Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

魔女と魔法使い 第一夜

2005/07/01 17:45:48
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歪な月が浮かぶ秋の夜。
並ぶ竹の林を越えた先に人知れず佇む屋敷があった。雲間から差し込む陽光のように、頭上を覆う笹の葉から月明かりが降り注いでいる。白い光に照らされた屋敷は厳かに、静かに、こちらへ来いと誘っているように思えた。両腕に抱えた魔道書を強く抱いて正面を見据える。人であろうと妖怪であろうと誰にも気付かれないはずがない。大結界によって『外』と隔絶され元々狭い幻想郷の、それも竹林にこんな大きな屋敷があれば知らないはずがないのだ。なのに、知識では誰にも負けない自信があるのに、私は知らなかった。だから答えは一つしかない。この屋敷は誰にも知られず竹林(ここ)に在り続けたのだ。何年も何年も、気の遠くなるような永き時を月光に護られるようにして。
不意に視界がぼやけた。激しい睡魔に襲われて頭の中身がぐちゃぐちゃになる。くっつきそうな目蓋を見開いて全身に力を込めた。思えばここに辿り着くまでの道中は無理の連続だった。特に数分前まで繰り広げていた弾幕戦の相手はこの夜に出会った中では最強で、熾烈を極めた大激戦となった。こちらは二人、相手は一人。その上彼女は全力を出してはいなかったというのに、決着が着くまでにかなりの時間と魔力と体力を費やした。恐らく今になって疲労が噴き出して来たのだろう。急激に力が抜けて背後に倒れそうになった時、後ろにいた人物に肩を支えられた。
「大丈夫か。眠るにはまだ早過ぎるぜ」
服越しに伝わる掌の柔らかさと温かさが心地良く、このまま眠りたいと思ってしまう。でもそれは出来ない。ゆっくり休んで疲れを癒したいのが本心だけど時間があまり無い。空に浮かぶ月は誰が見ても分かるほどに歪んでいるし、夜を止めるのに使っていた刻符は全部使い切ってしまった。なのに魔理沙は余裕なのか、呑気なのか、いつもの気楽な調子だった。さっきの弾幕ごっこで焼け焦げた右肩は全然気にしていないらしい。
「だいぶ疲れたみたいだしな。少し休むか」
「平気よ。ちょっと立ち眩みがしただけだから。それに時間無いでしょう」
体重を前に移して魔理沙の両手に支えられていた体を前進させようとすると、後ろから伸びてきた腕に掴まれ引き戻された。
「ちょっと、なんのつもり!?」
魔理沙の腕に抱かれたまま肩越しに振り向くと、唇に黒い球状の物体を押し付けられた。魔術などでよく使う薬草の匂いがする。
「・・・なによ、これ」
「疲れが一発で吹き飛ぶ特製の丸薬だぜ。さぁ、いい子だから大人しく口を開けな」
静かな口調だが言葉では説明出来ない凄味が感じられる。拒否すれば無理矢理喉に詰め込まれそうだ。私は仕方無く、何かを諦めたような心地で言われた通りにした。
口に放り込まれた丸薬が舌に触れた途端、顔が激しく引き攣った。良薬口に苦しと言うがこれは度を越えている。濃霧がマスタースパークに消し飛ばされるような感覚で眠気が消え失せた。一秒たりとも口内にある事が耐えられず一気に嚥下する。飲み込んだ丸薬は濃い苦味を喉に擦り込みながら胃へ送られていく。気分が悪くなりそうなほどの味なのに不思議と吐き気は起こらなかった。だが。
「!?」
異変はすぐに現れた。
飲み込んだ丸薬が火球に変わったかと思うほど熱い。取り落とした本を拾う余裕も無く、腕で腹を押さえる。熱は全身に広がり、まるで灼熱砂漠に放り込まれたようだ。汗が噴き出し、涙が瞳を濡らす。膝は折れ曲がり体は今にも崩れ落ちそうで、歯を食いしばって耐える事しか出来なかった。病気で数日間寝込んだ経験は何度もあるが、今の状態に比べればまだマシだった。
