ましげに囁く。
「あぁ、サニーって頭良いのね」
「馬鹿にしてんのかー!」
 切れた。
 出来の悪い子どもに掛けるような、生暖かい台詞だということに気付いたらしい。
 だが、そんなことなど初めから分かっているスターサファイアは、さっきから昏倒し続けているルナチャイルドを揺すり起こすことにする。ここらで体の良い――じゃなくて役に立つ仲裁役を呼び起こしておかねばならない。サニーミルクをからかうのも面白いが、それが過ぎると今度はしばらくむくれてしまう。
「ほら。ルナも起きて」
「う、うぅ……ん。あら、おはよう……」
 目を擦りながら、ルナチャイルドがゆっくりと身体を起こす。
 屋根の端っこで頬を膨らませているサニーミルクを確認し、ため息を吐く。
「また、やったのね」
「ええ。だって面白いんだもの」
 にこやかに答えるスターサファイア。改めて掛ける言葉もなく、肩を竦めるだけのルナチャイルド。
「やり過ぎないようにしときなさいな。あの子、むくれたら長いし」
「分かってるわ。でも、弄れるときは弄っておかないと、ちょっと勿体ないでしょう?」
 意地悪く、それこそ妖精の本分に沿った無邪気な笑みを浮かべ、ルナチャイルドからサニーミルクへ視線を移動させる。ちょうど、サニーミルクが興味深げにこちらを観察していたところだったので、両者の視線が上手いこと絡み合う。
「……っ!」
 弾かれるように、目を背ける。
 自分が怒っているということを、改めて示したかったようだ。無論、スターサファイアは彼女の怒りが冷や汗という結露となって零れ落ちているのを知っている。
 だから、少しだけ笑ってしまう。
「あらあら」
「……生娘じゃないんだから」
「妬いてるの?」
「……正月じゃないんだから」
 くすくすと、スターサファイアは楽しそうに微笑む。
 その笑みが、何かを企んでいるようで、何も悩んでいないようで――。
 ともあれ、こいつを敵にするべきじゃあないな、と今更ながらに思うのだった。



「ねえ、いい加減に機嫌直してぇ」
「何を気色の悪い声なんか出して……。別に、怒ってる訳じゃ」
「……分かりやすく怒ってるじゃない」
「それに、やっぱりサニーはリーダーなんだし、いつでも元気でいて貰わないと困るのよ」
「リーダー、ね。……うん、そうよねぇ、やっぱり私がリーダーじゃないとねー」
「……ちなみにリーダーとは、リードを括り付けられたペットという意味もあって」
「しょうがないわねー。私がいないと、二人とも締まらないんだから!」
「その意気よー!」
「……締まるのは、首輪とリードの方じゃないのかしら……」





 ちゃんちゃん、という感じです。

 いいなあ、妖精って。
 腹黒いし。
藤村流
http://www.geocities.jp/rongarta/index.html
コメント



1.蔭野 霄削除
スターサファイア大好きです。腹黒最高です!
あ、でも持ち前の腹黒さを物質的利益に利用するのは×です。
清く正しく悪戯とかのために使わないといけません。
そういう意味ではこのSSはとても好きです。
それにしても、やっぱりサニーは⑨の同類か。

ところでスターサファイアの能力はなんなのでしょう? 気になりますね。