少女が独り、虚空に佇む。
そこには何もなく、全てがあった。
――幻想。
少女が望めば、そこは何にでもなった。
――夢想。
少女が夢みた全てが、実現した。
――封印。
少女はその世界を、閉ざした世界へと造り替えた。
かつて、全てのものが夢見た幻想を、護るために。
かつて、全てのものが畏怖した幻想を、護るために。
そのために少女は独り、虚空に佇む。
全ての者の幻想。
すなわちそれこそが、少女の世界だった。
長い長い、眠りにも似た感覚。
少女はただただその世界を、幻想を護るためにそこにいた。
――こんにちは。住み心地の良さそうな場所に住んでるのね。
ある日、突然に、その世界は、少女だけのものではなくなった。
…幻想が幻想たる所以は、幻想であるが故の虚実性。
その妖怪は事も無げに、その法則を破り、少女の前へと現れた。
――邪魔よ。
少女は事も無げに、その妖怪を受け入れ、お祓い棒で殴った。
――いった~い!ちょっと、こぶにでもなったらどうするつもりですの?
――うっさい!幻想が実体を持って文句を言うなバカ!幻想は黙って幻想してなさい!
――意味不明よ~。きゃ~きゃ~、祓われる~。
何もない世界で、二人の声が響き、追いかけっこが始まる。
妖怪は本気とも冗談ともつかぬ悲鳴をあげながら逃げ回る。
少女は何を考えているのか読めない表情のまま妖怪を追いかける。
時間という感覚が皆無の世界で、どれだけ経ったかを問う愚者はいない。
いつの間にか二人は追いかけっこをやめており、二人隣に座っていた。
――それで、なんであんたはここにいるのよ?
少女が問い掛ける。
――先ほども申し上げました通り、住み心地が良さそうだからですわ。
妖怪は答える。
――そう。でも生憎ね。ここは少し、住みにくいわよ。
――あらあら、せっかくあなたの世界に泊まりたいっていう人が現れたんだから、もっと宣伝してもいいんじゃない?
――せっかくだけど、うちは宿屋じゃないんでね。だから却下。
――ふふ、やっぱり面白いわね、あなた。
――冗談。もし私のことを面白く感じるんなら、よっぽどつまらない人生を送ってきたのね。
――えぇ、そうかもしれないわね。
今まで妖怪の言葉をただ一刀両断にしていただけの少女も、そう頷く妖怪を見て、なんとなく沈黙する。
相変わらず本気とも冗談ともつかない表情の妖怪。
けれど、その言葉だけは、なんとなく、本当な気がした。
――しょうがないわね。なら、私の期待に添えるよう頑張りなさい。
――え?
少女の言葉に、妖怪は少しだけ間の抜けた返事を返す。
――だから、もしあんたがここに住みたいのなら、私は大家よ?そして大家はこの世界が住みにくいといっているの。その世界の住人は、何をすればいいかしら?
――えっと…それはつまり、私にここをもっと住み心地のいい場所にしろ、と言っているのかしら?
――それが、宿代よ。どう?安いもんでしょ?
あまりな言い分を、さも当然だと言い切る少女。
そんな少女を見て、
その妖怪は、
――ふふ。
笑った。
――ふふ、ふふふふ。あははは!やっぱりあなたって、おもしろいのね!いいわね、それ。それじゃあもっと住みやすくして、もっとたくさんの住人を住まわせましょうよ。
――なっ!?ちょ…私だけが住みやすくなれば、それでいいのよ!
――だ~め、この私が気に入った世界よ?ちょっと工夫すれば、あっというまに大人気なんだから。
――ふ~ざ~け~る~な~~!!
―― それはまだ幻想郷が生まれる前の幻想。
全てのものが無くて、全てのものが在った時期の幻想。
それはある一人の少女と妖怪の邂逅。
失くしてしまったものが在り、存在するものは失くなってしまう奇妙な世界に変わるのは、もう少し先のお話。
それは幻想郷の幻想。
今はもう叶わない、あの頃の想い出 ――。
がすごく感動した
何だか白い空間で会話してるとこを想像しました