「何でついてくるのよ。」
「たまたま行き先が同じだけだぜ。」
二人の魔女が夜の森を歩く。
人形を連れた方は足早に、黒い方はのんびりと。
終わらない夜。明けない夜。
異変に気づいた二人の魔女。誰に言うでもなく、どちらともなく。
同じ森に住むとはいえ、幻想郷に広がる広いこの森で
二人が出会ったのは果たして偶然だったのか・・・。
☆
「ていうか、どこへ行くつもりなんだ?」
「あんたに関係ないでしょ。」
つれない返事をおいて、人形を連れた魔女はすたすたと歩く。
いぶかしげに魔女を見つめる人形。
彼女が操っているのか、それとも魂を込められた人形が
自身の意思でそうしているのかは分からない。
「なあ、そんなに急ぐと転ぶぜ。」
「おあいにくさま。自分の庭で転ぶほど温室育ちでもないわ。」
離れもせず、近づきもせず。二人の魔女は森を駆ける。
いつしか昇り始めた月が、彼女達を堰き立てていた。
☆
不意に、人形が空を見上げる。
彼女が操っているのか、それとも魂を込められた人形が
自身の意思でそうしているのかは分からない。
人形の視線は何かを追い、そしてゆっくりと黒い魔女の方へと
降りてゆく。
「魔理沙!!」
「気づいてるぜ。」
バレエダンスの様に、手を広げてくるりと回りながらその場を飛び退く。
同時に両手から溢れる七色の星。
光がはじけて森を照らす。
☆
「もう!何であんたはそういちいち派手なの?」
「一番地味な魔法だけどな。」
一言ずつ交わして、何事もなかったかのようにまた歩き出す。
黒い魔女がいた場所に突き刺さる、小さな人影を残して。
「・・・いいの、あれ?」
「私はいらないぜ。荷物になるしな。」
「そうじゃなくて。まったくもう。」
「食べても美味しくなさそうだな。」
「食べないわよ!」
どちらともなく、すいと夜空へ舞い上がる。
人形を連れた魔女は水の中を泳ぐ様に。黒い魔女は箒に乗って。
「まあ、お互い知り合いが少ないしな。」
「何でよりによってあんたなのかしら・・・」
時間は余りない。
空を覆う森を今は見下ろしながら、二つの影が月夜に消えた。