朦朧としていた頭と視界が徐々にはっきりしていく。体を燃やし尽くさんばかりの熱は嘘のように消え去っていた。疲れは欠片も残っておらず、熟睡して目覚めた時のように心身共にスッキリしている。魔理沙が言ったように確かに疲れは吹き飛んだが、素直に喜べはしなかった。この手の即効作用の薬には必ず副作用がある。さっきの異常な熱はその一つでしかないはずだ。物にもよるが最悪死に至る事もあるのだ。流石に無いと思うが、もし自分で試さず私で薬の効能を試していたなら副作用が何であれ一発殴らないと気が済まない。
足元に落とした魔道書を拾って正面を見やると、真っ直ぐ屋敷へ向かう魔理沙の背中。まだ肉体強化の符を体に貼り付けているのだろうか、疲れなど微塵も感じさせないしっかりとした足取りだった。それがとても腹が立つ。慣れない運動と動きにくい服装で何度も躓きそうになりながら急いで後を追いかける。後ろを振り返ろうともしない魔理沙に文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、息が苦しくてそんな余裕は無い。必死の思いで追いついて荒れた息を整える。咳き込むほどではないが苦しい事に変わりは無かった。しばらく経ってようやく楽になった私は、肺に空気を溜め込んで顔を上げた。思いつく限りの罵詈雑言を放つはずだった口から出たのは、震えるため息。月光を浴びた屋敷を背景にして、白と黒で統一された魔法使いが背中を向けている。片手に握った箒の柄を地面に突いて立つ様は、まるで一枚の絵画のようだった。どんな本にも載っていなかった心奪われる景色。笹の葉が風に擦れて鳴る音も耳に入らず、本を胸元に抱き締めてじっと眺めていた。時間も、夜も、歪な形をした月さえも、全てが止まって見えた。でもそれは所詮錯覚でしか無い。魔理沙が歩き出すと、まるで魔法が解けたみたいに我に返った。火照った頬を涼しい秋の夜風が撫でていく。
「さて、ようやく目的地に辿り着いたな」
肩越しに振り向いた魔理沙は子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。箒をくるりと回転させて、柄頭で黒帽子を押し上げる。
「そうね。ここまで来るのにだいぶ苦労したわ」
私はため息混じりに呟いた。脳裏にこれまでの出来事が走馬灯のように駆け巡る。良いか悪いかは別にして、人生の半分に匹敵する数時間だったと思う。恐らく残りのもう半分はこの屋敷の中で過ごす事になるのだろう。魔理沙が前へ向き直り、私も正面を見据えた。
墨を塗りたくったように真っ黒い扉の前で、白兎が耳を立てて赤い瞳をこちらに向けていた。赤い色は最も身近な色だが、その兎の瞳は知らない色だった。血の赤ではない。紅茶の紅でもない。狂ったような、狂気の赤。
「ほーれ、来い来い」
魔理沙がしゃがんで手招きすると、兎は弾かれたように扉の隙間へ飛び込んだ。年季を感じさせる木の扉が強い風が吹いたわけではなく、誰かが触れたわけでもなく、軋む音を響かせながら閉じられた。
「愛想の悪い兎だぜ」
腰に手を当てて呟いた魔理沙は、扉に寄ると手の甲で軽く叩き始めた。
「おーい、誰かいないのか。というかいるなら大人しく開けた方がいいかもしれないぜ」
扉の奥は深(しん)と静かなまま。耳には笹の葉擦れしか聴こえない。無言で扉に掌を当てていた魔理沙は舌打ちすると、顔をこちらに向けてきた。
「なんか厄介な封印が施してあるみたいだ。解けるか?」
「今調べてる所よ。えぇーと、強力な封印を効率的に短時間で解除する方法は・・・」
頁を矢継ぎ早にめくっていく。自らの半身といえる愛書から、結界に関するあらゆる情報を視覚として捉え脳に流し込む。魔理沙のように直接触れて確かめてはいないが、そんな事をしなくても分かるほどに扉の封印は強固だ。その強固な封印を解く方法を思い浮かべて条件に合わない物を消していく。出来るだけ汗をかかず魔力の消費を最小限にし、バクチを避け時間を浪費しない。次から次へと消えていく中で最後まで残ったのは・・・
ぱたん、と本を閉じる。
「駄目ね。解けるけど道具や準備も無しじゃ時間がかかりすぎるわ」
誰が張ったかは知らないが、余程術に通じた者なのだろう。普通の方法では無理だ。

