Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ある妖怪が幻想郷を愛する理由(わけ)

2005/06/24 11:58:27
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少女が独り、虚空に佇む。

そこには何もなく、全てがあった。

――幻想。

少女が望めば、そこは何にでもなった。

――夢想。

少女が夢みた全てが、実現した。

――封印。

少女はその世界を、閉ざした世界へと造り替えた。

かつて、全てのものが夢見た幻想を、護るために。

かつて、全てのものが畏怖した幻想を、護るために。

そのために少女は独り、虚空に佇む。

全ての者の幻想。

すなわちそれこそが、少女の世界だった。

長い長い、眠りにも似た感覚。

少女はただただその世界を、幻想を護るためにそこにいた。


――こんにちは。住み心地の良さそうな場所に住んでるのね。


ある日、突然に、その世界は、少女だけのものではなくなった。

…幻想が幻想たる所以は、幻想であるが故の虚実性。

その妖怪は事も無げに、その法則を破り、少女の前へと現れた。

――邪魔よ。

少女は事も無げに、その妖怪を受け入れ、お祓い棒で殴った。

――いった~い!ちょっと、こぶにでもなったらどうするつもりですの?

――うっさい!幻想が実体を持って文句を言うなバカ!幻想は黙って幻想してなさい!

――意味不明よ~。きゃ~きゃ~、祓われる~。

何もない世界で、二人の声が響き、追いかけっこが始まる。

妖怪は本気とも冗談ともつかぬ悲鳴をあげながら逃げ回る。

少女は何を考えているのか読めない表情のまま妖怪を追いかける。

時間という感覚が皆無の世界で、どれだけ経ったかを問う愚者はいない。

いつの間にか二人は追いかけっこをやめており、二人隣に座っていた。

――それで、なんであんたはここにいるのよ?

少女が問い掛ける。

――先ほども申し上げました通り、住み心地が良さそうだからですわ。

妖怪は答える。

――そう。でも生憎ね。ここは少し、住みにくいわよ。

――あらあら、せっかくあなたの世界に泊まりたいっていう人が現れたんだから、もっと宣伝してもいいんじゃない?

――せっかくだけど、うちは宿屋じゃないんでね。だから却下。

――ふふ、やっぱり面白いわね、あなた。

――冗談。もし私のことを面白く感じるんなら、よっぽどつまらない人生を送ってきたのね。

――えぇ、そうかもしれないわね。

今まで妖怪の言葉をただ一刀両断にしていただけの少女も、そう頷く妖怪を見て、なんとなく沈黙する。

相変わらず本気とも冗談ともつかない表情の妖怪。

けれど、その言葉だけは、なんとなく、本当な気がした。

――しょうがないわね。なら、私の期待に添えるよう頑張りなさい。

――え?

少女の言葉に、妖怪は少しだけ間の抜けた返事を返す。

――だから、もしあんたがここに住みたいのなら、私は大家よ?そして大家はこの世界が住みにくいといっているの。その世界の住人は、何をすればいいかしら?

――えっと…それはつまり、私にここをもっと住み心地のいい場所にしろ、と言っているのかしら?

――それが、宿代よ。どう?安いもんでしょ?

あまりな言い分を、さも当然だと言い切る少女。

そんな少女を見て、

その妖怪は、

――ふふ。

笑った。

――ふふ、ふふふふ。あははは!やっぱりあなたって、おもしろいのね!いいわね、それ。それじゃあもっと住みやすくして、もっとたくさんの住人を住まわせましょうよ。

――なっ!?ちょ…私だけが住みやすくなれば、それでいいのよ!

――だ~め、この私が気に入った世界よ?ちょっと工夫すれば、あっというまに大人気なんだから。

――ふ~ざ~け~る~な~~!!

 

 

―― それはまだ幻想郷が生まれる前の幻想。

    全てのものが無くて、全てのものが在った時期の幻想。

    それはある一人の少女と妖怪の邂逅。

    失くしてしまったものが在り、存在するものは失くなってしまう奇妙な世界に変わるのは、もう少し先のお話。

    それは幻想郷の幻想。

    今はもう叶わない、あの頃の想い出 ――。

 




そして幻想郷は、全てを受け入れる。



つかさ
http://coverwithrain.hp.infoseek.co.jp/
コメント



1.削除
その頃の幻想郷の不思議な空間が目の前に見えるようでした。
2.名無し妖怪削除
そして幻想郷は、全てを受け入れる。
がすごく感動した
3.七死削除
それが、けして色あせることの無い、彼女が唯一つ守り続ける永遠の約束。
4.奇声を発する程度の能力削除
凄い…
何だか白い空間で会話してるとこを想像しました