結界形式を判断
十重二十重の対魔力式(プロテクト)を潜り抜け構成術式を解析
術式を狂わせて生み出した隙間に魔力を注入して停止もしくは無力化

これなら魔力の消耗が最も少なくて済むが、時間がかかりすぎる。だが魔力の消費量に拘らなければ解くのは簡単で時間もかからない。それは魔理沙が得意とする手段だった。
「道具?準備?そんなのは必要無い。いるのはこれだけだ」
後ろに下がり、扉から十分距離を取った魔理沙が懐から取り出したのは長方形の紙切れ。
そう、封印を解く方法は簡単。力ずくで破ればいいだけ。それをせずに他の方法を模索したのは、魔力の消費量が絶大だから。
生まれついての純粋な魔女ではない魔理沙は魔力の総量で私に大きく劣る。館を出発する前の魔力量が百だとすれば、今の私は七十は残っている。しかし魔理沙は三十か四十ぐらいだろう。そんな状態で威力と魔力量が桁違いの恋符を使えばどうなるか、本人が一番分かっている。それでも使わざるを得ないのだ。悔しいが魔術の純粋な破壊力では魔理沙に及ばない。私では扉の封印を破れない。だから。
「ん?」
魔理沙が不思議そうな表情で見つめてくる。当然だ。恋符を握っている手に自分の手を重ねているのだから。
「どうしたんだ」
「どうもこうもないわ。私が手を貸せば魔力の消費量が半分になるでしょう。ただそれだけよ」
魔理沙は俯きながら話す私の肩を掴んで抱き寄せると、手を強く握り返した。掌から温もりが直に伝わってくる。それに反応してか、心臓が燃える様に熱く疼き始めた。流れる血液全てが熱湯に変わったみたいに全身が熱くなる。
「じゃあ行くぜ、パチュリー」
「ええ」
体中を駆け巡るありったけの熱を、想いを、魔力を注ぎ込む。恋符に書かれた魔術文字が赤く輝き出す。
そして。
「「恋符」」
私達は同時に叫んだ。
「「マスタースパーク!」」
純白の魔砲が扉へ放たれた。
歪な形をした月が浮かぶ秋の夜。
魔女と魔法使いの二人は、永夜の扉を開く。
難易度選択の刻 三日月

人と妖怪の選択の刻 禁忌の魔道チーム

魔法の森に住む魔法使いと紅魔館の魔女
高い攻撃力と高い機動力を持つ

□人間操術 霧雨魔理沙

移動速度  :☆☆☆☆☆☆
ショット  :スターダストミサイル
特技    :常にアイテム蒐集が出来る
スペルカード:恋符「マスタースパーク」
ラストスペル:魔砲「ファイナルスパーク」

〇妖怪操術 パチュリー・ノーレッジ

移動速度  :☆☆
使い魔   :魔道書召喚
ショット  :ノンディレクショナルレーザー
スペルカード:月符「サイレントセレナ」
ラストスペル:火水木金土符「賢者の石」

ファイナルスペル:究極魔砲「恋熱ダブルファイナルマスタースパーク」

*チームの特性

アイテム回収可能の有効範囲が広い
アイテムに対する当たり判定が大きい





pm10:30

深夜の図書館に、黒き魔女は珍妙な荷物を背負ってやってきた。
月を歪めている犯人探しを手伝ってくれと彼女は言った。
それが永き夜の始まりだった。

次回、魔女と魔法使い 第二夜

七色の怒声が夜の森に轟き渡る
孤独犬ポチ
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コメント



1.日間削除
「禁忌の魔道チーム」の完全版?になるのでしょうか。やはり「恋符」がツボ。
アリスの乱入を夢想しつつ続きを期待します。
2.夜ノ森昴削除
すいません、使い魔には小悪魔を!小悪魔をー!(いや、図書館だろ
3.hayami削除
>>さぁ、いい子だから大人しく口を開け~
 パチュリーだと分かった時、このシーンの威力が2倍に。
 上手い。
4.no削除
うわぉ~。だーまーさーれーたー!
マリアリ派の私をここまでくらつかせるとわっ!
パチェかわいいです。